御縁屋商店繁盛記   作:by俺っと

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どうも、by俺っとです。
6連勤疲れた…。その影響で火曜日更新できなかった…。
それなのにちょっとずつ伸びるアクセス数を見ていると、こんな作品でも気にかけてくれている人もいるんだなと、一週間がんばることができました。
感謝の気持ちをこめて、ディ・モールト・グラッツェ!


神谷鬼灯受難の一日

「おはよう修二君。朝っぱらから悪いんだが醍醐のやつはいるかい?」

 6月上旬のとある日曜日。この日は天気予報どおりに、朝から雲ひとつ無い快晴だった。梅雨時の晴れ間に感謝しつつ黒埼修二が朝食の準備をしていると、突然勝手口から女性が顔を出した。

 この神谷鬼灯という女性は、修二が居候している御縁屋商店の裏のアパート、『峰連荘』の店子の一人である。

 「おはようございます…。多分まだ寝てると思いますけど…起こしてきましょうか?」

 「うん、頼むよ。あ、あと朝御飯一緒していいかな?自分の分は持ってきたから」

 修二があがるように促す前に、鬼灯は既に上がりこんでいた。

 あまつさえ、勝手にお茶を出して飲んでいる。

「まぁ、いいですけど」

 お茶飲むんだったら来客用のお茶じゃないほう空けて欲しかったなぁ…。

 修二は鬼灯に聞こえないくらいの小声でぶつぶつ言いながら二階へ上がっていった。

 しばらくして、修二は醍醐を連れて二階から降りてきた。

 「ほら、起きてくださいよ醍醐さん。鬼灯さん来てるんですから」

 「…眠いからあと修二に任すわ」

 と言って茶の間に大の字で寝転がると、すぐさまいびきをかきはじめた。

 御縁屋醍醐二十一歳、まったくの平常運転である。

 「…すみませんね、鬼灯さん。こうなると醍醐さんしばらくは起きないんですよ」

 「いいよいいよ。醍醐の寝起きが悪いのは私も知ってるから。まぁ、今すぐ聞いてもらわないとまずいわけでもないし、朝御飯でも食べながらゆっくり待とう」

 

※※※

 

