【学マス×チェンソーマン】花海咲季はプロデューサーのご褒美が欲しい! 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
初星学園本校舎――その壮大なタワーの最上階へと繋がる専用エレベーターは、無機質なシームレス音を響かせながら一直線に上昇していた。
ガラス張りの壁越しに、夕暮れ時の赤黒い光に染まる広大な学園キャンパスが眼下に広がっていく。幾重にも重なる専用レッスン施設、巨大アリーナ、そして遠くに見える女子寮の立ち並ぶ街並み。東京のど真ん中に鎮座するこの巨大なアイドルの聖地は、頂点を目指す少女たちの血と汗と欲望を呑み込んで静かに蠢いていた。
花海咲季は、その光景を食い入るように見つめていた。
「すごい……。ここが初星学園の『本部タワー』なのね……!」
破れたレッスン着を学園支給の新品に着替え、後頭部の打撃手当を終えたばかりの彼女だったが、その瞳には疲労の色など欠片もなかった。胸の奥でドクン、ドクンと静かにアイドルのエンジンを鳴らしながら、溢れ出す野心を全身から散らしている。
「咲季ちゃん。ここから先は、学園の最高幹部たちが直接執務を行う重要区画よ。勝手に走り回ったり、不快な爆音を立てたりしないようにね」
隣に立つ藤田ことねが、スマートフォンでスランプ防止の最新株価データをチェックしながら、冷ややかに釘を刺す。その背後には、不機嫌そうに両腕を組み、マイクデバイスを腰に下げた月村手毬が静かに佇んでいた。
エレベーターが最上階に到達し、静かに扉が開く。
重厚な大理石の廊下の先、重厚な観音開きの扉を抜けると、そこは学園の全データを統括する巨大な統理室だった。無数のホログラムモニターが浮かび上がり、全国のアイドル候補生たちのレッスン数値や、ネット上に飛び交う炎上ノイズデータがリアルタイムで激しく流動している。
部屋の中央、広大なデスクの前に背を向けて立っていた人物が、ゆっくりと振り返った。
「ようこそ、特命補習組のみなさん。……そして、旧校舎での悪質炎上ブロガーの鎮圧、見事だったわ、花海咲季ちゃん」
透き通るような声。そこにいたのは、学園長の手先とも、あるいは学園の裏の統治者とも噂される、神秘的で絶対的なオーラを纏った上級生――マキマの如き絶対的権威を持つ存在だった。
咲季は一歩前へ踏み出し、胸を張って言った。
「当然よ! 私は初星学園で1番になる女なんだから! あんな末端のバケモノ、私のストイックな熱量の前では準備運動にもならなかったわ!」
「ふふ、頼もしいわね。あなたが胸に抱く『1番になりたい』という爆音のエンジン……コウモリ型や蛭型のデータゴーストを叩き潰したそのパフォーマンス、噂以上の潜在能力だわ」
上級生は静かに歩み寄ると、咲季の目元をまっすぐに見つめた。その瞳は底知れず深く、すべての感情を見透かしているかのようだった。
「けれど……咲季ちゃん。あなたが本当に目指すべき『1番』の道には、まだあまりにも巨大な障害が立ちはだかっているの」
「障害……?」
咲季が眉をひそめると、上級生はすっと細い指を掲げ、空間に一枚のホログラムウィンドウを展開させた。
そこに映し出されたのは、不気味に歪んだ黒と赤のノイズデータ。世界中のSNS、動画配信サイト、そして初星学園の内部ネットワークすらも裏から侵食し、無数のアイドル候補生たちに誹謗中傷とデマを撒き散らして休校や退学へと引きずり落としてきた、絶対的な黒幕の記録だった。
「――『銃の悪質ブロガー(銃のアンチ)』」
上級生の声が、冷たく静かに部屋に響いた。
