早く登場さして〜(でも物語の都合上だいぶ先)
ヒーローの真価
シャンクスがこの街を離れ
八年が経過した
麦わら帽子は、もう大きすぎなかった。
そしてモンキー・D・ルフィはヒーローになるための第1歩を進もうとしていた
雄英高校の正門は、ばかみたいに大きかった。門柱の高さが、フーシャ村の役場より高い。受験票を持った人間が、坂を埋めて登っていく。
その流れの真ん中で、ルフィは立ち止まって門を見上げていた。
「おぉ〜でっけぇなぁ」
口に出ていた。
後ろから来た受験生が、ぶつかりかけて舌打ちをされるが。ルフィは「わりぃわりぃ」と笑いながら言い、また歩き出した。
モンキー・D・ルフィ 個性【ゴム】
十五歳になっていた。
背が伸び。声も低くなった。七歳の頃のように、目に入ったもの全部に質問することはなくなった。
そう七歳の頃に比べれば。
「なあ、あれ何」
隣を歩いていた見知らぬ受験生が、びくりとした。
「え」
「あの、屋根の上のやつ。何のためについてんだ」
「……し、知らないです」
「そっか。なあ、お前は何の個性なんだ」
「え、あの」
「おれはゴム」
ルフィは自分の頬を引っ張って、するすると伸ばした。
受験生は逃げた。
少し先で、緑色の髪をした男が、坂の途中でつまずいて転びかけていた。空中で体が浮いて、そのまま止まった。近くにいた女子が手を下ろして、笑いながら何か言っている。
ルフィはそれを見て、「ほへぇ〜おっもしろそうな個性だな〜」と言った。
誰にも聞こえてはいなかった。
『イエェェェェス!! 聞こえてっかリスナー諸君!!』
講堂のスピーカーが割れそうな音量で鳴った。
プレゼント・マイクが、実技試験の説明をしていた。市街地を模した会場が七つ。制限時間十分。仮想敵のロボットを破壊してポイントを稼ぐ。
『敵は三種類!! 一点、二点、三点!!』
スクリーンに、三体のシルエットが映った。
その隣に、四つ目のシルエットが出た。
でかかった。ビル並みにでかかった。
『そんで、こいつが**ゼロポインター**!!! 障害物だ!!! 点は入んねぇ、ぶっ壊す価値もねぇ、ただデカくて邪魔なだけ!!! **見かけたら逃げろ!!!**』
会場が、ざわついた。
挙手があった。
眼鏡をかけた背の高い男が立ち上がって、資料の記載不備について指摘を始めた。それから、隣で独り言を呟いていた緑色の髪の男を叱責した。
その途中で、別の手が挙がった。
最前列だった。
『お、質問か!? 受験番号は!?』
「わかんね」
『わかんねって何だお前!!』
「なあ、それ壊しちゃダメなのか」
プレゼント・マイクの動きが止まった。
『は?』
「そのデカいやつ。壊しちゃダメなのか?」
会場が静まり返った。
『……いや、ダメじゃねぇけど。点、入んねぇぞ?』
「ふーん」
ルフィは座った。
それ以上、何も聞かなかった。
『……ほ、他に質問は!?』
『**始め!!!**』
合図はなかった。
いや、あったのだが、あまりに唐突だったので、大半の受験生がゲートの前で固まった。
その中で、一人だけが動いた。
麦わら帽子を被った男だった。
ルフィは走りながら、右足で地面を踏んだ。
そして、姿勢を低くした。
両足に力を入れて、心臓のポンプに手を添えるように、自分の血管を、押した。
「**ギア……**」
膝が沈んだ。
「**セカンド**」
全身から、湯気が上がった。
皮膚が赤くなった。脈拍が跳ね上がって、蒸気が制服の襟から噴き出した。
ゴムの血管を圧縮ポンプにして、血流を限界まで加速させる。八年かけて、一人で見つけた方法だった。
「戦闘には向かねぇ」と言われた個性を、戦闘に向かせるための八年だった。
