今回は苦手な戦闘描写が大多数を占めています。
修行だと思ってがんばります。
『警告・六時の方向 熱源反応・距離300』
「くっ!」
狭く、暑苦しいコクピット内。けたたましく鳴り響くアラートと、AIのキンキンした合成音声に従って修二はペダルをいっぱいに踏み込み、前方に転回した。
すると、それまで修二が駆る神機・ジークフリートが立っていた場所に雷が轟音を立てて落ちた。
『大丈夫か、修二君?状況を報告しろ』
コックピット内に大きく響くアラートに隊長の声が割り込んできた。
関節各部、動力系、異常なし、センサー系に程度Cの損傷あり。…まだいけるな。
修二はいまだに鳴り響いているやかましいアラート音をキャンセルしながら、機体各部の損傷チェックを済ませた。
『敵機撃墜後、新手の襲撃を受けました。センサー系に少しダメージがありますが、大丈夫です、まだいけます』
『よし、三十秒で合流する。それまで持たせろ。各機、ポイントアルファに集結。メインディッシュのご登場だぞ、気合入れろ!』
『了解』
『あーと、隊長。どう頑張ってもわたし合流まであと二分はかかるんですけど。敵機相手にしてますんで』
隊長の号令の後に、玲音の凛とした声が続く。遅れて莉音の声が続くが、今日はいつもとは違ってどこか焦燥感を含んだ声だった。
『わかった。ではなるべく早く追って来い。料理は残しておいてやる』
『あーい、了解でーす』
莉音の声を最後に通信は切れた。修二は全神経をモニターへ向ける。
『まさか俺が前線に引っ張り出されるとはな…』
腹の底に響くずっしりとした声が、直通回線でジークフリートのコクピットに響いた。そして、雷が巻き起こした煙の中から声の主が姿を現した。
がっしりした装甲板に真紅の飾り布。雷をまとい、音もなく空中を移動するその機体は間違いなく敵リーダーの神機・ゼウスだった。
『そんな地を這うことしかできない惨めな機体で私のチームを壊滅にまで追い込むとは、ひとまずは褒めておいてやろう。しかし、俺が出たからには貴様たちの勝ちの目はなくなった』
『お褒めにあずかり光栄ですが、上から見下して勝った気になるのはまだ早いのでは?窮鼠猫を咬むって言葉知ってるか?』
まずはお互いに言葉で牽制をし、徐々に戦闘態勢に移っていく。ジークフリートは背中にマウントされている唯一の武装である大剣『バルムンク』を構え、ゼウスは腕を大きく開き、雷を収束させ始めた。
『ふん。覚悟しろ、越えられない壁というものを教え込んでやる』
『そっちこそ、龍をも断った英雄の剣、しかとその身に刻むがいいさ』
持って回った言い方だな、と修二は言いながら自分で思った。
※※※
「キミが修二君だな?折り入って頼みがある」
さかのぼること修二がいつもと同じ昼休みを迎えていると、一人の男が突然修二に声をかけてきた。
男の胸のバッジは緑色で、男は一目で二年生だなとわかった。
「僕は坂田俊憲という」
「はぁ…。で、坂田さんは僕に何を頼もうって言うんですか?言っておきますけども、金銭面でしたら僕今一文無しですからね」
修二は突然やってきた先輩をジト目で見ながら紙パックの飲み物を啜った。
「いや、別に金をたかろうってわけじゃないんだが…まぁ少しは金も使うことになるか」
「あれ?修二、お客さん?」
買出しから帰ってきた耕治たちが俊憲を見て修二に聞く。
「ああ、うん。こちら坂田さん。なんか僕に頼みがあるらしくて…」
「あ、そうですか。じゃあ俺たち席外しましょうか?」
「いや、別にかまわないよ。というか今回君たちにも協力してもらうことになると思うから、一緒に話を聞いて欲しい」
拓が気を遣って席を立とうとすると、俊憲はそれを制止した。
一拍置いて俊憲は口を開いた。
「君たちは『装甲機神』というアーケードゲームを知っているか?」
「あぁ、ゲーセン行くと見るっスよ、あれ」
