【⚠ 注意書き ⚠】
こちらは『白鯨伝説』の二次創作です。
同性愛的な噂の真偽を主にしたお話になっています。
最終的に該当キャラに『俺はノンケだ』と言わせているので、『腐向け』には該当しないかと判断しました。
ただ男同士の濃ゆい感情を含むので、
『ブロマンス』タグをつけてあります。
これを読んで『無理』と思われた方はブラウザバックしてください。
♢
【設定のねつ造】
キャラクターの設定を盛っています。
毎回思うんだけどデュウに便利な機能をつけすぎだと思う。すみません……。
【下ネタが多い】
なかなかに下世話です。
以上、『大丈夫!』という方のみお進みください。
1、
「やァやァ、ラッキーってのはお前さんかい?」
白い帽子のおじさんが話しかけてきた。
突然のことにラッキー・ラックは身構える。トレードマークの、ひとつに括った金髪が揺れた。
ここは惑星モアドを目指して旅するレディウィスカー号。船員は『エイハブ鯨捕りカンパニー』の仲間たち。
たった今、声をかけられた男を除けば。
薄い頭を白い帽子で隠す、この男。若干しなびたコートを着て、いかにも刑事然としている。実際、現役の刑事だった。
それをカンパニーの長であるエイハブがなぜだか出発の時に連れ込んでしまった。気に入っているとかナンとかで。
だがソレはあくまでエイハブの好みであって、ラッキーにとっては得体の知れない新入りでしかない。
ジロジロと品定めでもするような目つきで見られ、いたたまれなくなる。
「フゥン……前にも会ったがちっこくてよくわからなかったぜ。
ガキだな。痩せっぽちだ」
「な、何だよいきなり」
「アイツの好みのボンキュッボンじゃねえ」
「ええ!?」
失礼な物言いに思わず抗議めいた声をあげた。
「ちょ、ちょっと。それがどういう」
「いや、アイツを口説いたのがどんな美女かと思ってよォ」
「口説いた、って。人聞きの悪い」
「でも実際、アイツをまた白鯨のもとへ引きずり出したんだろ」
そう言われるとラッキーも口をつぐむ他ない。
確かに白鯨を獲ってほしいと依頼したのは自分だ。
複雑な胸中でいると、ホワイトハットがムサい顔を近づけてくる。
「アイツやっぱり捻くれてるな。自分の目と脚持っていった相手にまた挑もうなんざ、命知らずとしか思えねぇ。なあラッキーとやら」
「知りません」
「ええ、そりゃ無責任ってモンだ。お前さんが言ってエイハブがその気になったと聞いたぞ。それを知らんなんて……」
痛いところをネチネチと突いてくるなぁ、とラッキーが困り果てているとホワイトハットの肩越しにモスグリーンの服が見えた。
「やめてやってくれないか。嫌がっている」
立っていたのはアンドロイドのデュウだった。
表情こそ凪のようだが、すみれ色の瞳が咎めるようにホワイトハットを見据えている。
隣に赤毛のアトレもいて、やりとりの行く末を見守っていたようだ。
「ただ世間話をしていただけさ」
「子ども相手に品のない言葉を使うのは感心しない……ましてや女の子に」
「何だい、フェミニストかい? エイハブも変わったアンドロイドを拾ったモンだ」
先ほどから、やけに船内の事情に詳しい。どうやって情報を集めたのか。
レディウィスカーの中でも年少の——デュウはアンドロイドなので外見年齢を考慮するのは野暮かもしれないが——三人組の視線を一身に浴びながらホワイトハットが胸を張る。
「刑事たるもの、些細な情報でも抑えておくのが事件解決の近道ってヤツだ」
情報通を自慢する姿を、アトレが眩しげに見上げた。
「なぁおっさん。船長にムショから逃げられちまったんだろ? そん時の話を聞かせてよ!」
容赦ない好奇心で殴りつける。
先ほどまで自信満々だったホワイトハットが『ぐ』と低く唸った。
