“V.Ⅰ(ヴェスパー・ワン)”、ワートリ世界に転生する。   作:サクラン

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皆様アンケートへのご協力ありがとうございます。バトル描写に関しては不安でしたが概ね受け入れられているようで安心しました。もちろん違和感を抱いた方の意見も取り入れてより面白い魅せ方ができるよう精進していきます。

次はAC6のキャラについてのアンケートも設置させていただいてますのでよろしければそちらもご協力下さいませ。

まあ今回でまたキャラが増えるわけですが()

それではお楽しみ下さい。


第11話 腐れ縁

「養護施設への慰問?」

 

「そう。『防衛任務に就く』ということの意味ををきちんと理解してもらう為に、君にも参加してもらう」

 

 風上はボーダー本部内のとある一室にて狐のような細長い顔立ちの男性から提案された話に対して、眉を顰めながら言葉を返した。

 ここはボーダーが活動する上で間違いなく必要不可欠な部門、“メディア対策室”である。

 ボーダー内には戦闘員だけではない。防衛任務を中心に情報の精査、提供を担当し戦闘員を補佐するオペレーター、新トリガーの開発や本部施設の管理全般を担っているエンジニア、そしてそれ以外にも虎尾のように別の形で隊員達を支える職員が存在する。メディア対策室もそう言ったものの内の一つである。

 

 防衛組織でありながら“メディア対策”とは?と思う者もいるかもしれない。

 しかしボーダーは現在受け入れられているとは言え、国非公認の組織である。トリオン能力の都合上仕方ないとは言え、子どもを事実上の少年兵として扱っていることもあり、未だに良く思わない人間も多くいるし、組織を立ち行かせていく上で市民に対する印象というのは決して無視できない要素である。

 そう言ったボーダーの外向けのイメージを向上させ、円滑な運営と市民からの支持を良くするのが“メディア対策室”の役割である。一般の隊員はその恩恵を感じ辛いが、皆が戦うことができているのは間違いなく対策室長である根付を中心に室内のメンバーの尽力があってこそである。

 

「なるほど。それで、俺は何をすれば良いんです?」

 

 風上は根付から持ち出された話に対して特に反発することはなく、僅かに目を細めて何をするべきか聞き返した。

 

「施設の子ども達と話をしたり、遊び相手になったり…これと言った内容の指定はしない。指定された時間の間、一緒に過ごしてもらうようになるよ」

 

“ボーダーメディア対策室長”

“根付栄蔵(37)”

 

 根付は淡々とした声色で、風上に慰問についての要項をまとめた資料を手渡す。その内容を確認しながら、風上は本心の一部を根付にぶっちゃける。

 

「まあ目的は分かりましたしやらなきゃならないからやりますけど…俺じゃ正直役者不足じゃないすか?子どもウケの良い愛想づくりとかキツいすよ」

 

 そう、行くのは良いがこれで子ども達に嫌われてしまったりすれば本末転倒である。別に風上個人としては施設の子ども達に好かれようが嫌われようがどっちでも良いのだが、運営しているボーダー側─根付としては当然良くはないだろう。

 変に構い過ぎて気を遣っているとでも思われたらその時点で微妙な空気になるのは間違いない。子どもは妙な所で勘が働くので、風上は正直根付が望んでいる動きができる自信が無かった。

 

「まあ私としてもキミが子ども達からの信用を集められるとは思っていないよ。それにこの慰問というのはキミの仕事であると同時に─私(・)の(・)仕(・)事(・)でもある。最終的な責任を私が持つ以上、この仕事は必ず完遂させねばならない」

 

 しかし根付もそれは承知の上。一人の戦闘員としては優秀でも、まだまだ未成熟な子ども一人に全ての責任を背負わせるつもりはない。

 その立場と性格故に一部の隊員から『悪い大人』と揶揄されることもあるが、彼が相手にするのは不特定多数の他人が目にするメディア関連である故に、組織運営に対してはよりシビアな目線が求められる。仁義や情に流されていてはマスメディアを相手にすることなどできないし、風上もそれを否定する気はない。

 

「じゃあ俺以外に誰かしら一緒に来るってことすか?」

 

「そうだね。キミもよく知る人間だよ」

 

 風上は少し安心した。誰か来るという点もそうだが、何より『自分がよく知る人間』であるという点が大きい。ないとは思うがこれで三輪と一緒に行けとなると失敗する可能性の方が高い。

 しかし根付に限ってその人選を間違うことはない為、組ませる隊員はまず自分と一緒にいても問題ない隊員であるハズだ。

 

「それじゃあ、当日はくれぐれも遅れたり失礼のないように」

 

「はい、了解しました」

 

