乙女ゲーのヒロインに転生したけど、悪役令嬢のステータスがALL999,999,999,999だったので無条件降伏した件   作:華洛

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【契約(SIDE:スカーレット)】

 

「一つ、大きく訂正するわ」

 

 私はアリハランス第二王子を見下ろしながら、静かに言った。

 

「私は性格が悪いわけではないの。むしろ善性の塊よ」

 

「……まあ、自分というものは、自分ではなかなか分からないものだね」

 

 失礼な話ね。

 

 とはいえ、いまさらそこを論じても仕方がない。

 この王子の内面を【深眼】で覗いたあとでは、怒りよりも呆れの方が勝っていた。

 

 兄を王位につけたい。

 そのために不穏分子を炙り出したい。

 帝国第七皇女を救いたい。

 そのために帝国第三皇子の提案に乗った。

 

 動機だけを一つずつ並べれば、まだ聞こえはいい。

 でも、それらを一度に成立させようとした結果、計画全体がひどく雑になっている。

 

 私を勝手に巻き込んだことは腹立たしい。

 腹立たしいけれど――もう、怒るのも少し馬鹿らしくなっていた。

 

「……婚約内容の修正は、まだ可能かしら?」

 

 私がそう問うと、アリハランス第二王子はわずかに目を細めた。

 

「どれほど修正するかによるね」

 

「一方的に婚約破棄された場合、帝国の土地を無条件で譲渡。その土地にある建物の所有権は私へ移行する――そうしてほしいの」

 

「……領地じゃなくていいのかい?」

 

「領地をもらっても政治的に面倒でしょう」

 

 私はあっさりと言った。

 

「税だの統治だの治安だの、そんなものまで押しつけられても困るもの。たまに行く別荘地くらいで十分よ」

 

 もちろん、これは表向きの話。

 本当に大事なのは、譲渡される土地の規模や内容を、あまり細かく限定させないことだった。

 明文化されるならされるで、その条件に収まる形へ持ち込めばいいだけだけれど、余計な手間は少ないに越したことはない。

 

 アリハランス第二王子は少し考え込んだあと、ゆっくりと口を開いた。

 

「……それくらいなら問題ないと思う」

 

「そう。なら文言を追加してちょうだい。それを私に渡しなさい。知り合いに話を通して、テスタメント神によって結ばせるわ」

 

「そこまですることかい」

 

「後から揉めるのは嫌なの」

 

 私は肩を竦めた。

 

 口約束なんて、都合が悪くなればいくらでも反故にされる。

 まして相手は帝国の皇子。

 最初から神の権能込みで縛っておく方が、後腐れがなくていい。

 

 私がそう告げると、第二王子は小さく苦笑した。

 

「……君は、本当に抜け目がないね」

 

「褒め言葉として受け取っておくわ」

 

 そこで私は、ふと思い出したように言った。

 

「それと、バーミリオン・フォン・アルカンシエル第七皇女の写真を見せなさい。貴方のような偏執的なストーカーは、写真の一枚くらい隠し持っているでしょう」

 

 第二王子は一瞬だけ躊躇したものの、やがて懐から一枚の写真を取り出した。

 それを黒服が受け取り、私のもとへ差し出す。

 

 写真に写っていたのは、年若い少女だった。

 

 黄みがかった鮮やかな赤髪。

 どこか儚げで、けれど整った顔立ち。

 目元や輪郭には、少しだけ見覚えのあるものがあった。

 

 私に、顔立ちだけはよく似ていた。

 似すぎている、と言ってもいい。

 

 ……世界には似た顔が三人いる、なんて言葉もあるけれど。

 これについては、理由に心当たりがある。

 

 面倒だけれど、あとで確かめに行く必要があるわね。

 

「アリハランス第二王子」

 

 私は写真から目を離し、彼へ向き直った。

 

「貴方の七面倒な恋路の手助けをしてあげるわ」

 

 面倒くさいけど。

 大事なことなので、心の中で二度言った。

 

 第二王子は驚いたように目を瞬かせる。

 

「……いいのかい?」

 

「良くはないわよ」

 

 即答した。

 

「でも、このままだと私まで余計な面倒に巻き込まれ続けそうなの。だったら、さっさと片をつけた方がましだわ」

 

 下手にこの婚約話が流れて、逆恨みした帝国が王国へ攻めてくる可能性も、ゼロとは言えない。

 攻めてこられたら面倒なのよ。

 

 圧倒的な資源と人材を持つ帝国を相手取るなら、隣国以上に徹底して蹂躙する必要が出てくる。

 できなくはないけれど、数日は帝国にかかりきりになるでしょうね。

 その間、読書ができなくなってしまう。

 

「その代わり」

 

 私はそこで言葉を切った。

 

「事が成就するまで、私の領地で弟の補佐をしなさい」

 

「……補佐?」

 

「私を無断で、無報酬で使おうとしたんだもの。それくらいはしてくれるわよね」

 

 アルタナティブ侯爵領は、いまのところ大きな問題はない。

 でも優秀な人材はいくらいても困らない。

 特に、表向きは問題児を装えて、裏ではそれなりに頭が回る人材ならなおさらだ。

 

 第二王子は少し迷うような表情を浮かべた。

 王子という立場からすれば、他家の領地で補佐をするなど本来なら簡単に頷ける話ではない。

 

 けれど、もともとこちらへ借りを作っているのは向こうだ。

 断れる立場でもない。

 

「……ああ。分かったよ」

 

 やがて彼は、静かに頷いた。

 

 私は念のため、もう一度【深眼】で彼を視る。

 

 アリハランス第二王子。

 統率七十九。武力六十。魔力七十五。知力七十四。政治七十三。魅力七十九。

 

 ……悪くない。

 

 この世界はSRPGを模したRPG寄りの世界観だけど、登場人物によっては歴史シミュレーションタイプの人間もいる。

 

 私やアリサ、乙女ゲームに登場するメインキャラはSRPG系のステータスが多く、

 帝国やそれに関係する人物は、歴史シュミレーション系のステータスが多い。

 

 アリハランス第二王子の能力は、一線級の能力とは言えないけど、領地経営や補佐を任せるには申し分ない。

 

 少なくとも、恋に目が眩んで妙なことをしなければ、だけれど。

 

「決まりね」

 

 私は立ち上がることなく、ただ視線だけで彼を射抜いた。

 

「貴方の恋路も、私の婚約問題も、まとめて片づけるわ。だからせいぜい役に立ちなさい、第二王子」

 

 そう告げると、アリハランス第二王子は苦笑混じりに息を吐いた。

 

「君は本当に……侯爵令嬢らしくないね」

 

「だから、それは貴方の見識不足だと言っているでしょう」

 

 私は黒服たちに合図を送り、アリハランス第二王子の拘束を解かせた。

 

 ちょうどいいわ。

 領地で隠居しているお父様に問いただしたいこともできたし、物のついでに第二王子もアルタナティブ領へ連れて行くことにしましょう。

 

 ――どうせなら、まとめて片づけた方が早いもの。

 

 

 

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