“V.Ⅰ(ヴェスパー・ワン)”、ワートリ世界に転生する。 作:サクラン
果たして戦闘狂は本部最強の虎にどこまで食い下がれるのか…!?
それではお楽しみ下さい。
─忍田と風上がブースに入る1時間と少し前─
「─いきなりどうした風上。特にアポイントは無かったハズだが…」
「いや、ちょっと話したいことがあったもんで」
執務室に当然のようにアポなしで突貫して来た風上の姿に、忍田は困惑していた。彼としても先日防衛任務で三輪と揉めた風上を叱ったのは記憶に新しいが、この調子でやって来たということは特に堪えたわけでは無さそうだ。
その自由奔放過ぎる在り方は一見すると格好良く見えるが、組織人としては落第も良いところだ。忍田は眉間に皺を作りながらため息を吐き、そのことを忠告する。
「…風上、目上の人間と話をする時はちゃんとアポイントを取れ。どうしても用があるならせめて一言確認を取ってからにしろ。私にも自分の仕事がある。用件も言わずに来てしまっては時間を無為に使ってしまうだろう」
「なるほど、そういうこともあるのか。了解した」
分かっているのかいないのか、以前叱った時と全く同じ返答をしたのを見て忍田は更に皺を深くするが、これ以上言っても仕方ないと、本題に移ることにした。
「それで?私に話とはなんだ?」
「あ〜まあ今の話も多少関わって来るんだが…この間三輪と俺が揉めたこと、あったろ?」
「…もちろん私も覚えているが、それがどうかしたのか?」
「いや〜あれから色々と考えてみたんだが─やっぱり納得が行かなくてな」
風上は僅かに語気を強め、不躾な視線を忍田に向ける。それはとても自らの上司に向けるものではなかった。
その視線を受けた忍田も僅かに声色を落として風上に言葉を返す。
「…納得が行かないとはどういうことだ?」
「そのまんまさ。先に余計なこと言ってきたのは三輪の方だったし、俺は別に規則を破ったわけじゃない。アイツは俺の上司ってわけでもないのに俺まで叱りを受けたことに納得が行かない」
風上は傲慢な─しかしある程度の理屈が通った意見を言い放つ。
確かに風上はギリギリに来ただけで、防衛任務の時間に遅れて来たわけではない。ボーダーの規則でも具体的に『10分前には来ること』などと言った規則があるわけでもなく、二人の間に立場としての差があるわけでもない。
“自分が叱られるような行動をした覚えがない”というのが、風上の言い分なのだろう。だが当然忍田としてはそんな理屈を通すわけにも行かない。
「…確かにお前は、ボーダーの規則を目に見える形で破ったわけではない。だが防衛任務というのはこの街を近界民から守る上で必要不可欠な任務だ。それを行う上で時間に対していい加減な意識で行動するお前の行動は組織人として非適格なものだと判断した。三輪が看過できなかったのもその辺りのことだと思うぞ」
「そうだとしても後半のアイツの言い分は端的に言えば“なんでお前が”ばっかりだったけどな。俺としては自分の感情に振り回されるような奴の方が危なっかしいと思うが」
忍田の言い分に対して少し同調しつつも風上は揉めた時の会話を想起する。
言い始めの頃はまだ冷静さを保っていたが、段々ヒートアップして行った際には風上に対する嫌悪と僅かな嫉妬心が抑えきれていなかった。
おそらく三輪としても風上のことを下に見ているわけではない。だが、感情の昂りに合わせて心の底で燻っていた『特に何も背負わずヘラヘラしながら戦っているように見える風上が現ボーダーの中でも上から数えた方が早い程度には強いのが気に入らない』という気持ちが溢れてしまったのだろう。
肉親である姉を殺された三輪に対して「怒りを抑えろ」や「冷静になれ」という言葉を掛けるのは中々に酷だというのは風上も分かる。が、それで三輪は大目に見られているのに自分だけ許されないというのは筋が通らない。
「三輪の気持ちを全て理解しろ、とは言わないがある程度は汲んでやるべきだろう。互いに相性が悪いにしても有事の際には共に肩を並べて戦うことになるんだぞ」
「だったら俺の意見もある程度受け入れてもらわないとおかしいだろ。俺は確かに戦いを愉しむ性分だが、手を抜いたり半端な気持ちで戦場に立ったことはない。それがランク戦にしろ防衛任務にしろだ。“癇癪持ちだから大切にしてやれ”って、託児所じゃあるまいし自分自身を制御できないようならそれこそ戦場に出すべきじゃない」
「それはその通りだが、防衛任務の際に明確に三輪が揉めたのはお前だけだ。さっきも言ったがお前は組織人としての意識が甘い。身勝手な振る舞いをすればそのツケはお前だけじゃなく周りの人間にまで及ぶ。戦場では1分1秒すら生死を分けるというのはわかるだろう」
「分かるが、それなら尚更安い奴を戦場に出すなって話だろ。俺の言い方一つで動きが悪くなるならそんな奴隣に─「いい加減にしろ、風上」
風上の言葉を遮り、忍田の低い声が執務室に響く。
「“未熟な者を戦場に立たせるわけには行かない”。それは確かにそうだ。だが…“他者のことを顧みないような身勝手な者を戦場に出すわけにも行かない”」
