【学マス×チェンソーマン】「プロデューサーの〇〇に触らせろぉぉ!」補習組のエリート咲季、胸のエンジンを爆発させてトップアイドル(とご褒美)を目指す 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
居酒屋の個室に満ちていた賑やかな喧騒が、潮が引くように一瞬で霧散した。
ダクトから吐き出される微かな風の音と、卓上でグツグツと煮立つ鍋の音だけが不気味に響いている。
「はぁ……はぁ……! 咲季ちゃん、本気で言ってるの……!?」
生クリームのついたフォークを握りしめたまま、ことねが顔を蒼白にして叫んだ。その瞳には、信じられないものを見るような戦慄が浮かんでいる。
咲季はゴクリと喉を鳴らし、朱に染まった顔で目の前に立つ泥酔した先輩アイドルをじっと見つめていた。
「……ふふ、咲季ちゃん。ファーストキス、欲しいんでしょ〜?」
先輩アイドルはトロンとした千鳥足で咲季へ一歩踏み出し、その細くしなやかな両腕を咲季の首元へとしなだれかけさせた。
アルコールのツンとした香りと、フルーツジュースの甘苦い香気が混ざり合った吐息が、咲季の鼻腔をダイレクトに刺激する。
「待ちなさい! 先輩、いくらなんでも羽目を外しすぎです! 相手はまだ候補生なんですよ!」
手毬が慌てて立ち上がり、手すりを超えて止めに入ろうとした。
しかし、隣で完全に酔い潰れた別の候補生たちが「手毬ちゃぁん〜逃がさないぞ〜」と泣き叫びながら彼女の膝にしがみつき、手毬は身動きが取れず「くっ、離しなさいバカ!」と激しく暴れる羽目になっていた。
「プロデューサー君……!」
咲季はプロデューサーの方を振り返り、真剣そのものの熱い眼差しを向けた。
「私ね……ストイックなアイドルとして、どんな未知の領域も恐れずに踏破する覚悟を決めたわ! これも……プロデューサー君の身体に触るという最大のご褒美へ至るための、大人としての『成長のステップ』よ……!」
「いや咲季、どう見てもただ雰囲気に流されてるだけだろ!? 全然成長のステップじゃないからやめろ!!」
プロデューサーの切実な制止の声も、今の咲季の耳には届かない。
「はいはい、お喋りはそこまで〜。目をつぶって〜……」
先輩アイドルは真っ赤な顔で淫靡に微笑むと、咲季の可憐な顎をすっと指先で持ち上げた。
咲季は心臓が口から飛び出しそうなほどの激しい鼓動を感じながら、ぎゅっと両目を閉じた。
(これが……ファーストキス……! 漫画や小説でしか読んだことがなかった、未知の体験……!)
(プロデューサー君の胸筋や腕筋に触れる前に、こんな大人の階段を登ってしまうなんて……! でも、これも1番を目指すアイドルの試練なのね……!)
頭の中でグルグルとシュールな正当化が駆け巡る中、先輩の温かい吐息が至近距離まで迫ってきた。
次の瞬間、柔らかく湿り気を帯びた感触が、咲季の唇へと重なり合った。
じわりと広がる熱。アルコールの刺激と、かすかな甘み。
(あ……本当にキスしてる……! これが、大人のご褒美のお味……!)
咲季が密かにその感触に背筋を震わせ、感動に包まれかけた、まさにその瞬間だった。
ゴボッ……。
先輩アイドルの喉の奥から、不穏で、生々しく、破壊的な異音が響き渡った。
[第21話] キスのお味(Part 2)
「ん……っ!?」
咲季の脳裏に、凄絶な警告音が鳴り響いた。
重なり合った唇の隙間から伝わってくるのは、先ほどまでの熱や甘みなどではない。
喉の奥の奥、暗黒の深淵から逆流してくる、圧倒的かつ圧倒的な重力を持った「何か」の波動だった。
次の瞬間、先輩アイドルの喉が大きく波打ち、可憐な口元が堤防の決壊よろしく開放された。
ドボボボボボボボボボボボボボボボボッ!!!!!!
