“V.Ⅰ(ヴェスパー・ワン)”、ワートリ世界に転生する。 作:サクラン
それではお楽しみ下さい。
「─すみませんでした」
忍田との10本勝負が終わり、ブースの中央に戻って来た風上は大勢の隊員が見ている前で頭を下げて謝罪した。
試合前の威勢の良さは何処へやら、あまりにもダサ過ぎるその姿に周囲の隊員の間でそれを揶揄する発言が呟かれ始める。
そのざわめきが広がり始めたのを聞くと、忍田はため息を吐きながら風上に言葉を掛ける。
「頭を上げろ、風上。自らの行動を省みることができたなら良い。お前の実力と将来には私も期待している。これからも鍛錬を重ねてより精進して欲しい」
「はい、ありがとうございました」
忍田はそう言うとその場から立ち去り、風上は忍田に向かって頭を下げる。その姿からは試合前の傍若無人ぶりは全く感じられない。
二人のやり取りを始終見ていた隊員達は忍田がいなくなったことで色々と話始める。
「なんだアイツ。偉そうなこと言ってたわりにはあっさり負けやがったぞ」
「C級の頃から調子乗ってたからなぁ。本部長にも勝てると思ったんじゃね?」
「けど太刀川さんにも勝ててないのに本部長に勝てるってどうやったら思えるんだよw。普通にバカなんじゃねぇの?」
C級隊員を中心に風上のことを扱き下ろす発言が広がる。
C級隊員の中には訓練生であった頃の風上にボコボコにされた者やそのいい加減な姿に鬱憤を募らせていた隊員も多くいる為、今回の風上の失態はさぞかし無様に映ったことだろう。
「さて、腹減ったな。飯でも食いに行くか」
そしてその渦中に晒されている風上はどこ吹く風でラウンジに行く為にブースから出て行った。
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「ふーん…根本的な実力差が一番なのは間違いないが、立ち回り次第で一本ぐらいは取れた感じあるな。噛み合わせが悪かったのもあるが」
ラウンジにやって来た風上は先程の模擬戦の記録を繰り返し見直し、反省点を洗い出していた。なお忍田相手に大口を叩いて大負けしたことは既に噂として広がっており、こうして記録を見ている間にも近くを通った隊員や遠巻きにいる隊員からも悪意たっぷりの呟きが囁かれているが、風上は全く気にしている様子がない。
「“隊員定食”お待ち!風上!真史の奴に大口を叩いた挙句大敗したようだな!!どういう風の吹き回しだ!?」
「!」
そうしている風上の前にできたての定食と共に張りのある大声が振りかかる。
風上が顔を上げるとそこにはエプロンをパッツパツに着こなした虎尾が腕を組んで立っていた。
「定食サンキュー虎尾サン。相変わらずその服装パッツパツ過ぎて笑えるな」
突然の大声にも驚くことなく風上はその格好に少し笑みを漏らしつつ、虎尾に対しても敬称をつけて対応する。目上の人間に対する言葉遣いとしてはやや不適格だが、それでも以前までと比較すると雲泥の差とも言える対応に虎尾は少し驚いたように眉を吊り上げた。
「…話には聞いていたが本当に矯正するとはな。大人しく指示を聞ける人間だったのか貴様」
「そりゃ俺から言い出したことだからな。忍田サンにも言ったが俺は鳥頭じゃない」
その雰囲気から風上が本当に変わったことを感じ取ったのか、表情と声量を少し落として虎尾は風上の反対に席に腰掛ける。
前の世界では直接的に相対することはなかったが、その破天荒ぶりは色々と聞き及んでいた為、こういった約束事を素直に守るのは正直意外に感じた。
「しかしだとしても何故こんなことをした?条件は聞いたがあまりにも貴様の分が悪過ぎるだろう」
虎尾はこの話を聞いた時に思った疑問を口にする。
先程の『素直に指示を聞ける』ということにも通じるが、根本的に
