縄梯子を十段ほど降りたところで、私は今回の仕事を引き受けたことをかなり後悔していた。
地上から眺めている時、縄梯子というものはそれほど大変そうには見えない。しかし実際には、両腕で身体を支えながら不安定な足場を探し続けなければならず、普段使わないところへ容赦なく負担がかかる。
十五段ほどで一度動きを止め、壁へ身体を寄せて休憩した。
「魔女さーん、大丈夫ですか!」というリオの声が、井戸の上から反響しながら落ちてきた。私は顔を上げたものの、地上は小さな丸い光として見えるだけだった。
「今話しかけられると、返事をするために使う体力まで惜しいです!」
「すみません!」
「返事もいりません!」
上から笑い声が聞こえた気がする。非常事態に対する街の人々の姿勢について、あとで少し話し合う必要があるかもしれない。
途中でもう一度休み、ようやく水面近くに張り出した石の足場へ辿り着いた。縄梯子から両手を離した瞬間は、井戸の底であることを忘れそうなほどの解放感があった。
その直後、帰りには同じ梯子を今度は登らなければならないと気づいた。考えるだけで腕が重くなりそうだったので、ひとまず未来の自分へ任せることにした。
問題というものは、一つずつ処理した方が精神に優しい。
肩掛け袋から携帯灯を取り出し、わずかに魔力を流した。青白い光が広がり、濡れた石壁と苔、その間を這う何本もの太い根が闇の中から浮かび上がる。
どれも大樹の根だろう。長い年月のうちに石積みの間へ入り込み、絡み合いながら伸びている。井戸を壊すのではなく、むしろ石組みを内側から抱え込んでいるように見えた。
そのうちの一本だけ、明らかに様子が違った。
根の表面を、細い銀色の線が何本も走っている。最初は水滴が携帯灯を反射しているのかと思ったが、光を近づければ、金属のような硬い輝きであることが分かった。
それは根へ巻き付いているのではない。植物の組織の中へ埋め込まれ、初めから一つのものとして成長してきたように、木と金属の境界が曖昧になっていた。
「これは、何でしょうね」
誰も答えてくれるはずはないのだが、つい口に出た。
私は小刀の先で、銀色の部分へ軽く触れてみた。硬い感触が返ってきたため、今度は慎重に指先を当てる。
金属らしい冷たさを感じた直後、根の奥で小さな作動音が響いた。
私は反射的に手を離した。
「触らなければよかったですね」
後悔するには少し遅かった。
銀色の線へ淡い青光が宿り、それが根に沿って井戸壁の奥へ走っていく。一つの線が光ると、隣の線も続くように明るくなり、やがて足元から低い振動が伝わり始めた。
井戸の水面へ同心円状の波紋が広がる。地上でも何かが起きているらしく、頭上から大きなどよめきが聞こえた。
「魔女さん!」とリオが叫ぶ。「大樹が光ってます!」
「こちらでも、原因らしきものが光っています!」
「どうすればいいですか?」
「私も知りたいところです!」
答えながら根の奥へ携帯灯を向けると、石壁の一部が崩れ、その先に不自然なほど平らな面が見えていることに気づいた。
自然の岩ではない。
黒っぽい金属だった。
私は狭い足場から落ちないよう身体を寄せ、表面へこびりついていた泥を袖で拭った。下から、現在使われているものとほとんど同じ形の文字が現れる。
ただし書体は古く、一部は線が多くて読みづらかった。時間をかけながら文字を追い、私はそこへ刻まれた名称を声に出した。
「環境維持区画、第三樹冠管理槽……」
樹冠とは、普通なら樹木の枝や葉が広がる部分を指す。ここは巨大な大樹の真下であり、その根には金属らしき構造が融合している。
さらに、そのすぐ横には「樹冠管理槽」と書かれた施設が埋まっている。
これだけ条件が揃うと、偶然だと言い張るためには、事実を無視する相当な努力が必要になる。
私はさらに泥を拭った。名称の下には、小さな文字で別の表示が刻まれている。
『生態維持処理 一部停止』
『自動復旧処理 実行中』
自動復旧という言葉を見て、私はあまり喜べなかった。
