意味深に助言を送る見た目だけミステリアス女、弟子が大成して大汗をかく 作:ミスジョ
ルルちゃんとの探索を終えて、考える。
このあとどうしよう。
リシェーラは私を師匠だと言って憚らないらしい。
多分だけど、そのうち私のところまでやってくるだろう。
そもそも今私が活動しているこのステミアの街は、リシェーラの故郷なのだから。
当然、凱旋のためにやってくるはずだ。
私がいても、いなくても。
――逃げる?
いや、流石にそれはどうかと思う。
というか、私は適当にやっているだけでそこまで悪いことをしているわけじゃないのだし、逃げる必要はない。
ないはずだ、ないと言ってくれ。
だからまぁ、とりあえずリシェーラに関しては、向こうがやってくるのを待てばいい。
その間にどんな準備をするかっていうと……多分、必要ないんじゃないかな?
今更取り繕ったところで、私がやらかしてることに代わりはないだろうし。
リシェーラだって、取り繕った私を見たいわけでもないだろう。
自然体、自然体でいいのだ、こういうのは。
だから問題は――それ以外。
リシェーラが英雄に成ってから私を師匠だと公言したことで動く、第三者の存在だな。
この世界、競馬があることからも想像できるかもしれないけど、普通に文明レベルがそこそこ高い。
タイプライターとか新聞とかも、普通にある。
中世というよりはどっちかというと近代的なイメージが強いかな。
ようするに、厄介なパパラッチ的な存在がやってくる可能性があるのだ。
私はああいうのがとにかく苦手なので、できればお引き取り願いたい。
偏向報道をされるというのもあるけれど、必要以上に目立ちたくないのだ。
私は基本的にダメ人間なので、想定していない方向で名前を知られたくないのである。
もういっそ、リシェーラが帰ってくるまで引きこもってぬくぬくしてようかなあ、なんて考えも起きてしまう。
なんて思いつつ、実際にやってくるまでは適当に過ごしていたのだが。
どういうわけか、話は想定外の方向に動いていた。
○
「やっと……やっとお会いできました……貴方があのミルシアさんなのですね!」
「ええと申し訳ないですが……”どの”ミルシアさんですか?」
昼のギルドの食堂、優雅に昼食を取っていた私の元に、その人物はやってきた。
如何にも記者って格好の、ハンチング帽っぽい帽子を被ったセミロングの茶髪の女性。
そんな、私にはじめて会いに来た記者は、感動で瞳を潤ませながら懇願するようにこちらを見上げてきた。
直感的に察した。
――これ、リシェーラの話じゃねぇ。
仮にもリシェーラの師匠としての話を聞くためにここまで来たなら、こんな態度にはならないと思う。
かといって、私にこんな態度をされるようなことをした覚えはない。
だって私が面倒を見るのは基本冒険者だけだし、例外と言えば――
「あの! 醤油やマヨネーズを開発したという!」
そっちか――――
異世界転生の定番、醤油とマヨネーズ開発。
私もやりました。
この世界は文明レベルが高いとは言え、まだまだ現代には程遠い。
こういう調味料がないと、調味料漬けにされてしまった私の下は満足できないのだ。
塩! 胡椒! 醤油! マヨネーズ!
だいたいこの四つがあれば、現代人でも異世界で満足できる料理が作れるはず。
だから作った。
否、それは正確ではない。
「――
「えっ!?」
だって、作り方とかわからないし。
味となんとなーくこういう感じでできているという基本的なアイデアしか私にはないのだ。
そもそも前世とこの世界では、食材は同じでも名前が違うとか、名前は同じでも微妙に味が違うとかよくあるし。
繊細なそういう機微に私は詳しくない。
全体的に雑だからね。
ようするに――
「
「そ、それは……」
私の観察眼を、そういうところで使ったと言うだけの話だ。
とはいえ、流石に冒険者の才能を見抜くよりは苦労したけど。
なんたって料理の腕以外にも、知識も重要だからね。
そこら辺を理解して、私のアイデアだけで正解に辿り着けそうな人を私はじっくり探したのだ。
「……ですが、ズータからお聞きしました。貴方こそが、醤油を生み出した
「ズータさんって、あのズータさんですか? いや、確かにあの人にはアイデアを話しましたけど、完成させたのはズータさんで、それ以降醤油を広めているのもズータさんですよね?」
私が醤油についての話をしたズータさん、現在は故郷の街で料理人をしているんだったかな?