「……っ!? ぶふっ!? んぐぇぇぇぇーーーーーっ!?」
咲季の口内に、温かく、異様な粘度を持った未消化の居酒屋フルコースが、超高圧の濁流となって直接流し込まれた。
サクサクだったはずのジューシーな唐揚げの破片、鮮度抜群だったはずの刺身のぶつ切り、塩ゆでされた枝豆、大盛りポテトフライ、そして何杯も煽った柑橘系ジュースとアルコールが混ざり合った地図なきカオス。
それらが一気の津波となって、咲季の口腔、上顎、舌の裏、そして喉の奥へと容赦なく雪崩れ込んでいく。
「んぐ……っ!? ぶはっ……! げほっ、ごほっ……!? むぐっ!?」
咲季の目は目玉が枠から飛び出さんばかりにカッと見開かれ、顔面は蒼白を通り越して土色へと変色した。
唇と唇が完全に密着した状態でのダイレクト注入。
逃げ場など存在しない。空気すら吸えない。あるのはただ、口腔内を極限まで圧迫する地獄の混合物のみである。
「ギャアアアアアアアアアアアアッ!? 吐いたぁぁぁぁぁぁっ! 口の中に! 咲季ちゃんの口の中にダイレクトで吐いたよぉぉぉっ!!」
ことねの喉が引き裂かれんばかりの絶叫が、個室の天井を突き破らん勢いで響き渡った。
「咲季っ! 吐き出しなさい! すぐに吐き出すのよ!! 汚い! 汚すぎるわ!!」
手毬が半狂乱になりながら、テーブルの上の濡れおしぼりを束で掴んで駆け寄ろうとする。
しかし、任務を完了(?)した先輩アイドルは、満足しきった脱力感とともに「ふにゃ〜……」と脱力し、そのまま咲季の身体の上に全体重を預けてドスンと崩れ落ちた。
重力と先輩の体重により、咲季は床に押し倒され、完全に仰向けの姿勢へと固定される。
「んぐぐぐぐぐぐ……っ……!!」
咲季は床の上で死魚のように体を痙攣させ、喉の奥で必死の格闘を繰り広げていた。
出したい。今すぐこの悪夢を、目の前の天井に向けて盛大にぶち撒けたい。
だが、仰向けに倒された姿勢と、喉の奥深くまで充填された高密度の流出物、そしてパニックを起こした気道の反射機能が、最悪の噛み合わせを見せた。
人間の生存本能が、呼吸を確保しようとして喉の嚥下反射を強制的に起動させてしまったのだ。
ゴクンッ…………。
生々しく、重厚で、あまりにも残酷な咀嚼音が、静まり返った個室に小さく響いた。
「…………っ!?」
喉を開通させ、胃袋へと直接滑り落ちていく「それ」の感触。
世界からすべての音が消え去った。
咲季の目から、大粒の涙がポロポロと、堰を切ったようにこぼれ落ちて床の畳を濡らしていく。
初恋の幻想。ファーストキスのロマンシス。ストイックなアイドルの矜持。
そのすべてが、先輩の胃袋から自分の胃袋へと引っ越しを完了した瞬間だった。
「の……飲み込んじゃったぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!? 咲季ちゃんが自力でゴクンって言ったぁぁぁっ!!」
ことねが頭を抱えて畳の上をゴロゴロと転がり回り、手毬もあまりの凄惨さに言葉を失い、口元を手で覆ったまま膝から崩れ落ちた。
プロデューサーもまた、絶望のあまりその場に凍りついている。
咲季は光を失った虚ろな瞳で、天井の木目をじっと見つめたまま、絞り出すようなかすれ声で呟いた。
「……プロデューサー君……私の……憧れのファーストキスのお味……ゲロだったわ……」
そのまま咲季の意識は、底知れぬ絶望と精神的ショックの闇へと急速に沈んでいき、居酒屋の個室には先輩の心地よさそうな寝息だけが虚しく響き続けていた。
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