椅子の上に胡坐をかく形で座っている耕治は、人差し指を立てて言う。
装甲神機とは、世界各地の神々ををモチーフにしたロボットを操り、相手と戦う対戦型のアーケードゲームである。一対一から、チーム戦まで幅広い遊び方をすることができるのだ。
「面白いんですか?」
更科は首をかしげながら拓に聞く。
「ああ、おもしろいよ。だけどべらぼうに難易度が高い」
「耕治なんてデビューしようとしたらまともに操作できなくて、あっという間にやられちゃったもんね」
修二が付け足すように言うと、耕治はばつが悪そうに頭をかいた。
「知っているなら話が早い。僕はあのゲームであるチームのリーダーをやっているんだ。コツコツ勝利を重ねてきたことで、最近ようやくランカー戦にエントリーできるようになったんだ」
「ランカー戦ってなんですか?」
「ランカー戦っていうのは、そのゲーム内での戦績がいい人たちが直接戦ってどちらが強いかを決める対戦のことだよ」
ゲームに疎い更科が聞くと、修二は丁寧に教えた。
「そのランカー戦なんだが、私たちのチームは最近成績が良くてね。今のところ無敗のチームなんだ。…それで少々目立ってしまったらしくてね、今度の日曜日にほかのチームから対戦を吹っかけられたんだ」
「なるほど、それで僕たちに助っ人を頼みたい…と。アレ?でも坂田さんのチームのメンバーさんはどうしたんですか?」
「最近あいつら彼女ができたらしくて…ね、最近集まれてないんだよ…。…まことに恥ずかしいことなんだが、僕は彼女がいないから一人寂しくゲーセン三昧さ…」
修二の質問に答えた俊憲は遠い目をして答えた。その様はどこか物悲しさを感じずにはいられないものだった。
「…グスッ。それで君たちに来るべき決戦の助っ人を頼みたいというわけなんだが…やってくれるか?私を救えるのは君たちしかいない!」
泣いてる…。
ポーズを決めながら修二たちを指差したまでは良かったのだが、その目には涙が溜まっており、とても微妙な空気がその場を包んだ。
「まぁ、僕らでいいなら協力するのもやぶさかではないですけど、僕らみんなそのゲームに関しては素人ですよ?」
「ああ、その辺は全く心配していない。前に君たちがゲームセンターでゲームをやっているのをたまたま見かけてね。みんなゲームに慣れていると思ったから声を掛けさせてもらったんだ」
「だったらそのときに声かけてくれればよかったと思うんスけど」
俊憲の言葉に耕治が思ったことを口に出してしまう。その言葉を聞くや否や、再び俊憲の雰囲気が落ち込む。
「いや、あまりにも君たちが楽しそうだったから…」
そう言って再び暗黒面に落ち込んだ俊憲をなだめすかして、修二たちは早速その日の放課後にゲームセンターに行くことになった。
※※※
「さて、決戦まで時間がない。そこで、今回はいきなり実践練習で無理やりスキルを底上げする。相手は僕がやるから、好きな機体を選んでかかって来い」
早速筺体に乗り込んで修二たちに指令を出す俊憲の顔は、輝いていた。
「じゃあ、僕からいくよ」
修二は申し出て、筺体という名のコクピットに乗り込んだ。
装甲機神の筺体は球体をしており、外から見るとなんとも地味だ。しかし、その内側は全方位式のモニターになっており、自分の後ろ側まで映し出される。
修二は筺体に硬貨を入れた。すると、スタート画面に切り替わり、すぐに機体の選択画にうつった。
結構種類あるんだな…ど・れ・に・し・よ・う・か・な・と。お、これかっこいいな。こいつにしよ。
機体を選ぶと対戦画面に切り替わる。それまで眼前に映っていた格納庫のグラフィックが荒涼とした大地に切り替わった。
『聞こえるか?聞こえたら双方向回線を開いてこちらに返答しろ。しかし、ジークフリートとはまた微妙な機体選んだな』
コクピット内に俊憲の声が聞こえてきた。
あれ?坂田さん、口調がおかしいよ?スイッチ入ると性格変わる人?
