Assassin's Classroom Black Flag 作:レゾリューション
月が大爆発を起こし、その約七割が蒸発した。 地球には一体どんな影響が及ぶのか――連日、テレビのニュース番組では有識者たちが険しい顔で持論を交わし世界中では地球への致命的な影響を案じる声や、陰謀論が飛び交って大騒ぎになっていた。爆発から半月以上が経った今もなお、世間の話題はそのニュースでもちきりである。
しかし彼女、九条エリにとって、そんな世界の危機はこれっぽっちも興味のない事だった。 イングランドとウェールズの血が混ざった祖父を持つ彼女はイギリス側の名前にすると『エドワルダ・ジェームズ・ケンウェイ』となり、ぶっちゃけ長すぎるその名前を縮め、周りからは『エド』と呼ばれている。本人も口馴染みの良いその通称をすっかり気に入っていた。
そんな彼女が現在通っているのは、椚ヶ丘中学校。全国屈指の進学校であり、名だたる名門校への進学者を数多く輩出する、誰もが知る中高一貫の名門校である。
だが、その華やかな表向きの顔の裏で、学校の実態はひどく歪んでいた。成績不良の者や問題行動を起こした生徒を、本校舎から離れた裏山のオンボロ校舎――『E組』へと隔離され、学食なし、部活動の禁止、E組生徒は椚ヶ丘高校への内部進学が許されていないなど、学校主導での低待遇を強いられ、教師・生徒達からも冷ややかな目を向けられる。
差別による本校舎の生徒たちに緊張感と特権的な優越感を持たせるという、狡猾な仕組みが確立されていた。
そんな、『椚ヶ丘中学校3年E組』の通称はエンドのE組。
しかし、彼女は頭が良く学業のほうも、そこそこ以上にできるタイプであり、A組に属していた。ただ、いかんせんサボり癖があり、持ち前の荒々しさからよく喧嘩に絡まれ返り討ちにしてたら自然と喧嘩沙汰が増えた。最も自分から仕掛けた事はない。しかし、その結果「素行不良」という分かりやすい烙印を押され、3年に進級して数日後、見事にE組へと落とされたのだ。
女子でありながら並外れた身体能力を持ち、初めて手にするような代物であっても完璧に使いこなしてしまうほどの天賦の才があり、周囲から疎まれ、嫉妬を買うのも何度かあった。だが他者を平然と見下すような優等生気取りの連中に日頃からうんざりしていた彼女からすれば、そんな陰湿な本校舎から放り出されるなど、むしろ好都合だった。
そんな彼女――いや、彼女の「家系」には、ちょっとばかり厄介な秘密がある。
それは海賊黄金時代末期のカリブ海域において、あの黒髭やベンジャミン・ホーニゴールド、バーソロミュー・ロバーツと肩を並べ、その名を轟かせた伝説的海賊エドワード・ケンウェイが彼女の先祖にあたるということだ。粗野かつ粗暴でとても口が悪く、非常に頭脳明晰で基本的には明るく社交的らしいそうだ、それがもう彼女の性格にそっくりだという。
祖父曰く、見事な「先祖返り」なのだそうだ。もっとも、先祖が海賊であること自体は、一族にとって大して問題ではない。だが、世間に知られた「海賊」という表の顔の裏に、エドワードにはもう一つの顔があった。
それが、「
エドワードはある出来事からアサシン教団に属し、数多のテンプル騎士団をその刃で葬ってきた。アサシン教団もテンプル騎士団も、目指している目的地自体は同じ「平和な世界」である。
だが、そこに至るための手段において両者は決定的に違っていた。前者は「個人の自由」を信奉し、後者は「絶対的な力による支配」を掲げる。その理念の相違ゆえに彼らは歴史の裏側で絶えず血で血を洗う争いを繰り広げてきたのだ。
しかし、それもすべては遠い過去の出来事。 先祖たちが騎士団との因縁に決着をつけて以来、ケンウェイの一族は暗殺家業を廃止しており、現在のエリたちはごく普通の人間として平穏に暮らしている――はずだった。
彼女がE組行きを言い渡されたその日、エドはのんびりと家で一人、冷たいジュースを飲んでいた。両親はともに共働きで忙しく、日中の自宅はいつもこうして一人きりであることが多い。先述した通りあの本校舎の鬱陶しさから解放されるのなら、落ちた先が『エンドのE組』だろうが『旧校舎』だろうが知ったことではない。むしろせいせいする、そんなふうに気ままな時間を過ごしていた時だった。
ピィンポーン――と、間延びしたインターホンの音がリビングに響く。面倒くさそうに玄関の扉を開けると、そこには黒いスーツに身を包んだ、いかにも屈強そうな一人の男が立っていた。
「どちら様ですか.....?」
エドが怪訝な目を向けると、男は鋭い眼光を崩さずに名乗った。
「防衛省の烏間という者だ。君が九条エリか?」
(防衛省……?)
