意味深に助言を送る見た目だけミステリアス女、弟子が大成して大汗をかく 作:ミスジョ
私には消えない罪がある。
あ、脳を焼いたことじゃないです。
そっちは罪だと思ってないです。
超楽しかったです。
やめて石を投げないで!!!!!
こほん。
私の罪は非常に単純だ。
この世に悪魔を、好奇心で生み出してしまったことである。
「――そのまま! そのまま!」
「差せ! 差せ!」
「三着でいい! 三着でいい!」
あの後、意気投合したリンダさんと二人で競馬場までやってきた。
長閑な風景の中で、風を切って駆ける優駿達。
競馬場の雰囲気はどちらかというと現代日本のそれというより、西洋風のそれに近い。
まぁそりゃそうだ、まだ文明的にあんな感じのちゃんとした施設ができるってことはないんだから。
加えて言うと、そもそも競馬の発展だって西洋みたいな感じだしね。
どこまでも広がる草原に作られた競馬場で、私とリンダさんが馬券に夢中になっていた。
「ああああああーーーー!」
「ああああああーーーー!」
そうして二人とも崩れ落ちる。
はい。
「……惜しかったですね」
「うう……行けると思ったのに……」
「というか、リンダさんって結構お好きなんですね、競馬」
「王都でも流行ってるから……まぁ、嗜み程度……うん」
「あ……」
アレから、仲良くなったのもあってリンダさんはタメ口で話すようになってくれた。
私はデフォが敬語なのでそのままだけど。
というか、十年経っても女性っぽい口調は恥ずかしいんだよ。
いいじゃないか、敬語なら色々ごまかせるんだから。
それはそれとして、リンダさんは結構なギャン中ですね、間違いない。
「とりあえず……帰りましょうか……」
「うん……」
何にしても、今日のメインレースはこれで終わりだ。
私たちは互いに肩を組み慰め合いながら、出口へと向かう。
今日はやけ酒だ。
勝ったら祝杯のつもりだったのになぁ。
なんて思いつつ。
競馬場における、ごくごくありふれた風景である。
そこに――
「――おや、ミルシア様ではないですか。お久しぶりですな」
不意に、声をかけられた。
上品な雰囲気の老人だ。
貴族っぽいスーツ姿で、年はそろそろ七十近いはずなのに背筋がビシッとしていて、風格がある。
思わず、隣で肩を組んでいたリンダさんが、バッと飛び上がってしまったくらいには。
「え、え、ええ……あの、ミルシア……さん?」
「……お久しぶりですね、グラハット卿。こちらの競馬場に来るのは珍しいのでは?」
「や、やっぱり、あの!?」
「ご機嫌麗しゅう。そちらのレディも、わたくしはレゾン・グラハット。グラハット家の元当主でございます」
「ひぃ! あ、そ、その……!」
庶民のリンダさんは、完全に萎縮してしまっている。
そりゃそうだ、相手は侯爵貴族なのだから。
今は一線を退いているとはいえ、かつてはこの国の宰相を務めたこともある傑物だ。
私としては、この人に対する印象はアレなのだけど。
「あまりリンダさんを脅かさないでください、グラハット卿。人目のつくところで声をかけてくるのもやめてください。注目が集まるじゃないですか」
「んぅ、ミ、ミルシアさん……い、いくらなんでもそれは不敬なのでは……?」
「まぁまぁ、お気になさらずリンダ嬢。私とミルシア様の仲ですから。どうです? この後、最終レースをともに観覧しませんか? 個室を用意しておりますよ」
「ふむ……まぁ、そういうことであれば、リンダさんはどうです?」
「え? あ、ひゃい! いひまふ!」
あ、これは断れなかったな。
なんかごめんなさい。
でもきっと大丈夫だから安心して。
なぜなら――
「ああああああーーーー!」
「ああああああーーーー!」
「ああああああーーーー!」
――私たちはその後、三人でグラハット卿が用意してくれた個室に向かい、全員まとめて馬券を外して崩れ落ちた。
