乙女ゲーのヒロインに転生したけど、悪役令嬢のステータスがALL999,999,999,999だったので無条件降伏した件   作:華洛

15 / 15
【マザーハーロット(SIDE:スカーレット)】

 

「お久しぶりです、お父様」

 

「ぐぅぅぅあああ……! こ、これが……実の、父に……対する、仕打ちか……!」

 

 アリハランス第二王子をアルタナティブ領へ連れ帰った私は、ひとまず第二王子を弟のルビーレッドへ預けた。

 第二王子の立場上、そのまま表へ出すと色々と対外的に面倒なので、王国内はもちろん周辺各国でも問題なく通じる身分証も一緒に渡しておいた。

 

 レッドはずいぶん驚いた顔をしていたけれど、まあ、あの子なら上手くやるでしょう。

 細かい説明は面倒だし、必要になればあとで補足すればいい。

 

 そこから私は、そのまま父が隠居している屋敷へ向かった。

 

 屋敷は静かだった。

 使用人の気配もない。

 索敵で確認した限り、中にいるのは父ただ一人。

 

 実に都合がいい。

 

 私は屋敷の前で、“非想非非想天”を作り出した。

 前世で読んだ漫画に出てきた術をモチーフにした、私のオリジナルマジックのひとつ。

 

 紅い魔力が噴き上がり、空中で収束し、人型を成す。

 巨大な魔力の塊は、片腕を薙ぎ払うだけで屋敷を横から破壊し、そのままもう片方の手で中にいた父を掴み上げた。

 

 そして今に至る。

 

 ……我ながら、久しぶりの親子の再会としてはだいぶ終わっているわね。

 

「お父様は私に愛情を注がず、何かと『悪魔』と言って毛嫌いしていたじゃありませんか」

 

 私は握られたまま呻く父を見上げて、静かに言った。

 

「それなのに、今さら私に“まともな娘”としての対応を望むのは、少し違うのではないかしら?」

 

「……ぐっ……!」

 

 父――グラファイト・アルタナティブは、苦虫を噛み潰したような顔をした。

 

 元の乙女ゲームにおいて、スカーレットの性格が歪んだ原因の八割はこの男だ。

 娘を毛嫌いし、「悪魔」と罵り続けた結果、悪役令嬢が出来上がった。

 

 もっとも、私に関して言えば、それだけでは済んでいない。

 暗殺者ギルドを使って定期的に命を狙わせてきたものだから、病を理由にさっさと隠居してもらい、侯爵代行にはレッドを指名させた。

 

 親として最低。

 統治者としても三流。

 今こうして片手で握られているのは、むしろ穏当な部類かもしれない。

 

「今さら、お父様と父娘関係の改善を図ろうとは思わないわ」

 

 そんな気はさらさらない。

 壊れた関係を修復したいほど、私は情熱的でも献身的でもない。

 

「――ただ、お父様が私をそこまで毛嫌いする理由を知りたくなったの」

 

 乙女ゲームでも、その理由は明かされなかった。

 所詮、スカーレットは中盤の悪役令嬢。

 背景設定がどれだけ重くても、物語の本筋で拾われるとは限らない。

 

 けれど、今は違う。

 バーミリオン・フォン・アルカンシエル第七皇女の写真を見た時、私の直感が告げていた。

 

 あれは偶然ではない、と。

 

「……お前は……私の祖母に、瓜二つだ……っ。身体つきを除い――がぁぁあああっ!」

 

 思わず、握る手に力が入った。

 

 まったく。

 父親として最低なのは前から知っていたけれど、そういうところまで直っていないのね。

 

「お父様。少しはデリカシーを持ってもらえないかしら?」

 

 私はため息混じりに言った。

 

「それで? お父様の祖母の名前を教えてくれない?」

 

 父はしばらく荒い呼吸を繰り返し、それからようやく答えた。

 

「…………スカーレットスカー。通称、マザーハーロット」

 

 マザーハーロット。

 

 確か、前世の知識では“大淫婦”に結びつく呼び名だったはずだ。

 それだけで、あまり品のいい異名ではないと分かる。

 

「お前のように赤い髪で、その髪が先端にいくほど紫に変わっていくことから、“傷んだ赤”という名で呼ばれたと聞いている。本名は知らん」

 

「……それで、そのスカーレットスカーはどんな人だったのかしら?」

 

「大淫婦だ」

 

 父は吐き捨てるように言った。

 

「己の子を後世に残すために、子を産み続けた。交わる相手は平民、貴族、神官……身分も立場も問わなかったと聞く」

 

 私は黙って先を促した。

 

「その行為は様々な国を跨いだ。当時は戦国時代だ。仮に一国が滅び、一族郎党が処刑されたとしても、自分の血だけはどこかに残るようにな」

 

 なるほど。

 血を残すことそのものが目的だったわけね。

 

「どうしてそこまで、スカーレットスカーはしたの?」

 

 貴族的な意味で血を残したかった、とか。

 何かを継がせたかった、とか。

 あるいは未来に託した目的があったのか。

 

「知らん。知りたいとも思わんな」

 

 父は短く切り捨てた。

 まあ、この男にそこまでの知的好奇心はないでしょうね。

 

「……最後に」

 