「あのなァ、ンな機密情報を漏らすワケねえだろ」
「自分の失敗談を話したくないんだ」
「そうじゃねェよ。いつか真似されたら困るからだ」
話題に相反し、まるでイタズラする子どもを叱るような口振り。
アトレは腕を頭の後ろに組み、『チェッ』と舌打ち。
「おれはそんなヘマはしねェよーだ」
「ヘマじゃねえ、真っ当に生きろってんだガキ」
こんな船に乗り込んでおいて、道徳を説いても仕方ないように思うが……。
案の定アトレにはまったく響いていない。
「じゃァさ、船長がムショ時代どんなだったか教えてよ!」
「しつけえガキだな」
ホワイトハットがげんなりした顔で見下ろしている。
ラッキーが手こずっていた相手を困らせるなんて、鯨捕りに囲まれて育った子はやはり違う。
とは言いつつ、相手をその気にさせなければ上手く話は転がらないワケで。
「……ちょっとだけだぞ?」
ホワイトハットは話したくてウズウズしているようだった。
口が軽いのは、刑事としてどうだろう。
まあラッキーには関係がないので、手ごろな部屋に案内されるがまま入る。
デュウも無言でついてきた。エイハブのことはやはり気になるのだろうか。
しつらえてあるテーブルに、ホワイトハットとアトレが奥。扉側にデュウとラッキーがそれぞれ座った。
「廊下じゃ話しにくいことなのか?」
アトレが聞くとホワイトハットが机を指で鳴らす。
「なあに、大したことじゃねえさ。アイツはムショじゃァちょっとしたアイドルでね。面倒見がよくて、義理堅い。
だからコイツに気に入られればムショ内でも安泰だとされていた」
「気に入られる?」
「ムショでも派閥があンのさ。俺に言わせりゃどいつもこいつも犯罪者なんだが、囚人の間じゃ大きな問題らしい。おマンマの量にも直結するそーだ」
「ええッ、それって……死活問題じゃん……」
「おうともよ」
元看守はうなずいて、驚くアトレの頭をぽんぽんと叩いた。
「そンでよ。エイハブってのは、素直じゃねえからな。誰がお気に入り、だとか滅多に言わねえ。態度でわかるっつっても、よほど注意深く観察しなきゃァな。
だから嘘かマコトか、『我こそはエイハブの寵愛を受けし者である!』と宣言する輩が後を絶たなかった」
「ヤダね〜、媚び売る奴らって」
アトレが茶々を入れた。
ラッキーはというと、初めて聞くエイハブの姿にうろたえている。キングクーロンでも名を轟かせていたが刑務所でも同じだったのか。
だが狭い世界のせいか妙に質感がジメジメしている気がする。
チラリ、とデュウの横顔を見た。冷めたまなざしからは何の感情も窺えない。
隣同士の二人だけが盛り上がる中、話は変な方向へ突き進んでゆく。
「なぁ、ソイツらって船長に怒られなかったの?」
「エイハブの奴は、否定も肯定もしなかった。誰に対してもな。
それで味を占めた奴らは話をさんざ盛って、挙げ句の果てにはアイツとこういう仲だと言いふらして……」
ホワイトハットがささくれだった親指を真横に向けた。
ラッキーには何のことかわからなかったが、アトレはすぐ理解できたらしい。
「え、ええッ……ソコまでやるかフツー……」
「フツーじゃまかり通らねぇのがシノギの世界よ。
宇宙開拓史以前のモノノフの歴史じゃァ、主従とか言って主人と家来がそーゆー仲で深ァく結ばれるコトも多かったそうな。
ま、それと似たようなモンだ。何せどちらもタマの奪い合いを生業にした……ア、これはダブルミーニングとかじゃなくて。あらやだお下品」
「船長がそんなんだったら、おれイヤだぜ!」
「知らん、噂だ。どうだったかは本人に聞け」
「え〜、これまでも教えてくれなかったもんなァ」
ラッキーが頭に疑問符を浮かべていると、決定的な一言が飛び出した。