 念を押すような声色と目付きで根付から言われるも、風上はいつも通りの軽薄な笑みで返事を返し、部屋から出て行った。

 一人残された部屋の中で根付はため息を吐き、独り言を零す。

 

「改めて見ても…彼に慰問をさせるのはリスクが高いと思うがねぇ…虎(・)尾(・)園(・)長(・)は何を考えているのやら…」

 

 数日前、突如風上を慰問させることに推薦して来た人物を思い出し、根付はくれぐれも問題を起こさないことを祈った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「へぇー、アンタだったんだな。一緒に行く隊員ってのは」

 

「言われずとも集合10分前に来られるようになったとはな!バトルマニアの頭にも常識というのは残っていたようだ!」

 

 数日後、施設の前で風上が見たのは頭にバンダナを巻いて大量の袋を手に持った虎尾の姿だった。いつものパッツパツのエプロン姿ではないが、なまじ体格が良いので工事現場にいても違和感がない。

 

「根付室長から話は聞いているな?」

 

「そりゃもちろん。ここにいるちびっ子達の相手しろってことだろ?」

 

「分かっているようなら話は早い!貴様にもキリキリ働いてもらうぞ!」

 

 一言一言が身体の芯に響くような大声だが、風上は涼しい顔で返事をする。そして少し身体を伸ばしながら、少しぼやきを漏らした。

 

「しかし根付室長ももの好きだな。建前もあるのかもだが俺に慰問行かせるか普通」

 

「隊員は皆一度はこういった機会を設けている。形は違えどこれもちゃんとした任務の一つだ。それに─」

 

「?」

 

 虎尾は言ったそこで言葉を区切り、風上の視線が自分に向けられたのを確認してから続ける。

 

「今回の慰問、俺がお前を推薦したのだからな」

 

「!…そりゃまた、どういうつもりで?」

 

 虎尾の発言に、風上は問いながら内心で驚いた。

 根付が自分を行かせると言って、不安を感じた虎尾が着いて行くと言い出したのなら分かる。

 だが自分のことをよく知らない人間ならまだしも、おそらくこの世界にいる人間で日向野と並んで最も自分のことを理解している虎尾が、明らかに不向きな慰問への推薦など余程の理由がない限りするハズがない。

 

(ミシガン(虎尾)は、何か俺に見せたいものがあるのか…?)

 

「何かサプライズでもあるのか?」

 

「そうだな!しかし貴様にとって気の利いたものかは分からんぞ?」

 

「構わないさ。そういうのがあるってだけで十分だ」

 

 虎尾の発言からして過度に期待をし過ぎるわけには行かないが、それでも自分にとっても何かしら“良いこと”があるというだけで十分面白い。

 

「それじゃあ俺が先に入るからお前は玄関で呼ぶまで待っていろ」

 

「了解した」

 

 そして風上は虎尾に案内されるがままに後を着いて行く。

 施設そのものは不特定多数の人間が住まうことを前提としている為かかなり大きい。中からは子どもらしき話し声が度々聞こえてきていた。

 

「━━━━━!」

 

(やっぱミシガン(虎尾)、何度かここに来たことがあるっぽいな。子どもと並ぶと身長差が凄まじいことになりそうだが。まあ奴らしいと言えばらしいな)

 

 虎尾の声と子ども達のはしゃいでいる声が玄関にも届く。

 虎尾の体格はゴリラ顔負けの恵体だが、表情豊かでありユーモアに対する理解もある為、子どもウケは悪くないと思われる。その代わり怒らせれば地獄の鬼すら震える説教を受けることになるが。

 

「さあお前達!今日はボーダーからここにお客がやって来る!しみったれた面の根暗野郎だが、お前達の流儀で死を覚悟する程の大爆笑をさせてやれ!!」

 

(いくら気遣いいらないからってひっでえ言いようだなミシガン(虎尾))

 

 「はーい!」という子ども達の元気な返事を聞きながら、虎尾から自分に対する容赦ない言い様に内心で苦笑する。

 自分を焚き付ける意味合いもあるのだろうが、にしたってあの評価に対して元気に返事ができるあたり、子ども達も彼の影響を色濃く受けているのだろう。

 

「それじゃあここに呼び出すぞ!さあ出て来い!!」

 

 虎尾の声がこちらに向けられたのを聞いて、玄関から声の聞こえる方向を頼りに廊下を歩く。少しすると聞こえる声の声量が大きくなり、おそらく虎尾達がいるであろう場所が見えた。

 

(さて、まあ取り敢えず頑張ってみるか)

 

 改めて意を決して部屋の中に飛び込むと同時に手を振りながら笑みを浮かべる。上手く笑えているかは分からないが、とにかく笑えていることを信じてにこやかに話し掛ける。

 