 『ご馳走様でした』

 二人に加えて燕も一緒に朝食を終えた頃に、ようやく醍醐はのっそりと上体を起こした。

 「おう、おはよう醍醐。良く眠れたかい?」

 「おう…で、何か用か?」

 あくびをしながら醍醐が尋ねる。

 「用がなきゃ来ちゃいけないのかよ?…まぁ用はあるんだけどな」

 鬼灯はお茶を一口飲むと、続けた。

 「用ってのは他でもないんだ。実はな、来週の日曜日に私のお母さんが来るんだ」

 「ふーん、それで?」

 「………」

 醍醐がお茶を啜りながら半目で問いただすと、鬼灯はもじもじしながら言葉に詰まった。

 やがて覚悟を決めたように目を見開いて醍醐に言った。

 「来週の日曜日に、私のこ…恋人の振りして欲しいんだ…けど」

 『ぶっ!』

 修二と醍醐は飲んでいたお茶を二人して噴き出してしまった。

 「な…っ。なんでそうなるんだよ?」

 むせながら醍醐が問いただす。

 「いや、ほら。私ってこの歳まで浮いた話ひとつないじゃん?」

 「おう、そうだな」

 いや、そうだなって失礼でしょ…。

 二人のやり取りを横で見ていた修二は心の中でつぶやいた。

 そんな醍醐の言葉を気にする素振りもなく、鬼灯は話を続けた。よほど切羽詰っているのだろう。

 「うん。それで、お母さんがそのことすごく気にしててさ、突然電話がかかってきて『いい人はできたのか』とか聞いてくるわけよ」

 「ほう」

 醍醐はこめかみをぴくぴくさせながら鬼灯の話を聞いていた。

 「それが何回も続くもんだから、さすがに私もイライラしちゃってさ。この間つい言っちゃったわけよ」

 「…大体予想はつくけどなんて言ったんだ?」

 「…『私にはもう最高にカッコいい彼氏がいるんだからその手の電話はやめて』って…」

 この言葉を聞いた修二と醍醐はその場に崩れ落ちた。

 「な、なんてしょうもない…」

 「いや、まぁ仕方ねぇさ。仕方ねぇよ…」

 「えー、なになに?鬼灯さんってばアニキのこと好きだったの?」

 「イヤ別にそんなわけじゃないんだけど…。頼りになる人って考えたら醍醐が思い浮かんだだけで…。年下なんだけど、頼りがいがあるっていうか…」

 修二と醍醐が崩れ落ちている横で、燕と鬼灯はガールズトークっぽいことを始めた。鬼灯は指を絡ませてもじもじしながら燕の質問に答える。

 「この際だからアニキと付き合っちゃえ!こんなのにくっついてくる女の人なんていないだろうし…」

 「つ、付き合う…」

 燕が肘で鬼灯をつつきながら言うと、鬼灯は真っ赤になってうつむいてしまう。彼女に浮いた話が無いのは、彼女自身に恋に対する免疫が無いことも関係しているようだ。

 そんな様子を横目で見ていた醍醐が燕のほほを掴み、むりやり黙らせた。

 「黙ってろ燕、ややこしくなる」

 右手で燕のほほを掴みながら、醍醐は左手で眉間をおさえて大きくため息をついた。

 「…わーかったよ。やってやるよ、一日彼氏。来週の日曜だな?」

 「え?やってくれるの?」

 醍醐の言葉に、それまで俯いていた鬼灯は顔を上げた。その顔にはどこか安堵に似た感情が見て取れた。

 「他にアテねーんだろ?やってやるよ。そんかわし、しっかり報酬はもらうからな」

 「う、うん。ありがとう…」

 「さて、余所行きの服どこしまったっけな…」

 半ばあっけにとられている鬼灯からのお礼を背に受け、醍醐は頭をかきながら、既に魔窟と化している自室のクローゼットへ向かった。

 

※※※

 

 そして来る日曜日の朝十時を少し回った頃、緊張した面持ちで鬼灯が御縁屋商店の前に立っていた。

 いつもの着古したスーツではなく、お洒落なシャツにベスト、ふんわりしたマキシ丈のスカートを身に着けた鬼灯からはいつもの精悍な印象は全く感じられず、とてもかわいい女の人そのものだった。

 「ど…どうしたんだよ?なんで醍醐は出てこないんだよ?」

 「あー、ちょっと立て込んでるようでして…」

 いつものお姉さんオーラではなく、女子力MAXの鬼灯に詰め寄られた修二は、思わず視線を逸らしながら答えた。鬼灯はそうとう参ってしまっているようで、修二の肩を掴んだまま前後にがくがくと振っている。

 「ちょっ…そろそろ落ち着いてもらってもいいですか?いい加減気持ち悪くなってきたんですが…」

 「落ち着いてらんないよ!だってもうお母さん立花駅まで来てるって言うし、醍醐は出てこないし…」

 修二は、慌てるあまり少しキャラ崩壊を起こし始めた鬼灯をなだめる。うろたえる様は子供のようだ。

 「なんだようっせぇなぁ。せっかく人が数年ぶりにお洒落服着たってのに…」

 引き戸を開けて醍醐が姿を現した。

 姿を現した醍醐はワインレッドのボタンダウンシャツに黒いジャケット、すっきりとしたチノパンツ姿で御縁屋商店の前に立っていた。無精髭も綺麗に剃ってあるので、いつもの威圧感は微塵も感じられない。ぶっちゃけただのイケメンである。