「まァ、もっともらしくしたいのか生々しいのも多かったな。ソノ気もさせるのが上手いとか、最初にキスするのはココだとか」
「きれいなおねいさんじゃなきゃヤダよ、おれぇ……」
さすがにコレでラッキーも話の内容がわかった。頬が熱くなる。
同時にこんな話を人前で堂々とする二人に呆れもした。
過激な単語が飛び交いはじめたところで待ったをかける。
「あの、そういう話を本人がいないところでするのはどうかと……」
「ん? ああ、お嬢ちゃんにはシゲキが強かったか! 失敬失敬」
「そういうンじゃない。アトレ、これ以上は聞くのやめよ」
「もーチョット」
「ダメだよ、子どもが聞いていい話じゃ……」
なだめていたら隣で椅子を引く音がした。
デュウが足早に立ち去ろうとしている。
「ナンだ、おめえも気まずくなったクチかい?」
ホワイトハットがその背へ問いかけると、ゆっくりと視線を向けられた。
どことなく表情が強張っているのは気のせいだろうか。
普段と変わりない、抑揚のない声でデュウが応じる。
「いや。これ以上聞いても利がないと悟った」
「今まで熱心に聞いていたのに」
「あなたの話には根拠がない」
スパッと言ってのけられ、ホワイトハットが一瞬固まった。思ったよりも手厳しい返事に面食らったのだろう。
だが元看守、現刑事だけあってすぐに立て直した。
「確かに、全部ムショで聞いた噂よ。でも耳ダンボにして囚人たちの噂を聞くのも仕事のうちさ。どこに真実が紛れているかわからねえ。
奴ら、人を出し抜くことしか考えてねえんだ。あわよくば逃げ出そうと企んでいる」
アトレとラッキーが耳を傾ける中、デュウがさらに切り込んでいく。
「そのわりにエイハブ船長のことを楽しそうに話す。
……あなたこそ、彼の評判を落として何か企んでいるのか?」
確かに嬉々として喋っていた。すっかり観客と化した二人はウンウンうなずいて、ホワイトハットの弁を待つ。
一歩も引かぬとばかりに彼もデュウも相手を睨めつけていた。
「別に、何も企んじゃねェよ。そこのガキに聞かれたから答えただけだ。だいたいガキども相手にエイハブの株を落として何の得があるってんだい……」
まとめて悪口を言われたようでラッキーはカチンと来たが、ホワイトハットが畳みかける。
「そもそも! 俺が話していたのは!
ムショで腕力のない奴ァ、身を預ける代わりにその身を保証してもらうことが多いってだけの話であって……そこにエイハブの名前が使われたというだけで」
「もういい。黙ってくれないか」
底冷えするような声だった。
デュウは怒りを隠そうもせず、かといって罵声を浴びせるワケでもなく、静かに言い放つ。
「あの人は、人の尊厳を交渉の材料にする人間じゃない」
それだけ言い残し、踵を返すと部屋から出ていった。
残されたのは呆気にとられたホワイトハット。ラッキーやアトレはその間の抜けた顔をじっと見ている。
彼は一人でぶつくさ文句を垂れていた。
「な、ナンだアイツは。人の話をロクすっぽ聞かねぇで。噂だ、って言っているだろうが。
それを……まるで『自分だけがエイハブをわかっています』みてェな顔でよ〜ォォ。
俺だって」
片手を頭の白い帽子に持っていき、ずるずると顔面へ引きずり下ろす。
薄い頭があらわになるが、顔をすっかり覆い隠すと、
「俺だって、アイツがどういう奴か知ってるさ」
などとボヤいた。
アトレが横で聞く。
「なぁ、話はもう終わり?」
「え? ああ……ナ〜ンか毒気抜かれちまった。お開きだ!」
「ふうん。ま、おっさん同士のアレな話なんて聞かなくても困んないし」
椅子からひょいと降りるアトレ。
先ほどまで『聞きたい』と駄々をこねていたのに。
『調子いいんだから』とラッキーは肩を落とし、先に出ていこうとする彼に続いた。
♢
