最初に言っておく!
次回はかーなーり、短めになります。
などと某仮面ライダーみたいに言ってみました。
今回も少し短めです。すみません。
入学から一ヶ月が過ぎ、段々クラス内での生徒の立ち位置が定まってきた。休憩時間や昼休みなどには大体仲のいいグループで固まることが多く、修二たちも例外ではなかった。
昼休みになると修二たちは大体中庭へと赴くことにしている。中庭には食事ができるような木製の丸い机とそれを取り囲むように六つの椅子のセットがいくつか設置されているためだ。
中庭の中心には大きな木が植えられており、中庭全体に影を作り、優しい木漏れ日を生徒たちに提供している。そのようなすばらしい環境に、学校の外まで昼食を買いに行っている拓と耕治を除くいつもの面子がそろっていた。
…微妙に居づらい。というか周りからの視線が殺意を帯びているのがわかる…。
傍目から見れば今の修二は複数の女子に囲まれた男子というものであり、周りの生徒―特に男子生徒―からの視線が自分を貫いていることを嫌でも自覚させられる。
「…じ!修二ってば!」
「ん?あぁゴメン、聞いてなかった。何?」
修二が我に返ると眼前に莉音の顔が迫っていた。莉音の手にはなにやら小冊子のようなものが握られている。
「だーかーらー!修二のタイプ占いやりたいから、誕生日と血液型教えてってさっきから言ってるのー!ちゃんと聞いててよ」
言うと莉音はぷうっと頬を膨らませて抗議してきた。修二は莉音が持っている小冊子に目をやると、『誕生日と血液型で占うあなたのタイプ』というタイトルだったことに気がついた。
「女子ってそういうの好きだよねぇ~。まぁ、僕も嫌いじゃないけど。えっとね、九月十七日生まれのA型だよ」
「その言い方は心外だな。私も女子だが占いの類はあまり好きじゃないぞ」
修二が言うと、莉音の隣で文庫本に目を落としていた玲音が本から目を離し、修二を睨んだ。その目は明らかに不機嫌なものだった。
「ゴ、ゴメン。だよね、そういう人もいるよね。あ、莉音。結果はどうだった?」
玲音の迫力に負けた修二は何とかして話題を転換させようと、小冊子と首っ引きになっている莉音に話を振った。
「ん~とね~、『九月十七日生まれのA型のあなたは羊…と見せかけて狼タイプです。羊の皮をかぶって純情可憐な乙女たちに近づき、親密になったころにおもむろに襲い掛かる知能犯タイプです。』だって」
つらつらと結果を読み上げる莉音の横でみるみる修二の顔が青くなっていく。読み上げる莉音の声がなかなかに大きく、周りにいる生徒が怪訝な表情でひそひそ話を始めたためだ。
「ちょっと待って莉音、とりあえずその本を燃やそうか」
たまらず修二は莉音の頭を鷲づかみにして自分の方へと引き寄せた。
「きゃあー、助けてー!襲われる~!」
すると莉音は先ほどよりも大きな声でわめき始めた。その声を聞いた周辺の生徒が余計にざわついた。
「ちょっ、莉音。またそんな誤解を生むようなことを…二人も黙ってないで何とか言ってよ」
「まさか修二さんがそんなことする人だったなんて…」
「莉音から離れろ、この異常性欲者め」
莉音の口を押さえながら修二が玲音と更科のほうを向くと、二人は占いの結果を真に受けていた。
更科は自分の手で口を覆いながら軽く引いており、玲音に至っては完全に修二を敵視していた。
ちくしょう、どいつもこいつもそんなに僕を犯罪者にしたいのか…。
「おー、なんか楽しそうだな」
修二が、更科の「信じられない」という目線と、玲音の外敵から我が子を守ろうとする親のような目線を一身に受けていると、学校のすぐ前の弁当屋のビニール袋を提げた耕治と拓が歩いてきた。
背中にかけられた耕治の声で、暗黒面に堕ちかけていた修二の精神が現世に引き戻された。
「耕治、拓、よく帰ってきてくれた。心の友よ!」
「何を大げさな…」
「いや、本当に何かあったみたいだぞ、耕治」
※※※
全員そろって昼食をとりながら、修二は先ほどまでのあらましを話した。
「いやいやいや、修二が狼とかないわー。だってこいつ中学の時…」
それを聞いた耕治は笑いながら修二の中学時代を暴露しようとした。
「おーっとそこまでにしておこうか我が友耕治君」
たまらず修二は耕治を後ろから羽交い絞めにしてずるずると引きずっていった。
