御縁屋商店繁盛記   作:by俺っと

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こにゃにゃちは、by俺っとです。
どんどん書きだめしてたやつが無くなっていく…。
書くスピードを速めねば。



ジェミニ襲来

 豊橋市立花町にある御縁屋商店の朝は早い。というよりも御縁屋商店に居候している黒埼修二の朝が早いのだ。

 それというのも彼は今現在御縁屋家の食卓を一手に担っている状態で、朝食の準備のためにこの家の誰よりも早起きする必要があるためだ。

 「んん~っ!今日はいい天気になりそうだな。さてと、今日から燕ちゃんは学校みたいだからいつもより早めに準備しないと」

 昨日までの雨模様が打って変わり、朝日差す青空に向けて修二は大きく伸びをした。

 この家の紅一点である御縁屋燕が今日から新学期開始ということもあり、修二はいつもよりも早くから朝食の準備を始めている。修二自身は今年から高校生だが、入学式は一週間先で、制服など必要なものも既に揃えてあるため、まだ余裕がある。

 しばらくして朝食の支度が整った。今日の朝食は燕のリクエストどおりに洋風だ。トーストに特製のジャム、卵に生クリームを加えてふわとろに仕上げたオムレツ、レタスの緑、トマトの赤がまぶしいグリーンサラダなど、食卓の上には完全に朝食の準備が整っている。

 「さてと、燕ちゃん起こしてくるか」

 朝食の準備を済ませた修二は燕を起こすべく、二階の寝室に上っていった。

 「燕ちゃ~ん朝だよ…ってなんだかなぁ」

 寝室の扉を開けると、掛け布団を蹴飛ばして燕が寝ていた。足を大きく開いて、お腹を出してすやすやと寝息を立てている。パジャマがズボンだったのが不幸中の幸いである。

 女の子なんだからもっとこう…いいや、もう。

 「ほら燕ちゃん起きて!学校遅れちゃうよ」

 「…ん~、まだ眠い」

 踏まないように燕の横まで近づいて、体を揺さぶりながら呼びかけると燕は寝ぼけ眼をこすりながら上半身を起こした。肩の少し下まである黒髪はあちらこちらに跳ねている。

 「じゃあお目覚めジュースつけるから早く下降りてご飯食べよ?」

 「ん~」

 燕はまだ寝ぼけているといった様子でゆらゆらと修二の後について階段を下りた。

 「ん…いいにおい。朝ごはん…いただきます」

 「はいどうぞ、しっかり食べないとダメだよ」

 一階についた燕はふらふらと食卓について朝食に手を伸ばした。修二はその後ろに回って燕の髪を梳かしている。

 「ん~、ジャムおいしいね。オムレツもとろとろでいい感じ。やっぱ修二って料理うまいよね」

 いくらか目が覚めた燕が朝食の感想を述べてきた。少女らしいかわいい笑顔を向けられた修二は、少し照れくさかった。

 「ご馳走様でした。おいしかったよ、修二!」

 「はい、お粗末さまでした。髪も結んでおいたよ。歯磨きと着替えしてきな」

 「うん、アリガト」

 食事が終わり、手を合わせて食後の挨拶を済ませた燕は、この二週間ほどで髪を結ぶスキルを格段に向上させた修二によって結われた、彼女のトレードマークであるツインテールを揺らしながらとてとてと洗面台まで歩いていった。

 「さてと、醍醐さんは昼過ぎまで起きてこないだろうから僕も朝御飯食べようかな」

 この店の店主である御縁屋醍醐は、基本的に怠け者なので昼過ぎまで寝ていることがままある。

 「じゃあ修二、いってきます。今日は始業式だけだからお昼には帰ってくるよ」

 「はい、いってらっしゃい。お昼は昨日そぼろ作っておいたから、特製そぼろ丼だよ」

 修二が朝食をとろうとしていると、準備を済ませた燕がランドセルを担いで玄関まで歩いていった。修二が昼の献立を伝えると、燕はうれしそうにニコニコしながら学校へ向かった。