 「おぉ…ふ」

 「へぇ、こりゃまた…」

 「なんだよ、宇宙人を見るような目しやがって」

 甚平姿しか見たことのない修二と鬼灯は、見事に不意打ちを食らってしまい何も言えないでいた。

 「どっかおかしいか?」

 「えっ?いや、別にそんなことはない…けど…」

 醍醐は顔を下げて、顔を見ながら鬼灯に確認を取る。

 いつもとは違う醍醐の様子に、鬼灯はしどろもどろになってしまう。

 「その…かっこいいと思う…。そ、そうだ!私はどうかな?こんな服着たことないから勝手がわからないんだけど…」

 鬼灯は話題を変えるために、スカートの裾をつまみながらくるんと回った。

 「おお、いいんじゃねえの?つうか鬼灯そんな服持ってたんだな」

 「あ、うん。莉音に借りたの…」

 「ふーん、似合ってんじゃん。かわいいよ。普段からそういう格好してればいいのに」

 話をそらすことには成功したが、かわいいという言葉と、頭をなでるというニ連コンボを決められた鬼灯は真っ赤になって俯いた。

 「…どうしたんだ、こいつ?」

 醍醐は修二に聞いたが、修二は首を横に振ることしかできなかった。

 「というか、仮にも彼氏として親御さんに会うのにこんな服でよかったのか?まぁ、スーツなんて俺持ってねーけど」

 「あ、うん。そのへんは大丈夫だと思う。お母さんけっこうそういうのにこだわらない人だから…あ、来たみたい」

 「なんだ?もう来たのかよ」

 「それじゃあ僕はこのへんで…。後はお二人で頑張ってください」

 醍醐越しに道の向こうを見た鬼灯が目を丸くして醍醐の陰に隠れた。そんな鬼灯の様子を見て、修二は逃げるようにして御縁屋商店の中へ入っていった。

 「なんで俺の影に隠れるんだよ?」

 「う~、だってぇ~」

 涙目で醍醐を見上げる鬼灯は出て行こうとしない。

 そうこうしているうちにも人影はつかつかと歩いてきており、御縁屋商店の店先でゴチャついている醍醐たちの前で足を止めた。

 人影は四十代半ばくらいの年恰好で、履き古したジーンズとスニーカー、長袖のラグランシャツの上から薄手のワークシャツを羽織っている。服装に華やかさはないものの、凛々しい目元からは確かに鬼灯の母であるということが見て取れた。

 なるほど…これなら服装は別に気にしなくて大丈夫っぽいな。

 醍醐がまじまじと見ていると、人影は醍醐の目線に気付いたようで、パァッと目を輝かせながら醍醐に近づいていった。

 「あらあら、あなたが鬼灯の?」

 言うと彼女は醍醐の周りをくるくると周回機動しながら、全身くまなく品定めを始めた。

 「あらやだ、イケメンじゃない。背も高いし、センスもいいわね。…あぁ、ごめんなさい。自己紹介してなかったわね。私は神谷鈴蘭(かみやすずらん)っていって、鬼灯のお母さんよ。…あれ?そういえば鬼灯はどこに行ったの?ええと…」

 自己紹介を済ませた鈴蘭は、思い出したように鬼灯を探し始めた。

 「ああ、すみません。御縁屋醍醐です。いつも鬼灯さんにはお世話になってます」

 その際に名を呼ぼうと首をひねっている鈴蘭を見て、醍醐は自分が名乗っていないことを思い出し、名乗る。

 「あらあらご丁寧にどうも、醍醐さん。お世話だなんて、こちらこそウチのバカ娘がご迷惑おかけしてないかしら?」

 「いえいえ、いつも楽しくお付き合いさせていただいています」

 「あら、そう?…で、なんであんたは醍醐君の後ろに隠れてんのかしら、鬼灯?」

 鈴蘭に声をかけられて、鬼灯はビクッと身を震わせた。

 「お、お母さん…久しぶり」

 「久しぶりね。そんなに私と会いたくなかったの?」

 「いや、そんなことはないんだけど…」

 鬼灯は目線を逸らしながら言った。しかし、語尾にかけてどんどん声が小さくなっていったので、最後のほうは鈴蘭に聞こえたかどうか微妙なラインだ。

 「ほ、ほら、私にもつ…付き合ってる人いるのわかったでしょ?お母さんもう帰ったら?」

 「なによ、せっかく足を運んであげたってのに少し冷たすぎない?」

 攻勢に出るなら今だと思った鬼灯は、思い切って醍醐の右腕にすがりつきながら言葉を並べた。慣れないことをやったため顔が真っ赤になっていたが、鈴蘭はそんなことは気にしていないように反論を述べる。