「で、今みんなのタイプ占ってるんだけど、タッ君の誕生日と血液型教えてくれるかな?」
既に昼食を食べ終わっている莉音は占いの本を片手に、拓に詰め寄った。
「え、それ俺もやるの?」
完全に壁の花を決め込んでいた拓は、意表をつかれた形になった。
「当たり前じゃん。みんなの分占うんだもん!ちなみに私と玲音はガゼルで、耕治君は雑種犬だってさ」
そんなこんなで五人が騒いでいる中、更科だけ妙に暗い顔でふぅ、とため息をついていた。
「ん~、タッ君は柴犬か~。更科ちゃ~ん、更科ちゃんの誕生日と血液型も教えて」
「え?あ、はい。私は五月二十六日生まれのA型です」
物思いにふけっている更科にもお構い無しに、莉音はタイプ占いを行うべく誕生日と血液型を聞いてきた。
「へ~、更科来週誕生日なんだ」
耕治と格闘しながらも修二は耳聡く更科の誕生日を聞き取った。
「ほほう、ならば我々で誕生日パーティー的なことを催さない手はないな」
同じく修二と格闘していた耕治の目が怪しく光った。
「あ、いえ。そんなお気を遣わせるわけには…」
「あ、いいね~。いつやる?」
「当日は家族で過ごした方がいいと思うからそれ以外じゃない?」
莉音は開いていた占いの本をほったらかしにして玲音に相談を始めた。
「じゃあ、今週土曜の授業終わってから修二ん家でよくね~?」
高砂第二高校では毎週土曜日は午前で授業が終わり、午後からは放課となる。
「いや、僕下宿だから…」
「私たちのアパートの前にある空き地でやれば?前もって大家さんに許可とっておけば問題ないと思うし」
少し困り顔になった更科を無視して話が進んでいく。
「あの…」
パーティー会場についての議論が行われている中、困り果てた更科が口を開いた。
「あ、迷惑…だったかな?だったらゴメン」
「いえ、その逆です。うれしいんです。でも、本当に私なんかのためにそんな催し物を開いてくださってよろしいんですか?迷惑じゃありませんか?」
そんな更科の顔を見て修二の顔が曇った。しかし、返す刀で更科から返答が返ってきた。
「そんな、迷惑だなんて思ってる奴このメンバーにはいないよ」
「そうだぜ~更科ちゃん。友達の誕生日祝うのに面倒に思う奴なんかいるもんかよ」
修二と耕治にまくし立てられると、更科の大きく見開かれた瞳から涙が一筋流れた。
「え?ど、どうしたの、急に?」
「お前のせいだろ修二。お前が『迷惑』だなんて言うから…」
「話聞いてたか?僕は『迷惑なんかじゃない』って言ったよ…」
更科の涙を見て、慌てた修二と耕治はお互いに責任を押し付け始めた。
「違うんです、うれしくて…。私、友達にそんなこと言われたの…はじめてで」
更科はその醜い罵り合いを呆然として見ていたが、しばらくして我を取り戻した更科が二人の間に割って入った。
その姿を見て修二と耕治は毒気を抜かれたようになって、言い合いを収めた。
「さて、それじゃあまぁ日時と場所は決まったから後は食い物とかどうするかだな」
とりあえず先ほどまでの騒ぎに収拾がついたところで、拓がパーティの計画に話を戻した。
「それぞれ一品ずつ用意する形でいいんじゃない?」
それを受けてそれまで壁の花を決め込んでいた玲音が手にしていた文庫本を閉じ、話に加わった。
「あ~、それいいね。じゃあ各々食べ物を一品ずつ持参することにしようか」
「もちろんそれとは別にプレゼントも用意しないとな。いや~なんかテンション上がってきたな~」
玲音の意見に莉音が賛同し、耕治が付け加えた。
「あの、そこまで皆さんにしていただかなくても…」
すると、またしても申し訳なさそうに更科が上目遣いで修二を見やった。
「だから、僕たち自身が更科の誕生日を祝いたいって思ってやろうとしてることなんだから。変な遠慮とか要らないよ?それだったら更科の笑った顔のほうが欲しいな」
「またお前はこっ恥ずかしいことをサラッと言いやがったな…」
修二が更科に向かって笑いかけていると、その隣で耕治が修二を茶化すように一言発していた。
そして再び二人が小突き合いを始めたころ、校内に予鈴が鳴り響き始めた。
「お~い二人とも~、予鈴なってるよ~」
「…駄目だありゃ。更科さん、神谷姉妹も先に行こう」