消える。
ルフィの姿が、地面から消えた。
最初の一点ロボットが、真横から爆散した。
二体目が、上から潰れた。
三体目が、何もしていないのに真っ二つになって、〇・五秒遅れて轟音が届いた。
『な、何だあいつ!?』
どこかで受験生が叫んだ。
叫んだ受験生の目の前で、三点ロボットの装甲が内側から弾けた。
「**ゴムゴムの——**」
湯気の中で、腕が消えた。
「**ジェットガトリング!!!**」
音が、面になった。
一発ずつの打撃音が聞き取れない。壁のような轟音が三秒続いて、止んだ時には、三点ロボットが四体、部品の山になっていた。
ルフィは息を吐いて、また消えた。
監視室で、教師陣が黙り込んでいた。
モニターが七面。それぞれの会場を映している。
その一つに、赤く光る湯気の筋が、市街地を縦横に走っていた。通ったあとに、ロボットの残骸だけが残る。
「……B会場、七十八点」
「今のは?」
「**七十八点です。開始三分二十秒で**」
マイクを切った教員が、椅子の背にもたれた。
「歴代最高が、確か——」
「更新済みだよ」根津校長が、湯呑みを置いた。「四十秒前にね」
オールマイトが、腕を組んだまま、そのモニターを見ていた。
この男は、資料を読んできていた。受験生の名簿と、事前提出の個性申告書。
その一枚を、思い出していた。
**個性:ゴム。分類——変形系。**
**四歳時診断所見:『戦闘には向かない』**
「……変形系、か」
オールマイトが、小さく言った。
「あれのどこが、変形系だい」
隣で、相澤消太が目を細めていた。
「だが校長。あいつのポイント、全部**撃破ポイントだ**」
「そのようだね」
「**救助ポイントが一つも入ってない。**この試験で、あそこまで暴れてだ」
相澤の目が、細いまま動かなかった。
「一人で全部やってる。誰も見てない。**周りが目に入ってねぇ**」
「確かにヒーローには力が必要だ…だが最も大切なのは人の心を助ける精神…まぁその点で言えば受験番号58番の爆豪も一緒だがな」
根津校長は、湯呑みを持ち上げた。
「まぁまぁ落ち着きなよ、それに真価を問われるのはこれからだよ」
「……」
「さてと…ゼロポインターの投入だ」
その三秒後だった。
B会場の中央で、地面が揺れた。
ビルの間から、それが立ち上がった。
ゼロポインター。
全高、雑居ビル六階分。腕を伸ばせば通りを跨ぐ。動くたびにアスファルトが波打って、街灯が根元から折れた。
受験生が、一斉に逃げた。
悲鳴が上がった。「点入んねぇんだろ!!」「逃げろって言われたろ!!」——正しかった。全員が正しかった。
人の波が、ゼロポインターに背を向けて走っていく。
その流れの中で、麦わら帽子が一つ、止まった。
湯気が、まだ上がっていた。
「……おい」
誰にともなく、言った。
「今、なんか聞こえたか」
誰も答えなかった。全員、走っていた。
ルフィは、振り返った。
崩れたビルの瓦礫。鉄骨が二本、交差して落ちている。その下に——**何も、なかった。**
誰もいない。誰も見えない。
もう一度、聞こえた。
『——だ、誰か!!』
声だけが、瓦礫の下から出ていた。
『足が! 足が挟まって——**お願い、誰か!!**』
姿はなかった。
透明だった。
だから、逃げていく誰も、そこに人間がいることに気づかなかった。
ルフィは、その方向を見た。
そして、走り出した。
声が聞こえた瞬間体がもう勝手に動いていた
「**おい!!**」
瓦礫の前で膝をついた。
「どこだ!!」
『こ、ここ!! ここです!!』
「見えねぇ!!」
『わたし、個性が透明化なので!!』
「そうか!!」
