意味深に助言を送る見た目だけミステリアス女、弟子が大成して大汗をかく 作:ミスジョ
――ルルは、落ちこぼれだと言われ続けてきた。
計算は苦手だし、字もかけないし、変なところでおっちょこちょいなミスをする。
親からも、周囲からも、期待されずに育ってきたのだ。
そんなルルには、それでも夢があった。
冒険者になるという、周囲からすれば無理に決まっているだろうという夢が。
それでも周囲の反対を押し切って冒険者になったのは、ある人物の発言がきっかけだ。
「――安心してください、あなたには間違いなく才能があります。あなたの才能は、まだあなたが気付いていないだけなんです」
もうずっと昔、まだルルが幼かった頃。
一人の冒険者に言われた言葉だ。
後にその冒険者は幻影のミルシアと呼ばれ――ルルはその冒険者の弟子になった。
というか、その冒険者が自分の街のギルドにいるから、反対を押し切ってでも冒険者になろうと思ったのである。
そして冒険者になって初めて見たミルシアは――
「ういー、もっとおさけもってきてくださーい」
酒に溺れていた。
派手にギャンブルで負けてしまったかららしい。
かつて、あんなにも神秘的でミステリアスだったミルシアが、こんな風になってしまうなんて。
ルルは大いにショックを受けたものである。
そして翌日、昨日の惨状をルルに見られていると気づかなかったらしいミルシアは、かつてと同じミステリアスな雰囲気でルルにアドバイスを送ってきた。
まぁ、ルルに昔アドバイスをしたと気づかなかったし、昨日のアレを見れば千年の恋も覚めるレベルだったが。
それはそれとして、ミルシアのアドバイスは的確だった。
ルルは魔力の量が他人よりも非常に多い。
ついついうっかり物を壊してしまっていたのも、魔力の制御ができていなかったからだ。
何より、ルルには天性のセンスがあった。
魔物と相対すれば即座にその弱点を看破し、最適な戦い方を導き体がそのとおりに動き出す。
はっきり言って魔力はあくまでルルにとっておまけ、本質は間違いなくこちらの方である。
こんな才能、普通に町娘として生きていれば気付くはずもない才能だ。
ルル自身の性格が引っ込み思案で、戦いなんてろくにできそうにないのも大きい。
加えて言うと、ルルの才能は対人だとまったく発揮されないのである。
仮にちょっと剣の稽古を受ける機会があったとしても、気付くことはないだろう。
少なくともルルは、十二で冒険者になるまで、自身も周囲も一切気づかなかった。
ミルシアだけが気づけたのだ。
そんなミルシアが、ここ最近世間を賑わす英雄の師匠であるという話がルルの元へと舞い込んできた。
脳が破壊された。
私だけのお師匠様じゃなかったんれすね……(ゴゴゴゴゴ)。
直後、やっぱりミルシアは凄かったのだというドーパミンで脳がととのった。
それはそれとして、ミルシアはろくでもない人だけど、とんでもない人でもあったのだ。
本人はそんなの知らないというけれど、絶対もっといっぱい被害者はいる。
なんだったら、ここ数ヶ月はルルを気に入って構っているだけで、街の中にもミルシアの”弟子”は多い。
既に旅立って各地でその名を轟かせている者の方が多い、というだけで。
だが、ミルシアの凄さはそんなものじゃないのだ。
本人もまた、とんでもないのである。
『じゃあ、行きましょうかルルちゃん』
「はいれす、よろしくです。わくわく」
――ダンジョンでのミルシアは、宙に浮いていた。
なんなら少し光っている。
これだけなら、その神秘的な見た目も相まってまるで妖精かなにかのようだ。
ただ、その戦い方は一言で言うと――横着の極み。
『連携については、相談通り私が前衛も後衛もやる、でいいですよね?』
「お願いしますれす」
今回は、ルルが深層でもやっていけるかを見るためのダンジョン探索だ。
まだ一人で深層を潜るにはルルの実力は心もとない。
しかし他にパーティメンバーが入れば大丈夫。
そのうえで、前衛にも後衛にも合わせられたら、ルルは誰とでも深層に潜ることができるだろう。
ただ一つ言うことがあるとすれば、一人で前衛も後衛こなすってどういうこっちゃという話。