莉音は小突き合いを続ける二人に声をかけたが、二人は小突き合いをやめる気配がない。やむなく拓は周りで見ている更科と神谷姉妹を連れて教室へ向かうことにした。
そんな二人が五限目の教室に姿を現したのは、授業が始まって十五分ほど経過した頃だった。
※※※
終業のチャイム。恐らくは世界中の学生が待ちわびているであろう音色は大きく、深く響いていた。
更科はその日の授業を終えると、掃除当番や居残りなどですぐに帰ることができない友人たちと別れて帰路についた。
『ならば我々で誕生日パーティー的なことを催さない手はないな』
『僕たち自身が更科の誕生日を祝いたいって思ってやろうとしてることなんだから』
頭の中で昼間の友人たちの声がこだまする。それだけで更科の心はほっこりと温かくなっていった。しかし、
『当日は家族で過ごした方がいいと思うからそれ以外じゃない?』
「はぁ…」
この一言が頭の中に出てきたとたん更科は大きなため息をひとつついた。
結局言えませんでした…。
悶々としながら歩いていると、高砂東駅に着いた。更科の家は豊橋市郊外にあるため、ここから電車で三十分ほど移動する。
電車に揺られること三十分ほどで、電車は終点の梅川駅に着いた。ここから更に十分ほど歩いたところに更科の家はある。
更科が足を止めたのは巨大な門を有するとんでもない豪邸の前だ。しかし、この家は更科が通学用に
この豪邸を簡素と言い放つ親とはどんな人物か。何を隠そう更科の父は世界でもトップクラスの大財閥、黒姫グループの会長なのだ。一説によると黒姫グループ全体の総資産額は小国の国家予算を補って余りがあるほどだという。
しかし、更科自身はこのことを修二たちには伝えていない。自分が黒姫グループの関係者であると知られてしまったときに、せっかくできた友人たちがよそよそしくなってしまうのではないかと考えたからだ。
更科が大仰な門の前で立ち止まると、その門が重苦しい音を響かせゆっくりゆっくりと開いていった。
「お帰りなさいませ、お嬢様」
門が開ききると、白髪混じりの髪をきっちりとセットし、スワローテイルに身を包んだ初老の紳士が頭を下げて更科を出迎えた。
「ただいま、藤代さん」
更科はその老紳士に向かって呼びかけながら、門の奥に見える豪邸へと向かって歩き始めた。
先ほど更科に『藤代』と呼ばれた老紳士は更科の後ろをつかず離れずの距離を保ちつつついてきた。どうやら彼はこの家の執事らしい。
「本日の学校はいかがでございましたか?」
更科が玄関にたどり着く少し前に、先回りして玄関の扉を開きながら藤代は問いかけた。その藤代の表情はとても柔和な表情で、更科に対してとても深い愛情を持っているということが見て取れた。
「はい、今日も滞りなく過ごすことができました。あ、あと…今週の土曜日は一日出かけますので、よろしくお願いします」
そんな藤代の言葉に、更科も穏やかな表情で言葉を返した。
「かしこまりました。ご学友様とお出かけですかな?」
「いいえ、友達が…私の誕生日パーティを企画してくださって」
言った更科は子供が笑うように藤代に笑いかけた。
「作用ですか…。それはようございました。ぜひ楽しんできてくださいませ」
玄関を入った大きなホールで藤代は更科の鞄を受け取り、更科がうれしそうに話すのを見ていた。
「しかしこの藤代、お嬢様の誕生日は来週の水曜日だったと記憶しておりますが…」
「ああ…それはね、友達が気を利かせてくれて『誕生日は家族と過ごした方がいい』と…」
藤代が投げかけた何気ない質問に答えた更科の顔はみるみる曇ってしまった。
「申し訳ありませんでした。出過ぎた質問を…」
「いいの、藤代さんは悪くないの。…お父様は?」
藤代が頭を下げると、更科は首を大きく横に振った。そして震える唇で自らの父親の今後の予定を聞いた。
「はい。昨日起こりました財閥内での内輪もめの後始末のため、旦那様は今月いっぱい財閥の業務からお抜けになることはできませんでしょう。残念ですが…」
「そう…。また今年も藤代さんと一緒ですね」
更科は残念そうに藤代に言葉を投げかけた。しかし、その口調はどこか安心したようにも思えた。
「お嬢様、この藤代をお気にかけないでください。どうかご学友様たちとお誕生日を過ごしてくださいませ」