「十三年前、わずか五分間の間に世界中のネット上へ数億件の誹謗中傷データを一斉に撒き散らし、数千人のトップアイドルを一夜にして引退へと追い込んだ、最悪のデータゴースト。……今、学園内に蔓延る末端の悪質アンチたちも、すべてはこの『銃のアンチ』が排出したノイズの欠片(肉片)を体内に取り込むことで、異常な音圧と攻撃力を得ているのよ」
手毬が低く通る声で補足する。
「旧校舎にいた悪質ブロガーも、コウモリも蛭も……全員、その『銃のノイズデータ』を体内に保有していたわ。だからあんな異形のスピーカースーツや音圧攻撃を使えたのよ」
「そういうこと」
上級生は優雅に頷き、咲季へと視線を戻した。
「咲季ちゃん。学園の上層部は、この『銃のアンチ』を完全に沈黙させ、初星学園に真の平和と健全なライブ環境を取り戻すことを最優先事項として決定しました。……そして、その討伐の主力を、あなたたち特命補習組に委ねたいの」
咲季は鼻で笑った。
「ハッ! 願ってもないわよ! その一番でかいアンチだか何だか知らないけれど、私のパフォーマンスで全員まとめて踏み潰してあげるわ! ……で? それを達成したら、私に何をしてくれるのよ?」
咲季の瞳に、不純で純粋すぎるギラギラとした熱味が宿る。
「藤田ことねは言ったわ! 成果を上げれば、私のご褒美……プロデューサーの身体を合法的に、頭から足の先まで好きなだけ見たり触ったり、専属契約を結ぶ権利をくれるってね! 今度はウレタンの塊なんかじゃない、本物のご褒美なんでしょうね!?」
ことねが「げっ……」と顔を引きつらせて身を引いたが、上級生は一切表情を変えず、優しく微笑んだ。
「ええ。約束するわ、咲季ちゃん」
上級生は咲季の目の前まで歩み寄ると、その華奢な肩にそっと手を置いた。
「もしあなたが『銃の悪質ブロガー』を完全に討伐し、学園に平和をもたらしたなら……。学園長権限において、あなたの願い事を――どんな願い事でも、ひとつだけ叶えてあげる」
「な、願い事……!?」
「そうよ。プロデューサー君との生涯にわたる永久専属契約でも……彼の身体を毎日好きなだけ見たり触ったりする特別な権利でも……あなたが望むすべての『ご褒美』を、私が責任を持って保障してあげるわ」
「っ―――――――――――!!」
咲季の胸の奥で、カチリと音を立ててエンジンが火花を散らした!
ドクン! ドクン! ドクン! ドクン!
ボイラー室での激闘すら生ぬるいと感じさせるほどの、爆発的な重低音が統理室内全体を揺らし始める。咲季の全身から、空気を焦がすような紅蓮のオーラと熱気が噴き出し、彼女の顔は絶頂を迎えたかのような歓喜と狂気で歪んだ。
「本当ね……!? 今度は嘘じゃないわねっ! 本当に……本当にプロデューサーのを好きなだけ触らせてくれるのねぇぇぇっ!?」
「ええ。私、本気の約束において嘘はつかないわ」
上級生が甘く、絶対的な声で頷く。
「乗ったわぁぁぁぁぁっ!! その『銃のアンチ』だか何だか知らないけれど、地球の裏側まで追いかけてでも絶対に叩き潰してやるわぁぁぁっ!! 本物の! 最高の!プロデューサーのご褒美は私のものだぁぁぁっ!!」
咲季は天井に向かって咆哮した。
欲望全開の咆哮が統理室に虚しく、しかし圧倒的な熱量をもって響き渡る。手毬は「うわぁ……本当に気持ち悪い……」と心底嫌そうな顔で耳を塞ぎ、ことねは「まあ、やる気になってくれたなら収益的には万々歳ね」と手帳をパチンと閉じた。
上級生は、爆音のエンジンを鳴らして歓喜する咲季を、どこか慈しむような、それでいて冷徹な瞳で見つめながら、静かに微笑んでいた。
「頑張りなさいね、咲季ちゃん。あなたのその生の情熱……期待しているわ」
こうして、プロデューサーへのどこまでも純粋で暴走したスケベ心と、1番へのストイックな執念を爆発させた花海咲季の、最大の敵『銃の悪質ブロガー』を巡る血みどろで過酷な新たなる戦いが、今まさに幕を開けたのだった。