 私は父を見据えたまま、問いを重ねる。

 

「どうして私の名前を“スカーレット”と名付けたの」

 

 父の顔が歪んだ。

 嫌悪と恐怖と、わずかな混乱が混ざった顔。

 

「――似ていたからだ」

 

 低く、絞り出すような声だった。

 

「あまりにも、瓜二つだった」

 

「戦国乱世に生きていたのなら、もうとっくに年寄りでしょう」

 

「……あれは歳を取らない」

 

 父の声が、かすかに震える。

 

「ずっと若さを保っている。ずっと美しく、蠱惑的に……まるで美の化身のような――悪魔だ。あれは悪魔なんだ」

 

「そんな悪魔みたいな人の名前を、実の娘につけるのはどうかと思うわね」

 

「悪魔的な思考回路に魔力! 全てあの悪魔にお前はそっくりなんだ!」

 

 父は本気で怯えた表情をこちらへ向けてきた。

 

 ……必要な情報はだいたい得られたわね。

 

 それにしても、面倒な話だわ。

 私とバーミリオンが似ているのが、ただの偶然でない可能性は高い。

 もし本当に“血筋”の問題なら、帝国内に同系統の血が入り込んでいてもおかしくはない。

 

 そして、父の反応からして、このマザーハーロットとやらは、単なる先祖というには少々生々しすぎる。

 

 今もどこかで――生きているのかもしれない。

 若さを保ったまま。

 

 だとしたら、本当にろくでもない。

 

 私は“非想非非想天”の手を開かせ、父を地面へ下ろした。

 

 もうこの場に用はない。

 

 私とバーミリオン・フォン・アルカンシエル第七皇女が似ている理由。

 もしかしたら、遺伝的にかなり近いのかもしれない。

 

 それなら、あとは【深眼】で直接見ればはっきりするでしょう。

 

 帝国へ行く前に、アレを拾っていくとしましょうか。

 

 アレの危機管理能力は優れている。

 少なくとも、面倒へ首を突っ込まない嗅覚だけは本物だ。

 

 役に立つでしょう。

 

 

 




時系列的にこの後に三年生の試験があり、その後でアリサを攫う流れとなっています。

一話の投稿の仕方

  • 一話ごとの投稿
  • 複数話を一話として投稿
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

転生お嬢様な俺は、どうやらヒロインらしい(作者:緑茶わいん)(オリジナル:現代/日常)

――恋愛に失敗しまくって死んだ俺が、ヒロインになって主人公を攻略……!?▼通算五回、彼女にフラれてきた男子大学生の『俺』は、死んで美幼女に生まれ変わった。▼と思ったら、黒猫のぬいぐるみが話しかけてきて……?▼「君にはここで物語のヒロインになってもらう」▼そんなこと、いま初めて聞いたんだが?▼※カクヨムにも投稿しています▼※更新は数日おき目安▼※ガールズラブタ…


総合評価:777/評価:7.25/連載:81話/更新日時:2026年10月06日(火) 07:15 小説情報

貧乳好きなのにカードの精霊達の胸が大きすぎる(作者:匿名)(オリジナル:現代/冒険・バトル)

カードで国境すら決める世界▼そんな世界に転生した貧乳好きのショタがおっぱいの大きなカードの精霊達に囲まれる話


総合評価:6789/評価:8.42/連載:9話/更新日時:2026年09月25日(金) 20:06 小説情報

俺の相棒だけ擬人化実装されてないんだけど!(作者:寝室にドラゴンが突っ込んで来た!)(オリジナル:ファンタジー/コメディ)

『ドラゴ・マギカ・クロニクル』 ▼ ドラゴン娘を育てて世界を救うという何とも特徴のない擬人化ゲーの世界に『カラバ・イルマイト』として転生して来た俺は特に波乱も無くモブとして生きていた。▼ シナリオの端っこでいつの間にか殺されているという様なことが無いことを願いつつ、ゲームのチュートリアルイベントで召喚したドラゴン娘は『R』でも『SSR』でも『UR』でも無かっ…


総合評価:1270/評価:8.28/連載:24話/更新日時:2026年10月06日(火) 23:05 小説情報

女の子の魂を封印したカードって凄い高値付きそう(作者:好みのタイプはエルフェンノーツ)(オリジナル:現代/冒険・バトル)

カードゲーム販促アニメっぽい世界に異世界転生!でも主人公ポジじゃなくて悪の組織の一員っぽい?なんか人の魂を封印とかできるし。▼…美少女をカードに封印すれば、世界に一枚だけのアイドルカードを手に入れられる?コレクター魂がうずいちゃって困っちゃうな。▼男?要らな~い。邪神復活の生贄にでもなっててください。


総合評価:2768/評価:8.19/連載:8話/更新日時:2026年07月22日(水) 07:03 小説情報

ホラー系の世界に転生したのにあまりにも怪異がカラっとしている(作者:ない因習村:図書館に呪い本コーナーがある)(オリジナル:現代/コメディ)

 ホラー系の世界に転生しました。夜道を歩くと大概出会いますが、妙に冷めていたり、カラっとしています。どうすればいいでしょう?


総合評価:8371/評価:8.66/連載:37話/更新日時:2026年09月29日(火) 15:08 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>