闘争を愉しみ、心の底からそれを求める欲求に戦いの最中でも常に冷静に状況を俯瞰できるある種自らの命にすら無頓着な精神性、前の世界で鍛えられたというのも大きいが、生まれながらにして異常な精神性であるのは間違いない。にも関わらず、更に自身に対してストレスを掛けるような行動をしたのは正直解せない。だから何か理由があるはずなのだ。
「別に。ここはいくらでも戦える良い場所だが、その分規則に対してかなり厳しい。俺はもう既に三輪と揉めたりしてるし、色々と良く思ってない奴もそこそこいるだろうからな。他の奴に何を言われようがどうでも良いが、除隊されるのは流石に看過できないからな。先に手を打っておこうと思っただけだよ」
「それが真史と戦うということか?随分思い切った答えを出したな」
「ただでさえ色々と架かる制約が多いんだ。これぐらいの対価がないと割に合わないと判断した」
「…やはり貴様の在り方そのものは変わっていないようだな。ある意味安心したぞ」
風上の話を聞いて虎尾は自分の中で合点が行った。
風上にとってそもそも最初の目的が『除隊の危険性を排除すること』であり、『忍田と戦う』というのはその過程で背負ったデメリットに対する利だったのだろう。
最初から戦うつもりでなかったとは言え、得られるメリットに『忍田と戦うこと』を選んだのは彼らしい選択と言える。
「とは言えよく大衆の前で頭を下げられたな。C級隊員を中心に貴様の評価は散々だぞ」
虎尾は周囲にポツポツと見られるC級隊員達を見渡しながら呟く。本人達としては示し合わせた展開だったのだろうが、本部長である忍田に大口を叩いた挙句一本も取れずに大敗した風上に対する評価は散々なものだ。
対外的な罰は無かったが、プライドの高い人間であればまず耐えられない。そうでなくとも常人であれば居心地の悪さを感じそうなものだが、風上は全く気にした様子はない。
「正隊員ならともかく、そもそも戦う土俵にも立ててない有象無象共から何を言われようがどうでも良い。頭を下げてC級の声が少しデカくなる程度で除隊の危険性が無くなるならその程度のデメリットは全然飲み込むさ。それに俺が大負けして頭下げないとどんな罰則吹っ掛けられるか分かったもんじゃないしな」
「…戦う為であれば自身の見栄えや風評すら投げ捨てるのか。そこまで行くと大したものだ」
そう、風上は罰を受けていないが、一連の騒動と風上の評価を見れば他の隊員からすれば風上は『調子に乗ってバカをやらかした隊員』であると同時に、彼を見て反面教師のように思った者もいるだろう。
ボーダーの隊員の大半は学生であり、それもトリオンという素質を認められて入隊している。年頃の少年少女であれば『特別な素質がある』という点で気が大きくなってしまったり、浮ついてしまう者も多いハズだ。
だが今回の風上─『粋がって調子に乗った隊員』の末路を見た者であれば、「ああはなりたくない」と考えるのが普通だろう。となれば当然普段の言動や規律を遵守する意識を引き締めようとする。
つまり風上は体面や評価を犠牲にすることを実質的な罰にすることを忍田に遠回しに提案したのだ。
他者に対する意識や視線を意識する年頃の少年少女であればある程、『同年代の仲間達に揶揄される、仲間外れにされる』というのは何より堪える。者によっては単にポイントを没収されるよりもずっとキツい罰だろう。
風上本人は何とも思ってないので罰としては不適切かもしれないが、風上の様子を見た他の隊員が「ああはなりたくない」、「ちゃんとしよう」と思った時点で、
風上本人の意思ではなく、
「順位や称号ってのは自分の実力の後についてくるもんだ。間違っても前に出ることはない。あったとして、それはただのハリボテだろ。舐めて掛かって来る奴がいたとしても、それはそれで大歓迎だ。強さの優劣なんて勝負の後に結果として分かる」