お昼どき……宇宙空間に昼も夜もないのだが、そこは星系標準時間というものがある……食堂でみんなで肩を並べて食事をしていた。
ラッキーはなかなか箸が進まなかった。
というのもホワイトハットの噂話のせいだ。
目線をやると、エイハブも他の男たちとメインディッシュの取り合いを繰り広げている。周りもそうだが大人げない。
仲間とはしゃぐのが好きな人なのだ。だから憎めない。
それを。あんな話を聞かされたら、見る目が変わってしまうじゃないか。
ラッキーの見てきた世界で、同性でそんなコトをする人なんてあまり馴染みがない。そういう世界があるんだな、とは知っていたけれど。
いや、それもそうだが。
イチバンは、ナンというか……。
『エイハブも、男性なんだなぁ』
という奇妙な感覚に戸惑っている。
刑務所という閉鎖された空間も相まって、急に遠い世界の人のように感じてしまった。
どこか不安を覚えている——。
何故かと自分を問い詰めてもグチャグチャになった答えが胸に引っかかるばかり。
何度目かのため息でそのつっかえを少しでも吐き出そうとしたところだった。
「どうした、ラッキー。食欲ねえのか」
エイハブが話しかけてくる。
当の本人から声をかけられ、ラッキーはびっくりしてフォークを落としかけた。
「あっ、えっと。まあそんなところ……」
「イカンなぁ。何があるがわからねえ、食える時に食っとかないと!」
「あ、あはは……」
苦し紛れに笑ってみるがぎこちなさが抜けない。
これ以上いると、もっと心配させてしまいそうだ。ラッキーは立ち上がると、
「ごちそうさま」
と食器を片づける。
クックからは『俺のメシがマズかったのかぁ?』と迫られたが首をフルフル振って逃れた。
それで、エイハブの後ろを横切る前、
「熱でもあるのか?」
と手を伸ばされる。
大きな骨ばった手——。
気づけばラッキーは避けてしまっていた。当然ながらエイハブにはふしぎそうな目で見られる。
急に罪悪感がこみあげた。
「あ……おれ、ごめんなさい!」
まるで何かを振り切るかのように、ラッキーは駆け出した。
2、
エイハブはトレーニングルームで黙々とサンドバックを打っていた。
また白鯨とやりあう日のために鍛錬はかかせない。デカブツ相手に無意味じゃないかと思わなくもないが、心構えというものだ。
無心になって打ち込んでいたら気の迷いも晴れてくる。
サンドバックと向き合いつづけて、いつしか訪れるこの瞬間が好きだ。
だが今日はその境地に至る前に来客が見えた。
簡易リングを挟んだ向こうで壁にもたれかかっている。
エイハブは揺れるサンドバックを抑えつけた。
「デュウ。何しに来たんだ」
デュウが無言で後をついてくるのは今に始まったことではない。
最初はつっけんどんだったのに懐いたと思えばコレだ。
『極端だな』と言ったこともあるが特に言い返されることもなかった。以降は好きにさせている。
デュウは壁から動かず、じっとこちらに視線だけよこしている。
「なぁ、そこのタオル。取ってくれねえか」
指をさせば、デュウの目線が椅子にかけたタオルに移った。
彼はそれを取ると、投げずに握ったままコチラへ歩いてくる。
「どうも」
手を差し出したら勢いよくバサリと覆い被せられた。
粗野な素振りに違和感を覚える。
エイハブは汗を拭きつつ聞いてみた。
「どうした? 機嫌でも悪いのか?」
「別に……」
含みのある言い方。
明らかに不機嫌そうで面白い。まだ観察したいので誘ってみる。
「言えねえってのか? じゃ、ミット打ちでもやってみるか?」
ムカつく奴の顔を思い浮かべて殴ればスカッとするぞ、と言ってやればうなずかれた。
デュウが外套に手をかける。
エイハブは一連の動作をじっと見ていた。
パイプ椅子に外套を無造作にかけ、栗色の長い髪を持ち上げる。