「どもども〜、ボーダーで正隊員をやってる風上和郎だ。今日は色々と世話になるが、まあ退屈させないよう頑張るから。そのつもりでよろしくな〜」

 

「貴様ァ!あまりに腑抜けた挨拶過ぎるだろう!!怖がらせろとは言わんがもう少し防衛隊員として相応しい姿勢を見せんか!!」

 

「え〜だって変に勘違いされても嫌だし…なんならアンタがいるなら俺いらなくないか?」

 

「いるからここに呼んだんだろうドバカモン!ここにいる子どもの方が余程聞き分けが良いぞ貴様ァ!!!」

 

 風上の中で可能な限り子どもウケがよく見えるような柔らかい挨拶をすると、虎尾から鋭いツッコミが入る。その一連の流れを見た子ども達からは賑やかな笑い声で溢れた。

 

(俺を使ってちびっ子達の緊張感を和らげると同時に遠回しに褒めまでしてやるか。随分入れ込んでるんだな)

 

 虎尾と言葉のキャッチボールをしながら横目でちらりと子ども達を見る。風上が入って来た時に少し感じられた緊張感や警戒するような目付きはなく、純粋に心の底から笑っているように見えた。

 虎尾とやった漫才もそうだが、その過程で虎尾がしれっと子ども達を褒めたのも大きい。彼が受け入れられているのも、こういったバランス感覚があってこそなのだろう。

 

(あと俺に対するサプライズってのも─そ(・)う(・)い(・)う(・)こ(・)と(・)か(・))

 

 そして虎尾が自分をここに連れて来た理由も分かった。

 それは風上のいる位置からは反対の場所、一番遠い場所で周囲の子ども達と話している三人の少年達にあった。

 ここにいる子ども達は年齢が少しバラついているように見えるが、おおよそ小学生程の者達が中心にいるようだ。

 しかしその最後尾の少年達は他の者よりやや歳上─中学生程で風上とほぼ同年代のように見える。その証拠であるかのように、その少年達は周囲の子ども達相手に構うように面倒を見ているように思える。

 

 そして彼ら三人の目線は─風上と同じように、こちらを見ていた。

 

(ま、話すのは後だな。まずはこっちのちびっ子達の相手をしないとミシガン(虎尾)にドヤされる)

 

 とは言え、まずはここに来た本懐をやり遂げなければ話にならない。好奇心に溢れた瞳で話しかけて来る子ども達に、風上は虎尾と共に対応して行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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(…ひょっとしたらとは思っていたが、本当にいるとはね…)

 

 最後尾にいた少年の一人は内心でここにやって来たボーダー隊員について考える。

 一目見た時点でもしやとは思っていたが、こちらを見つけた時の目付きで確信した。やはり彼(・)だと。

 

『どうしましょう?合わせず知らないフリで行きますか?』

 

(…いや、あの感じからして彼も私のことは気付いているだろう。虎尾さんが連れて来たということからこちらに対して害を与えることはないハズだ。彼の性格からしても、この場所をどうこうしてやろうとは思わないだろうしね)

 

 頭(・)の(・)中(・)で(・)問(・)い(・)掛(・)け(・)て(・)来(・)た(・)少女の声と会話をしつつ、少年は注意深く他の子ども達と遊ぶ風上を観察する。子ども達をイジメたりするわけでもなく、普通にコミュニケーションを取っているようだ。

 

(多分どこかで話すタイミングがある。そこで色々聞くとしよう)

 

『分かりました』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「は〜疲れた。子どもとは言え元気だなぁ。やっぱ好奇心ってのは何物にも代えられない原動力ってことか」

 

 施設の縁側で休憩する風上は1日中丸々遊んで話通し、額の汗を拭いつつしみじみと呟く。

 施(・)設(・)の(・)事(・)情(・)からして色々と捻くれているかとも思ったが、想像以上に皆素直で元気だった。風上自身は積極的に騒ぎ散らすタイプではないが話すのは嫌いではない為、子ども達と話すのも意外と楽しかった。

 

「あるいはミシガンが面倒を見てるからか…それとも、お(・)前(・)が(・)い(・)る(・)か(・)ら(・)か(・)?」

 

 部屋を一室分跨いだ位置からずっといるであろう気配に対して、風上は声を掛ける。すると部屋の中から一人の少年がため息を吐きながら現れた。

 

「…買い被り過ぎだ。それからもう少し自分を包み隠す努力はしていないのかい?風上さん?」

 

「ボーダーではちゃんとしてるし、この世界の常識も頭に入ってる。問題ない」

 

 話し掛けて来た少年に対してフランクな言葉を返しつつ、風上は目を細めて少年に─か(・)つ(・)て(・)の(・)知(・)り(・)合(・)い(・)に対してその名を呼ぶ。

