意味深に助言を送る見た目だけミステリアス女、弟子が大成して大汗をかく 作:ミスジョ
私がこの世界に転生したのは、今から十年前。
前世の死ぬ前後の記憶は定かではないけど、多分死んだんだよな、という自覚だけがある。
生まれ変わった時は、いきなり謎のミステリアス女になってびっくりしたものだけど。
割とすぐに馴染んだ。
よくある異世界であるこの世界には、冒険者とギルドとダンジョンがあって。
私はぬるっと、冒険者としての人生を選ぶこととなる。
他に選択肢もなかったし、やってみたらこれが気楽でなかなか都合が良かったからね。
見た目のせいでやっかみがあったり、色々と面倒事もあったけれど、数年もすれば一端の冒険者として名が知られるようになっていた。
実力は確かだし、見た目がいい。
さらにはAランクで、戦い方も結構派手。
とくれば、まぁ有名になるのも自然な成り行きだ。
ついた二つ名は幻影のミルシア。
由来は私の戦い方が一番大きいのだけど、他にもある。
私の見た目があまりにも詐欺だったからだ。
こんなミステリアスな見た目をしておいて、やってることはただの冒険者と同じである。
酒のんで、ギャンブルして、女は買わないけど自堕落には変わりない。
ミステリアスな見た目は見た目だけ。
見た目だけ残念女に、第一印象の幻影を叩き壊されるから。
だから、幻影のミルシア。
まぁ我ながら何とも言えない二つ名だけど、ダサくないからよしとしよう。
そんな私の一番の趣味は、なんといっても初対面の相手に擬態すること。
意味深なミステリアス女であるとみせかけて、からかうのだ。
無論、向こうにとっても悪いようにはさせないよ。
私には人を見る目があるからね。
もっと言うと、魔力を通して相手の魔力を感じ取る能力に長けているのだ。
これをつかって、からかう代わりにちょっとだけ才能を開花させてあげているわけだよ。
だからまぁ、私が勝手に弟子扱いしていた相手が、私を師匠だと思っているとはこれっぽっちも思わなかったんだ。
特にリシェーラは、私が適当言いまくってるのに、いつも呆れた視線を向けていた。
それなりに長く一緒にいたけれど、向こうの認識は「ちょっと変な先輩」くらいのものだと思ってたんだけどな。
それがどこをどうしたら、お師匠様だなんてことになるんだ?
いや、そりゃあ慕ってくれる分にはうれしいよ?
実際、リシェーラだってなんだかんだいいつつ、私についてきてくれていたわけだし。
でも二人で顔を合わせてる時はずっとミルシア先輩呼びだったじゃん。
先生って呼んでくれなかったじゃん!
それはそれで、私は少しショックだよ!
○
――なんて衝撃の事実が発覚し、一夜明け。
私は冒険者ギルドへとやってきていた。
「あ、おはようございますお師匠様」
「お、来たな、お師匠様。いやぁ、めでたい話だなぁ」
「あ、お師匠様!」
すると、スタッフやら、知り合いの冒険者やら、最近目にかけている若い子だとか。
色んな人が私のことを、「お師匠様」と呼んで来た。
「――からかってますよね?」
「バレたか、逃げろ逃げろ!」
「お仕事にもどりまーす」
こいつら!
