チェンソーアイドル咲季ちゃん 〜学食のうどんを食べさせてくれるなら、私なんでもする〜 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
初星学園、本校舎へと向かう学園の連絡バス車内。
学食で買われたぬるい缶コーヒーと特製うどんを喉に流し込み、咲季は生きた心地を取り戻していた。
隣の座席に座る藤田ことねは、車窓の外を流れる学園の景色を眺めながら、計算高い瞳で口を開く。
「……花海咲季。あなたの身柄と処遇は今後、私が管理するわ。私の提案に従い、アイドルとして結果を出し続ける限り、学食の特製メニューも練習場所も保証してあげる。でも、途中で投げ出したりプロデュース契約を放棄しようとしたら……即ペナルティ処分よ」
「処分……プロデュース解除ってこと? 学園を追い出されるってこと!?」
「同じようなものよ。……ねえ、プロデューサーさん? あなたも彼女の専属として、私の管理に入ってもらうわね」
運転席の横で苦笑いを浮かべる俺をよそに、バスは学園の特命第12レッスン棟へと到着した。地下スタジオへと続く重いドアを開けると、そこに待っていたのは、ジャージ姿で仏頂面を浮かべる月村手毬だった。
「……遅いぞ、ことね。こいつが例の狂暴な新人か?」
「ええ。今日からあなたのパートナーよ、手毬。咲季、彼女はあなたの先輩にあたる月村手毬。2人で協力して、学園に巣くう悪質アンチの炎上ライブの鎮圧に向かいなさい」
「はぁ!? なんで私がこんな奴と組まなきゃいけないのよ! 私のパートナーはプロデューサーだけで十分よ!」
咲季が噛みつくと、手毬は蔑むような冷ややかな視線を向けた。
「ふん……男目当ての浅ましい奴め。私はな、アイドルとしての尊厳と上に行くために歌っているんだ。お前のような不純な欲望丸出しの底辺と一緒にされるのは不快でしかない」
「なんですってぇ!? 欲望の何が悪いのよ! 私はプロデューサーのを見たり触ったりするために1番になりたいの! お前みたいなスカした奴に私の情熱が分かってたまるか!!」
「……頭がおかしいのかお前は?」
手毬は絶句し、心底気持ち悪いものを見る目で咲季から距離を取った。
現場となる地下野外ステージに到着すると、そこには不気味な衣装を着た違法配信者が待ち構えていた。手毬は即座にマイクを構え、圧巻の発声と音圧の衝撃波でステージを支配し、敵の炎上配信を一瞬で制圧してみせる。
「どうだ、これが本物のパフォーマンスだ。お前のようなスケベ心で動く奴には、一生追いつけない領域だ」
ドヤ顔を決める手毬だったが、倒れた敵の背後に潜んでいたもう1匹の違法配信者が、隙を突いて手毬の背後からマイクジャックを仕掛けようと迫った。
「手毬、後ろっ……!」
俺が叫んだ瞬間、咲季の胸の奥で重低音のエンジンが爆音を上げた。
「私のプロデューサーに……そして私のご褒美に手を出そうとしてんじゃないわよ!!」
咲季は野獣のような速度で跳躍すると、圧倒的なダンスと気迫で襲いかかる敵を一瞬で粉砕、沈黙させた。激しいステップで飛び散る汗と火花の中、咲季は荒い息を吐く。
着地した咲季は、怯える手毬の手首をガシッと掴み上げ、ギラついた目で睨みつけた。
「いい手毬? 私はね、本気なの! プロデューサーのを見たり触ったりするためなら、どんな壁だってブッ壊してやるわ! 私のこの欲望を舐めないでちょうだい!」
「ひっ……! 離せ、このスケベ怪物……っ!」
手毬は本能的な恐怖で顔を青ざめさせた。
依頼を終え、事務所に戻る道中。咲季は胸を張り、隣を歩く俺に向かってニヤリと不敵に笑ってみせた。
「見た、プロデューサー? 私、ちゃんと手毬を助けて結果を出したわよ! ……ってことは、分かるわよね?」
咲季は指をくわえ、上目遣いで俺に迫ってくる。
「約束のご褒美……今日は服の上からでいいから、ちょっとだけ触らせてちょうだい!!」
「……やっぱり退学になればいいのに、こいつ」
後ろで手毬が吐き捨てるように呟く中、咲季のどこまでも直球で破天荒なアイドル生活が幕を開けていた。