 

「それより、折角の水入らずの環境なんだ。色々話そうぜ─ラ(・)ス(・)テ(・)ィ(・)」

 

「…本当に、君は何も変わってないんだな。フ(・)ロ(・)イ(・)ト(・)」

 

 風上のかつての名を呼び、心底呆れたように少年は言葉を返す。

 彼もまた、風上や虎尾と同じ─何ならフロイト(風上)やオキーフ(日向野)と同じ部隊に所属し新進気鋭のエースとして名を馳せていた。

 

 

 

 

 

“元V.IV(ヴェスパー・フォー)・ラスティ”

“狼谷李狗(かみやりく)(14)”

 

「なんだ。死んでちょっとでもマシになってると思ったか?」

 

「心機一転とは言わないが、少しは懲りていると思ったよ」

 

「そりゃ悪かったな。戦う以上死ぬ可能性ぐらいちゃんと考えてる。“ウォルターの猟犬”とやるなら尚更な」

 

 解放戦線のスパイとしてヴェスパーに潜り込んでいたラスティ─狼谷は、ルビコンではレイヴンに次ぐほどの獅子奮迅の活躍を見せた。その覚悟も並大抵のものではなく、ルビコンの夜明けの為ならば同胞殺しすら厭わなかった。

 ヴェスパー内でも新進気鋭のエースとしてフロイトに次ぐ重要戦力として重用されていた。

 だがヴェスパーも一枚岩ではなく突如系列企業の人材公募プログラムより見つけられ、そのまま第四隊長にまで上り詰めるほどの人材が在野に転がっていたという事実に怪しさを感じていた為、使えるだけ使い潰し、いざとなれば切り捨てるつもりでいた。

 そしてラスティは集積コーラル到達寸前に独立傭兵レイヴンと衝突し、そのまま離脱している。その後の動向は風上はぼんやりとしか知らないが、やはり自分がレイヴンに墜とされたことは知っていたらしい。

 

「というかそう言うお前も、こっちにいるってことは十中八九やられたんだろう?誰にやられた?…まああの状況で口枷を外したお前を墜とす奴なんざ知れてるが」

 

 風上は狼谷がこちらに来た要因を問い掛けるが、死んだことで来たならその相手は想像がついている。

 自分が墜とされた後で残っている駒はそう多くない。構図としてはルビコンを燃やそうとするレイヴンを筆頭とした観測者達をアーキバスが迎え撃ち、死に体の状態で抵抗を続ける解放戦線を相棒である第二隊長が部下を率いて封鎖機構から鹵獲した特務機体の改修版で殲滅する。

 そしてレイヴン相手にぶつけた自分が敗北した以上、アーキバスが取れる手は要撃艦隊による迎撃のみ。だがあのレイヴンが艦隊を差し向けた程度で墜とせるとは思えない。もし墜とせるとするなら特務機体に乗り込んだ第二隊長だが、そちらは地上で解放戦線を迎撃している為戦うことは不可能。

 となると残る可能性は─離脱したラスティによる迎撃のみ。

 

「…ああ、全てを懸けて迎え撃ったが…私では、レイヴンより高く飛ぶことはできなかった」

 

「やっぱりか。まあ納得ではあるな」

 

 狼谷がレイヴンに撃破されたと聞いても、風上は特に驚かなかった。ヴェスパーにいた時から彼の実力は高く評価しており、何かを隠していたことも何となく察してはいた(話すと面倒になりそうだから話さなかったが)。

 だから裏切ったことに対しても驚きはないし、それを咎めるつもりもない。

 

「しかし意外だね。君がわざわざこんなことをするとは。子ども相手にちゃんと気が遣えるとは思わなかったよ」

 

「おいおい、酷いな。確かに来なくて良いなら間違いなく来なかったが、これは仕事でもあるからな。子どもと話すのだって嫌いじゃない。一々細かいことをグチグチ言ってくることもないからな。その辺は、ミシガンの躾がデカいのかもだが」

 

 狼谷は風上の隣に腰掛けると、彼が来た時から思っていたことを話す。しかしそのあまりに自分を傲岸不遜に思っている発言に、風上は思わず否定した。

 …風上本人は自覚していないが、彼はこの世界で過ごしていく内に他人に対して少し寛容になった。故に前の世界の“フロイト”しか知らない狼谷と認識にズレがあるのは当然だった。

 

「ああ、彼は時間の短長はあれど、毎日必ず顔を見せるようにしている。この施設の責任者も、彼のようだしね」

 

「へぇーそうなのか。ボーダーの方で食堂もやってるのによくやるなぁ」

 