忍田の鋭い視線が風上に向けられる。
「さっきも言ったが、ボーダーはこの街を守る為の組織だ。普段ランク戦で向き合う者も、近界民を相手にする際には共に戦うことになる。戦う理由は皆違うが、それでもボーダーに入った以上、“この街を守る為に戦う”というのは同じだ。それを理解せず戦うような者に─ボーダー隊員たる資格はない」
その視線共に紡がれた言葉には、とても常人には出せない“圧”があった。それこそ、幾度もの死線を潜り抜けて来た達人のような。この空気に充てられれば、誰しも足が竦み、身体が震えるだろう。まるで死刑宣告を告げられた囚人のように、根本的な恐怖を呼び起こされる声色だった。
その威圧感を直に受けた風上は─内心で笑みを浮かべた。やはり、
「分かった。じゃあ勝負しようぜ」
「何?」
かなり本気で威圧したにも関わらず平然と突然提案をして来た風上に忍田は眉を顰める。
「アンタの言い分は分かった。が、それでも俺としては戦場で着いて来れないような安い奴に気を遣う必要性が分からないし、そんなことをすればそれこそ致命的な隙を晒すと思う。だから─」
風上はそこで一旦言葉を区切り、そして─
「アンタが俺に勝てたら、俺はアンタの命令に従う」
「!!」
─宣戦布告を、忍田に突き付けた。
「…どういうつもりだ?」
「そのまんまさ。アンタが俺に勝てたなら、アンタのことを俺の上司、本当の意味で“本部長”だって認める。言葉遣いだって直すし、俺より安い奴ともちゃんと連係する。何ならランク戦のブースで他の連中が見てる中で土下座して宣言やったって良い」
「…そんな横暴めいた方法じゃなく、お前をからポイントを没収してC級に降格させることもできるが?」
「そんなもんもう一回ポイント稼いで昇格すれば良いし、何より“アンタを認める理由”にはならない。俺に言う事聞かせたいなら、さっき言った通り─俺に勝てば良いだけだ」
風上からの提案に、忍田は少し考える。
組織としては、こんな蛮族めいた方法で隊員を諌めるというのはあまり褒められたことではない。
だが先程風上自身が言った通り、単に降格させただけでは風上の態度を矯正させることはできないし、『自分が勝てば土下座でもしてやる』という言葉から嘘やハッタリの気配は感じられなかった。自分と戦うという事実に対しても、恐れや緊張は感じず、さも当然と言わんばかりの声色だった。
「…風上、自分の言っていることの意味が分かっているのか?」
「当然だ。言ったことをすぐ忘れるような鳥頭じゃない。アンタが勝ったらさっき言ったこと全部やってやるよ」
「慶とよく戦う仲なら、
忍田は遠回しに“自分に勝つつもりでいるのか?”と風上に問う。
忍田は太刀川に剣を教えた師匠である。太刀川が訓練生であった頃は剣術の指導を中心に受けていたそうだが正隊員に昇格してからはサブトリガーも含めた本格的な実戦訓練を行なっている。
しかし太刀川曰く「基本取れて1本。この間初めて2本取れた」という有様な為、今の太刀川にさえ勝ち越せていない風上では10本勝負でも1本すら取れるか怪しい。
つまり忍田の視点からすればこの勝負は『風上の負けが確定している勝負』であり、本人の方から言い出したこととは言え若者を晒し者にするような真似はあまりしたくない。
「愚問だな」
「!」
そう忍田が考えていると、何の不安も抱いてなさそうな淡泊な言葉を風上は言い放った。
「俺は今まで色んな勝負をして来たが…安い奴が相手だろうが、どれだけ重い奴だろうが─負け前提で戦ったことは一度もない」
「!」
そう、忍田の懸念など“
風上にとってのこの場の目的は『忍田と戦うこと』でしかないが、だからと言って負けるつもりはない。太刀川すら越えている以上現ボーダーにおいては間違いなく“最強”の称号を持つに相応しい男。それを相手に今の自分はどれだけ迫れるか、どう勝利を手繰り寄せるか。これからする戦いはそういうものである。
例え敗北しようとも何とも思わないが、やる以上は徹底的にやる。それが風上のスタンスである。
「さあ、答えを聞こうか。まあアンタが首を縦に振るまで譲る気もないが」
もう半ば開き直りながら風上は忍田の返答を待つ。忍田は数秒間風上と視線を交わし、それでも風上が一切態度を変えないのを見ると─
「…分かった。その条件を呑もう」
─何度目かのため息を吐きながら、渋々と言った様子で風上の勝負を受けた。
「よし、決まりだな。じゃあ早速ブースへ行こうか」
「待て、お前が勝った時と負けた時のシチュエーションを一応決めておくぞ。他者が見ていると言うのなら、不自然さを出すわけには行かない」
最早飛び跳ねそうな様子の風上を諌め、忍田は要項をまとめていく。今回は単なる稽古をつけるわけではなく、『おいたが過ぎた隊員の矯正』という極めて異例な状況だ。風上本人は「負けたら土下座でもする」とは言っていたが、本当にしてしまっては色々と他の隊員にとっては衝撃となるのは間違いない。
勝負に移るまでと、結果が決まった後の流れを風上と話し合ってまとめると、互いにそれで良いか確認し、明らかに上機嫌な風上を諌めながら、忍田は共にブースへと向かった。