「なぜ! なぜわたくしはサーキット騎手を信じてしまったのです……! 彼を信じるなとあれほど……!」
「わかります……非常に解りますグラハット卿……!」
「そっか……同類なんだ……私たち……」
はい。
そう、グラハット卿はギャン中である。
雰囲気はともかく、やってることはベルドさんとあんまり変わらない。
酒とつまみを手に馬券を握りしめ、外したら崩れ落ちるどこにでもいる普通のおっちゃんだ。
リンダさんも、馬券を外す頃には完全に私たちに馴染んでいた。
というか、割と環境適応能力が高いな、この人。
私に対してちょっと怪しい視線を送っているタイプとしては、かなり私に適応している。
「ふう……少し盛り上がりすぎてしまいましたな。それで、ミルシア様。ものは相談なのでございますが……」
「申し訳ありませんけど、私はなるつもるはありませんよ」
「え、えっと……お二人は何の話を?」
「いえ、何。単純な話です」
グラハット卿は、にこやかな笑みで言う。
「――
そう、これは少し前から何度もグラハット卿に打診されていることだ。
私は仮にもAランク、収入に関してはかなり安定していて馬主になることは難しくない。
馬産振興のためにも、馬主としてキャッチーな人物を引き込みたいという狙いがグラハット卿にはあるようだ。
「興味はありますよ? でも、ダメです」
「え、なんで……? ミルシアさんの観察眼なら、強い馬を選び放題じゃ……」
「選び放題
――私は競馬をする時、馬の様子は基本みないようにしている。
血統だとか、馬柱だけを見て予想を立てるのだ。
見れば一発で、馬の状態が解ってしまうから。
流石にそれだけで予想を完全に的中させることはできないけれど、的中率は確実に跳ね上がるだろう。
「それでは楽しくありません。私は常に、ギャンブルを楽しむ立場でありたいのです」
「な、なるほど……」
「やはりそうですか……わたくしとしては、ぜひともそのお力をお借りしたいのですが……」
まぁ、グラハット卿には申し訳ないけれど、ここは諦めてもらう他ない。
「……ですが、逃がしませんよ。貴方は、
「…………っ」
「え、ええと……?」
「いずれ必ず、貴方を馬主にしてみせます。ミルシア様……!」
くっ……やはりグラハット卿も諦めるつもりはないようだ。
今日はここで引き下がってくれるようだが、果たしていつまでこの状況を続けられるか……
その後、グラハット卿は用事があるということでスタッフに呼ばれて、部屋を一度後にした。
残ったリンダさんが、私に問いかけてくる
「……あの、聞きたいんだけど。消えない罪って……」
「ああ、やはり気になってしまいますか」
「確か……私の記憶が正しければ、グラハット卿ってとても公明正大な方で、真面目一辺倒な方だったとお聞きしているのだけど」
「ええまぁ、昔は鬼のレゾンとか、人の形をした鋼鉄の壁とか言われてたそうですね」
「……それをギャンブルにどっぷりさせちゃったわけだね……そりゃ罪って言われるよ……」
「あ、いえ、罪はそっちじゃないですよ」
そうなの? とリンダさんが首を傾げる。
まぁ実際、堅物だったグラハット卿をギャン中にしたのは事実だ。
でも、そのことに関して私は現当主の息子さんから感謝されたりしている。
曰く、仕事以外に楽しみなんてほとんどなかった父に引退後の楽しみを教えてくれたから、とか。
というか、私もそうだけどグラハット卿も持ってる資産を考えたらちょっとくらい競馬で散財しても何も問題はないしね。
だから、罪というのはもっと別のところにある。
「じゃあ何が罪なの?」
「えーと……」
別に隠してないから言ってしまうんだけど、言うとだいたい同じ反応をされる。
具体的には……
「三連単を提案しました……」
「おまえー!!」
はい。
反省はしていますが後悔はしていません。
三連単のない競馬は競馬じゃないよ!!!!!
おまえーーー!!!