「…と、回線って…どれだ?むやみにスイッチとかモニターが多くてわけがわからない」
修二は慌てふためいて計器類をガチャガチャやっていると、奇跡的に回線がオープンになった。
『お、できたな。大体みんな回線すら開けないんだよな』
『回線すら開けないってどんな難易度のゲームなんですか、これ?というか、微妙な機体ってどういうことなんですか?』
『あー、このゲームの機体って大きく分けて二種類に分類されるんだよ。飛べるやつと、飛べないやつ。で、飛べないやつって大体装甲が厚かったり、特殊な防御スキル持ってたりするわけ。俺の機体のテュールも装甲分厚いだろ?でも、お前が選んだジークフリートは特に装甲が厚いわけでもなく、特殊な防御スキルを持ってるわけでもないんだよ。純粋な機動力タイプの機体ってそいつくらいなもんでさ。武装も少ないし、ベテランが使えば強い機体ってやつかな』
言われて修二は自分の機体と目の前にいる俊彦の機体とを見比べた。
俊彦のテュールはごつごつとした無骨な鎧姿の重装騎士といった見た目だった。その中で右腕だけは義手パーツになっており、アンバランスに細かった。
一方修二のジークフリートはすらっとした軽装の戦士といった見た目だった。テュールと見比べるといささか頼りない感じがした。
『なるほど、確かにそうですね』
『どうする?機体変えるか?』
『いえ、僕はこのまま行きます。一目惚れってやつですかね?この機体が気に入って…』
『フィーリングか。確かにそれは大事だな。よし、じゃあ早速始めるぞ』
こうして修二たちド素人たちを一人前の戦士に育て上げる特訓が始まった。
※※※
「さて、一通りみんなに操作してもらって私なりにメンバーを決めたから発表したいと思う。まず僕、テュールで出る。次に玲音君。彼女にはオーディンで出てもらう」
「…了解した。私は好きに動くぞ」
玲音は名前を君付けで呼ばれて若干不機嫌に返事をした。
「次に莉音君、キミにはロキで出てもらって私のサポートをメインに立ち回ってもらいたい」
「はーい!がんばるよ。隊長さんのサポートって何すればいいの?」
続いて名前を呼ばれた莉音は元気よく返事をした。
「私のテュールは右腕が義手になっている。そこに様々なパーツをつけることによって機体の特性が変わるんだ。キミのロキは色々な武器を作り出すことができる特殊スキルを持っている。それを使って私の右腕のパーツを作り、局面に分けて私に提供して欲しい」
「りょうかーい!隊長さんの右腕を作ればいいんだね?まかしといて」
つまるところ玲音は遊撃手、莉音は武器生成のバックアップか…。
「それでは最後に私とともに敵の横っ腹に風穴を開けるアタッカーを、修二君。キミに頼みたい」
「えぇ、僕ですか?僕で良いんですか?」
思いがけない申し出に、修二は驚きを隠しきれずに声を大にした。
「正直彼らと迷った。けれど反応速度やらなんやらを総合的に考えて、キミが一番適しているという結論に至った。キミにはジークフリートで出てもらうことになると思う」
「わかりました、全力を尽くします」
「おー、修二か。まぁ頑張れや」
「人事みたいに言ってやるなよ…。頑張れよ、修二。応援には行くからさ」
「すごいです修二さん。私なんか歩くのですらやっとでしたのに…」
耕治たちは次々と修二に駆け寄り、祝福を述べる。
「じゃあ、みんな!円陣を組もう」
「いいですね、気合も入るってもんですよ!」
「よーし、やったるじぇー!」
「私はやらないぞ」
テンションが上がったのか、俊彦は円陣を組もうと申し出た。修二、莉音は快諾したが、玲音はぴしゃりと断った。
「まぁまぁそう言わずに…。じゃあ私がこう言うから…」
俊彦は玲音をなだめながら、耕治たちに背を向けて円陣の打ち合わせをする。
しばらくして耕治たちに向き直って、レギュラー組が円陣を組む。
「よし、メンバーは決まった。あとは決戦までひたすらに練習だ。いいか君たち、決戦は…」