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そして30分後、忍田と風上が個人ランク戦のブースに足を踏み入れる。風上はともかくまず普段は姿を見せない忍田の─それもトリオン体であるロングコートの姿に、その場にいる隊員達の間にざわめきが広がって行く。
そうして室内の中央部に到着すると、先を歩いていた風上が振り返り、忍田に対して言葉を掛ける。
「さあ
「ああ、私が剣を振るうだけでお前が大人しくなるというのなら安いものだ」
「はん、ちょっと偉いからってデカい顔してくれるなぁ。もう歳だろ?あんまり無理すんなよ」
明らかに喧嘩を売っているとしか思えない風上の言動に、周囲の隊員のざわめきが更に大きくなり、冷や汗を流す者も現れ始める。
風上からの生意気な言動を忍田の顔色を変えずに受け止め、言葉を返す。
「安心しろ。少し鍛錬を積んで強くなっただけの半端者に負けるほど、軟な歳の重ね方はしていない」
「単純な足し算で勝てる程、戦いは単純じゃないんだぜオッサン。年を重ねるだけで強くなれるなら誰も苦労しないんだよ」
忍田が少し挑発すると、風上も涼し気な表情で更に忍田を煽って行く。そのただならぬ雰囲気に周囲の隊員の全ての視線が二人に集まる。
「御託はここまでで良いだろう。貴様のボーダー隊員としてあまりに不適格な言動、いい加減目に余る。少し叱らせてもらおう」
「できるもんならな。あんまりデカい口利いてると恥かくことになるぜ?」
「それは貴様にも言えることだろう。『試合の条件は10本勝負、負け越したなら、その言動は改めてもらう』。貴様の言った条件だが…二言は無いな?」
「ああ、最もそんな未来はあり得ないが」
「よし、ならばブースに入れ。あとは剣で話すぞ」
最後まで風上は不敵な笑みと言動を崩さず、個室へと向かって行く。あまりにインパクトの強いエキシビションマッチに周囲の隊員達のこぞって試合風景が映し出される電光掲示板の前に集まる。
「…何やってんだアイツは…」
その中には当然風上の好敵手であり忍田の弟子でありランク戦に入り浸っている太刀川の姿もあった。当然彼も今の一連の流れは見ていたが、その出来過ぎというか、マッチポンプにも思える流れに内心訝しんでいた。
おそらく互いの利害は一致しているのだろうが、忍田はともかく風上側の利があまりに少ない。より正確に言うなら風上側が利を得られる可能性があまりに低い。前々から変わっているとは思っていたが、一体何を考えているのだろうかと太刀川は内心で困惑していたが…
「…ま、あんな表情してるなら嫌々ってことはないだろ。どういうつもりかは知らんがしっかりモノにしろよ」
これ以上は考えても無駄だろうと、互いの健闘を祈って画面に視線を移した。
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─そして現在に至る。仮想市街地に転送された風上は忍田の戦闘体を注視する。
(見た限りは弧月一本…まあ太刀川の師匠なら当然か。ひょっとしたら弾を積んでる可能性もあるが、ほぼ確実に旋空も積んでるだろうしそこまで警戒する必要はないか)
忍田のぱっと見で確認できる武装は弧月一本。太刀川の剣の師である以上それは当然ではあるが、取り敢えず見た目での予想を超えて来ることはなかった。
(チャンバラだと敵わないだろうし、太刀川相手にする時と同じ感じで弾で牽制しつつ隙を突く感じで行くか)
剣術勝負ではまず勝てない以上、射程の有利を活かすのは当然。太刀川を相手にする時と同じように、弾トリガーで足を鈍らせて隙を作り、それを弧月や旋空で突くヒット&アウェイスタイルで立ち回ることを決めた。風上にとっての基本スタイルだが、迅や太刀川相手にも一定の成果が出せており、実力者達の間でも明確に認められている戦い方であり、風上の判断は決して間違いではない。
『個人ランク戦、10本勝負─』
電子音声によるアナウンスが流れ、風上の右手が腰のホルスターに伸びる。銃手トリガーの強みである攻撃までの即応性を活かした先手の強奪であり、隙の少なさもあって風上から先手を奪うのは容易ではない。
ただ、一つ間違いだったのは─
─忍田という男の底を、見誤っていたことだろう。
『─開始』
アナウンスによる開始のゴングが鳴らされると同時に、風上の右手がハンドガンを引き抜き、忍田に向かって弾丸が放たれる。
「!!!」
─前に忍田の口から風上も扱う弧月のオプショントリガーの名が告げられると、風上は全身に走った直感に従い、咄嗟に身体を捻りながらハンドガンの引き金を引く。
「━━━━━━━━━━ッ!!!」
「グッ…!?」
だがその放った弾丸は忍田が振るった拡張ブレードによって斬り落とされた。更に風上もハンドガンを持っていた右腕を斬り飛ばされ、左足も大きく傷を受けた。
あまりに一瞬で起きた出来事に風上は内心で驚愕する。
(旋空の…“三連撃”だと…!?しかもこの一瞬で…!)