「…その意見には同意するところだが、よく貴様一人でそこまで考えついたな。それとも日向野の入れ知恵か?」
「いや、スネイルが色々と手回ししてるのは見て来たからな。ここは
「…あの評論家気取りのカタツムリ野郎が何故あんな性格になったのかなんとなく分かる気がするな」
粗雑に見えて自分の利になり得そうな部分はきっちり抑えておく食えない姿に虎尾は目を細める。
『基本的に自分本位だが、自我を通す為には組織のルールすら利用する強かさを持ち、戦場においても暴走の危険性はあるが、それはそれとしてしっかりと戦果ももぎ取ってくる』。丸投げするにはリスクが大きく、かと言って抑えてしまえばロスが大きい。下手な扱い方ができない分ずっとその動向に目を光らせておく必要がある為、戦場単位の“駒”としてならともかく、組織人の立場からすればあまりに胃痛の種になる存在だ。
ヴェスパーの総指揮を担っていた第二隊長とは度々言葉を交わす機会があり、
「まあ忍田サンと戦った後に太刀川はゲラゲラ笑いながら話し掛けに来たし察しの良い奴は多分今回の戦いの意図に気付いてる。これからも戦う分には大した影響は無さそうだった」
「…貴様太刀川の奴は呼び捨てのままか?」
「敬称をつけるってことは強さだけじゃなく人として敬えるかどうかって部分が大きいだろう?そう考えた時に太刀川はつける必要がないって判断した」
「……まあ、否定ができんのが辛い現実だな」
唐突に太刀川に流れ弾か飛んで行ったが、虎尾も戦闘員としてならまだしも人として太刀川が立派かと言われると正直首を縦に振ることはできない。
太刀川は現在高校生だが、学校にいる時間とボーダーにいる時間だとおそらくボーダーにいる時間の方が長い程度には学校に行っていない。隊員としての成長ぶりは間違いなく現ボーダートップと言って差し支えないのだが、その犠牲に学力と人としての成長をゴリゴリ削って行っているように見えてならない。その点について忍田が頭を悩ませていることも虎尾は耳にしていた。
将来が色々な意味で不安だが、最悪ボーダーに就職するという手もあるので後は本人次第だろう。
「しかし上手いなこの定食。アンタが作ったのか?」
「この格好からして他に誰がいる。ここの定食のメニューは俺の入れ知恵も入っている」
「良いね。前の場所でも
「なまじ食堂のババアが喧しかったものでな。だが声がデカいだけにあそこの飯は一発で目を覚まさせる」
そうして話に一段落つけた風上は定食の美味しさに舌鼓を打ち、虎尾は自身の作った料理を美味しそうに食べてもらったことで満足気な笑みを浮かべた。前の世界だとこうして仲良く談笑することなど不可能だっただろうが、こうして立場の壁を無くすと案外気の合う二人だった。
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そうして風上が忍田に大敗した話も一ヶ月も経てば下火となり、当たり前のボーダー生活を過ごしていた半年後、ボーダー内で新たな衝撃が走った。
それはここ最近太刀川に負け越していた迅がエンジニアと協力して新たなトリガーを開発し、久方ぶりの勝ち越しをしたのだと言う。ずっと弧月と銃手、射手トリガーの
だからこそ、この話を聞いた時に日向野は
「なあ日向野!!!新しいトリガーができたんだろ!?見せてくれ!!!ていうか使わせろ!!!今すぐ!!!!」
開発室の扉を壊す勢いで中に飛び込んで来た風上を受け止めつつ、日向野は眠気の残る目を擦りながら言葉を返す。
「…こうなることは予想してたが一旦落ち着け。ここ最近寝不足気味だったんだよ…」
「そりゃご苦労なこった。んじゃあ自分でトリガー弄るからチップの場所だけ教えてくれよ」
言葉半分で日向野を労いつつ、風上はキョロキョロと開発室を見渡す。トリガーセットは最初に日向野に設定してもらった時から変更しておらず、トリガーチップの場所も分からない。