「「「「日曜日!」」」」
メンバーに選ばれた四人は円陣を組み、大きな声で号令を上げ、天を指差した。
修二たちはそのあとにハイタッチなどをして楽しそうにしていたが、玲音だけは少し恥ずかしそうに俯いていた。
そして、大きな声を出して店内で騒いだため、修二たちは店員に叱られた。
※※※
そして時は再び進み冒頭の戦場へと戻る。
『ホラホラホラ、どうした?威勢が良かったのは最初だけだったな?』
修二が駆るジークフリートは降り注ぐ稲妻をかいくぐり、何とか丘陵地帯を抜けた。目指すは仲間との合流地点だ。
『くっそ、反撃しようにもこちらの武器が届かないんじゃ…』
合流地点まであと200メートル、まだみんなは来てないか…。
『スキあり!』
合流地点が見えたことで少し油断した修二めがけて、ゼウスが放った稲妻が襲い掛かる。
『くっ…おおおおお!』
稲妻がジークフリートを貫く直前に、修二は機体をひねり、手にしたバルムンクで何とか防御した。それにより直撃を避けたジークフリートは弾き飛ばされ、荒涼とした大地に投げ出された。
『機体耐久率が50パーセントを切りました』
AIの機械的な声が着実に近づいてくる行動不能を告げる。
『クソッ!』
『どうした、その立派な得物は身を守ることしかできないのか?』
得意げに敵のリーダーは言う。
『お仲間が恋しいか?じゃあ少し待ってやろうか?もっとも、来たところで俺に勝つことなどできないだろ…ぬおっ』
敵リーダーが嘲笑を続けていると、彼方から何かがゼウスを貫かんと飛来した。紙一重でゼウスはそれをかわした。
あれは…グングニル?
『言ってくれるじゃないか、お山の大将が』
モニターには小高い山に雄雄しく立つオーディンの姿があった。ローブを頭からかぶった魔術師のようなシルエットから、一見すると魔砲弾を使う遠距離型の機体だが、その実は槍と魔砲弾を使い分ける万能型の機体である。
『玲音!』
『修二、遅くなった。まだ動ける?一緒にあのお山の大将に目に物見せよう』
『その通りだ。我々が烏合の衆でないことを見せてやろう』
玲音に続いて俊彦も到着した。今のテュールの右腕には大きな盾が据え付けられている。
『坂田さんも…。大丈夫です、まだ動けます』
『おうおう、地を這う虫ケラが集まってきたな。まとめて消し炭にしてやる』
言うとゼウスは再び腕を大きく開いて雷をかき集め始めた。
『大きいのが来るな…。修二、後ろに隠れろ』
俊彦は右腕の盾を地面に突き立て、来るだろう攻撃に備えた。
『玲音君も早く隠れろ』
『私はいい。避けられるから』
玲音は盾に隠れようとしない。
『避ける…だと?私の稲妻を?…なめるな!』
敵リーダーは玲音の言葉が癇に障ったらしく、狙いを玲音に絞った。
「オーディン、モードチェンジ。モード『ヒルドルブ』認証コード、『戦場の狼』」
玲音はあくまでも冷淡に、コクピット内でスイッチをいじりながらシークエンスを消化していく。
すると、オーディンはその両腕を地面についた。その後、音を立てながら骨格を変化させていく。人型から、大型の獣のように形を変えていく。変化が終わると、その姿は完全に狼になっていた。
『玲音、なにそれ?』
『オーディンの高速起動モード『ヒルドルブ』だって。さっきネット掲示板見たら結構話題になってた』
『大丈夫か?ヒルドルブは確かに飛躍的に機動力が上がるが、逆に速すぎて扱いづらいと聞くぞ』
『無難な性能は使いづらく感じてたから、それくらいでちょうどいい』
玲音が言い終わったあたりで、ゼウスの腕から、画面全てを白く染めるかのような雷の雨が降り注ぐ。
『サンダーストーム!』
ものすごい轟音とともに、雷の奔流が修二たちを襲った。
テュールの影に隠れていたジークフリートは、言うに及ばす無事だった。一方のヒルドルブはというと…
『なぜだ!なぜ当たらない!』
ゼウスの腕から放たれた雷は、地を駆ける狼の後をついていく尾すら捉えることができずにいた。