そう、忍田がしたのは何も特殊なトリガーによる初見殺しなどではなく、弟子である太刀川や風上自身も扱う“旋空”による斬撃である。だが単純な“旋空”による斬撃だけなら風上にも反応できるし、何より驚くこともない。
風上が驚愕したのはその“速さ”。
忍田の放った“旋空”は風上がハンドガンを抜いて引き金を引くと同時に放たれたが、その斬撃は単発ではなく三発ほぼ同時、それも太刀川と比較しても数段鋭かった。太刀川と戦い慣れて“旋空”の挙動もよく見ている風上から見ても驚愕する程度には。
「くっ…!」
そして明確な隙を見せた相手を黙って見ているだけで終わるわけもない。弧月を振るう忍田の姿を見て風上も弧月を用いて防御、回避しようとするが─
「━━━━━ッ!!」
─初撃すら凌ぎ切れなかった攻撃を負傷状態で防げるハズもなく、風上のトリオン体は敢え無く両断され致命傷を負った。
『戦闘体活動限界、
そして風上は光の柱となって消え失せ、独特の浮遊感と共に個室のベッドに投げ出された。
「…驚いたな」
ベッドから起き上がった風上は端的に感想を漏らす。
決して舐めていたわけではない。自身が勝ち越せていない太刀川の師匠であり“ボーダー本部においてノーマルトリガー最強”の称号は確かなものだと思っていたし、その立ち振る舞いから感じられる威圧感も相当な強者だと分かっていた。
だが忍田はそんな想定すら飛び越えた上で叩き斬って来た。風上は何も自身が最強などとは考えていなかったが、ボーダー内において間違いなく上位に入る実力は身に着けているという自負があったにも関わらず、そんなもの知ったことかと言わんばかりに技量の差を見せつけられた。
圧倒的な技量差を見せつけられた風上は─
「良いなぁ…!期待はしてたが想像以上だ…!10本と言わず50本ぐらいやりたいが…もっと楽しませてもらうぞ…!!」
─最高に楽しそうな笑みを浮かべ、更に闘志を燃え上がらせる。
忍田が自身の勝ち前提で話をしていた時は(随分大した自信だな)と思っていたが、その自信に見合う実力をしっかりと持っている。身の程知らずは自分の方だったと認識を改め直さなければならない。
(まずは“旋空”のタネと軌道を見抜かなきゃな。タネが分かったところでどうしようもない可能性が高いが、同じトリガーを使ってる以上理論上俺にもできるハズなんだ。『忍田が特別だから』で思考を止めるわけには行かない)
今の時点では勝とうと思っても漠然と戦うだけじゃ一本目と同じような結果になるだけだろう。まずはあの理由が分からない“旋空”の理屈を見抜かなければ話にならない。見た限り理屈を見抜けば勝てるというものでもないがそれでもそこを見抜けば自分の力にできる可能性もある。レベル差があり過ぎることは承知の上だが、それでもトリオン体の腕力は一律である以上自分にだってできるハズなのだ。
(“旋空”の仕様は同じなわけだからアレを防ぐには…)
風上は先程の光景を思い出しながら2本目に臨む。忍田は先程と同じように堂々と仁王立ちをしている。
まず阻止するのは無理だろう。腕が増えているわけでもあるまいし同時に見える三連撃も一応一太刀ずつ順番に振っているハズなのだが、今の風上ではどう足掻いても攻撃前に止めるのは無理だ。
『2本目、開始』
「━━━━━━━━━━ッ!!」
アナウンスが告げられると同時に1本目と同じように凄まじい精度の“旋空”が忍田から放たれる。“旋空”としての切断力は当然据え置きである以上防御は不可能であるし、こんな精度の攻撃を躱し切るのも無理だ。
そんな『斬る理不尽』同然の攻撃に対して風上は─
「─“旋空弧月”」
「!」
─迎撃と回避を同時に行うことだった。
忍田から“旋空”による攻撃が来ると同時に風上は後方へ跳躍しつつ身体を逸らし、自分も同じように“旋空”を起動しながら弧月を振り抜いた。すると風上に向かっていた三太刀の内二太刀が風上の“旋空”に弾かれて左肩と右腕を少し傷付けるだけに留まり、残りの一太刀は風上の脇腹をやや深く斬り裂いた。
決して無傷とは行かなかったが、最強の斬撃による洗練から四肢を欠損することなく生き残った。
「“旋空弧月”」
「! 容赦ねぇな!!」
とは言え、躱せたからと言って手心を加えてくれるハズもない。跳躍で後方に下がった風上に対して更に距離を詰めつつ再び“旋空”の連撃を放つ。何とか見切ろうとするが初撃を凌ぐことに全力を注いでいた風上は上手く“旋空”を放てず、弧月で一太刀ギリギリ逸らすのが限界であり、右腕を斬り飛ばされと左脇腹に深い裂傷を受けた。
「━━━━━ッ!!」
「…ッ!!」
距離を詰め切った忍田が弧月を振るい、風上も何とか弧月を使って受け流す。とは言え一太刀の威力が太刀川や迅と比較しても明らかに重く、衝撃を流し切れず風上は体勢を崩してしまう。