 「さて、お昼はあれで済ますからいいとして、晩御飯は何にしようかな」

 修二が晩の献立を考えながら朝食のジャムつきトーストをかじっていると、玄関が開く音がした。

 燕ちゃんかな?忘れ物でもしたんだろうか。

 「どうしたの燕ちゃん?忘れ物でもした…って何やってるんですか虎太郎さん」

 玄関まで歩いていくと、そこには醍醐の友人で御縁屋商店の裏にあるアパート「峰連荘」の大家である信濃虎太郎が立っていた。いつものようにいかつい見た目の虎太郎は口を開いた。

 「おお修二、おはようさん。ちょっとお前さんに頼みたいことがあってな。それはそれとして、腹減ったからなんか食わせて」

 虎太郎はニタッと笑うとずかずかと上がってきた。なにやら頼みごとがある様子だったが、修二は嫌な予感しかしなかった。

 

※※※

 

 「いや~相変わらずお前の飯はうめぇな」

 虎太郎は、修二が食べるはずだったオムレツを咀嚼しながら、焼きあがってきたパンにジャムを塗っている。

 …僕は青虫か。

 その横で修二は、ボウルいっぱいに残ったままのサラダを口に運んでいる。突然やってきた虎太郎が、修二の分のオムレツを勝手に食べ始めてしまったのだ。もはや冷蔵庫に卵のストックはなく、修二は残されたサラダを食べざるを得なかった。

 「ごっそさん。んまかったぞ、修二。お前もう家に嫁にこいや」

 オムレツとトーストを三枚平らげると、虎太郎はガハハと笑いながら修二の背中をバンバンと叩いた。

 「いきなり何言ってるんですか。酔ってるんですか?」

 背中を叩かれた修二は、むせながら冷ややかな目を虎太郎に向ける。

 「で、頼みたいことって何ですか?」

 ひとしきりむせると、修二は本題に話を戻した。

 「おう、それよ。実はな、俺んとこの店子の一人に家族が増えるらしくてな。で、その家族がどうもお前と同じ高校の新入生らしいんだわ」

 「はぁ、それで?」

 「そいつらここいらの土地勘なくてな、学校が始まる前に一回この辺見て回りたいんだとよ。で、お前に白羽の矢が立ったわけだ」

 修二に話を振られると虎太郎は崩れた姿勢を直し、話し始めた。

 …というか、あのアパート店子いたのか。

 「無理ですよ!僕だって最近やっと迷わずにこの辺歩けるようになったばかりだっていうのに。大体虎太郎さんが案内してあげれば済む話じゃないですか?」

 「いや、俺が高校生と歩いてると確実に通報されるからな。俺一人だけでも通報される確立がかなり高いわけだから、確実にヤバイ奴に間違われる」

 断る修二に対して、虎太郎は即座に反論で返す。通報されている虎太郎を想像して修二は吹きだしそうになった。

 「…いいですよわかりましたよ。さすがに知り合いが逮捕されるのは寝覚めが悪いですし」

 「おお、さすが修二。それでこそだ。じゃあ早速いこうぜ!待たせてあるんだ」

 修二が諦めて虎太郎の依頼を承諾すると、虎太郎は待ってましたといわんばかりに立ち上がった。既に依頼人を待たせてあるらしい。

 ここで僕が断ったらどうしていたんだろうか?そもそも断らせてくれたのだろうか…?