『パターンが単純で読みやすいね。こんなんじゃ私を捉えることはできないよ』
『くそっくそっくそ!当たれ当たれ当たれぇー!』
『おまたせ~、残党始末してきたよ~。まだわたしの見せ場残ってる?』
大地を駆けるヒルドルブを潰すべく、ゼウスが雷を集中砲火させていると、敵チームの残党を倒してきた莉音のロキが空間を捻じ曲げて突然修二たちの近くに現れた。
サーカスのピエロのような見た目のロキは、空間移動や、ジャミング能力に始まり、果ては武器の生成などサポート面で多大な効果をもたらす機体だ。道化師はガシャンガシャンと修二たちに近づき、指示を仰ぐ。
『莉音!丁度今が佳境だ。玲音がアイツをひきつけてくれている。今のうちにグレイプニルを俺に!』
『りょうかーい。ちょっと待ってね』
言うとロキはまったくの無防備な体勢でその場に止まってしまった。
「武装生成モードに移行。生成武装『グレイプニル』。生成開始~」
広げた両手の間で青白い光がほとばしる。
『いいか、修二。今莉音はとても無防備だ。だから彼女に攻撃の矛先が向いたら、身を挺して庇うぞ』
『了解です。でも今のジークフリートで耐えられるかが心配です』
二人は立ち止まっているロキの周りに散開して、いつでも庇えるようにする。
『クソッ、なんで当たんないんだよぉ!はぁ…はぁ…はぁ…ん?』
大地を疾走するヒルドルブに神経をやっていた敵チームのリーダーがふと目をやると、莉音のロキがその場に立ち止まっているのが目に入った。
「なんだアイツ。あんなところで何やってるんだ。戦いの最中だってのに無防備にボケッとしやがって。馬鹿にしやがって…」
そしてその行為は彼のプライドを傷つけ、逆上させるのに十分だった。
『オレをなめるなぁっ!』
逆上したリーダーは、狙いをヒルドルブからロキに変えた。
ゼウスが両手を空高く突き上げるとその手めがけて雷が収束を始める。それは今までのものを軽く越えるほどの大出力だ。
『消えうせろぉぉぉ!』
『え?ちょっまってまって、今わたし動けないんだからぁぁぁ!』
『させるかぁぁぁぁ!』
ゼウスが収束させた雷をロキに向けて放つとほぼ同時にジークフリートは地を蹴り走る。そして雷がロキに到達する直前に何とか間に割って入ることができた。
『うわぁぁぁぁぁぁぁっ!』
ジークフリートはバルムンクでかろうじて防御することができたが、大きく吹っ飛ばされ近くの岩山に叩きつけられた。
『左腕制御システム大破 頭部メインカメラ中破 腰椎部に程度Aの損傷が発生 機体駆動率が20パーセントを切りました』
コクピット内のモニターが警告と損害報告で埋め尽くされる。中破したメインカメラからは途切れ途切れに外の様子が送られてくる。
「くっ…左腕はもう使い物にならないか…。動かないんじゃ意味がないな。左腕制御系をオールカット。その後左腕をパージ。カットした出力を腰椎部の補助に」
被害処理を終えると、ジークフリートはその手にしたバルムンクを杖にしてよろよろと立ち上がった。
機体はあちこちから漏れ出したオイルで赤黒く濡れている。
『大丈夫か、修二』
『…限界に近いです。今のでやられなかったのが不思議なぐらいですよ』
『いい格好だな。このまま消し去ってやる』
ジークフリートがもうまともに動けないと見たゼウスは、再び雷を収束させてジークフリートに向けて放った。
『修二!』
「くっ!」
修二は迫る閃光に目を閉じた。そして…
『なん…だと…?』
「…あれ?まだやられてない…?」
次に目を開けると、モニターはさっきと変わらず赤いアラートが明滅しているままだったが、まだ行動不能にはなっていなかった。
「どういうことだ?さっきの攻撃は当たったはずなのに…」
修二が目を白黒させていると、コクピット内に音声ファイルが響いた。
『特殊スキル ドラゴン・ブラッド発動を確認』
「なんだそれ…」
突如現れた謎のスキルに修二は少々の不安とそれを飲み込むほどの興奮を覚えた。