「…ッ!!」
そして明確な隙を見せた以上、忍田が見逃すハズもなく風上は胴体を両断され、風上の戦闘体にヒビが入る。
『戦闘体活動限界、
そして機械音声が戦闘の終わりを告げ、風上は光の柱となって消えた。
「んん…凌ぐことはできたがまだまだだな。が、“旋空”のタネは何となく理解できた」
初撃は軽傷で凌げたものの、凌ぐことに全力を注ぎ過ぎてその後が続かなかった。越えるべき壁はあまりに高いが、分かったこともある。忍田の圧倒的に思える“旋空”の連撃にも、当たり前だが対処法があったということだ。
『3本目、開始』
「“旋空弧月”」
「…ッ!!」
とは言え、対処できるようになったからと言って楽に勝てるなら苦労はしない。相変わらず圧倒的な“旋空”の嵐に、風上は必死に喰らいついて行った。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
そうして約10分後、9本目が終了し風上はまたベイルアウト用のベッドに投げ出される。
個室の端末に表示された結果は風上の全敗。もう既に10本勝負の結果は決まっているが、風上としては残り1本をどう戦い抜くかだけを考えていた。
(粘れるようにはなって来たが…後はどうこっちの攻撃を通すかだな)
1戦ごとの戦闘時間は確実に伸びてきているのだが、未だに忍田の“旋空”の猛撃を超えて攻撃を当てたことは一度もない。
忍田の“旋空”の連撃は速さや手数もそうだが何よりこちらを捕捉する正確性が凄まじい。もう少し狙いが雑なら身のこなし、あるいは最低限の弧月での防御だけでも凌げそうなのだが、なまじ凄まじい精度で急所を狙って来るので半ば全力で回避と防御をせざるを得ないのだ。
(あとあの“旋空”真似しようと思ったけどまず無理だな。どうやってんだ
その忍田の“旋空”の理屈については風上なりに理解したし、真似してみようともしたのだが全く感覚が掴めず無為に敗北を重ねてしまったのでこの勝負中に再現しようとするのは諦めた。
(『とんでもない速さで弧月を振った上で
何度も叩き斬られる過程で頭のおかしい忍田の“旋空”を見て来たが、トリオン体がそうであるように風上の扱う“旋空”と性能や仕様も同じなハズだ。
そのことを念頭に置いて忍田の“旋空”の軌道を注視していたが、気になったのは拡張されたブレードの軌道が楕円ではなく直線軌道であることだ。他の隊員の“旋空”は振り始めからオンにしてるので拡張されたブレードの軌道が楕円形に見える。
だが忍田の“旋空”はさながらレーザーでも放っているのではないかと思えるような直線軌道だった。ならば“旋空”の仕様が自分と同じと仮定した場合もう“旋空”の起動タイミングをよりシビアにしているとしか考えられない。
『起動時間を切り詰めて一瞬の間に三回振ってる』とも思ったが、拡張したブレードの重量問題から考えると引き戻す際に明らかに邪魔になることが予想されるのでこちらの可能性は低い。一応縦の射程は凄まじいが横の射程が狭いので左右に動けば躱せる─のだが忍田は圧倒的な狙いの正確性でそれをカバーしている。やはり理屈を見抜いたところでそう簡単に倒せそうにはない。
(とは言え、“旋空”の理屈は一緒だからな。先端外せば即死は免れるし、起動時間切り詰めてるってことは一瞬でもタイミングがズレればドンピシャは無理だ。ただ俺の攻撃をどう通すか…というかどの間合いで立ち回るべきか…)
そして忍田相手にどういう距離で立ち回るべきか未だに分かっていない。普通の攻撃手相手なら“旋空”の間合いを外して弾トリガーの射程を活かして戦うのがセオリーだが、忍田の“旋空”は起動時間を切り詰めているからか他の隊員よりも“旋空”の射程が長い。
しかも“旋空”が速過ぎて射手トリガーの“
(単純なチャンバラでも勝てないだろうが、“旋空”を凌いだら間合い詰めてハンドガンを使える点でどうにかするしかないな。受けに回った時点でほとんど負けだし多少強引でも攻めてテンポを俺の方に持って来るしかない)
とは言え、無いものねだりをしても仕方がない。
トリガーを用いた戦闘経験を初めとして勝敗を決めるほとんどの要素で風上は忍田に劣っている。
もう残り1本。その時間をいかに自分のモノにできるかが勝負どころだ。
(やられっぱなしなのもゴメンだからな。何が何でも、一矢報いさせてもらおう)
改めて気合いを入れ直し、仮想市街地に転送される。忍田は風上を今まで圧倒して来たが、特に油断する様子もなく風上を見据えている。
『10本目、開始』
「“旋空弧月”」
アナウンスと同時に、今まで風上を何度も屠って来た凄まじい精度の拡張斬撃が放たれる。何度見ても頭がおかしい軌道と鋭さだが、この期に及んでもまだ“勝ち”を捨てていない風上は恐れず前へ進む。