そしてその答えは、非常に単純だ。
『――”イリュージョン”』
ミルシアが魔術を起動する。
それはミルシアが自身で開発した固有の魔術。
おそらく世界で、ミルシアだけが使える魔術だ。
一言で言うと、効果は――
『では、任せましたよ”幻影の私”』
自分の幻影を作り出すこと。
彼女の二つ名の由来と成った魔術だ。
現れたのは、光の剣を手にしたミルシアと、光の杖を手にしたミルシア。
どちらも半透明で、少し光っている。
複数に増えたミルシアに、ルルはなんだか変な気分になった。
幸福すぎてむずむずするというか……なんというか。
ともかく、合計三人のミルシアに囲まれて、幸せな気分でルルはダンジョンを進む。
「――魔物れす!」
『気をつけてくださいね、ルルちゃん』
それからルルとミルシアは、魔物を倒しながらダンジョンを進んだ。
深層というだけあって、普段ミルシアが活動している上層や中層と比べると魔物が手強い。
しかしミルシアが的確に援護を加えることで、ルルが気兼ね無く動けているため苦戦はしない。
どころか、かなり余裕を持って倒すことができていた。
ルルの動きを可能な限り邪魔しないよう、機動力重視に剣のミルシアが動き回り、的確に足などの部位を狙って弱らせていく。
杖のミルシアは光属性の魔術を放ち、動き出そうとする敵の行動を的確に阻害していく。
この魔術は味方にぶつかっても痛くない、地味にとんでもないことをしているとルルは思う。
それはそれとして――
「やあ!」
『頑張ってください、ルルちゃん』
――――それらを生み出したミルシアは、何もしていない。
何もしてないのだ。
まったく、何一つ。
ただ宙を浮かんで横になりながら、戦闘を観戦しているだけ。
ほんっっっっとうに、ひとっっっっっっつも行動を起こさない。
すごい、もう少しこう……指揮とかするものじゃないのだろうか。
話には聞いていたけれど、幻影のミルシア恐るべし。
ここまで来ると、逆に尊敬ポイントがルルの中で溜まってしまう。
「いっぱい頑張ったれす」
『いやぁ、ルルちゃんはすごいですねぇ。世の中には天才と呼ばれる人が数多くいますけど、ルルちゃんはその中でも別格ですよ』
「……となりに、もっととんでもない人がいるので、あんまり実感わかないれす」
『え、どこどこ? 気になりますね、味見していいですか?』
ミルシアは鈍かった。
この鈍さで、一体どれほどの人を弄んできたのだろう。
罪深い……
が、そんな罪深いミルシアにも、鉄槌がくだされる時が来た。
「あ、お師匠様、あぶないれす」
『へ?』
――後方から突っ込んできた獣型の魔物が、宙に寝そべるミルシアを一撃で消し飛ばしたのである。
「お師匠様ー!」
流石にまったく反応できないとは思わなかったので、ルルもびっくりした。
仮にもAランクの冒険者だよなこの人? と思うも後の祭り。
ミルシアは完全に、その場から跡形もなく消失してしまったのである。
――直後。
『――――びっくりしました』
先程までは、一切喋らなかったというのに。
そして直後、ミルシアを消し飛ばした魔物の周囲に無数のミルシアが出現し始める。
『びっくりした仕返しに、ボコボコにしてあげましょう』
突然のことに驚愕する魔物は、無数のミルシアが同時に発射した魔術を受けて消滅するのだった。
――そう。
先ほどから、ミルシアの声には若干違和感があった。
まるで通信越しに話しているかのような。
それもそのはず。
恐ろしいことに、あるいはあり得ざることに。
本物のミルシアは、今もギルドか自室でゆっくりしているはずだ。
幻影に意識だけを飛ばして、ここにいる。
なんと恐ろしいことに、ミルシアは”イリュージョン”の魔術を開発してから、一度も生身でダンジョンに潜ったことがない。
近場で済ませられる依頼なら、外での依頼も幻影がこなしてしまう。
冒険者は危険を伴う職業だが、これならミルシアは誰よりも安全な冒険者と言える。
しかし、その本質は完全に横着。
楽がしたいからこうしているだけという、あまりにもあまりな理由でミルシアは、幻影魔術を開発したのだ――
あまりにも横着。