「じゃあ僕が変えてあげるよ。トリガー貸してごらん」
「ああ、助かる」
そうして迷っていると、側の机から落ち着いた声と共に手が差し出された。風上は特に拒むことなく自身のトリガーを差し出し、トリガーチップを交換している様子をじっと見守る。
「アンタは始めましてだな。風上和郎だ。よろしく」
そしてそこで改めてその人物と初対面だったことを思い出した風上は簡単に自己紹介をする。その人物は手を止めることなく言葉を返す。
「ミカエル・クローニン。カナダ人でチーフエンジニアをやってる。よろしく」
明らかに日本人ではないその名前と外見に風上は僅かに眉を上げる。
「外国人か?日本語上手いな」
「クローニンチーフはカナダ人だ。長らくこっちにいるらしいから日本語はマスターしてるらしい」
「へぇ、
風上は目を細めてクローニンを見詰める。その瞳は明らかに何かを考えている表情だ。その視線を向けられているクローニンは無言の圧に晒されながらも特に動揺している様子はない。
そうしてしばらく見詰めていたが─
「─ま、外国人だとしても不都合がないなら別に良いか。機会があれば
「─うん、
─少しして表情を柔らかくし、改めて挨拶を済ませる。その言葉の裏には様々な意図が見え隠れしていたが、日向野は特に突っ込まなかった。
「さて、それじゃあ新しいトリガーもセットできたし、訓練室に行こうか。練習ついでに教えてあげるよ」
「ああ、よろしく頼む」
「…すみませんねクローニンさん。手間を取らせる」
「良いよ別に。彼は色々と見所がありそうだし、日向野は今回の開発でよく頑張ってくれたからね。今はしっかり休みなよ」
申し訳なさげに謝る日向野をクローニンは労い、風上と共に訓練室に向かう。そうして事務室に一人残った日向野は、誰もいない中呟く。
「…何がいるか分からない藪に突っ込まない判断ができるようになるとはな。この辺も本部長に矯正されたからか…?」
意外にも大人しくなった元上司の姿に日向野は謎の感慨深さを感じつつ、飲みかけのコーヒーを飲み干した。
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「さ、それじゃあ説明して行くよ。トリガー構成は君の持ち手に合わせてるから、左手側がブレードトリガーだよ」
「了解した」
クローニンから説明を受けた風上が左手側のトリガーを起動すると、左手にブレードが現れた。
「へぇ、これが迅サンとアンタが開発したブレードか」
「そう、“スコーピオン”ってトリガー。違いは分かる?」
「
そう、風上がスコーピオンを持った際に一番に驚いたのはその“軽さ”。
持っている感覚はあるが、多少振ってみても負担が全くない。弧月と比較すると片手で気兼ねなく振れる。
「君も感じた通り、その“軽さ”がスコーピオンの強みの一つ。ブレード本体の斬れ味も弧月と同程度にはあるから君みたいなスピード攻撃手にはかなり扱いやすいブレードだと思うよ」
「確かに、扱いやすさって点だとかなり良いな」
風上は今弧月を片手持ちで問題なく使えているが、重さが全く気にならないかと言われるとそんなことはない。当然だが攻撃手として戦う上で攻撃の手数というのは重要だ。重さがなければその分手数をより増やすことができるので、風上のような小柄でスピード重視の攻撃手にはかなり合致しているトリガーと言える。
「あともう一つ、スコーピオンには変わった特長があってね。ちょっとブレードの形を
「んー? おお」
風上はブレードの先端を曲げるようにイメージすると、刀身がそのイメージ通りに変化した。
「ブレードの形を変えられるのか、これ」
「そう、その上で身体のどこからでも出し入れできる。手に待つだけじゃなくて、直接ブレードを