ルフィは両手を突っ込んで、手探りで探した。
指先が、腕らしきものに触れた。
「掴んだ! 引っ張るぞ!!」
『足が! 鉄骨に!!』
ルフィは、上を見た。
とてもでかい鉄骨が。二本。太い。ゴムの腕では、力が乗らない。
湯気が、止まった。
ギアセカンドを、切った。
そして、右腕の親指を、口に咥えた。
『え? な、何して——』
息を、吸った。
全部、吸った。
そして、骨に、吹き込んだ。
右腕が膨れ上がった。二倍、五倍、十倍。制服の袖が弾け飛んで、家一軒分の大きさになった腕が、瓦礫の上に持ち上がった。
「**ギアサード!!!**」
巨大な指が、鉄骨を摘まんだ。
軽々と、横にどけた。
『う、動ける……!!』
「逃げろ!!」
『あ、あなたは!?』
ルフィは、答えなかった。
振り返った先に、ゼロポインターの脚が下りてきていた。
高さ六階分。落ちてくれば、この瓦礫ごと潰れる。
ルフィは、膨れた右腕を引いた。
肘を後ろへ、限界まで。
骨の中の空気が、圧縮されていく音がした。
「**——邪魔だ**」
「**ゴムゴムの!!!**」
空気が、裂けた。
「**ギガント・ライフル!!!!**」
家一軒分の拳が、ゼロポインターの胴体に入った。
六階建てが、浮いた。
装甲が内側から陥没して、亀裂が全身に走って、そのまま——**上半身が殴り飛ばされた。**
残った下半身が、二秒立っていて、それから膝から崩れた。
地響きが、七つの会場全部に届いた。
『……終了ー!!! 全会場、終了ーーー!!!』
プレゼント・マイクの声が、少し遅れた。
砂煙が晴れた瓦礫の上に、ゼロポインターの残骸が横たわっていた。
その手前に、麦わら帽子が落ちていた。
帽子の下に、**何かが**いた。
「……あ」
葉隠透は、目を疑った。目はないのだが、疑った。
さっきまで自分より頭一つ大きかったはずの男が、**縮んでいた。**
身長、五十センチくらい。手足が短い。頭だけそのまま。帽子が完全に体を覆っていた。
「えっと?だ、大丈夫です…か?」
「ギアサード使うと、こうなる」
『え、えっ!?』
「使った分だけ縮むんだ」
『そんなデメリットがあって使ったんですか!?』
「使うだろ、あそこは」
葉隠が、絶句した。
「……なぁ」
『はい』
「動けねぇ。運んでくれ」
『ええっ!?』
「腹減った〜」((グゥ
葉隠は、しばらく固まっていた。
それから、笑い出した。
見えないのに、笑っているのが分かった。
『……はい!! 運びます!!』
制服が、小さくなった男を抱え上げた。
瓦礫の上を、宙に浮いた制服が歩いていく。その腕の中で、麦わら帽子が揺れていた。
監視室は、静かだった。
誰も口を開かなかった。
しばらくして、教員の一人が、震える声で言った。
「……救助ポイント、加算します」
「何点だ」
「**六十点**」
誰かが、息を吸う音がした。
「最大値です。上限に、届いてます」
相澤消太が、モニターを見ていた。
瓦礫の上を、透明な誰かに運ばれていく、五十センチの受験生を。
「……あいつ、あの子が見えてなかったぞ」
「ええ」
「見えてねぇのに、行ったのか」
根津校長が、湯呑みを置いた。
「**聞こえたんだろうね**」
オールマイトは、何も言わなかった。
この男は、モニターの中の男の頭に載っている、その帽子を見ていた。
古い麦わら帽子だった。赤いリボンが巻いてある。
どこかで、見たことがある気がした。
思い出せなかった。
合計得点が、画面の隅に表示された。
**撃破七十八点、救助六十点。合計、百三十八点。**
文句なしの歴代1位だった
一応現在のルフィの力的には全力を出してCP9編ぐらいです