細身だが、華奢ではない。巷のモデルのようなカッコいい体型よりは彫像に似ている。
少年期、牧師に育てられたエイハブはピンナップ代わりに美術書を勝手に嗜んでいた。
その中にある、目当てではないほうの男の像——デュウを見ているとソレを思い出す。
神話に登場するという、遠い世界の登場人物たち。
もっともデュウはボロを普段着にしているが……『次に立ち寄った星で新しい服でも買え』とでも言ってやろうか。
デュウが腕に巻いていた包帯を片方だけ解き、髪をひとつに結い上げる。
「準備できたよ。船長」
「ああ、じゃあまず基本の型を教えてやろう」
背後に回ると肩を引いてやった。
「体を相手へ横に向けて……顔だけ正面を見るんだ。手はこう」
拳の位置を教えてやるのを、デュウは無言で見つめている。
「自分でやってみな」
手を離せばデュウが自分で拳を再び持ち上げた。先ほどと同じ位置と角度を保っている。
いちど型を取らせると、データとして記憶するのか綺麗に再出力してくれた。基本を教えきるまでそう長くかからない。
「早いな。じゃあ、軽く打ってみるか?」
道具一式を持ってきて、デュウにグローブを投げてやった。
見たところサイズも合っているようだ。
「いちどアカにもさせてみたんだがよ。アイツ、一回で『もういい』とへばりやがって」
「なぜ彼に?」
「こういう商売だ。恨みを買うことも多い。護身ぐらいさせようと思ってよ」
「なるほど。でも、なぜそのグローブをレディウィスカーにまで?」
聞かれるとエイハブは自分でも『あ』と声を漏らした。
出発前いつか使うんじゃないかと、トレーニングルームのロッカーにしまった。
アカデミアスの、ほぼほぼ鍛えていない細長い手とサイズが合う人物など荒くれ者の多いこの船でそういない。スピードキングでは背丈が違うし……。
となると候補はデュウに絞られる。
「……いいじゃねぇか。まとめて突っ込んだだけだよ」
エイハブが苦々しくはぐらかすと、デュウからもそれ以上は追及されなかった。
ミットをはめ、姿勢を低くする。
「さ、掛け声どおりに打ってこい」
デュウが肩を引いた。
「ジャブ!」
パシン! とミットへ衝撃が響く。
想像よりも強かったので一旦止めた。
「良いパンチだがトバしすぎるな」
デュウが手を軽く振り、『了解』と再度構えなおす。
再開後は力加減も直ったのでそのまま続行した。
ジャブ、ジャブ。ストレート。最初は一つ一つ間を置いたが、次第にテンポを上げていく。
終わり際には、エイハブも義足ながら器用に移動しつつ拳を受けていた。
「フック! ……遅い! ワンツー! アッパー!」
デュウに下からミットを打ち抜かれる。
イチバン手が痺れるパンチだった。
エイハブは一歩下がり、ミットを外す。
「休憩だ。ふう……」
へたり込んで近くにあったドリンクをちびちび飲んだ。
冷気がノドを通りすぎる。
デュウも腰をおろし、両ひざを抱えていた。
「スッキリしたか?」
問いかければ首を縦に振られる。
だが徐々に顔の強ばりが戻ってきたので、完全には吹っ切れなかったようだ。
「何があったんだ」
揃えた脚の前で、デュウがグローブを外して揺らしている。視線をそれに留め、こちらを見ようとしない。
汗ひとつかいていない涼しげなデュウへ、エイハブは身を寄せた。
「……ラッキーも様子がおかしかった。お前ら、一緒だったんじゃないか」
自分ひとりならポーカーフェイスで隠せると思っているだろうが、もうひとり共犯がいるぞ。
二人して何か後ろめたさを共有しているのは明らかだった。
ジッと見ていると、ついにデュウを陥落させる。
「……ホワイトハットに、エイハブ船長が収監されていた時の様子を聞いた」
唇がわずかに震えていた。
想像よりも拍子抜けな内容にエイハブは肩をすくめる。