「…前の世界でも、敵に対して容赦はしないが味方の安全に対しては特に気を配る指揮官だった。ある意味、今の立場が天職なのかもしれないな」

 

「お前としてはどうなんだ?共闘する機会はあったが敵だったろ」

 

 今は虎尾が保護者としての立ち位置にいるが、ルビコンでは相容れない敵同士だった。

 ミシガン(虎尾)率いるレッドガン部隊に殺されたルビコニアンも少なくない。焚き付けたのは独立傭兵だが、それでも企業勢力による侵略のせいでルビコンが地獄の様相となったのは事実だ。内心恨んでいたとしてもおかしくはない。

 

「……別に、今更前の遺恨を持ち出すつもりはない。レッドガンもアーキバスも所詮は企業の駒だ。彼に死んで行った仲間達の恨みをぶつけても虚しくなるだけだろう。それに彼も自分の命諸共部隊をレイヴンに壊滅させられている。ある意味ツケはもう払っているさ」

 

 しかし狼谷は今は気にしていないと答える。

 本当に何もかも割り切っているかと言えるかは微妙だが、少なくとも虎尾に対して復讐や報復を企てていないのは確かなようだ。

 

「なるほど。まあ世界そのものが違うしな。生きてるだけ儲けものと思って過ごすのが楽か」

 

「…君は先の侵攻で…」

 

 風上が何気なく呟いた一言に、狼谷が少し声色を変えて何かを言いたがった。

 この施設に入っているのは年齢の上下はあれど子どもだけだ。

 何故か?それはこの施設が─先の大規模侵攻で身寄りのなくなった子どもの保護施設だからである。

 そして狼谷もここにいる以上、少なくとも大規模侵攻によって頼れる人間はいないのだろう。

 本当に家族が殺されたのか、風上はそれを聞いていない。話したくないことだろうし聞いたところで自分に何が言える、分かることもないと思ったからだ。

 質問の意図を何となく察しつつも、風上は特に何でもないことのように答える。

 

「ああ、家は壊されたが空けてたからな。家族は誰も死ななかった。運が良かったな」

 

「…にも関わらず、ボーダーに入ったのか」

 

「当然。俺にとって一番やりたいことができる場所だからな」

 

「……本当に、前と何も変わってないな。君は」

 

 風上が呟き、狼谷は複雑そうな表情で風上を見詰める。その表情を横目で流しつつ、風上は狼谷に話す。

 

「まあ、お前としちゃ色々思うことはあるんだろうが、悪いがこれが『俺』なんでな。この在り方を変える気はないし、これからも一生変わらない。それに今のボーダーでトップに立ってるのも、俺と同類の奴だしな」

 

「…別に、君のことを否定したいわけじゃないし、その強さを低く見るつもりもない。そう言う人間がいることも分かっている。─ただ、私としては苦手なだけだ」

 

「はっはっは、悲しいこと言ってくれるなぁ。俺はお前のこと嫌いじゃないのに」

 

「君の場合戦う相手として見た場合の話だろう」

 

「そんなことないさ。さっきも言ったが喋るのも好きだぜ?」

 

 風上がマイペースに狼谷に話し掛け、狼谷がうんざりしたような表情で言葉を返す。ヴェスパーにいた時からわりと二人の仲はこんなものだった。

 そしてしばらく話した後、風上は気になっていたことを狼谷に問い掛けた。

 

「それで?お前ボーダーには入るのか?」

 

「…何故そんなことを?」

 

「お前が近界民に対してどう思っているかは知らないが、少なくともできることがあるのに蚊帳の外で黙ってられるような人間じゃないだろう。それに─何か“持ってる”だろ?お前」

 

「!!」

 

 風上からの最後の問い掛けに、狼谷は目を見開いて驚く。彼(・)女(・)のことは、今まで自分から話すこと以外で悟られたことは無かったから。

 

「…どういう意味だ?」

 

「いや、なんとなくだがお前の雰囲気が妙に感じた。レイヴンと戦って変わったのかとも思ったが、そういうわけでも無さそうだったしな。ただほんの少し、別(・)の(・)誰(・)か(・)の(・)気(・)配(・)があるように思った」

 

 狼谷は風上の直感の鋭さに驚愕し、冷や汗を流した。前から戦闘における勘の鋭さはズバ抜けていたが、まさかここまで探り当てて来るとは思わなかった。

 

「…全く、敵わないな。君の直感なら、私がスパイだと言うことも気付いてたんじゃないか?」

 

「まあなんかあるなーとは思ってたが、証拠は無かったしな。スネイルの奴も途中からなんとなく勘付いてたみたいだが、上手く泳がせて利用する気満々だったしな」

 

「…なるほど、奴の考えそうなことだ」

 