 「そうだぞ、鬼灯。せっかくお母さんがわざわざ足を運んでくれたのに、そんなことは言うもんじゃないぞ。それに、お茶のひとつも出さないでお客さんを帰すのは失礼だろ」

 鈴蘭の反論に便乗して醍醐は鬼灯を制する。

 「ちょっ!」

 「あら、そう?それじゃあお言葉に甘えちゃいましょうかしら」

 「どうぞどうぞ。あ、どうせだったら町を案内しますよ。それで適当な喫茶店でお茶でもしながらお話しましょう」

 横から口を挟もうとした鬼灯を押し黙らせるように醍醐は鈴蘭にまくし立てた。

 そんな様子をただ黙って見ている鬼灯ではなく、鈴蘭と仲よさそうに話す醍醐を引っ張っていってしまった。

 「ちょっとどういうことだよ、なんであんなこと言うんだよ?」

 「いや、あそこでむりやり帰したらかえって怪しまれるだろ。適当に済ませてなるべく穏便に帰ってもらおう」

 「むー…わかったよ」

 慌てふためく鬼灯の言い分に、醍醐は至極正論で答えた。ぐうの音も出ない鬼灯は、頬を膨らませ、唇を尖らせながら醍醐の後をついて歩くことしかできなかった。

 

※※※

 

 醍醐、鬼灯は、鈴蘭と一緒にたかさご商店街をしばらく歩きつつ、町を案内していた。歩いていく端から声をかけられる醍醐と、その隣にぴったりとついて歩いている鬼灯の二人を見て、鈴蘭は思わず目を細める。

 「あ、ここで少し休憩しましょうか。鈴蘭さん、コーヒーは飲めますか?」

 丁度駅前通にさしかかったとき、醍醐はふと立ち止まり親指ですぐそこの店を指差した。

 「ええ、大好きよ」

 「それは良かった。ここの店はマスターがコーヒーマニアで、コーヒーに対するこだわりがすごいんですよ」

 言いながら醍醐は店内に入っていく。この喫茶店のマスターと醍醐は顔見知りらしく、入って早々世間話に花を咲かせている。

 「いい人ね、醍醐さん」

 外から醍醐の様子を見ていた鈴蘭は、鬼灯に語りかけた。

 「うん…」

 鬼灯は、少し生返事になってしまう。醍醐の人脈の広さに、あらためて驚いたためだ。

 「あら、何?自慢の彼氏に見とれてんの?」

 「えっ?い、いやその…」

 「いいのいいの。確かにカッコいいもの、醍醐さん。あんたにはもったいないわ」

 口ごもる鬼灯に、鈴蘭は笑いながら言う。バシバシと背中を叩かれ、鬼灯は若干前のめりに喫茶店内に入っていった。すると、

 「あっ!」

 店内の微妙な段差に躓いてしまった。

 鬼灯は、突然の出来事に両目を強く瞑って、続くであろう衝撃に備えた。

 「危ね!おいおい、気をつけろよ?」

 すると、それに気付いた醍醐が、鬼灯を優しく抱きとめた。

 「わっわぁぁ!いい!いいから!一人で立てるから!」

 目を開いた鬼灯は顔を真っ赤にして暴れた。

 「おい、暴れんなって…おわぁっ!」

 女の力とはいえ、手足を目一杯使って暴れたため、醍醐でも支えきることはできなかった。鬼灯と醍醐は二人そろって仲良く床に倒れていった。

 「いてて…ご、ゴメン醍醐」

 頭をさすりながら体を起こした鬼灯は、今の自分がどうなっているかを確認した。

 このまま倒れると鬼灯を下敷きにしてしまうと、醍醐が反射的に体を入れ替えたため鬼灯の方が醍醐に覆いかぶさる形になっていた。

 それだけではなく、鬼灯は醍醐の腰の辺りに馬乗りになった体勢になっている。傍からみれば、鬼灯が醍醐を押し倒したようにも見える。このことに気付くまで、鬼灯は数秒間固まっていた。