藤代は頭を下げながら言った。
「でもただでさえ気を遣わせてしまっているのに、この上更に日時を変更して欲しいだなんてわがままが過ぎると思うんです。それに、私藤代さんが作るケーキ、毎年楽しみにしてるんですよ」
藤代の一言に更科は少しおどけて見せながら答えた。
「もったいないお言葉です。…それでしたら今年は更に趣向を凝らさせていただきます。では、私は今日のお夕食の支度に移らせていただきます。今日のお夕食は良いスズキが手に入りましたのでアクアパッツァにいたしたいと思いますが、いかがでしょうか?」
「お任せします。私は部屋に戻って今日の分の宿題やってますね」
更科が言うと藤代は深く頭を下げ、そのままキッチンの方に歩いて行き、廊下の先に消えていった。
更科は自分の部屋に戻り、大きなベッドに体を投げ出して天井を仰いだ。そうして大きく息を吸い込み、一言呟いた。
「何やってるんでしょう、私」
その呟きは更科一人しかいない部屋に虚しく響いた。
※※※
「おい耕治、その肉僕のだぞ!」
「気にすんな、お前のものは俺のもの理論ってやつだ」
明けて土曜日、修二たちは峰連荘の前にある空き地で更科の誕生日パーティとしてバーベキューをしていた。
「ところで私もおよばれしちゃって良かったの?」
このパーティを企画した面子に加え、醍醐、虎太郎、鬼灯、更には美鈴までいる。他の面子に比べて耕治たちとのつながりが薄い美鈴は若干落ち着かないようだ。
「なぁ~に言ってるんですか、お姉さま。あなたみたいな綺麗な方だったらいつだって大歓迎ですよ」
「お姉さまって呼ばれるほど君たちと歳離れてないんだけどなぁ~…。うん!この際だから言っておこうかな。はいみんなちゅうも~く!私のことは『美鈴ちゃん』と呼ぶように!」
美鈴は右手を高く上げ、あたりに響くような大きな声で言った。近所の住人が家から出てこないか修二は気が気じゃなかった。
ふと修二があたりを見回すと、更科はパーティの輪から外れて一人でボーっとしている。
「楽しんでる?」
そんな更科に修二は声をかけた。
「あ、修二さん。ええ、とても」
修二に声をかけられた更科は一瞬身をこわばらせたが、すぐにいつものような柔らかな笑顔を修二に向けた。
「ならいいけど、何かあったらすぐに言ってね。僕にできることだったらなんでもするよ。今日は更科が主役なんだからさ」
ここまで言って修二は屈託のない笑顔を更科に向けた。
「修二さん…。あの…」
「おーい、お二人さん!そんなとこいねーでこっちで一緒にゲームやろうぜー!」
更科は修二の言葉を心の中で復唱し、意を決したように言葉を発したが、向こうから響いてきた耕治の声にさえぎられてしまった。
「今そっち行くよ!行こう、更科」
「はい、行きましょうか…」
更科は自分の中にあるもやもやを解消することができないまま修二についてパーティの輪の中に戻っていった。
※※※
退屈な時は長く感じるのに楽しい時はあっという間に過ぎ去っていくのはなぜだろうか?
修二はそう考えながらパーティの後片付けをしていた。
結局あの後パーティはあたりが暗くなっても続き、二次会、三次会と続いていった。そして三次会が終わったあたりで完全に日が暮れてしまっていた。そこで急遽お泊り会という流れになったのだ。
女性陣は峰連荘の空き部屋でガールズトーク、男性陣は御縁屋商店の居間で雑魚寝といったようにそれぞれ思い思いのお泊り会をエンジョイしていた。
「修二さん、何かお手伝いしましょうか?」
更科は一人で黙々と後片付けをしていた修二の隣まで歩いてくると、束ねた長い髪を揺らした。
「うん、ありがとう。じゃああっちにある紙皿とかの食器類を、使ったやつと未使用のやつとに分別しておいて」
「はい、わかりました。使ってあるやつはこちらのゴミ袋に入れておけばいいですか?」
「うん、そうしておいてくれれば後は僕がやっておくから」
修二に確認を取ると更科はてきぱきと分別を始めた。その姿を見ながら修二は先ほどまで使っていたバーベキューコンロを水でザバザバと丸洗いしていた。
「ねぇ更科、今日楽しかった?」
修二はコンロを洗う手を止めずに更科に向かって言葉を投げかけた。
「え~、なんですか急に?もちろん。とても楽しかったですよ。それに皆さんに祝ってもらえて、本当にうれしかったです」
