乙女ゲーのヒロインに転生したけど、悪役令嬢のステータスがALL999,999,999,999だったので無条件降伏した件   作:華洛

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【マザーハーロット(SIDE:スカーレット)】

 

「お久しぶりです、お父様」

 

「ぐぅぅぅあああ……! こ、これが……実の、父に……対する、仕打ちか……!」

 

 アリハランス第二王子をアルタナティブ領へ連れ帰った私は、ひとまず第二王子を弟のルビーレッドへ預けた。

 第二王子の立場上、そのまま表へ出すと色々と対外的に面倒なので、王国内はもちろん周辺各国でも問題なく通じる身分証も一緒に渡しておいた。

 

 レッドはずいぶん驚いた顔をしていたけれど、まあ、あの子なら上手くやるでしょう。

 細かい説明は面倒だし、必要になればあとで補足すればいい。

 

 そこから私は、そのまま父が隠居している屋敷へ向かった。

 

 屋敷は静かだった。

 使用人の気配もない。

 索敵で確認した限り、中にいるのは父ただ一人。

 

 実に都合がいい。

 

 私は屋敷の前で、“非想非非想天”を作り出した。

 前世で読んだ漫画に出てきた術をモチーフにした、私のオリジナルマジックのひとつ。

 

 紅い魔力が噴き上がり、空中で収束し、人型を成す。

 巨大な魔力の塊は、片腕を薙ぎ払うだけで屋敷を横から破壊し、そのままもう片方の手で中にいた父を掴み上げた。

 

 そして今に至る。

 

 ……我ながら、久しぶりの親子の再会としてはだいぶ終わっているわね。

 

「お父様は私に愛情を注がず、何かと『悪魔』と言って毛嫌いしていたじゃありませんか」

 

 私は握られたまま呻く父を見上げて、静かに言った。

 

「それなのに、今さら私に“まともな娘”としての対応を望むのは、少し違うのではないかしら?」

 

「……ぐっ……!」

 

 父――グラファイト・アルタナティブは、苦虫を噛み潰したような顔をした。

 

 元の乙女ゲームにおいて、スカーレットの性格が歪んだ原因の八割はこの男だ。

 娘を毛嫌いし、「悪魔」と罵り続けた結果、悪役令嬢が出来上がった。

 

 もっとも、私に関して言えば、それだけでは済んでいない。

 暗殺者ギルドを使って定期的に命を狙わせてきたものだから、病を理由にさっさと隠居してもらい、侯爵代行にはレッドを指名させた。

 

 親として最低。

 統治者としても三流。

 今こうして片手で握られているのは、むしろ穏当な部類かもしれない。

 

「今さら、お父様と父娘関係の改善を図ろうとは思わないわ」

 

 そんな気はさらさらない。

 壊れた関係を修復したいほど、私は情熱的でも献身的でもない。

 

「――ただ、お父様が私をそこまで毛嫌いする理由を知りたくなったの」

 

 乙女ゲームでも、その理由は明かされなかった。

 所詮、スカーレットは中盤の悪役令嬢。

 背景設定がどれだけ重くても、物語の本筋で拾われるとは限らない。

 

 けれど、今は違う。

 バーミリオン・フォン・アルカンシエル第七皇女の写真を見た時、私の直感が告げていた。

 

 あれは偶然ではない、と。

 

「……お前は……私の祖母に、瓜二つだ……っ。身体つきを除い――がぁぁあああっ!」

 

 思わず、握る手に力が入った。

 

 まったく。

 父親として最低なのは前から知っていたけれど、そういうところまで直っていないのね。

 

「お父様。少しはデリカシーを持ってもらえないかしら?」

 

 私はため息混じりに言った。

 

「それで? お父様の祖母の名前を教えてくれない?」

 

 父はしばらく荒い呼吸を繰り返し、それからようやく答えた。

 

「…………スカーレットスカー。通称、マザーハーロット」

 

 マザーハーロット。

 

 確か、前世の知識では“大淫婦”に結びつく呼び名だったはずだ。

 それだけで、あまり品のいい異名ではないと分かる。

 

「お前のように赤い髪で、その髪が先端にいくほど紫に変わっていくことから、“傷んだ赤”という名で呼ばれたと聞いている。本名は知らん」

 

「……それで、そのスカーレットスカーはどんな人だったのかしら?」

 

「大淫婦だ」

 

 父は吐き捨てるように言った。

 

「己の子を後世に残すために、子を産み続けた。交わる相手は平民、貴族、神官……身分も立場も問わなかったと聞く」

 

 私は黙って先を促した。

 

「その行為は様々な国を跨いだ。当時は戦国時代だ。仮に一国が滅び、一族郎党が処刑されたとしても、自分の血だけはどこかに残るようにな」

 

 なるほど。

 血を残すことそのものが目的だったわけね。

 

「どうしてそこまで、スカーレットスカーはしたの?」

 

 貴族的な意味で血を残したかった、とか。

 何かを継がせたかった、とか。

 あるいは未来に託した目的があったのか。

 

「知らん。知りたいとも思わんな」

 

 父は短く切り捨てた。

 まあ、この男にそこまでの知的好奇心はないでしょうね。

 

「……最後に」

 

 私は父を見据えたまま、問いを重ねる。

 

「どうして私の名前を“スカーレット”と名付けたの」

 

 父の顔が歪んだ。

 嫌悪と恐怖と、わずかな混乱が混ざった顔。

 

「――似ていたからだ」

 

 低く、絞り出すような声だった。

 

「あまりにも、瓜二つだった」

 

「戦国乱世に生きていたのなら、もうとっくに年寄りでしょう」

 

「……あれは歳を取らない」

 

 父の声が、かすかに震える。

 

「ずっと若さを保っている。ずっと美しく、蠱惑的に……まるで美の化身のような――悪魔だ。あれは悪魔なんだ」

 

「そんな悪魔みたいな人の名前を、実の娘につけるのはどうかと思うわね」

 

「悪魔的な思考回路に魔力! 全てあの悪魔にお前はそっくりなんだ!」

 

 父は本気で怯えた表情をこちらへ向けてきた。

 

 ……必要な情報はだいたい得られたわね。

 

 それにしても、面倒な話だわ。

 私とバーミリオンが似ているのが、ただの偶然でない可能性は高い。

 もし本当に“血筋”の問題なら、帝国内に同系統の血が入り込んでいてもおかしくはない。

 

 そして、父の反応からして、このマザーハーロットとやらは、単なる先祖というには少々生々しすぎる。

 

 今もどこかで――生きているのかもしれない。

 若さを保ったまま。

 

 だとしたら、本当にろくでもない。

 

 私は“非想非非想天”の手を開かせ、父を地面へ下ろした。

 

 もうこの場に用はない。

 

 私とバーミリオン・フォン・アルカンシエル第七皇女が似ている理由。

 もしかしたら、遺伝的にかなり近いのかもしれない。

 

 それなら、あとは【深眼】で直接見ればはっきりするでしょう。

 

 帝国へ行く前に、アレを拾っていくとしましょうか。

 

 アレの危機管理能力は優れている。

 少なくとも、面倒へ首を突っ込まない嗅覚だけは本物だ。

 

 役に立つでしょう。

 

 

 




時系列的にこの後に三年生の試験があり、その後でアリサを攫う流れとなっています。
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