 ここまで考えてその行為が無駄であることに気付いて、修二はそれ以上考えるのをやめた。

 

※※※

 

 虎太郎について峰連荘まで行くと、峰連荘前に三つの人影があった。

 「おートラ、この子が例の何でも屋かい?」

 三人のうちの一人、黒いジャケットに身を包んだ女性が修二たちに近づいてくる。虎太郎のことを愛称で呼んだことから、虎太郎の知り合いであることが修二にはわかった。

 「おう、約束どおりつれてきてやったぞ鬼灯」

 鬼灯と呼ばれた女性は、均整の取れた体つきに黒いジャケットとパンツをまとっており、ジャケットの下には白いワイシャツをノータイで着込んでいた。ノータイの上にボタンを二つほど外しているため、胸元がチラチラと見え隠れしており修二は目のやり場に困っている。すると彼女の凛々しい瞳が修二を見据えた。

 「キミが修二君?トラから話は聞いてるよ。聞いてたとおりにイケメンだね!私は神谷鬼灯(かみやほおずき)、ヨロシクな」

 「あ、はい。黒埼修二です。よろしくお願いします、神谷さん」

 修二は思いのほかフレンドリーな黒服のお姉さんに少し圧倒された。

 「なに~?緊張してんの?そんなかしこまらなくていいって。鬼灯でいいよ」

 鬼灯が豪快に笑うと、彼女の長い髪が揺れた。ふわっと広がったいい香りに、修二の鼓動が早まる。

 「…終わった、鬼灯姉?」

 「もう~待ちくたびれちゃったよ~」

 すると、鬼灯の後ろから二人の人影が現れた。

 一人は薄手の革ジャンをはおり、細身のジーンズをハードなシルエットのショートブーツにインしたかっこいい印象、もう一人は腰のベルトでメリハリをつけた花柄ワンピースにデニム地のシャツを羽織ったガーリーな印象だ。

 「あ~ゴメンゴメン。今紹介するから。紹介するよ修二、こっちの革ジャンの方が神谷玲音(かみやれおん)。で、こっちのなんかほわってしてる方が神谷莉音(かみやりおん)。私のいとこだ。ほらお前たち、自分で挨拶ぐらいしろって」

 鬼灯が二人に自己紹介を促すと、まずは玲音から、続いて莉音が自己紹介を始めた。

 「神谷玲音、よろしく」

 無愛想に玲音が言う。黒いウルフヘアがワイルドにキマッていて、スラッと伸びた手足と相まって狼を髣髴とさせるような印象を受けた。

 「神谷莉音で~す!ヨロシクね!」

 愛嬌たっぷりに莉音が言う。茶色いロングヘアはストレートに腰の辺りまで流れており、絹糸のような光沢を放っている。

 「うん。黒埼修二です。よろしく玲音、莉音。二人は双子?」

 「うん、そうだよ。ちなみに玲音のほうが上~」

 修二の質問には莉音が答えた。答えが返ってきて修二は驚いた。

 双子の割には正反対な印象だな~。こんな双子もいるんだなぁ。

 「挨拶も済んだみてーだから俺は部屋に戻るぜ。じゃ、修二後宜しく」

 「頼んだよ修二君。私も少し用事があるから。玲音、莉音。修二君に迷惑かけんじゃないぞ」

 修二が一人思いをはせていると虎太郎と鬼灯は峰連荘に向かって歩き始めた。修二は急に話を振られたので少し驚いた。

 「はい、任せておいて下さい」

 …とは言ったものの

 「んじゃ、行こっか!」

 「まずは昼食」

 無事に遂行できる気がしない…。

 意気揚々と歩き始めた二人の背を見ながら修二は弱気になっていた。

 

※※※

 