「俺としては、楽しみがお前やレイヴンに取られて不完全燃焼だったけどな。集積コーラルにいたっていう防衛兵器なんか相当楽しめそうだったのに…」

 

「その文句はスネイルに言ってくれ」

 

「レイヴンと戦うまでに10回は言った」

 

「……そうか」

 

 自分はこの数分話すだけでかなり疲れたが、日常的にフロイト(風上)からの小言を含めた会話をしているスネイルには敵ながら僅かに同情した。

 所業を許したり人間として尊敬するつもりは毛頭ないが、フロイト(風上)からの小言や事務仕事などの丸投げされた業務の処理、第二隊長としての元々の仕事、ヴェスパーの全体指揮、本社と現場の折衷…やるべき仕事が多過ぎてそりゃあストレスも溜まるだろうと納得はした。

 

「で、ボーダー入るのか?」

 

「当然だ。君の言う通り、ここまでやられていながら蚊帳の外でいられる程私は大人しくない。─二度と、同じような悲劇は起こさせない」

 

 改めて風上からの問い掛けに、狼谷は決意を感じさせる目付きで答える。

 ルビコンのように理不尽な侵略に晒され多くの悲劇を生んだこの街で何もせず見ているだけなど、絶望的な窮地に立たされてもなお未来を拓く為戦い続けたラスティ(狼谷)にできるはずがない。

 狼谷の表情を見た風上は(これは期待できそうだ)と、薄く笑みを浮かべた。

 

「そうか。じゃあ上がってくるのを待ってるぞ。─で、あ(・)の(・)二(・)人(・)も来るのか?」

 

「どうだろうね。ただ私と同じように─大人しくしている姿は想像できないな」

 

 また一つ楽しみが増えた風上は、狼谷と共にいた二人の少年の姿を思い出す。彼らが入隊する、できるかは未知数だが─狼谷の言う通り、大人しくできそうには思えない。少し聞いてみるかと、風上が腰を上げると─

 

 

 

 

 

「元ヴェスパー同士の水入らずの時間は楽しめたか!?ならばこちらの話も聞いてもらおうか!!!」

 

「! ミシガン」

 

 ─これまでの静寂を消し飛ばす大声が二人に掛けられる。

 二人が振り返るとそこには腕を組んだ虎尾が立っていた。

 

「そ(・)の(・)二(・)人(・)の紹介か?」

 

「ああ!そうだ!貴様としても顔合わせの時から気になっていただろう!!」

 

 風上が問い掛け、虎尾が答えると、後ろから二人の少年が出て来た。

 

「ケッ、元敵だろうにわざわざ紹介するもクソもねぇだろうがよ…」

 

「まあ今は味方同然だし良いじゃねえか。元V.Ⅰ(ヴェスパー・ワン)がこんな奴とは思わなかったが」

 

 片や悪態をつく目付きの悪い少年、片やガタイの良い刈り上げの少年だった。

 

「ガタガタ抜かすな!この戦闘狂ですら『世間向けの顔』という芸を覚えたのだぞ!?貴様らにはこのバカ以下の脳味噌しか持ち合わせてないのか!?」

 

「おいラスティ、俺ってそんなバカなのか?」

 

「バカであるかはともかく、常識知らずではあると思うよ」

 

 風上と狼谷が独特なテンポで会話をする前で虎尾が叱責すると、目付きの悪い方は鬱陶しそうにため息を吐き、刈り上げの方はやれやれと頭を被って風上に向き合う。

 

「…大水一輝(おおみかずき)だ」

 

「巨銀剛樹(こがねごうき)。よろしくな、元V.Ⅰ(ヴェスパー・ワン)」

 

「おう、よろしくな。─元レッドガンの名コンビ」

 

 

 

 

 

“元レッドガンG.5(ガンズ・ファイブ)・イグアス”

“大水一輝(14)”

 

“元レッドガンG.4(ガンズ・フォー)・ヴォルタ”

“巨銀剛樹(14)”

 

 ぶっきらぼうながらも挨拶をして来た大水と巨銀に、風上は前の場所の印象で挨拶を返す。

 この二人に関しては風上も覚えがある。二人共ルビコンの傭兵ランクの格付けにおいて確かな実力が保証されていたというのもあるが、何よりそのコンビネーションが有名だった。

 レッドガン自体、個の実力より部隊間での連係による数の力を重視していたというのもあるが、その中でも二人の連係力は突出していた。

 