旧文明の道具は、停止している時の方が安心できる場合も多い。動いているからといって役に立つとは限らず、そもそも現在の人間には、何が正常な動作なのか判断できないことさえある。
その時、金属面の奥からもう一度、何かが外れるような音が響いた。壁の中央へ細い線が浮かび、それが上下左右へ伸びて、四角い輪郭を作っていく。
どう見ても扉だった。
「できれば閉じたままでお願いしたいのですが」
私の希望は聞き入れられなかった。
金属の壁が低い音を立てながら左右へ分かれ、中から乾いた冷気が流れ出してきた。井戸の湿気や土とはまったく違う空気で、その中には、ごく薄い甘い香りが混じっている。
今朝から問題になっている井戸水と、同じ匂いだった。
携帯灯を入口へ向ける。奥には細長い通路が伸び、壁も床も黒っぽい素材で作られていた。天井には透明な筒のようなものが等間隔に並んでいるものの、今のところ光ってはいない。
何百年閉ざされていたのか分からない場所なのに、床にはほとんど埃がなく、井戸の水も入り込んでいなかった。空気だけは古く乾いていたが、人が踏み込めないほど荒れているようには見えない。
中へ進むべきかどうか、私は少しだけ考えた。
そして手元にある装備を確認した。
携帯灯、試薬、採取瓶、小刀。それ以上のものは持っていない。防具もなく、まともな武器もなく、何かに追いかけられた時に長く走り続けられるほどの体力もない。
これだけ条件が揃っているのだから、中へ入らないという判断は、我ながら非常に理性的だと思う。
「魔女さーん!」と、またリオの声が降ってきた。「入口みたいなのが見えますけど、中へ入るんですか?」
「入りません!」
思ったより声が大きく反響した。
「私は薬屋です。未知の地下施設へ携帯灯一つで突撃する職業ではありません!」
頭上で少しざわめきが起きた。誰かが「魔女なのに」と言ったような気がしたが、井戸の反響による聞き間違いということにした。
私は採取瓶を取り出し、井戸水と、入口近くの細い管から滲み出していた透明な液体を別々に詰めた。今日の依頼は井戸水の異常を調べることであり、旧文明の地下施設を踏破することではない。
仕事の範囲を守ることは大切である。街の人々はその範囲を少し広めに解釈しているようだが、少なくとも私は守るつもりだった。
そう考えていたところへ、通路の奥で白い光が灯った。
一つ目の照明が最奥で点き、その少し手前で二つ目が続く。天井に並んだ透明な筒が奥から入口へ向かって順番に明るくなり、暗闇の中に長い通路が浮かび上がっていった。
最後に、私のすぐ頭上の灯りが点く。
その直後、施設のどこからともなく平坦な声が響いた。
『管理対象への供給経路を再接続します。生育環境の修復処理を開始します』
男女の区別さえよく分からない声だった。言葉自体は現在のものとほとんど変わらず、意味が分かることがかえって不気味だった。
「何を供給するのかも説明していただきたいのですが」
こちらの質問は無視された。
『不足成分の補填を開始します。推定完了時間――算出不能』
「そこは算出してほしいところですね」
施設は努力してくれなかった。
代わりに、通路の奥から巨大な機械が動き始めるような低音が響き、足元の水が細かく震えた。大樹の根を走る青白い光も一段強くなり、井戸壁の奥から地上へ向かって伸びていく。
間もなく、頭上から先ほど以上のどよめきが聞こえた。
「魔女さん!」とリオが声を張り上げる。「大樹の葉っぱの色が変わってます!」
「どんなふうに?」
「青緑色に光ってます!」
私はしばらく上を見た。どうやら地上へ戻って、実際に確認する必要があるらしい。
そして視線の先には、長い縄梯子が揺れていた。
「リオ」
「はい!」
「誰か、腕力のある人を一人呼んでもらえませんか?」
地上が急に静かになった。
「何か危険なものが出たんですか?」
「帰りの梯子がつらいです」
一拍置いて、井戸の上から笑い声が落ちてきた。
非常事態に笑うとは、どういうことだろう。