「“旋空弧月”」
そして風上は襲い来るブレードに対して“旋空”を起動し、自身を狙っていた斬撃の一本を弾き飛ばし、強引に道を作ることで斬撃の檻を脱した。
しかし“旋空”を起動したわりには風上の弧月の刀身はほとんど伸びていないように見える。これは忍田の“旋空”を凌ぐには同じように刀身を拡張したブレードではその分の重さが隙に繋がると判断し、“旋空”の起動時間を敢えて長くし、切断力を向上させた上で刀身の拡張による重量の増加を最低限に留めた為である。“旋空”を起動したのはその重さと切断力で受け切れず隙を晒す可能性を潰す為だ。
無論拡張している分威力自体は忍田の“旋空”の方が上だが、風上もこれまでの戦いで忍田の剣の扱い方は散々見て来た為、全ては無理でも一太刀弾いて残りは回避する程度は可能になった。
「━━━━━ッ!!」
“旋空”の連撃を潜り抜けた風上は全力で近付きつつ既にホルスターから引き抜いていたハンドガンの引き金を忍田に向かって引く。勿論忍田ならば容易に受けるか躱せる攻撃だが、倒す為には多少強引でもこちらのペースに引き込まなければ話にならない。
少なくとも“旋空”の間合いにいる内は絶対に勝てない為、まずはその間合いを外して接近戦に持ち込む。単純な剣の腕前では逆立ちしても勝てないが、劣る手数はハンドガンと射手トリガーの“
「ッ!!」
当然忍田もそんな余裕を与えるつもりはないようで、弾丸を最低限の動きで回避すると地面を蹴って風上に突貫する。
風上は更に引き金を引いて弾丸を放ちつつ、下から弧月による斬り上げを仕掛ける。前屈姿勢で突進して来ている忍田からすれば躱しづらい攻撃。
「━━━━━」
「!」
それなら、斬り伏せるまで。風上の弧月を斬り払い、そのまま返す刀で上段からの振り下ろしを叩き込む。
「鋭いな」
風上は動きの鋭さに感嘆しつつ、弾かれた勢いを利用して振り下ろしを回避し、そのまま“旋空”を起動して薙ぎ払う。
勝つ為には“旋空”の間合いを外さなければならないが、体格と腕前で劣る以上鍔迫り合いは悪手。風上の強みは多彩なトリガーを的確に扱える器用さと小柄さを活かした機動力である。
だからこそ忍田の“旋空”の間合いを外しつつ、かと言って至近距離での斬り合いには付き合わずあくまで自分のスタイルで戦い抜く。
「━━━━━ッ!!」
「グッ!?」
しかし忍田は風上の“旋空”に対して拡張されたブレードの中腹あたりを叩いて防御した。
“旋空”は先端に近付く程切断力が上がる。なら逆説的に刀身の根元に行く程切断力は低くなる。一歩間違えれば身体が両断されるが、“旋空”を手足の如く扱える忍田が距離を見違えるハズもない。
“旋空”を弾かれ、体勢を崩した風上を両断しようと忍田は弧月を振るおうと─
「!」
─したが、寸前で下から飛んで来た弾丸を後ろに跳んで躱した。
これは射手トリガーの応用技術、トリオンキューブの分割、設置を予め済ませ、任意のタイミングで弾丸を射出する“置き玉”である。
射手トリガーはトリオンキューブの展開、分割をしている間はトリガーの枠を使用している状態だが、分割まで済ませると接続を切ることが可能となる。しかし分割まで済ませた弾丸は接続を切っても消えることはなくそのまま残り続ける為、次に射手トリガーを使用した際にはすぐさま射出することができる─つまり射手トリガーの弱点である攻撃までのタイムラグを無視することができるのだ。
これは忍田の弧月の振り下ろしを回避すると同時に設置しておいた“保険”だ。忍田より弧月の練度が劣る風上ですら形は違えど“旋空”の迎撃ができた以上、忍田ができないハズもないと判断した為である。
「これも躱すか。反応が良いな」
忍田が後ろに跳ぶと同時に風上は体勢を立て直し、ハンドガンを撃ちながら弧月で斬り掛かる。
置き玉で手傷を与えられれば良かったが、流石に簡単に食らってはくれないらしい。
「━━━━━ッ!!」
「ッ…!よくやるな…!」
後退する忍田は向かって来る風上と弾丸を確認すると、“旋空”の二連撃で迎え撃つ。
後退しながらというやや不安定な状態にも関わらず変わらない鋭さに風上は少し食らってしまいながらも姿勢を低くし何とか躱して忍田の足を斬り飛ばそうと狙った。
「ッ!」
忍田は少しだけ跳躍して躱し、後方に通り過ぎた風上を“旋空”で両断しようと狙いを定める。
「…ッ!!」
が、また足元から飛んで来た弾丸を躱す。風上が足を斬ろうと突進して来た際に撒いておいた置き玉だ。
しかし今度は放射状に広がるように弾丸が射出された為、この距離ではシールドを使用せざるを得ない。
「シールド、使ったな?」
「!」
そしてそれこそ風上が待っていたタイミングだ。