 燕が帰ってくるため玲音、莉音を連れた修二は御縁屋まで戻り、御縁屋商店で昼食をとった。燕は物怖じすることなく二人と打ち解け、二人も本当の妹のように接していた。

 二人は修二の料理をいたく気に入り、そぼろ丼をおかわりした。

 昼食を済ませた三人は留守番を燕に任せて、当初の目的の立花町の散策に出かけた。

 「それにしても修二のごはんおいしかったねぇ~、玲音」

 「そうだね、莉音」

 二人は歩きながら笑い合っている。傍目から見るととても仲のいいカップルに見え、修二は一緒に歩くのが少し気まずかった。

 「で、ここが立花駅。二人は電車?」

 「一応バスで行くことになってる」

 駅まで連れて行くと修二は二人の登校手段を聞いた。その問いに玲音が答える。

 「あ~、確かにそのほうがいいかもね。移動っていっても一駅分だしね」

 「修二は電車で行くのか?」

 「ん~特に決めてなかったけど二人がバスなら僕もバスにしようかな」

 「え?なんで?」

 莉音が更に聞く。

 「せっかく一緒の学校に行く友達ができたんだから、一緒に通いたいでしょ。こういうの憧れだったんだよね」

 二人の質問に修二が答えると、玲音が少しうれしそうな顔をした。

 「友達、か。友達だと思ってくれてるのか?知り合ってまだ間もないだろ」

 「お互いに名前を名乗って、一緒にご飯食べたらもう友達でしょ」

 「そっか、友達か~。えへへ~、うれしいなぁ」

 修二の言葉を聞いてうれしくなったのか、莉音は歩きながらくるくると回り始めた。そんな莉音を見ていると「平和」という言葉が修二の頭に浮かんだ。

 「よかったな莉音。後で鬼灯姉に報告しないとな」

 くるくると回る莉音の頭にポンと手を置いて玲音が言う。実にほほえましい光景だ。

 「さて、必要なところは大体回ったから、後は…どっか他にいきたいところある?」

 「ん~、わたしこの辺全くわからないからなぁ。玲音どっか行ってみたい所ある?」

 「じゃあ、猫がいるところ」

 猫。猫ねぇ。どっかにいたっけな…あ!あそこがあったかな。

 「うん、わかった。じゃあ行こうか」

 「どこ行くの?」

 「近所のお寺。周りの人たちからは『猫寺』って呼ばれてるくらいに猫がいるんだよ」

 「そうか、じゃあ行こう!今すぐ行こう!」

 しばらく考えた修二が行き先を口にし、その場所の説明をすると、玲音の顔が今までとは比べようもないほどに輝いた。よほど猫が好きなようだ。

 その変わりように修二は戸惑いを隠せなかった。

 道中も玲音の猫好きトークは勢いが弱まることはなかった。

 駅前からしばらく歩いた裏道にその寺はあった。その寺は、言ってはなんだが妖怪寺という言葉がしっくり来るようなボロボロの廃寺だった。その寺ではいつも大体数匹の猫が集会を開いている。この日も例外ではなかった。

 修二は何度かこの寺に迷い込んだことがあり、それで知っていたのだ。

 「わ~猫さんかわいい~」

 寺に着くなり莉音が手近にいた猫を捕まえて撫で回していた。

 「…」

 玲音も猫をなでている。無言で。しかし、その顔からは幸せオーラがにじみ出ている。なでられている猫はどこかおびえているようにも見える。

 「どうかな、二人とも」

 「すごいね、修二。こんな場所まで知ってるんだもん。ねぇ玲音」

 「…ぷはぁ。あ、ごめん。話聞いてなかった。何の話?」

 莉音が玲音に話を振ると、玲音は猫のお腹に顔をうずめて猫分を百パーセント楽しんでいた。

 初対面の印象からの変貌っぷりを見た修二はもはや苦笑いしかできなかった。

 

※※※

 

 「あ~楽しかった。今日はありがとうね修二」

 猫寺からの帰り道、三人で横一列に並んで高砂駅前の通りを歩いていると、莉音が修二に向き直ってお礼を言ってきた。ちなみに修二が一番車道側、その隣に玲音、莉音が並んでいる。

 「いや別にいいんだよ、お礼なんて。僕そんなにたいした事してないし」

 「友達になってくれたじゃないか」

 「そうだよ。私たちこの街に来て、ホントによかったって思ってる。いい人にめぐり合えてホントに運がよかったと思ってる」

 修二が照れくさそうに頭をかきながら言うと、玲音・莉音の二人は修二の前に躍り出て修二に言った。

 こうも面と向かって言われるとなんだか照れくさいな。

 「じゃあ、引っ越し祝いもかねて今日の晩御飯は峰連荘の庭先でバーベキューでもしようか。燕ちゃんも、虎太郎さんも鬼灯さんも一緒に」

 修二が提案すると二人は喜んで同意した。修二は材料と道具をとりに御縁屋商店へ向かって歩き始めた。二人もそれに続く。そのとき、二人の横をトラックが通り過ぎて水を跳ね上げていった。