 「大丈夫…ってアラ!鬼灯ってば大胆ね。でもこんなところで始めちゃ駄目じゃない。店の方に迷惑がかかるから帰るまで我慢なさいよ」

 二人に駆け寄った鈴蘭はそんな二人の様子を見ると、途端にニヤニヤし始めた。あらぬ誤解がフルスロットルなようだ。

 「大丈夫か、鬼灯?」

 「あうあう………ふにゃ~」

 醍醐は鬼灯に馬乗りになられたまま、上体だけを起こして右手で鬼灯の頭をポンポンと軽く叩いた。すると、鬼灯はしばらく口をぱくぱくさせて何かを言おうとし、目を回して醍醐に向かって倒れこんでしまった。

 「おいおい…」

 目を回している鬼灯に寄りかかられている醍醐は、鬼灯を抱きかかえたまま短く嘆息した。

 鈴蘭はそんな二人を満足そうに見ていた。

 

※※※

 

 「ごめんなさいね、ウチの娘が。重いでしょう?」

 このままではいけないということで、喫茶店を後にして御縁屋商店を目指している道すがら鈴蘭が口を開いた。

 ちなみに鬼灯は醍醐がおんぶしている。

 「そんなことないです。普段から仕事で散々重いもの持ってますから。…それに、この重みを感じることができるのも幸せのうちだと思ってます」

 「ホントに良い方ね、醍醐さんって。鬼灯にはもったいないくらいだわ」

 醍醐は鈴蘭に向かって笑いかける。それを見て鈴蘭はとてもうれしそうな顔をした。

 しばらく二人は話しながら歩いていたが、あるときに鈴蘭がふと腕時計を見て、残念そうな顔をした。

 「あ~、もうこんな時間。ごめんなさい、私仕事の途中で寄らせてもらっただけだからこの後また仕事に行かなきゃいけないの」

 「そうだったんですか。お忙しい中わざわざありがとうございました」

 醍醐は丁寧に頭を下げる。

 「こっちこそありがとう。鬼灯のことを支えてくれてるみたいで安心したわ。…この子しっかりしてるように見えるでしょうけど、どこか抜けてる子だから心配だったの。あなたみたいな人が傍にいてくれるなら安心だわ」

 言うと鈴蘭はカラカラと大口を開けて笑った。

 「駅まで送りましょうか?」

 「ああ、大丈夫。ここまで仕事仲間に迎えに来てもらうから。それと、ちょっと待っててね」

 すると鈴蘭は手にしてた鞄から紙とペンを取り出し、そのままその紙に何かを書き始めた。どうやら手紙のようだ。

 「…できた。お手間を取らせて悪いけども、この子が起きたら渡してもらえるかしら」

 数分後、手紙を書き終えると、それを二つ折りにして醍醐に差し出した。

 「はい、必ず渡します。あと、鬼灯さんに何か伝えることはありませんか?」

 「そうね、次は孫の顔が見たい…って伝えておいて下さいな」

 笑いながら鈴蘭は踵を返し、駅前広場に向かって歩き始めた。醍醐のさよならという言葉に、鈴蘭は後ろ手で答える。

 あくまでもカッコいい人だ。醍醐はそう思った。

 

※※※

 

 「…ん」

 「おお、目ェ覚めたか?」

 鬼灯が目を覚ましたのは御縁屋商店に運び込まれて数十分が経過した頃だった。醍醐はいつものくつろぎの部屋着―着古した甚平―に着替えている。

 「醍醐…?あ、いや違うんだ。アレは偶然そうなっただけで…」

 「わかってるよ」

 目を覚ましたばかりで、またしても倒れてしまいかねないほどに取り乱しながら鬼灯は釈明する。それに対しての醍醐の対応は慣れたものである。

 「わかってくれてるならいいけど…あれ?お母さんは?っていうか御縁屋だよねここ」

 「あぁ、あの後お前気ィ失ってな。そのままにしておくのも悪いと思ったから御縁屋に運び込んだ。んで、その途中で鈴蘭さんは仕事があるからって帰ったよ」

 少し正気を取り戻した鬼灯は周りを見回す。そして自分に起こったことを醍醐から聞いた。

 「そっか、ゴメンな醍醐。迷惑かけたみたいで」

 鬼灯が鈴蘭と同じような反応を見せたため、醍醐はおかしくなって少し笑った。

 「そうそう、鈴蘭さんからお前に手紙」

 と、醍醐は鈴蘭から預かった手紙を鬼灯に渡した。

 「手紙?直接言えばいいのに…」

 「手紙じゃないと言えないこともあるんだろうよ。…ホレ、迎えも来たみたいだし、それは帰ってから読めよ」

 玄関の方から、玲音と莉音の声が聞こえてきたのを鬼灯に伝えると、鬼灯は納得がいかない、という風な顔をしながら玄関へ向かっていった。

 