聞き慣れない役職の名前にわずかに眉をひそめつつも、エドは淡々と答える。
「そうですけど……」
淡々と進むやり取りの中で、烏間はエドの背後や室内の様子をさりげなく窺うと、家に彼女以外の人間が誰もいないことを確認した。
「話がある。家に入らせてもらえないか?」
その言葉を聞いた瞬間、エドは一切の迷いなく返答した。
「……知らない人を入れるなってじいちゃんに言われてるので」
ガチャリ、と容赦なく玄関の扉を閉めにかかる。しかし、それを阻止するように、外から凄まじい勢いで扉がガシリと掴まれた。
「待ってくれ……!」
押し返そうとする腕の筋肉の密度とただならぬ圧にエドは目を細める。これ以上力任せに閉めようとすれば、我が家の頑丈な玄関扉ごとメキメキと音を立てて破壊されかねない。無駄な修繕費を出させられるのはゴメンだ――そう判断したエドは、舌打ちと共に扉を引く力を緩め、渋々ながらも開け直した。
招き入れられる理由も分からぬまま、エドは烏間をリビングへと通し、向かい合ってソファに腰掛けた。そして、そこで告げられた内容は、彼女の想像を遥かに斜め上を行くものだった。
「実は――月を破壊した犯人が、E組で教師をしている。一年後には、地球も爆破するらしい」
「はい?」
あまりの超展開に、エドの口から思わず素っ頓狂な声が漏れた。
「驚くのも無理はないが、全部本当のことだ。そして、E組の生徒には、国の命運を背負ったアサシンとして、アイツを暗殺してほしい。成功報酬は100億だ」
重大な事実を告げる烏間は、続けてテーブルの上に一冊の資料と、奇妙な代物をいくつか並べ置いた。転がされたのは、ピンク色をしたBB弾のようなものと、それをこめる銃。刃の部分が緑色をしたゴム製のナイフだった。
「だが、アイツは普通の銃やナイフが一切効かない。奴にダメージを与えられるのは、この特殊なBB弾とナイフだけだ」
一息にそう説明すると、烏間は真剣な面持ちでエドを見据えた。
「そして、この国家機密の件は、絶対に他言無用で頼みたい」
「…………分かりました」
突拍子もない話ではあったが、テーブルの上に置かれた特殊な銃弾とナイフを眺め、エドはどこか冷めた頭でそれをスッと受け取った。
そうて次の日、エドは学校へと足を向ける。もっとも、これまで通っていたご立派な本校舎ではなく、裏山の奥にひっそりと佇む旧校舎のほうへと。だが、その旧校舎へたどり着くためには鬱蒼とした険しい山道を延々と登らなければならない。
「……パルクールで行きたい」
彼女はパルクールがめっぽう得意で、そんじょそこらの大人など軽く置き去りにする自信があった。しかし、ここで無駄に目立つのは本意ではない。どうせ目立つなら、もっと別の派手なことで目立ちたいという謎のこだわりがある。
仕方なく足で山道を登りきり、そうして旧校舎の職員室で彼女を待っていたのは――。
「はじめまして九条さん。担任の、殺せんせーです」
資料で見てはいたが、生で見るとインパクトが凄まじい。黄色の丸顔に、まるで点のような目、そして関節がどこにあるのか分からない無数の触手。紛うことなき、タコにそっくりな超生物だった。
「よろしく、殺せんせー。あと、九条でもいいけど、エドって呼んでくれると嬉しいかも」
「なるほど……では、エドさん。よろしくお願いします」
あっけらかんと言ってのけるエドに対し、殺せんせーは触手を器用に動かしてふわりと微笑んだ。その後、職員室での手続きを済ませ、ホームルームの時間が訪れる。
「今日はこのクラスに移動してくる在校生を紹介します」
殺せんせー声に合わせ、エドはスライドして教室の戸を開けた。黒板の前に立ち、視線を教室内へと向ける。
「九条エリです。4分の1イギリス人で、運動とかくれんぼが得意。先祖がカリブ海辺りで海賊やってました。あと、エドって呼ばれてたから、そう呼んで。よろしく〜」
どこか投げやりな調子で、エドは適当に自己紹介を済ませた。その言葉の端々に、海賊だのなんだのとやけに香ばしい経歴が混ざっていた気がするが、それ以上にクラスの連中にとって衝撃だったのは、エンドのE組にやってきたのが珍しい『女子生徒』だったという事実そのものだった。
「では、少しの間、質問タイムとしましょう!」
グラウンドに妙な静けさが漂う中、殺せんせーが音頭を取るように触手をパチンと叩いた。その掛け声に背中を押されるようにして、最初に挙手したのは委員長の一人である片岡メグだった。
「じゃあ、私から。趣味って何かある?」
「趣味?パルクールとか……あとは、純粋に身体を動かすのが好きかな」
メグの問いにエドは軽く答える。そのスポーティな返答にクラスが納得しかけた矢先、メグは先ほどの一言がどうしても気になったのか、おそるおそる言葉を続けた。
「えーと、それじゃあ……さっき言ってた、先祖が海賊って話は……?」