 「うわっ」

 「きゃっ、冷た~い」

 全く予想してなかった事態なだけに二人は頭から水をかぶってびしょぬれになってしまった。

 「ちょ、大丈夫?」

 「大丈夫…っくち!」

 「ちょ~っと予想外だったかも…っぷしゅん!」

 「あ~もう、そのままだと風邪引いちゃうよ。とりあえずお風呂と着替え貸すから急ごう」

 そうして三人は急いで御縁屋商店を目指した。

 何とか御縁屋商店につくと燕が三人を出迎えたが、玲音と莉音の格好を見てすぐに風呂の準備を始めた。

 「先に入れ莉音」

 「うん、アリガト玲音」

 準備が整うとすぐに玲音は莉音に先に入るように勧めた。

 自分だって寒いだろうに、やっぱり妹想いなんだな。

 修二はその光景をほほえましく見ていた。

 「じゃあ玲音はとりあえずこれにくるまってて。今ホットミルクでも作るから」

 「すまない…」

 修二は玲音に毛布を手渡し、台所でホットミルクを作り始めた。毛布を受け取った玲音は、燕から渡されたタオルで髪を拭いている。

 ホットミルクができ、玲音がそれをおいしそうに飲んでいると、風呂場から莉音が歩いてきた。莉音は修二のシャツとジーンズを貸してもらっている。

 「お風呂ありがとう、あと着替えも…。すぐに洗って返すね」

 「あぁ、いつでもいいよ。ゴメンね男物で。さすがに燕ちゃんの服は着れないだろうと思って」

 「そんなことないよ、着るものが貸してもらえるだけで幸せです!」

 修二がホットミルクを差し出しながらばつが悪そうにしていると、莉音は胸を張って高らかに言い放った。

 「じゃあ次、玲音さんいってらっしゃい」

 「じゃあ遠慮なく…お借りします」

 燕が言うと、玲音はずるずると毛布を引きずりつつ風呂場へと向かった。

 「さてと、じゃあ僕は玲音の分の着替えでも見繕ってくるか。燕ちゃん、莉音のお相手しておいてね」

 燕に言い残し、修二は二階にある自分の部屋に上がっていった。

 

※※※

 

 蛇口をひねると熱いお湯が出てきた。そのお湯を頭からかけ流しにする。寒さが芯まで染みているため、皮膚がひりつくように痛い。しばらく我慢していると段々と普通の感覚に戻ってきた。それを確認して玲音はシャワーの蛇口をひねり、お湯を止めると湯船につかった。

 「…」

 湯船につかりながら玲音は今日の出来事を思い出していた。

 修二と会ったこと、修二に町の案内をしてもらったこと、その修二が友達だと言ってくれたこと、今まで知らなかった世界のこと、次々と頭に浮かんでくる。

 楽しかった…かな。

 玲音は知らず知らずのうちに笑顔になっていた。本当に楽しかった時に人間は意識せず笑うものなのだろう。

 「そろそろあがろうかな。ちょっとのぼせてきたし」

 玲音は湯船の縁に手を掛け、立ち上がった。丁度そのとき

 「玲音、着替えここに置いておくからね」

 風呂場の扉を開け放ち、修二が顔を出した。

 

※※※

 

