ゆずゆずゆゆ式 作:ツナマヨ
長さもいつもの短いのよりもっと短いですが、よければ読んでいってください。
「た、た、タランチュラ!」
「ら、らぁ〜。ら、ら、ラ・フランス」
「セレブって感じだな。んー、スーパーマリオ」
本屋から出た俺たちは、また当てもなくフラフラと歩き始めた。今度は縁が先導するでもなく、誰となく並んで進み、なんとなくで道を曲がり、それとなく行きたい道を選び、さりげなく道の選択を譲っていた。
そうやって、気の向くまま進むゆず達三人は、いつの間にかしりとりを始めていた。
いや…まあ、ゆずが少し変わった名前の喫茶店を見つけて、店名を呟いたら、縁がまた少し変わった名前の道具で続き、唯がそれに巻き込まれていた。
今では暗黙の了解として、普段のしりとりでは使わないような単語ばっかりを羅列しているみたいだ。
聞いていた限りじゃ、スイカとかラッパに狸なんて、普段のしりとりで真っ先に消費される言葉は、出てきていない。
「やっぱりさー、ゆずもしりとりやろうよオベリスク!」
「ぷっ!」
「語尾に変なの付けるなよ。それとやらない」
ほら見ろ縁がツボに入って変な歩き方になってる。
「え〜いいじゃん。一緒にしりとりやろうぜオリンポス!」
「はうっ!」
「変化球を混ぜんな。ていうかそろそろやめてやれ、縁が死にそうだ。それに俺が入ったら三人で俺を狙うだろ?」
目を逸らすなこっち向け。
あからさまに目を背けて、ご丁寧に口までとんがらせている幼馴染に、思わずジトっとした目を向けてしまっても仕方の無いことだろう。
「今日のは難しいから無理だって。それに楽しいよ?だからさ、しりとりやろうぜオーディ「んがついたら負けだぞーゆずこ」……エンス」
「お前…凄いな」
「でしょでしょ!」
「狙うのは否定しないんだな。そして俺は俺で楽しんでるから遠慮する」
縁の歩みがいよいよ怪しくなり、ゆずが後ろを向きながら歩いている。そんな二人をフォローするように唯が一歩前に出て、俺は三人に少し近づいた。
春だからか、高校生になったからか、何が理由かはわからないが、こんな日常の一ページがなんとなく楽しい。
少し変わっているかもしれないが、俺はこの立ち位置を気に入っているのだ。
「ほら縁、落ち着いたか?」
「はーっ、はーっ、だ…大丈夫。次なんだっけ」
「うーんまあ、ゆずが初めに言った、オベリスクのく、じゃないか?」
「く?くー、くー、草薙の剣?」
「おおっ!凄いの出てきた」
「しかし何故に疑問系?」
「ぎ、かー。ぎ…ぎゃ、ギャラドス」
そうやって四人で楽しく歩いていると、商店街の近くまで来ていた。腕時計を見てみれば、昼を食べ終えてから丁度いい時間が経っており、そろそろ小腹が空いてくる頃だろう。気のせいじゃなければ、商店街から漂う美味しそうな匂いに釣られてか、三人の足並みが綺麗に揃って商店街の方へと向いたのを目撃した。
会話に花を咲かせながらも、食べ物に釣られる辺り、まだ今は花より団子なのだろうか。いや、この三人なら蟹を食べてる時までもふざけたり、じゃれあったりして花を咲かせていそうだな。
そんな三人の様子を見るのが好きな俺は、団子より花なのかもしれない。
「スペランカー」
「カール・ゴッチ」
「ち、ちゅ、チュパカブラ」
「どんどん色物になってきてないか?」
なんでいきなりプロレスラーの名前が飛び出すんだ。しかも続く言葉がチュパカブラって……。
「そうかな?じゃあラジオペンチ!」
「またちぃ?ちー、ちくわ」
「YMO」
「なんでそう、極端なんだよ」
「お餅」
「お餅……食べたーい!」
「おおっ、ルールブレイカー」
しりとりが終わった。これでわかったがこいつらはまだ花より団子らしい。
「あっ、でも私もお餅食べたーい」
「ねー。食べたいねー」
「「お餅食べたいなぁー」」
「なんすか」
結局唯は二人の食べたい光線に身を焼かれ、膝を屈した。しかし、二人の猛攻はまだ終わっていなかったのだ。
「たい焼きも、食べたいな〜」
「えっ!?たい焼き……食べたーい!」
顔を少し傾け、陰のある表情を作ったゆずがボソッと呟く。ご丁寧に額を痛そうに摩りながらだ。無駄に芸が細かくて腹がたつ……が、俺は本屋の一件でこいつの言うことを聞かなくてはならない。
さらにはゆずに便乗、というか誘導された縁がとても、本当に食べたそうにしているため、退路は断たれたも同然。
俺も数秒と持たずに陥落した。
「ほら、餅じゃなくて団子だけど」
「唯はゆず達に甘いなー。ほれ、たい焼き四人分」
「うるさい。ていうか柚彦も同じじゃん」
「俺はこいつらには勝てない」
「柚彦は縁達に弱いなー。ありがと」
「「甘ぁーい」」
女の子三人が花開くかのように笑顔を浮かべる。
ベンチに座っている三人から、少し離れた街灯に背中を預け、空を見上げる。
暖かな日差しが辺りを照らし、心地いい春の風が、どこかで散った花びらを運んでいる。少し視点を下げれば、遠くの山に桜が広がり、斜面を桃色に染めていた。
耳をすませば、商店街を行き交う人々の喧騒に混じって、楽しそうな声が二つと、時々あいづちを打つ声が一つ。
その中に自分は混じっていないけど、見ているだけでも楽しいし、女の子が楽しそうにしているのには花がある。
ほら、こんな日常もいいものだ。
とりあえず、たい焼きを喉に詰まらせたゆずのために、お茶を買ってくるとしよう。
今日の柱
野々原ゆずこ・ノノハラユズコ
アニソンなんかも聴く
日向縁・ヒナタユカリ
ナツメロなんかも聴く
櫟井唯・イチイユイ
サントラ好き
瀬川柚彦・セガワユズヒコ
むしろクラシック派