 イグアスの機体は、射撃武装を中心にシールドを装備した防御寄りの中距離機体。

 ヴォルタの機体は、高火力の武装を中心に重装甲の構成で固めた重機体。

 二人共方向性は違うが無難にまとめられた機体であり、レッドガンらしい物量で相手を圧倒する構成である。が、当然弱点がないわけではない。

 イグアスはバランス型の機体であり堅実に相手を削ることができるが、フロイトやラスティのようにブレードを装備していない為、瞬発火力に劣っている。故にジリ貧になりやすく同格以上の相手だと火力不足になりやすい。

 ヴォルタは火力と防御に優れているが、その分速力が劣悪であり、武装も単発火力に優れたものが中心である為、ラスティのようにスピードと回避力に優れた相手だと回避しつつ引き撃ちされるだけで何もできずに削り殺される可能性もある。

 格付けにおいても中位帯で落ち着いており、弱くはないが一対一でやり合う場合だとフロイトやラスティならば特に苦戦しない相手だろう。

 

 だが、これが二人で組んで戦うとなると一気に話は変わる。

 イグアスの火力不足がヴォルタによって補われ、ヴォルタの鈍足と手数不足がイグアスによって補われる。

 コンビで戦う際の戦力が単純な足し算のそれではなく、格上のランカーだろうと立ち回りを間違えると何もできずに圧殺されるおそれもある。それほどまでに抜群のコンビネーションを見せる二人だった。

 フロイト(風上)としても興味が惹かれる相手だったが、ベイラムの杜撰な采配により序盤でヴォルタが脱落、そのコンビネーションも見られずじまいとなってしまった。

 

「んで、話ってなんだ?悪いが子守りは無理だぞ?」

 

「あァ!?誰がガキだバトル馬鹿!!」

 

「落ち着け」

 

 風上が冗談めいて言うと真に受けた大水がキレて噛み付くが巨銀が諌める。虎尾はそれに構うことなく話を続ける。

 

「この二人もボーダーに入りたいそうでな!良かったら色々と教えてやってくれ!」

 

「! ほう?」

 

「フザけんな!!こんなバトル馬鹿に頼る必要なんてねェ!!つうか教えるの無理だろ!!!」

 

「ああ、それは確かに」

 

「おいラスティ??」

 

 大水からの風上に対する罵倒にしれっと賛同する狼谷に風上はツッコむ。性格的に当然なのかもしれないが、さっきから何気に狼谷の接し方が冷たい。組織絡みのアレコレが無くなったから気が楽になったのだろうか。

 

「先行きは良さそうだな!精々仲良くしろよ貴様ら!!」

 

「目ェ腐ってんのかクソ親父!!!」

 

「キレるのは良いがボリューム落とせイグアス。ちび共が起きる」

 

 そろそろ血管が千切れ飛びそうな大水を巨銀が諌め続け、狼谷が少しおかしそうに笑う。

 大水も怒ってはいるが戦場で抱くような本気の怒りではなく、気心が知れているが故の甘えのようなものが垣間見えた気がした。

 そしてしばらく他愛もない話をした後、太陽もほとんど沈んで良い時間になっていたので、そろそろお開きとなった。

 

「んじゃあ、今日は世話になったな。次はボーダーで会おうぜ」

 

「まあ、いずれ会うようになるだろうね」

 

「入隊したらよろしくな」

 

「ケッ…」

 

 大水だけは唯一舌打ちによる見送りだったが、風上は特に気にしていない。むしろ彼のように負けん気の強い狂犬は大好物なので、ぜひとも頑張って欲しいと思っている。

 帰り道、風上は虎尾に改めて例を言った。

 

「いやー想像以上に良いサプライズだったぜ虎尾サン。ちびっ子達も想像以上に素直だったしな。アンタが育ててるからか?」

 

「ふん、俺は手を貸しただけで前を向くことを決めたのはアイツら自身だ。流石にレッドガンの流儀はこの世界では通用しないからな」

 

 虎尾は冗談めいて言うが、確かにその通りだろう。レッドガン式ブートキャンプをそのまま施設に適応すれば狼谷大水巨銀以外は逃げ出してしまう。

 特にあの施設にいる子ども達は身寄りがおらず、前は向けていても心に負った傷は決して癒えない。ふとしたタイミングで古傷が痛んだり、下手をすれば開くこともある。

 だからこそ恐る恐る扱うのではなく、傷が気にならない、目を向けなくても良いように接した虎尾のバランス感覚はベストと言える。いずれ自分なりに向き合わなければならない日も来るだろうが、それをするには彼らはあまりに幼過ぎる。

 実際本当の戦場を経験しているあの三人の中にも、向(・)き(・)合(・)い(・)切(・)れ(・)な(・)い(・)傷(・)を(・)負(・)っ(・)た(・)者(・)が(・)い(・)る(・)の(・)だ(・)か(・)ら(・)。

 