 一方その頃峰連荘では…

 「ひゃっひゃっひゃっひゃっひゃ!」

 「いーっひひひひひひ」

 昼間から二人の酔っ払いがぐでんぐでんに出来上がっていた。

 「いや~ほれにひれも、」

 虎太郎が口を開くが、ろれつが回らない。恐らくあれからずっと二人で酒盛りをしていたのっだろう。

 「あのふらりも大きくなったな~。もうこうこうへいらろ?」

 「あんらも歳食ったってことじゃねぇろ?」

 鬼灯までぐでんぐでんだ。修二に合った時の精悍な印象はもはやかけらもない。

 ここまで言うと二人はコップに注いであった水を一気飲みした。

 「ふう、まだ少し残ってるけど大体抜けたかな」

 などという鬼灯の顔はまだ赤く、抜けきってないことは誰が見ても明らかである。しかし、先ほどまでの痴態とは比べるべくもなくまともだ。

 「時に鬼灯よ、おめーあのこと修二に言ったか?」

 こちらも同じく少しまともになった虎太郎が鬼灯に問いかける。

 「ん?何を?」

 「いや、玲音のコンプレックスのこと」

 「え?当然トラから話してくれてるもんだと」

 「いやいやいや。こういうことは身内がやるもんじゃねぇかな~…と」

 しばらく二人の間をを沈黙が走る。

 「まぁ、大丈夫だろ。そうそう問題なんか起きやしねーよ」

 「だよね、大丈夫だよね」

 二人は問題ないと自分に言い聞かせると、再び酒を飲み始めた。その問題が今現在起こっていることも知らずに。

 

※※※

 

 場面は戻って御縁屋商店の風呂場。

 あ…ありのまま起こった出来事を話すぜ!『男だと思ってた友達が実は女だった』。な…何を言ってるのかわからないと思うが、僕にも何が起こっているかわからなかった…。頭がどうにかなりそうだった…。催眠術だとか超能力だとか、そんなチャチなものじゃあ断じてない。もっと恐ろしいものの片鱗を味わったんだ…。

 自分の目の前で起こっていることが現実なのかわからなくなった修二はしばらく固まってしまった。それは玲音も同じなようで、風呂から立ち上がったままの姿勢で固まっている。

 はっ!僕は何をやっているんだ。とりあえず逃げないと…

 しばらくして放心状態から覚醒した修二は、熊からの逃げ方を思い出してゆっくりゆっくりと後ずさりを始めた。その速度はよく目を凝らさないとわからないほどで、プロのパントマイマーもかくやと言わんばかりの動き方だった。

 あと少しで風呂場という名の殲滅地区(キルゾーン)から脱出できるというときに、修二は玲音と目が合ってしまった。

 「…き」

 「き?」

 「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 玲音は叫ぶや否やそこらへんにあった石鹸箱や洗面器を放り投げてきた。

 「ちょ、玲音、ごめんって、話を聞い…ごふっ」

 最初のうちは見切って避けていた修二だったが、最後の最後で飛来してきたシャンプーの容器が顔面に直撃した。

 「ふぁ~あ、なんだようっせえなぁ…って何やってんだ修二?」

 ようやく起きてきた醍醐は、風呂場の前で大の字になって伸びている修二を見て怪訝そうな顔をした。

 

 

※※※

 

 「なっはっはっはっは、やっちまったなぁ修二」

 時間は流れて夜。峰連荘の庭先でバーベキューに舌鼓を打ちつつ、ビールを流し込んでいた虎太郎は豪快に笑った。

 あの後しばらくして修二は意識を取り戻した。そのおかげでバーベキューの計画は流れずに済んだが、修二と玲音は互いに非常に気まずい時間を過ごしていた。

 「笑い事じゃないですよ!おかげで寿命が縮みましたよ!」

 肉を焼きながら修二は言った。大人は皆ビールで酔っ払ってしまっているため、使い物にならないと判断した修二が自ら志願して焼き役に徹していた。

 「あははは、最初に言っておけばよかったね。玲音は昔からよく男の子に間違われてさ。あの容姿であの性格でしょ?いつだったか一回女の子から告白されたこともあったほどなんだよ。そのこと本人としてはえらく気にしててさ、本人が自分で言うまで待ったほうがいいかなと思ったんだけど…逆効果だったみたいだね」