更科は作業する手を止め、修二に向き直って答えた。その顔には笑顔が浮かんでいるが、いつものような明るいものではなく、どこか悲壮感すら漂っていた。
「本当に?今日の更科いつもと様子が違ってたよ。…何かあるんじゃないの?」
修二はそれまでやっていた作業を止めて更科に近づき、更科の両肩を掴んで更科に問いかけた。
「聞いて…くれますか?」
「もちろん。僕でよかったら話聞くよ」
更科の今にも消えてしまいそうな声を聞いた修二は、更科の大きな瞳を見つめながら力強く言葉をかけた。そして二人が峰連荘の前の空き地に置いてある二人掛けのベンチに座ると、更科がぽつりぽつりと話し始めた。
「今日のパーティは本当に楽しかったです。嘘じゃありません。…皆さんは私に気を遣って『誕生日当日は家族と過ごした方がいい』と言ってくれました。でも、お父様はお仕事が忙しくて今年も誕生日には家に帰れないそうなんです。せっかく皆さんが気を遣ってくださったのにその気遣いを台無しにするような気がして…」
「で、言い出せずにもやもやしたままで今日一日過ごしていた、と。そんなこと気にしなくてもいいのに…。あれ、でもお母さんは?」
「お母様はもともと体が弱くて、私を生んで体を壊してしまって…」
修二が聞くと更科は更に顔を曇らせてしまった。
「ゴメン、無神経だった…」
修二はしまったという気持ちでいっぱいになってしまい、反射的に謝った。
「いえ、私もあまり覚えてないので、気にしないでください。…でもお父様はその頃から変わってしまったと聞きます。それまでは仕事を後回しにしてまで私とお母様と一緒に過ごす時間を作っていたらしいんです。それなのに…」
ここまで一息で言うと更科は目を伏せ、黙ってしまった。更科の華奢な肩は小さく震えている。
「お父様は…私のごどが…ぎらいになっで…まっだんでじょうか?私を生んだ…ら…お母ざま…っが、し…死んでしまっだか…ら…」
顔を上げた更科は大きな瞳から大粒の涙をぽろぽろと流し、顔をくしゃくしゃにしてしゃくりあげて泣きながら小さな声で言った。
そうか、どんなに気丈に振舞ってもまだ十五歳の女の子なんだ…。
「お父さんのこと大好きなんだね?」
修二が聞くと、更科は頷いた。
「大丈夫。こんないい子を嫌いになるなんて、そんなことあるもんか。きっと更科のお父さんも更科のことが大好きだよ」
修二がそう言うと、更科は修二の胸に顔をうずめて、大きな声で泣きはじめた。
おいおいおい、どういうことだ、これは?どんな状況なんだこれは?落ち着け、落ち着くんだ黒埼修二。
修二は激しくビートを刻む胸を無理やりに制しながら、更科の頭に手をやり、撫でてやった。更科の体がビクッと跳ねた。
「そう…っで…しょうか?」
更科はしゃくりあげながら修二の顔を見上げた。その顔はいつもの更科とは違った魅力を放っており、修二は思わずドキッとした。
「もちろんさ。娘のことが嫌いなお父さんなんているわけないよ」
頭を撫でる手を止め、更科の両肩を優しく掴んで修二は言った。
「…どう?少しは落ち着いた?」
「…すみません、もう大丈夫です」
その後修二は、泣き続ける更科を無言でなだめた。しばらく泣き続けて、更科はいくらか落ち着きを取り戻したようだ。
「ところで、全く休む暇がないって、更科のお父さんってどんな仕事してる人なの?」
「ご存知ありませんでしたっけ?」
幾分か落ち着きを取り戻した更科は、しばらく考えた後に意を決して修二の問いに答えた。
「お父様は…」
玲音(以下『玲』)「玲音だぜー」
莉音(以下『莉』)「莉音だよー!ちょっと慣れてきたんじゃない?」
玲「ちょっとね。…まだ恥ずかしいけど」
莉「そのうち大丈夫になるって。な~に、嫌なのは最初だけさ。すぐに良くなって、これなしじゃ生きていけなくなるよ」
玲「…その言い方は誤解を招くから早めに撤回しような、莉音」
莉「はーい。…って言うか私たち今回空気過ぎない?」
玲「まぁ、今回の主役は更科みたいだしね。私たちが主役の話は次回以降に書いてくれるさ。ね、
莉「次回、『一番大切な日』」
玲「私の一番の大切は、あなたのそばにいることであります」
莉「玲音が珍しくネタを挟んできた!?」