「あー、あれ?」
エドは悪びれる様子もなく、平然と言い放つ。
「エドワード・ケンウェイって海賊」
だが、その名前を聞いた周りの反応はイマイチだった。それもそうだろう。現代の日本で海賊の歴史や個別の名前に詳しい中学生なんていたら逆に怖いレベルだ。クラスの面々は「はて?」と首を傾げるか、遠い海の向こうの御伽話でも聞かされたような顔をしていた。
しかし、教壇の端に控えていた殺せんせーの反応は、それとはまったく違っていた。
「ニュヤッ!? エドさん、あなたがあの伝説的な海賊の子孫なのですか!?」
「あれ、殺せんせー知ってんの?」
「ええ、もちろん! とても有名な大海賊ですからねぇ」
殺せんせーは触手をブンブンと振り回す。
「海賊黄金時代末期、具体的にはスペイン継承戦争が終わったあとのカリブ海あたりで大暴れした人物です。なんでも、自身の愛船――ブリッグ船『ジャックドー号』を駆って、生涯に伝説級の強さを誇る難敵を次々と沈めたり、堅牢な要塞を文字通り悉く壊滅させたり、はたまた巨大な戦列艦を相手に単艦で突撃しては叩き潰すのを繰り返したりと……まぁ、史実に残るだけでもめちゃくちゃな強さを持ったお方ですね!」
流れるような殺せんせーの解説を聞きながら、エドは自身の後頭部をポリポリと掻いた。
「じいちゃんたちから聞いてる伝承通りだけど……こうして改めて他人の口から聞くと、やっぱり私の先祖ってめちゃくちゃだな」
呆れたような、しかしどこか誇らしげな笑みを浮かべるエドの姿に、クラスメイトたちは苦笑いするしかなかった。
自己紹介の時間を終え、授業は体育へと移る事になる。グラウンドへ向かう前、女子の更衣室で着替えている最中にふらりと話しかけてきたのは、自分と同じ金髪を軽やかに揺らす中村莉桜だった。
もっとも、エドの髪色は莉桜のような鮮やかなブロンドというよりは、陽光に焼けたような少しワイルドさを残した土っぽい金髪だ。エドは髪型は耳にかかるくらいの長さまで伸ばし、首元ですっきりと短く束ねられている。
「ねぇねぇ、エドだっけ? なにしてこんなとこ来ちゃったの?」
((直球……!))
着替えの手を止めて周囲にいた女子たちは一様に心の中でツッコミを入れたが、同時に、気になっていたのもまた事実だった。そんな周囲の好奇の視線を背中に受けながら、エドは着替えたジャージの裾を整えつつ、あっけらかんと答えた。
「あー、E組を馬鹿にして見下す連中がいたからさ。『E組貶して優越感に浸るしか能がねぇの?』って言い返したらキレられて、乱闘になって全員まとめて叩きのめしたらE組直行よ。まぁ、元々素行不良で煙たがってた教師どもにとっては、追い出す絶好の口実になったってわけ」
カラリと笑い飛ばすように語られる、あまりにも堂々とした素行不良のエピソード。
「……中々濃い経歴だねぇ」
莉桜は呆れたような、どこか面白がるような笑みを浮かべ、面白そうに目を細める。しかし、周囲の女子たちにとってそれは意外な事実だった。本校舎のAクラスといえば、全校生徒の頂点に立つ優秀な成績者たちが集う場所だ。良く言えば頭のキレる連中が多いが、悪く言えばお高く止まっており、人間性はお世辞にも褒められたものではない。
事実、他のAクラスの生徒たちは、何かにつけてE組を分かりやすく侮辱し、見下すのが常だったからだ。そんなA組の看板を背負っていたはずのエドが、どこかサバサバとしていて、案外普通の、あるいはそれ以上にまともな感性を持っていることは意外だった。
もっとも、エドがE組の生徒を見下したり差別したりしなかったのは、他人にそこまで興味がなかったという理由に尽きる。彼女にとってE組だろうがAクラスだろうが「どうでもいい環境の一つ」に過ぎず、クラスという枠組みで人間を測るような真似は端からしていなかったのだ。
それに実際のところ、Aクラスで起きたあのいざこざも、日頃から素行の悪さや圧倒的な異質さを煙たがっていたAクラスの連中が、面白半分でエドを挑発し、見事に返り討ちに遭ったというのが真相だった。
自ら面倒事の種を踏み荒らし、ケラケラと笑うその奔放な気質に、莉桜はどこか同じ匂いを感じ取りながら、ふっと口元を緩めるのだった。
九条エリのイギリス側の名前の設定とか、エドワードケンウェイの子孫設定ですが...まあ深く考えないでください。
一応子孫の考えた設定としてはヘイザムがジェニファーを助け、彼女はその後結婚し充実した生活を送り孫も生まれその生涯を終えるが、その孫がエドワードケンウェイ並みの野心家であり、大物なることを夢見ておりその第一歩として、伝説の大海賊であった自身の祖父の性である「ケンウェイ」を勝手に継承。その姓によりテンプル騎士団と対峙する事に...って感じですが、ガバガバなんで、気にしないでください。