忍田程の鋭さではないが、“旋空”の二連撃。それは忍田の張ったシールドを叩き斬ったが、忍田は一太刀目は躱し、二太刀目は先程と同じように“旋空”を起動して弾いた。
「━━━━━」
「!」
が、防がれることなど風上も想定済み。忍田が迎撃の為に足を止めたタイミングでハンドガンで忍田の手足を狙って四連発。急所である頭や心臓は防御される可能性が高い為、凌ぎ辛い四肢を狙った。
「━━━━━ッ!!」
しかしこの程度では足りない。地面を蹴って身体を転がしながら“旋空”を起動しつつ弧月を振り抜き、最低限回避しつつ弾丸を斬り落とし、更に風上への攻撃も行うという頭のおかしい行動で凌ぐ。
「そうだなぁ…!そうでなきゃなぁ…!!」
忍田の“旋空”を躱しつついくつかは食らってしまいながらも風上は笑みを浮かべる。自分の考えている“手”が尽く通じていない状況だが、それでこそだと思っている。
だからこそ、風上も攻撃の手を緩めない。
ハンドガンの射撃は防がれてしまったが、身体を横に倒しているというのは体勢を崩しているのと同義。忍田は未だに無傷であるとは言え、射手トリガーも絡めた多角攻撃は心理的な圧を生んでいるハズなのだ。対処能力の上限は凄まじく高いだろうが、常に対処させ続けば身体か精神、どちらかが必ずキャパオーバーを起こす。
そのタイミングを逃さないよう、多少のリスクがあれど風上は攻め続ける。
「“旋空弧月”」
「ッ!!」
身体を倒している忍田を追いながら横薙ぎの“旋空”を放つが、当然のように迎撃され弾かれる。
「━━━━━」
「!」
立ち上がろうとした忍田の視界に入って来たのは横から射出された弾丸だった。おそらくは風上が忍田を追う前に設置しておいた置き玉。とは言えある程度以上の距離があったので躱すのは難しくない。
「躱してみろ」
「!」
が、弾丸と同時に風上が襲って来ると対処は難しくなる。
ハンドガンを引き抜き弾丸を放ち、弧月で斬り掛かる。ハンドガンから放たれた弾丸はシールドで防御し、風上の弧月は自身の弧月で防御する。
だが鍔迫り合いをしてしまうとその場に釘付けにされてしまうので、側面からの弾丸をシールドで防御するしかなくなる。
「━━━━━」
「おおっ!?」
だから、鍔迫り合いはしない。風上の突きを受け流し、そのまま素通しすることで風上の身体を弾丸に晒す。
射撃トリガーの弾丸は敵味方を区別する機能はなく、発射主本人だろうと容赦なく貫いて来る。しかも“
故に弧月で防御した上にシールドを使ってしまえばその瞬間は射撃トリガーによる攻撃がないことが確定してしまう為、忍田はその隙を容赦なく突くだろう。極端な話、弾丸を防御した瞬間に負けが確定する。しかし防御しなければそれはそれで手傷を負ってしまう
「“旋空弧月”」
「!」
だから攻撃と防御を同時に行う。
突きを素通しされた瞬間に風上は弧月を素早く逆手持ちに切り替え、返す刀で“旋空”を起動して弾丸とすぐ後ろの忍田に向けて振るう。全ての弾丸を落とすことはできなかったが、撃ち漏らしは右手のハンドガンを連射し相殺した。
曲芸と言える防御方法だが、それでも忍田に反撃しつつ手傷も負わなかったのは間違いなく最高の成果だろう。
「━━━━━ッ!!」
とは言え、形は違えど第二の攻撃手段であるハンドガンを弾丸の相殺に使ってしまったことはその瞬間忍田へ使える手は弧月しかないことを意味する。
斜め上から振り下ろされた風上の“旋空”を屈んで躱すと、忍田は斬り上げるようにして風上の胴体を狙う。右手は弾丸の相殺に使い、左手の弧月は振り切っている為に防御が間に合わない。
善戦はしたがこれで“詰み”─
「━━━━━ッ!!」
「!?」
─否、武器が使えないなら手足がある。
風上は左足を蹴り上げて弧月を持つ腕を弾いた。一歩間違えれば足を両断されかねない行動だが、風上からすれば使える手札がこれしかなかった以上使うしかない。
両手は使い切っていた為、防御の空いた忍田への追撃はできなかったが、最低限一瞬の時間さえあれば良い。
後方へ跳びつつ、ハンドガンを構え直し引き金を引く。
この距離で射手トリガーの“
「━━━━━ッ!」
「!」
─しかしそれは風上にとっての常識であればの話。
忍田は横に跳びながら自分に向かって来る弾丸の半分を“旋空”の連撃で斬り落とした。
蹴り上げられた腕を強引に構え直し、それでもなお精度は衰えず、風上に対するカウンターも兼ねた攻撃だ。
「つくづく最高だ…!アンタは…!!」
「!!」
しかし風上はその状況で後退ではなく前進を選んだ。
右脇腹に大きな傷を受けたが、致命傷ではない。が、もう長期戦は望めない。
しかし忍田を落とすにはもうここで攻めるしかない。
忍田はおそらく今までの自身の動きから『風上は弾を使った波状攻撃で隙を作ろうとしている』と考えているハズだ。この特攻はその意識の裏を突いた動きである。
