【学マス×チェンソーマン】「プロデューサーの〇〇に触らせろぉぉ!」補習組のエリート咲季、胸のエンジンを爆発させてトップアイドル(とご褒美)を目指す 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
昨夜の惨劇の記憶は、鉛のように重く咲季の脳裏にへばりついて離れなかった。
静まり返った早朝のレッスンルーム。手鏡を握りしめたまま、咲季は体育座りでフロアの隅に丸まっていた。
「……嘘よ。嘘だって言ってよ、手毬、ことね……」
カサカサに乾いた唇を震わせ、咲季は光の失われた瞳で二人を見上げた。
「私の輝かしいアイドル人生のファーストキスが……あの……あの『濁流』だなんて……そんなの……そんなのアイドル界の歴史に対する冒涜じゃない……!」
鏡に映る自分の顔は、まるですべての情熱と生命力を吸い取られたかのように青白い。
咲季は何度も自分の唇を袖でゴシゴシと擦ったが、舌の奥に残るあの生々しい泥のような感触と、酸っぱい記憶は一向に消え去ってくれなかった。
「咲季ちゃん……もう元気出してよぉ……。私だって見ててトラウマになりそうだったんだから……」
ことねは遠巻きに咲季を観察しながら、引きつった苦笑いを浮かべて慰めの言葉をかけた。
「そうよ咲季。起きてしまった災難をいつまでも引きずるのは、あなたの誇る『ストイックさ』に反するんじゃないかしら」
手毬は木刀を素振りしながら冷ややかに告げたが、その視線は咲季の口元を避けるように泳いでいる。
「言われなくてもわかってるわよっ! でもね、喉の奥を通過したあの『重力』が! 私の胃袋の中で今もなお怨念のように居座っているのよぁぁぁっ!」
咲季は頭を抱えて頭髪を掻きむしり、叫んだ。
「プロデューサー君の腕筋や腹筋に触れるという至高の夢を果たす前に、私の精神が壊れてしまうわ! 口の中が……口の中がずっと地獄の味がするのよぉぉっ!」
「だ、だとしたら早くうがいしてきてよぉっ!」
ことねが怯えながら叫んだその時、レッスンルームのドアが静かに開き、パステルカラーの私服に身を包んだ「上級生(※マキマ枠)」が可憐な歩調で足を踏み入れてきた。
「おはよう、みんな。朝早くから熱心ね。……あら、咲季? どうしたの、そんなところで丸くなって」
上級生は首をかしげ、不思議そうに咲季の顔を覗き込んだ。
「あ……上級生……」
咲季は絶望の淵から救いを求めるように、涙目で見上げた。
「聞いてください上級生……! 私の……私の可憐な唇が……昨日……完全に汚されてしまったんです……!」
事情を知る手毬とことねが気まずそうに目を逸らす中、上級生はすべてを察したように柔らかく微笑んだ。
「ええ、昨日の居酒屋での出来事なら報告を受けているわ。大変な災難だったわね、咲季」
上級生は咲季の前に膝をつき、目線を合わせると、ポケットから小さな丸い物体を取り出した。
カラフルなビニール包装に包まれた、一本のキャンディ。
「これをあげるわ」
「え……? 飴……ですか?」
咲季がぽかんと口を開けると、上級生は手際よく包装を剥がし、茶色い球体のキャンディを咲季の目の前に差し出した。
「チュッパチャプスのコーラ味よ。これを舐めれば、口の中の嫌な味も、悲しい記憶も……ぜんぶ上書きされて消えてしまうわ」
[第22話] チュッパチャプス コーラ味(Part 2)
「コーラ味……の……チュッパチャプス……」
咲季は上級生から差し出された茶色の球体を、まるで聖遺物でも見るような眼差しで見つめた。
「そうよ。強い炭酸の刺激と爽やかな甘みが、あなたの口内を優しく満たして洗浄してくれるわ」
上級生は優しく微笑みながら、指先でそのキャンディを咲季の口元へとそっと近づける。
「ほら……あーんして」
「あ……あーん……」
咲季が吸い込まれるように口をぽかんと開けると、コロンという小心地よい感触とともに、チュッパチャプスが舌の上に放り込まれた。
次の瞬間、強烈で甘酸っぱいコーラのフレーバーが、弾けるような刺激とともに咲季の口腔全体へ一気に広がっていった。
「……っ!? あ……甘い……! 炭酸のシュワシュワしたフレーバーが……舌の奥まで突き抜けていく……!」
咲季の目がカッと見開かれた。
昨夜からずっと舌の裏や喉の奥にしつこくへばりついていた、あの重々しく不快な泥のような感触と酸っぱい記憶が、コーラの強烈な甘みによって瞬く間に塗りつぶされていく。
「すごい……! すごいわ上級生! 地獄の味が……一瞬で消えていく……! 爽快なコーラのフレーバーで満たされていくわ……!」
咲季の顔に、数日ぶりとなる生気が劇的に蘇っていった。
「よかったわ。これで少しは気分も晴れたかしら?」
上級生は咲季の頭を慈しむように優しく撫でると、どこか神秘的で底知れない瞳で咲季をじっと見つめた。
「咲季。嫌な思い出は全部その飴と一緒に溶かしてしまいなさい。あなたが進むべき道は、常に『1番』のアイドルへ至る道だけなのだから」
「はいっ……! はいっ、上級生……! 私、生きててよかったです……! 救われましたぁぁぁっ!」
咲季はチュッパチャプスの棒を咥えたまま、ボロボロと感涙を流して上級生の手を両手で固く握りしめた。
その光景を遠巻きに見ていたことねと手毬は、呆れと安堵が混ざり合った複雑な表情を浮かべていた。
「……単純というか、扱いやすすぎるでしょバカ咲季……」
手毬がやれやれと肩をすくめて溜息を吐く。
「でもでも! これでいつものハイテンションな咲季ちゃんに戻ってくれたなら万々歳だよぉっ!」
ことねが胸をなで下ろしたその時、レッスンルームの扉が勢いよく開き、息を切らせたプロデューサーが駆け込んできた。
「みんな、無事か!? 咲季、体調は……って、飴舐めて復活してる!?」
プロデューサーの姿を視認した瞬間、咲季の目が怪しくギラリと光った。
「プロデューサー君っ! 見て! 私、上級生のおかげで完全復活したわよっ!」
咲季は棒を咥えたまま凄まじいダッシュでプロデューサーとの距離を詰め、その胸板へ思い切り飛びついた。
「ぬおっ! 咲季、急に抱きつくな!?」
「フフフ……! 口の中はコーラ味で準備万全! 私の『1番』を目指すストイックなエンジンは、ここから最高速で回転を開始するわ!」
昨夜の惨劇の絶望を完全に吹き飛ばし、再び欲望と野生を取り戻した咲季の復活により、学園には束の間の平和と活気が戻ったかのように思われた。
しかし、この穏やかな日常の裏で、彼女たちを狙う凶悪な刺客の影が静かに、そして確実に忍び寄っていたのだった。
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