※※※

 

 峰連荘の二○三号室、鬼灯たちの部屋。今日の料理係である玲音は買い物へ、莉音は友達と約束があるとかでそれぞれ外出しており、今部屋には鬼灯一人である。

 鬼灯は部屋の居間で一人、鈴蘭からの手紙を読もうと紙を開く。

 『             鬼灯へ

 まずはあなたにひとつ釘を刺さなくてはいけません。あなた、醍醐さんとお付き合いしてるっていうのは嘘でしょう?今日のあなたは明らかに様子がおかしかったので一目でわかりました。』

 「…気付かれてたのか」

 鬼灯は部屋で一人ごちる。

 『でも、そんなあなたの嘘に一日中付き合ってくれる友達がいるということはよくわかりました。醍醐さん、とても良い人ですね。私はあの人が本当に鬼灯の彼氏になってくれたらとてもうれしいです。』

 「何言ってんだよ…」

 たびたび毒づきながらも、鬼灯は手紙を読み進める。

 『私も今年で四十七になります。そろそろ孫と一緒に遊ぶ、という私の夢がかなうのはいつになるのかな、なんてことを思い、今まであなたをせかしてきました。でも、今日のあなたを見てあなたが今までで一番イキイキしているように思いました。今の状態があなたにとって一番良い状態なんでしょう。だから、私はもうあなたをせかすことはしません。あなたの人生です。好きに生きて、いろんな人と会って、そして恋をして、結婚するなり一生独身でいるなり好きに決めてください。でも、ひとつだけ約束してください。どうか私よりも先に死ぬなんて親不孝はしないで下さい。』

 「お母さん…」

 鬼灯はここまで読むと、あふれる涙を抑えることができなかった。こぼれでた涙が手紙に落ちる。

 『考えて考えて、そうしてあなたが選んだ結果なら、私はそれを全面的に肯定します。忘れないで下さい。あと、最後にもうひとつ』

 ここで一枚目の紙が終わっており、二枚目に続いているようだ。

 鬼灯は涙をぬぐって二枚目に目を通し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『結婚する気がないんだったら避妊はちゃんとしなさいよ。これはあなたの母じゃなくて、同じ女として、人生の先輩としての言葉です。そうじゃないと孕まされた挙句…』

 鬼灯はここでそっと手紙を読むのをやめ、グシャっと手紙を握りつぶした。

 「あ、あ、あ…」

 涙はいつの間にか止まっていた。

 「あの脳内ピンク色年増がぁぁぁぁぁぁ!」

 そのときの鬼灯の叫びは、高砂町全体に響き渡ったとか。

 




玲「玲音だぜー!」
莉「莉音だよー。さて、今日は前回の予告どおり特別ゲストに来てもらってるよ!では、どうぞー!」
美鈴(以下『美』)「美鈴ちゃんでーっす!どもども、どもども」
玲「なんで美鈴さんなの?」
美「それが私にもわかんないんだよねー。なんか急にby俺っとから手紙が来て、『ごめんだけどあとがきに出てー』って言われただけだし」
莉「たぶん出番が少ない人たちの救済措置みたいな感じだと思うんだよね」
美「うーん、正直微妙な気持ちにしかならない…」
玲「救済措置だったらその人で一本話を書くくらいの気概を見せてくれないとね」チラッ
by俺っと「ドキッ!」
莉「さあさあ、美鈴ちゃん次回のコールをどぞっ!」
美「え、え?あ、これを読むの?え~っと、次回『テストとは学生の地獄なり』。…こんな感じ?」
玲&莉「うまいうまい」
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