風上としては忍田の意識の裏を突けるような動きが思い付かないし、それを実行したとして、忍田はそれを切り抜けそうな気がしてならない。
手足の一二本が揉げようと忍田を倒せるなら必要経費だ。事実大きな傷は負ったが、“旋空”の連撃を行った後のほんな僅かなこの呼吸の間。この瞬間であれば、忍田の弧月を抜けて攻撃できる。
「“旋空”─」
弧月を構え、狙うのは忍田の胴体。
頭狙いだと的が小さく躱されてしまう可能性がある為、躱しづらい胴体を狙う。二撃目や後のことは考えない。とにかく最短最速でこの攻撃を到達させる。
自身に向かって放たれた拡張斬撃に忍田は─
「━━━━━」
「!?」
─拳で弧月の起動を
今までやって来た肉弾戦による体勢崩しを忍田が同じようにして来る可能性を風上も予想はしていた。実際以前風間に同じような手を食らったこともあったし、忍田の練度であればその場で即自身のモノにすることも十分できるだろうと思っていた。
だが、弧月で弾くならまだしも自分の肉体で弧月を受けるのは流石に予想外だ。先程の風上も似たようなことはしていたが、あれはあくまで弧月を振るう
だが忍田はやって見せた。逸らし切れなかった分コートの端が僅かに斬り裂かれたが、ダメージには至っていない。
弾かれた風上のブレードが逸らした頭の上を通過する中、忍田は改めて弧月を構え直す。風上もすぐに切り返しを狙うが─
─忍田の前でその一瞬は、あまりに長過ぎる隙だった。
一瞬で振るわれた“旋空”の三連撃は風上の胴体と両腕を正確に切断していた。
『戦闘体活動限界─』
「…ダメだったか。これ以上ないぐらいに全力を尽くしたつもりだったが…」
斬られた箇所からヒビ割れが広がり、トリオンが漏出していく。
自身の本当の意味での敗北が確定してしまったが、風上はいつも通り淡泊な声色で現状を呟く。
ミスをしてしまい子どものように反らされていた目線が、最後に忍田の方に向けられる。
「まあ良い。また
「!!」
短いが、確かな戦意と圧が感じられる言葉を言うと同時に風上の身体を弾丸が貫く。
忍田は咄嗟に跳躍して回避するも、避けきることはできずに胴体に風穴が空けられた。
『
そしてそれと同時に風上の戦闘体が崩壊し、光の柱となって消え失せた。
「…最後まで食えない奴だ」
空けられた風穴を見て、苦笑しながらため息を吐く。
最後の弾丸は置き玉による保険だろう。忍田が回避、あるいは想定外の動きを取った時に確実に仕留める為の。忍田もこれまでの動きから何かしらの策を用意していることは予想していたが、見事に回避できないタイミングで撃ち込まれた。
今回は結果だけ見れば風上の全敗という結果に終わったが、戦いの中で工夫や成長も垣間見ることができた。今回の経験を糧に更に強くなることだろう。
「あとは事後処理だが…風上から言い出したことだが気は進まないな…」
完全勝利を収めた忍田だが、その表情は優れない。この後の流れについてはちゃんと話し合って風上自身も納得はしているが、晒し者にするようであまり気は進まない。
とは言えもう決めたことだし、ここまで来といて後には引けない。やるべきこと、責任を果たす為に忍田は個室から出て行った。
はい、今回はここまで。クッソ長くなっちゃった…
・風上和郎(ヴェスパー・ワン)
入隊して半年も経ってないのに上司に喧嘩を売る男。
日々の諸々で細かいストレスが溜まってたのでそれが爆発して除隊される前に本部長とバトることで戦闘意欲を発散。
というわけで一矢報いるも全敗。最初のプロットだと一勝させようかなとも思ったけど流石にトリガーの種類も少ない今だと無理だろうなとシバき倒されました。ただ忍田さんの“旋空”を直に何度も経験できたので、その辺はきっと今後に活かしてくれる。
・忍田本部長(本部最強の虎)
多分この時期だと正隊員少なくて色々と大変なのにバトルバカに喧嘩を売られてストレス値がヤバそう。けどいざ戦うと全く手は抜かないやんちゃ小僧。ちなみに“旋空”が三連撃までなのはこの時点だと本編の本部長程は強くないかなーと思ったからです。それでも太刀川でも勝ち越せないぐらい強そうだけど。忍田旋空の理論は完全に独自解釈です。けど最終ラウンドのスコーピオン投げの時に細い光の線まで描写として取り入れてるとこを見ると、忍田旋空も他の攻撃手の“旋空”と比べて明らかにレーザー軌道になってるとこに意味があると思ったのでこういう解釈になりました。
あとつい先日のQ&Aで忍田さんもたまにランク戦で通り魔しているのが分かってしまった…確かにブース使えば誰でもランク戦できるわな…
こんなもんかな。多分次回は風上君が土下座します。
評価、感想もよろしければお願い致します。
それでは次回をお楽しみに。