もしも今の攻撃を耐え切ったのがこのスキルのおかげだとしたら…このスキルはバリアみたいなものなのかもしれない。だとしたら…
『これならいける!』
『修二、大丈夫だったのか?』
『はい、詳しく話してる時間はないんですが、今ジークフリートは無敵状態なのかもしれません』
『なんだそれ…』
修二の声を敵リーダーが遮る。
『なんだよそれ』
『?アイツ様子がおかしいぞ』
ゼウスが頭を抱えるような動きをしている。
『なんなんだよ、そいつはぁぁぁ!』
雄叫びを上げるとゼウスはあちこちに雷をばら撒き始めた。
『なんだアイツ、癇癪でも起こしたのか』
『すごい量の雷だ。だが…』
先ほどまでと違って何かを狙っているというわけではなく、ただ闇雲に撒き散らしているだけの雷は大地を抉りはするが、修二たちを捕らえることはない。
『やるなら今だが…近づくのは危険だな』
『でも、今のジークフリートだったら…』
『だが、そんな都合のいいスキルがあるわけがないだろう?もしも勘違いだったら集中砲火うけておしまいだ』
『でもやらなきゃ勝てませんよ』
修二が言うと目の前にロキが現れた。
『隊長さ~ん、できたよ。できたけど…こんなのでいいの?』
ロキの手にはワイヤーアームがあった。
『ああ。これでやつを拘束し、修二君がとどめをさすという作戦だったんだが…』
『やります。やらせてください』
俊憲の言葉を遮って修二が言う。
『しかし修二君。その機体では近づく前に攻撃に当たってしまうぞ』
『なら私が修二を送り届けよう』
いつの間にか近くまで来ていたヒルドルブから玲音が通信で割り込んできた。
『玲音、頼める?』
『任せて』
『…よしわかった。その手でいこう。俺がやつにアンカーを打ち込んで拘束している隙にジークフリートを乗せたヒルドルブがゼウスに近づく。程よく接近したところでジークフリートが一撃を加える』
『わたしは何すればいい?』
『莉音はとにかくサポートに徹してくれ。修二の攻撃を成功させるために全力を注ぐんだ』
『りょうか~い。今回はおいしいところ修二に譲ってあげるよ』
簡単な作戦会議を終えた各々は、自分の持ち場に着く。
ヒルドルブに跨ったボロボロのジークフリートが降り注ぐ雷をかいくぐってぐんぐんゼウスに近づいていく。
『まだ生きてやがったかぁ、虫ケラぁぁぁ!』
近づいてくるジークフリートに気付いたゼウスは、最大出力の雷で消し去ろうと、右手をジークフリートに向ける。
『させるかぁっ!唸れ、グレイプニル!』
右手を付け替えたテュールは、その右手を振り回し、ワイヤーをゼウスめがけて放つ。放たれたワイヤーは、ゼウスまで一直線に伸びていく。
そしてゼウスの右腕もろとも、体を拘束していく。
『なんだこれは?クソっ、動けない』
『行け、修二!』
『もらったぁ!』
小高い丘から、ジークフリートを乗せたヒルドルブはゼウスに向かって大きく跳んだ。空中でジークフリートはヒルドルブの背を蹴ってゼウスに向かってバルムンクを振りかぶる。
『なめるなぁ!』
激昂とともにゼウスの目が怪しく光り、黒い雷を放った。
!…大丈夫だ、信じろ。今のジークフリートはどんな攻撃も跳ね返す無敵の英雄だ。
ゼウスの土壇場での攻撃に修二は一瞬ヒヤッとした。しかし、すぐに自分の機体の性能を十二分に信じ、身を任せた。
放たれた黒い雷は、武器を構えたジークフリートに向かって伸びていく。雷はジークフリートのがら空きになった胴体に直撃した。爆煙がジークフリートを覆い隠す。
数秒の後、煙を突き破ってジークフリートが現れた。
『うおおおおおお!』
『なぜだぁぁぁ!』
迫る白刃に焦りを隠しきれていないゼウスは、叫ぶと同時に再び雷を放とうとした。
しかし、次の瞬間ゼウスのコクピット内のモニターはブラックアウトした。
「な、なんだ?」
『へ~、ロキってこんなこともできるんだぁ』
同時に莉音ののんきな声が響く。
ロキの特殊スキルのひとつ、『トリックスター』でゼウスの機能が一時的にシャットダウンされたのだ。