「へぇー、面白いな」
試しに掌から出すようにしてみると、確かに生えるような形でブレードが現れた。風上は肉弾戦など文字通り全身を使って戦うので、徒手空拳を使うと同時にブレードを使って攻撃できるのはかなり大きい。相手に対して無数の選択肢を強要できる。
「とは言え、これだけ特殊なトリガーなら何かしらのデメリットもあるんだろ?弧月にないものをほぼ網羅してる以上、何かしら犠牲にしてるものがあるハズだ」
しかし風上はスコーピオンは何かしらの弱点も抱えているだろうと思っていた。ACのアセンブルもそうだが、長所と短所は表裏一体であり、切り離せない関係である。
装甲の厚い重装甲型であれば、耐久力は鉄壁だが重さの分機動力は落ちる。
逆に高機動型であれば捕捉することすら一苦労なスピードを出せる一方で、グレネードやバズーカ一発すら致命傷に繋がりかねない。
故にスコーピオンにも何かしらの弱点があるハズなのだ。それも無視できないような重要なデメリットが。
「中々鋭いね。その感じだと大体予想ついてる?」
「まあ何となくな。おそらくブレードの“硬度”じゃないか?」
「正解。ブレードの形が変えられる─不定形にできるって都合上硬度だけはどうしても犠牲にせざるを得なかった。受け太刀もできて一回までだね」
風上の予想は見事に的中。軽さが強みと言うことは“重さ”がない。よってそれから成る硬度もない。スコーピオンは攻撃性と特殊性に特化したブレードと言えるだろう。
「
「今の所はないね。何分できることが多いからピタッとハマるようなイメージが湧かないんだ。強いて言うなら硬度をカバーするオプションがあればとは思うけど、そうすると多分変幻さが失われるから強みも殺しちゃう。難しい所なんだよね」
そしてできることが多い故にこれと言った専用のオプショントリガーもまだ開発されていない。スコーピオンの自由度の高さの弊害と言える。
「どう?戦闘スタイルから君との相性は悪くなさそうだけど」
「んー…ナシじゃないが保留ってとこだな。出し入れできるってのも強みではあるが思考を割くリソースが増えるってことでもあるし、防御のタイミングもシビアになる。重さの点も今の弧月で十分立ち回れてるからな。スコーピオンをメインに据えるならまた色々と考え直さなきゃならない」
風上としてはスコーピオンは悪くはないが、弧月の完全上位互換になり得るかと言われるとそんなことはない。相手の攻撃を弾いてカウンターに繋げるスタイルも弧月の硬度あってこそのものだし、“旋空”という距離感をコントロールする上で必要不可欠なものも弧月の強みの一つだ。それらを捨てるというのは少々考えものである。
スコーピオンを使うとするなら今の戦い方とは別にスタイルを確立させる必要があるだろう。
「まあ無理に使えって言ってるわけじゃないし、これから紹介するトリガーも含めて色々考えてみなよ。じゃあ、次はサブトリガー側の説明に移るよ。サブの方には射手トリガーをセットしてるから」
「分かった」
風上は右手側のトリガーを起動すると、見慣れたトリオンキューブが出現する。ここまではいつも通りだ。
「それじゃあそれを適当に分割して、明後日の方向に飛ばしてみて」
「ん、的を狙うんじゃないのか?」
「うん。明後日の方向じゃなくても良いけど少なくとも的に当てないようにして」
クローニンからの謎めいた要求に疑問符を浮かべつつも、風上はトリオンキューブを36分割し、言われた通り的から外れるように適当な方向に射出する。
いつもの“
「おっ」
─途中で曲線を描いて的を貫いた。当然風上は何もしていない。
明らかに弾丸の性質が影響している結果に、風上は面白そうに笑みを浮かべた。
「なるほど。曲がる弾丸…いや、対象を追う弾丸か?」
「そう、“