話が広まりまくってるのは、ほぼ間違いなくベルドのせいだ。
あのおっさん、とにかく耳が早いんだ。
おまけに愉快な噂を広めるのが好きで、今回みたいな状況になると即座にギルド中で話題が広まる。
私が冒険者になったころからあんな感じのおっさんだったけど、私よりあいつの方がよっぽど妖怪だ。
「うーむ、それにしても落ち着きませんね……」
「あ、えっとお師匠様……」
「あー、ルルちゃん、お師匠様っていうのは皆さんが勝手に言ってることですから、好きに呼んでいいですからね」
「えと、じゃあ……お師匠様……」
で、残った新人の若い子の頭をぽんぽん撫でつつ、適当に椅子に腰掛けて嘆息。
ちょっと背の高い椅子なので、座っても背の低いこなら頭をなでるにはこまらない。
うーん、落ち着く。
「ルルちゃんはいい子ですねぇ、私のことをお師匠様って呼んでくれるなんで」
「んひゃあ!」
「いい子は一杯撫でてあげましょう、その分どんどん育つんですよー」
くしゃくしゃ。
若い女の子をこうやって愛でることができるのは、ミステリアス女の面目躍如だ。
なんて気持ち悪いことを考えつつ、とりあえず今日の予定を考える。
なんかこう、仕事はしたくないけどお金とやりがいが欲しい気分だ。
とすると、趣味に生きるのがいいだろう。
「そうだ、せっかくですから今日はルルちゃんの冒険に同行させてもらってもいいですか? 何か教えられることもあるかもしれません」
「ほ、ほんひょうれすか!?」
「落ち着いてください」
抱えたまま撫でつつ話すと、嬉しそうにルルちゃんは笑みを浮かべる。
「――じゃあえっと、ダンジョンの深部に潜りたいのれすが」
「え、深部!?」
「は、はひっ」
――深部!?
上層部じゃなくて!?
ルルちゃんは、二ヶ月前に冒険者となったばかりの新人だ。
新人になったその日から、適当扱いて弟子扱いしている私にしてみると、あまりにもルルちゃんの進行速度は速すぎる。
他にパーティとかいるわけでもないソロで、深部ともなると相当な実力がないと不可能だ。
最低でもCランク、ソロでもぐるとなればBランク程度の実力は必要になる。
初期ランクはFだぞ、そこから二ヶ月でBランクは強すぎだ。
「あ、いえ、えと、流石にまだ一人で深部を潜れる実力はないれすけど……お師匠様と二人なら……って」
「あ、ああ……なるほど。ちなみに今のルルちゃんのランクはどれくらいですか?」
「え、えと、……Cランクれす」
「それでも十分すごいですよ!」
ええびっくり、私が適当言ってる間に、ルルちゃんそんな成長していたの!?
これはなんというか、ルルちゃんの才能が恐ろしいわぁ。
というか、若い子ってすぐ成長しますのんね。
「そ、そんなことないれすよ! だ、だって……私、お師匠様の言うことを聞いてただけれすし……」
「え、いやいや、私の言ってることなんて半分は適当だって、ルルちゃんわかっているでしょう?」
「あうう……で、でもでも……つまり半分は正しいんれすよね? だ、だから私……その半分を聞いて頑張ったんれす」
お、おおう。
なるほど、それは……なるほど?
人によって差はあれど、人には適正というものがある。
特に冒険者として生きていくなら、自分にあった武器や戦い方を知ることは何よりも強さへの近道だ。
私はそれを、なーんとなく知ることができる。
これを相手に伝えれば、後は勝手にその子が強くなってくれるはず。
という方針のもと、基本的な部分を教えて、後は野となれ山となれの精神で私は弟子と関わってきた。
ルルちゃんだって、それは変わらない。
そんなルルちゃんが、気がつけばCランクにまでなっていたのだ。
ここから言えることは、三つ。
「ルルちゃんは頑張り屋さんですねぇ」
「あうう……ありがとうございますれす……」
わっしゃわっしゃ。
一つはルルちゃんが努力家であるということ。
もちろんこれが大前提だ。
でなければ、どれだけ私が目をかけても、人はそうそう大成できない。
だが、努力することができる人間ならば――
少なくとも、私はルルちゃんに他の弟子(仮)と変わらぬ指導をしてきた。
半分は適当で、半分は理にかなっている。
幻影のミルシアにふさわしい、幻惑っぷりで。
そして三つ目、ようするに――あれだ。
私はぶっちゃけ、あまり弟子の活動を注視していない。
だって適当に師匠ヅラできればそれでよかったんだもの。
だから、きっと、多分――
――私の知らない、すごい弟子は、まだまだ他にもいるはずだ。
まぁ、大抵は私のことなんで過去のことにしてしまっているだろうけれど。
中には、リシェーラみたいに慕ってくれている子もいるかもしれない。
そうなった時、今後果たしてどうなってしまうのか。
私には、さっぱり見当がつかないのだ。
割と人でなし――!