モニターが機能を取り戻したときには、既にバルムンクがゼウスの胴体を捕らえていた。
鉄を切り裂く耳障りな音が戦場に響く。
『ずあぁぁぁっ!』
ジークフリートはバルムンクを振りぬいたが、ゼウスは紙一重で耐え切った。
『キメ切れなかったか…』
『まだ機体は動く、俺の勝ちだぁぁぁ!』
ワイヤーごとゼウスを叩ききろうとしたため、ゼウスを拘束していたワイヤーは既にない。ゼウスは空中できりもみ回転をしているジークフリートに向かって雷を放とうとした。
『あ…?』
しかし、次の瞬間には突如飛来した槍がゼウスの胴体を貫いていた。
『ようやく当たったか…。さっきのグングニル』
ゼウスと対峙した際に放ったグングニルはかわされてしまった。しかし、オーディンのグングニルは目標を捕らえるまで止まらない特性があり、かわされた後も戦場を飛び回っていた。それがようやくゼウスを貫いたのだ。
『くっそぉぉぉぉ!』
壮絶な叫びとともにゼウスが爆発し、戦いが終わった。
『ナイス、玲音…お?』
着地しようと態勢を立て直していたジークフリートの全身の動力が急に消え、バランスを失ったまま地面に叩きつけられた。
「なんで?…さっきのスキルが何か関係してるのかな。スキルテキスト確認 ドラゴンブラッド」
派手に揺さぶられてコクピット内に頭をしたたかに打ち付けた修二は、頭をさすりながらスキルの効果を確認しようと操作した。合成音声が説明を始める。
「スキル ドラゴン・ブラッド 機体耐久値が一定値を下回った場合、機体に絶対無敵の特殊効果を付与する 効果持続時間は3分間のみ 効果持続時間が終了した際、この機体は自動的に行動不能になる」
「こういうことか…」
納得のいった修二はシートに頭を投げ出して勝利の余韻に浸った。
※※※
「よいしょぉ~、ありがとうみんな!おかげで勝つことができたよ」
修二が筺体から出てくると既に外に出ていた俊憲たちが大騒ぎしていた。周りで見ていた耕治たちも一緒になって騒いでいる。
「おお修二君、遅いじゃないか。早くキミも来なよ」
「はいはい、でもあまり騒ぎすぎるとまた店の人に怒られますよ」
修二が俊憲たちのところへ歩き出すと、筺体の向こう側から一人の少年が歩いてきた。
「オイ俊憲、なんだよ最後のやつ!無敵状態とか反則だろ!」
「うっせぇぞ、太一。別にこっちはデータいじってインチキしてたわけじゃねーんだから反則なんて事あるかよ」
「えーっと、俊憲さん。もしかしなくてもこの子って…」
「ああ、さっきのゼウスのやつ。こいつ何かと突っかかってきて、仕方ねーから一回負かしたら余計に突っかかってくるようになっちゃって」
修二たちは開いた口がふさがらないといった様子でポカーンとしている。
「じゃあ、僕たちっていざこざに巻き込まれただけってことですか?」
ようやく口を開いた修二は俊憲に問いかける。
「うーん、まぁそうなるかな。…それよりも太一、約束どおりしばらく突っかかってくるなよ」
「あんなんで納得いくか!だいたい…」
そうこうしているうちにまた言い合いが始まった。
「付き合ってられないな…」
「帰ろっか」
「あ、修二さん。あのぬいぐるみかわいいです」
「じゃあ俺がとってあげるよ、更科」
「お前じゃ無理だろ、耕治」
修二たちは言い合いを続ける俊憲をそのままにして、ワイワイ仲良くその場を後にした。
玲「玲音じゃないぜー!」
莉「莉音じゃないよー!」
玲「じゃあ、いったい誰なんだ?」
莉「誰だっていいさ。にんげんだもの」
玲「いや、ことここにおいては誰かわからないと話にならないだろう」
莉「あれ?あ○だみ○をの件に関してはスルーなの?」
玲「拾っても面白くなりそうに無かったから」
莉「そんなことないよ!」
玲「少なくとも私は面白くできないさ」
莉「じゃあ次回はあの人に来てもらおうか」
玲「あの人って…まさか!」
莉「次回、『神谷鬼灯受難の一日』」
玲「本当にあの人がここへ…?」