今から何年も前、私がふらりと大陸を旅していた時のことだ。
醤油とマヨを作ってくれる人を探したり、面白そうな才能の持ち主を探すためにふらふらしていたのである。
というか、ズータさんの事を呼び捨てする辺り、あの人と結構親しそうだな、この記者さん。
「……というか、貴方は? さっきから名前も聞かずにお話してますけど」
「あ、し、失礼しました! 私はリンダと申します。各地の料理を紹介する記事を書いています」
「ほぉ、グルメ記者さんですか」
「――――っ!!」
あ、なんかびしゃーん、みたいな効果音が聞こえる。
「そ、それです! 今まで具体的にどういう肩書で名乗るかピンと来ていませんでしたが、グルメ記者……いいですね!」
「そ、そうですか……」
それはよかった……
と、とにかく。
「ええと……ズータさんとはどういうご関係で?」
「幼馴染です! ミルシアさんが私たちの故郷に滞在している間は、王都で学生をしていたのでお会いすることはありませんでしたが。あいつから聞きました、ミルシアさんこそが救いの女神だと!」
「は、はぁ……」
確かに、あの頃のズータさんは実力こそあるけど、まだまだ駆け出しで店がまったく繁盛していなかった。
そこを私が偶然……というか、鼻を効かせていたタイミングで通りかかって、料理を食べてこれなら行けると判断したんだ。
「王都でリシェーラ様のお話が広まって、私も幻影のミルシアがあのミルシアさんであると気付いたのです」
「なるほど……」
――しかしこれ、アレだな?
料理に関して、一番大きいのは醤油とマヨネーズだ。
アレが私にとっても、最大の収穫だった。
今では各地でこの二つは広まり、オーソドックスな調味料として親しまれ始めている。
まだまだどこでも食べれるわけではないし、地域によっては材料を手に入れるのが大変で高価な食材だったりすることもあるが、それでも。
これらを作った料理人の裏に私がいることは――結構バレるな?
「そ、そこで! ぜひともミルシアさんにお話を聞きたいのです! 貴方のアイデアは、一体どのように思いつかれたのですか!?」
「い、異大陸の書物です……極東の……遠い……」
うおお、顔が近い。
とりあえず、これまで何度も言い訳に使ってきた極東の島国くんを理由に上げつつ、思う。
どうしよう。
本当なら、もっとゴシップに興味のある記者が押し寄せてくると思っていた。
しかしリシェーラの話を聞いてから数日、その様子は一切ない。
というか、私は耳が遅いからリシェーラが私を師匠といい始めたのはもっと前のはず。
なのに耳の早いゴシップ記者が来ることはなく、別の理由でグルメ記者がやってきた。
これ、なんというか……色々理由がありそうだけど、アレじゃない?
料理のアイデアを教えた相手に、私は普通に名前を名乗ってる。
もしかしたら、他にも名前が広まる要因もあるかもしれない。
その時に、リシェーラが出した名前と繋がったら。
私は私の想定以上に、いろいろなところから認知されているんじゃないか?
――なんて、思わなくもない。
なお、リンダさんは私があまりめだちたくない、というと今回の話を記事にしないことを約束してくれたし、異大陸の知識であるということ以上の内容まで踏み込んでこなかった。
こっちを慮ってくれる。
いい人……
思いっきり褒めた時のルルちゃんや、醤油が完成した時のズータさんみたいな瞳で私をみているのは、気づかなかったことにしておこう。
転生者の必須事項、醤油マヨ開発。
なおやり方。
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