 鬼灯は手にした牛串をかじりつつ修二に言った。

 「そうだったんですか…」

 修二はふと玲音を見た。みんなから少し離れて一人で飲み物を飲んでいる。一見するといつもと変わらない様子だが、悲しそうな、寂しそうな、そんな目をしていると修二は思った。

 「…鬼灯さん。ちょっとだけ、焼き役かわってもらえませんか?」

 「ん、いーよ。行って来い、男の子!」

 修二が言うと鬼灯はふふと微笑んでから、修二の背中をバシッと叩いて送り出した。

 「えーと…その、玲音」

 「…なに?」

 修二が近くまで行き声をかけると、玲音は虚空を見ていた先ほどまでの目を修二に向けた。その目線は、暗に修二を責めているように冷やかだった。

 「その、さっきのことなんだけど、ゴメン!僕、玲音が女の子だってわからなくて、この町に来てはじめてできたかっこいい男友達だと勝手に思って、一人で舞い上がって、考え無しに行動した挙句に玲音のことを傷つけた。どんなことをしても償えるとは思えないけど、今は頭を下げることしかできないけど、こんな僕だけど、また友達として接して欲しい」

 修二は一息に言うと、深々と頭を下げた。

 「…」

 玲音は黙ったまま、修二が下げた頭をジッと見ている。

 ダメか…。

 「ふふっ」

 しばらく沈黙を保った後、玲音が笑みをこぼした。玲音は続ける。

 「大丈夫だよ、修二。ちょっとイジワルしてみたくなっただけさ。…修二が友達だって言ってくれたとき、すごくうれしかった。その気持ちに嘘はないと思う。だから、修二は私においしいものを食べさせて。今回はそれでチャラにしてあげる」

 修二の肩にポンと手を置きながら玲音は言った。ここまで言うと玲音は修二に背を向けた。

 「玲音…」

 「あ、でも」

 玲音は修二の言葉を遮って、くるんと半回転して修二の顔を見ながら続けた。

 「かっこいいって言われるよりはかわいいって言われたいな。…私だって女の子だもん」

 普段は凛々しい玲音の目が下がり気味になり、言葉の端にふてくされた子供のような色合いを見て取ることができた。そんな子供っぽい印象が玲音の容姿と良い意味でミスマッチし、普段とは違った魅力を演出していた。

 「…ふふふ、あはははは」

 「なんで笑うんだよ」

 「いや、ちょっと予想外だったから。案外かわいいところあるんだね」

 「言ったな、案外ってなんだ案外って」

 修二と玲音は笑いながら追いかけっこをし始めた。

 「なんとかなったみてーだな」

 「そうみたいだね」

 虎太郎と鬼灯がその様子をほほえましそうに見ていた。

 「いや~、それにしても」

 「あ~、そうだね」

 しばらく酒を飲みながらその様を見守っていた虎太郎が突然口を開いた。それにつられて鬼灯も口を開く。

 『丸く収まってよかったなぁ~』

 二人の口調が一致する。二人とも自分の心配が最優先だった。

 そのことを知った修二が『こんな大人にだけはなるまい』と心に誓うのはまた別の話である。

 




玲音(以下『玲』)「玲音だぜー」(棒)
莉音(以下『莉』)「莉音だよー!どうしたの、玲音?そんなに棒読みで」
玲「考えなしの作者のせいで普段絶対にしないテンションで喋ることになったからな…」
莉「確かに玲音の普段のテンションとは似ても似つかないよね。いっそのこと役交換する?」
玲「…交換しても変わらないからいいや。それにどうせ今回だけだし」
莉「え?今後次回予告はこんな感じでやっていくって聞いたよ?」
玲「なん…だと…?」
莉「次回、『修二、登校』!」
玲「嘘だと言ってくれ…」

今後の予告ネタは突発的に思いつかない限りアニメ版化○語的にします。
玲音から違和感しか感じない…。
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