「大水の奴は大丈夫か?割り切ってるように見えて結構張り詰めてるだろアイツ」

 

「多少の無理はしているようだが、巨銀と狼谷がフォローしている。自暴自棄になることはないだろう」

 

 そう、大水からは他二人程の余裕が感じられなかった。前の世界では早々に相棒が死んで気に入らなかったレイヴンが大立ち回りをしたりと、彼にとっては荒むような出来事があまりにも多かったのもあるが、おそらくこの世界でも何かしらの大きな喪失を経験している。それが先の大規模侵攻によるものかは分からないが。

 

「ま、叩き台としてならいくらでも相手してやるって伝えといてくれ」

 

「貴様そういう部分で狼谷に嫌煙されてるんじゃないのか?」

 

 楽しみは増えたが結局性格は何一つ変わらない風上の姿に、ほんの少しでも丸くなることを期待していた虎尾はため息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…今日は疲れたな」

 

 風上を見送った狼谷は、自室で一日を振り返っていた。初めて虎尾達と会った時も驚いたが、まさか同僚と会うことになるとは思わなかった。

 

『あれが元V.Ⅰ(ヴェスパー・ワン)ですか…情報通りの変わった人でしたね』

 

(あれでも丸くなったよ。一輝や剛樹を相手にああもちゃんと応対するとは思わなかった)

 

 フロイトを知る狼谷としてはあそこまで丸くなっているのは意外だった。

 自分がそうだったようにこの世界で過ごした記憶もあるのが大きいのだろうが、戦うこと以外に興味が無さそうだった彼が子ども達ともちゃんと遊べていたのは一瞬夢を見ているのかと思った。

 

『私の存在にも気付いていましたが…ボーダー内には他にも気付ける者がいるのでしょうか?』

 

(どうだろうな。あれは彼だから気付けたような気もするが…取り敢えずボーダーに入隊すれば何か分かるのは確かだ。あの二人もその気のようだし、まずは入隊して正隊員を目指す)

 

 狼谷はそこで彼女に助力を頼んだ。この世界では生まれた時から一緒で、今では残った唯一の家族に。

 

 

 

 

 

(手を貸してくれ─エア)

 

『もちろんです。できうる限りサポートします─ラスティ(李狗)』

 

 二度目の生を受けた孤高の狼と、誰にも知られるはずのなかった姿なき少女は異界の地で戦場に足を運ぶ。




はい、今回はここまで。キャラらしさを出すのが難しい。


・風上和郎(V.Ⅰ)
慣れてない慰問で疲れた。けどお喋りも嫌いじゃない。ラスティとは普通に友達ぐらいだと思ってる。同年代の友達ができて嬉しい。

・根付栄蔵(メディア対策室長)
いっつもリアクション役させられてるような気がする不憫な人。中々見せ場を作りづらい役回りだけどもう一回ぐらい活躍してる場面が見たい。

・虎尾剛(G.1)
面倒見の鬼。ボーダー食堂と園の責任者兼任してる。レッドガン式ブートキャンプ(レッドガン比優しさ2000倍マシ)をボーダー園の子ども達に施したことでボーダー園のフィジカルとテンションが2倍マシになった。流石に役立たず呼ばわりは封印中。

・狼谷李狗(V.Ⅳ)
脳内彼女と同棲中。前の世界では621に敗北。周囲の状況や人間に対して色々思うことはあるけどまずはボーダー入隊を目指す。風上君は苦手。

・大水一輝(G.5)
狂犬わんわん。何にでも噛み付く性格は変わらず。施設に一緒にいる他二人とは色々状況が違う…?

・巨銀剛樹(G.4)
死んだのが色んな意味で惜しい人。死んだのが序盤過ぎてメンタル的には一番フラット。相棒が結構ヤバそうだからそれとなくフォローしてる。

・エアちゃん
何故かこっちにいてラスティと一緒。なんでいるんだろうね?一応三人と一緒にこれから深掘りして行きますが通ったルートは火ルートとだけ言っておきます。


こんなもんかな。キャラが増え過ぎてちゃんと扱えるか不安ですが蔑ろにならないよう頑張ります()
企業<「私は??????????」
企業さんはもう少々お待ちください。

評価、感想もよろしければお願いします。

それでは次回をお楽しみに。

ワートリ世界に転生したAC6のこのキャラが見たい!※投票が多かったからって出すとは限らないよ!けどこの内の何人かは出すよ!

  • こすずん
  • 企業!!!!!!!!!!(クソデカ大声)
  • カーラ姐さん
  • チャティ
  • レッド君
  • 詐欺師
  • ホーキンスさん
  • ケツデカヴェスパー
  • おあー!?
  • ペイター君
  • オールどんまい
  • ご友人♡
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