「ああ、あのとっつぁんか。俺の追っかけでよ、俺のことならナンでも知りたがるンだ」
「あなたは囚人の中でも人気だったと。面倒見がよくて、義理堅くて……でもどこか掴みどころがない……」
「そりゃ本人の見立てだろ。おっさんに惚れられてもな」
「……それと」
デュウが言いづらそうに唇を噛んだ。
エイハブがもう一度ドリンクを手に取っていると、声をひそめて明かされた。
「あなたとそういう仲だと吹聴する輩もいたと……」
聞き取り、気の抜けた声で『ああ』と応じる。
「確かにいたな。何人か」
「否定もしなかったと」
「面倒臭ェ、だれも信じやしないのに」
「相手を保護する代わりに、そういう関係になったとも推測されている……」
デュウが背を丸め、自分の身を抱え込んだ。
カラにこもるかたつむりみたいだ、とエイハブは苦笑いする。
当てずっぽうで茶化した。
「……何だい、気持ち悪いってことか? 男同士で?」
デュウが思ったよりも俊敏な動作で顔を上げる。
「違う! そんなことじゃない!」
珍しく怒りがにじむ声。
目を点にしていると、なかばうわ言のように話しつづけている。
「そもそも、ホワイトハットはあなたがそうだとは、言わなかったかもしれない。
単に刑務所はそういう取引が為される場所だと見解を述べただけかもしれない……」
「当たってるよ。凶悪犯がどいつも筋肉ダルマでマッチョなワケじゃない」
「綺麗事で過ごせる場所ではないと、おれも想像がつく……」
デュウの電子頭脳に、刑務所についてある程度の記録はあるのだろう。
直接体験したのではなくとも、捕まった犯罪者がどのような扱いを受けるかを知っている。
ただ知識だけだ。別の場所に囚われているから。
「あなたの性指向について、どうこう言うつもりはない。
ただおれは……。あなたが人を搾取するような真似をしたかもしれない、と考えたら……」
まぶたを伏せれば、長いまつ毛が震える。通った鼻筋に形のいい唇。
デュウの容姿は恐ろしく整っているが、アンドロイドゆえに人工物だ。
それでも、彼の意識はアンドロイド法によって処置された罪人。
つまり心だけは生身。
記憶がないとは言っても、あらかじめプログラムされた人格とは根本から違う。
「そう付き合いも長くない。深い仲というワケでもない」
デュウはまっすぐにエイハブを見据えた。
視線をそらすのは、なぜだかできなかった。逃げるようで。
真正面から見ると改めて彫刻のような顔をしている。
拾った時から、きれいな男だった。ただ骸だと思っていた時は大して気にも留めなかった。
関心を持ったのはデュウが目覚めてからだ。
人形めいた容姿で、おすましを決め込んでいるクセに瞳に何かを飼っている。
表情をくもらせたデュウから、か細い声で告げられた。
「でも、あなたはそういう人ではないと思う……」
瞳の奥で誰かが牢屋からこちらへ手を伸ばしている。
背がぞわりと粟立った。
エイハブは奇妙な感覚に体を支配されながらも、
「……光栄だね」
とだけ返す。
デュウが瞬きして、
「え?」
と呆けた声を漏らした。
投げてあったシャツを肩に羽織ると、細い腕を引っ噛んで立ち上がらせる。
リングに立てかけてあった杖を取り、扉まで連行した。
「どこへ?」
「ホワイトハットを問い詰めにいく」
「おれが聞いているのはあなたにであって……」
すこし険のある物言い。
その目を覗き込むようにして言ってやった。
「俺がアイツを問いただす。
かつては、アイツが看守でしつける側だった。
だが今は俺がこの船の長だ。勝手な噂を広めたことに対して黙っているワケにはいかねえ」
デュウの瞳孔が収縮する。
「では、あの話は事実とは違うということか?」
声音に安堵が混じっている。
わざと答えてやらなかった。