「へぇー面白いな!単に追うだけじゃなくて誘導の性能や種類があるのは良いな!奥が深そうだ!」
中々面白い性能のトリガーに風上は好奇心が湧いてきた。単なる追尾弾というだけならそこまで心惹かれることはなかったが、二種類の誘導に強弱の調整という要素があるだけでかなり幅が広がる。
今までの“
「お気に召したようで何より。あともう一つも弾トリガーなんだけど…かなり癖が強くてね。作った僕が言うのもなんだけど…一応見る?」
「当然、扱い辛かったり癖があるのなんか大歓迎だ」
「嬉しいね。けど、無理に使おうとしなくて良いよ。じゃあさっきと同じ感じでキューブ出して。“
「了解」
スコーピオンを開発したクローニン直々に『癖が強い』と言い切る性能に風上は期待を膨らませる。
そして先程と同じようにトリオンキューブを出して36分割する。
「それじゃあ弾丸を…
「ああ?どういうことだ?」
「難しそうならとにかく適当に弾丸を飛ばす軌道をイメージして撃ってみて、曲げたり旋回させたり」
流石の風上もクローニンからの指示に多少困惑しつつも、自分なりに言葉の意味を噛み砕く。
(さっきの“
これまでの要素が風上の推察に結び付いていく。その果てに風上は前の世界で愛機で使っていた一つの武装が思い浮かんだ。
先程の説明を真に受けるのなら細かい仕様は違う可能性が高いが…だが風上の推察が当たっているのなら最も適正のある弾丸だろう。
(こういうイメージはかなり久しぶりだが…ナマってないと良いな)
風上は久しぶりに脳内を活発化させ、弾丸の軌道をイメージする。不規則な軌道を描きながら相手を多角的に取り囲んで撃ち抜くイメージ。全ての弾丸の軌道を別々に描くのは流石に不可能なので、ある程度束ねて撃つようにする。
「━━━━━」
そして弾丸が射出される。36発の弾丸は4発ずつ束ねられ、時に曲がり、時には弾丸同士ギリギリで交差するような軌道を描き、器用に的を取り囲むと、四方八方から撃ち抜かれた。
「すごいね。初めてにしてはかなり器用な弾道だ」
「こう言うのイメージするのは得意なんでな。しかし凄えなこの弾丸。どれだけの軌道が行けるか分からなかったがこの軌道が描けるならかなり精密な動きもできるだろ」
クローニンは初めて扱うとは思えない弾道を描いて見せた風上の技量に素直に感心し、風上は自身のイメージを正確に辿ってみせた弾丸そのものに感心していた。
「そうだね。この弾トリガーの名前は“
「なるほど、“
「一応その場で弾道を設定する以外に予め使いやすい弾道をいくつか設定しておいて状況に合わせて使い分けるってこともできるよ」
「あーほとんどの奴はそっちで使うようになるか。とは言え“
クローニンとしては『設定した弾道を状況によって使い分ける』というのが大多数の人間の使い方で、風上のように『その都度弾道を引いて使う』というのはイレギュラー側なのだろう。
風上は前の世界で“
「これが、今回僕と迅で開発したトリガーだね。結構反応してたけど気に入ったのはある?」
「やっぱ“
今回のトリガーはどれも一癖あるもので面白かったが、やはり一際癖が強く、かつ自身との波長が合った“
「それじゃあサブの射手トリガーの“
「…そうだな。サブの射手“
「ん、一応使うタイミングが被ることはないからそこまで負担にはならないかもだけど…切り替え大丈夫?」
「ああ、そういうのも使う中で慣らしていく」
入れ替えだけでなく配置まで変える風上の選択にクローニンはトリガー切り替えの問題を心配するが、“フロイト”であった頃はブレードとドローンを同じ側に装備していた為、その方がロックスミスの動きをイメージしやすいと思ったのだ。もちろんACの操縦とトリガーの切り替えは違うが、もししっくり来なければまた配置を変えれば良い。
「はい、じゃあ言われた通りの構成にしたから。頑張ってね」
「ああ、助かったぜクローニンチーフ」
トリガーチップの入れ替えを終えたトリガーを受け取り、風上は満足気な笑みを浮かべる。
トリガーを一つ入れ替えただけだが、間違いなく戦い方の幅が広がり、自らのモノとできた時には確実に強くなれると言う確信があった。是非とも太刀川相手に試運転と行きたいところだが…
「おーい日向野。トリガー入れ替えたから慣らし運転付き合えよ」
「…お前…前も言ったが今の俺はエンジニアだ。お前の相手は荷が重い」
「そう言うなよ。お前動ける上に弾トリガーメインだから弾を撃ち落とす練習と動いてる相手に当てる練習同時にできるんだ。たまには身体動かさねえとナマっちまうぞ」
「だから今の俺は身体を動かすつもりは…」
机に突っ伏して寝ていた日向野を叩き起こし、模擬戦に誘うが日向野は心底眠そうな声色でそれを断る。だが風上が言葉だけで納得するハズもなくしつこく誘い続け、日向野がそれを拒むというやり取りが30分は続き、その矛先が遂にクローニンに向き始めた頃、開発室長の鬼怒田に雷を落とされ、渋々と風上は引き下がっていった。
その後開発室に残った三人は、新トリガー開発完了の祝いとして、ちょっとした晩酌を行った。
はい、今回はここまで。出て来たキャラ数何気に最多か…?
・風上和郎(ハッスルフロイト)
自業自得とは言え中々の尊厳破壊を受けた男。けど体面とか他人からどう見られてるとか根本的にどうでも良いので実質ノーダメージ。組織的な視点は相棒である陰険オールバック企業メガネが色々苦労してるのを見て学んだ(最低)。最低限の社会性を身に着けた。けど太刀川にはそういうのはいらない()。
新トリガー開発と迅さん勝ち越しの話を聞いてハッスル状態で開発室へ突貫。一目見てカナダ人がただ者じゃないって気付いたけど(多分ツッコまん方が良いだろうな)と判断して仲良くなった。新トリガーは全部面白そうだったけどレーザードローンとよく似てたバイパーをセレクト。実際強化人間でも使ってないドローンを使える時点でリアルタイムバイパーも行けると思う。
・言及してたけど風上のトリガーセット
メイン(左手側) “弧月”、“旋空”、“シールド”、“変化弾”
サブ(右手側) “通常弾∶拳銃”、FREE、“シールド”、“バッグワーム”
・虎尾剛(見守りミシガン)
食堂で料理人として活動中。あくまで今の立ち位置は食堂の職員なので“歩く地獄”ぶりは多少鳴りを潜めてる。その分色んな人と顔を合わせるので多分現ボーダー内で一番顔が広い。何気に忍田さんより歳上。
・忍田本部長(気まずい最強)
戦闘狂の無茶振りにきっちり応えきった真面目な人。風上の方から言い出したこととは言え晒し者みたいにしたのは正直申し訳なく思っている。最近の悩みは弟子の学力がヤバそうなこと。
・日向野幸助(げんなりオキーフ)
元気にエンジニア生活を謳歌中。今回の新トリガー開発にも積極的に関わって疲弊中。眠気マシマシな状況にも関わらず無意識の内にカフェインを摂取してしまうあたり立派なカフェインジャンキー。最近のマイブームはコンビニ弁当。健康大丈夫???
・ミカエル・クローニン(カナダ人)
カナダ人です(迫真)。書いてみると中々癖なくて書きやすいキャラだった。普段は玉狛にいるっぽいけど流石に新トリガー開発ってなると本部に来てるんじゃないかなって。日向野さんとは結構相性良いと思う。これからもちょくちょく書いていきたい。
こんなもんかな。次回はひょっとしたら年代ジャンプするかも。
沢山の評価、お気に入り登録とってもありがてぇでぃす。ワートリ二次なのにチーム戦全く書いてないペースカタツムリ作品ですがこれからも良かったら見てやって下さい。アトヨカッタラYouTubeモミテネ…(小声)
それでは次回もお楽しみに。