【学マス×チェンソーマン】「プロデューサーの〇〇に触らせろぉぉ!」補習組のエリート咲季、胸のエンジンを爆発させてトップアイドル(とご褒美)を目指す 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
惨劇の跡が残る東京の路地裏は、粘ついた血の臭いと、焦げたガソリン、そして消滅していった刺客たちのデジタルノイズの残り香で満ちていた。
つい数分前まで学園の特命補習組を追い詰めていた刺客たちが、京都にいる藤田ことねの理不尽な遠隔攻撃によって、一人、また一人と一瞬で肉のペーストへと押し潰されていったのだ。車体の側面には、爆発したかのように真っ赤な血液がベったりとこびりつき、アスファルトの上には人間の原型すら留めていない血のプールが広がっている。
「なんなの……!? なんなのよ、今の攻撃はっ……!?」
沢渡アカネの冷徹だった顔は完全に崩壊していた。彼女は震える指先で手元のデバイスを必死に操作し、広域の干渉波を解析しようとするが、画面に映し出されるのは原因不明の「不可逆的データ消滅」を示す不気味なエラーログのみ。
横に立つサムライソードも、刀を構えたまま全身を嫌な汗で濡らしていた。目に見えない、防ぎようのない死の連鎖。学園の「支配者」としての権能を行使することねの恐怖が、彼らの精神をじわじわと侵食していく。
黒塗りの大型車の後部座席には、縦真ん中に真っ二つに切断され、意識を失った花海咲季の胴体が転がされていた。胸の奥の爆音エンジンは黒煙を吐いて沈黙し、カチ……カチ……と虚しい乾いた放電音を立てているだけだ。
「くそ……! 考えるな! とにかくこのチェンソーの胴体を持って、ここから離れるぞ!」
サムライソードが焦燥に駆られた声を張り上げた、まさにその時だった。
ヒッ……ヒック……ヒグルッ……。
壊れた自動販売機の陰、崩れた瓦礫の暗がりから、不吉で情けない鼻すすりの音が響いてきた。
「誰だっ!?」
サムライソードが刀を向け、沢渡がデバイスを構える。
暗闇からガタガタと全身を小刻みに震わせながら姿を現したのは、特命補習組の東山コベニだった。
彼女のレッスン着は泥と血でドロドロに汚れ、目元は涙と鼻水でぐしゃぐしゃに腫れ上がっていた。過呼吸気味に肩を大きく上下させ、その手には学園の調理実習室から持ち出してきたような、冷たく光る一本の調理用包丁が握られている。
「ひ……ひぃぃぃ……ごめんなさい……ごめんなさいぃぃ……! 殺さないでくださいぃぃっ……!」
泣き叫びながら、逃げ出すわけでもなく、じりじりと包丁を構えて歩み寄ってくるコベニ。その佇まいは、客観的に見れば単なる錯乱した哀れな被害者にしか見えなかった。
「チッ……ただの生き残りか! 邪魔だ、消えろ!」
残っていた予備の銃を手にした刺客(または沢渡の手先)が、過呼吸を起こすコベニの眉間へ向けて銃口を跳ね上げ、躊躇なく引き金を引いた。
バンッ!
乾いた銃撃音が夜空に響く。
しかし、弾丸が放たれたその瞬間――コベニの身体から、可憐で無力な少女の気配が完全に消失した。
シュッ!
コベニの足元が、学園の最高峰ダンスレッスンで叩き込まれたアクロバティックなステップを刻む。重力を無視したかのような超人的な身体能力。彼女は首をわずかに傾けるだけで弾丸の軌道を紙一重でかわすと、アスファルトを滑るように地を蹴った。
視界から消えるほどの神速。
「なっ……!? がはっ!?」
次の瞬間には刺客の懐へと潜り込んでいた。コベニの振り抜いた包丁が一閃し、刺客の頸動脈を正確無比に一刀両断する。大量の鮮血が夜空に舞った。
「速すぎる……!? こいつ、ただの補習組じゃない……!」
沢渡アカネの目が驚愕に見開かれる。彼女は咄嗟にデバイスの緊急ボタンを押し込んだ。
『ヘビの判定プログラム』が再起動される。
「喰らい尽くせ、ヘビッ!」
次元の裂け目から巨大なデータノイズのヘビが飛び出し、凶悪な大口を開けてコベニへと襲いかかった。ビル一棟を丸呑みにするほどの圧倒的な攻撃判定。
だが、コベニの身のこなしは、すでに人間の領域を超越していた。
「ひやあぁぁぁぁっ!」
悲鳴を上げながらも、コベニは迫り来るヘビの巨大な頭上へ向かって軽やかに跳躍した。まるでワルツを踊るかのようにヘビの鼻先を靴底で踏みつけると、そのまま滑らかなステップでヘビの背の上を駆け抜けていく。
そして、空中で身を翻し、包丁を逆手に持ち替えてサムライソードの頭上へと舞い降りた。
「なにいっ!?」
サムライソードが刃を掲げて防ごうとする。しかし、コベニの動きの方が一瞬速かった。
ザシュッ!!!
鋭利な肉体切断音が響き渡る。
「ぎああああああっ! 俺の右腕がぁぁぁっ!」
サムライソードの刀が一体化していた右腕が、肩口からすっぱりと切り落とされた。豪快に血とデジタルノイズが吹き出し、切り落とされた腕がアスファルトへ転がる。
コベニは着地と同時に車へと滑り込み、後部座席に転がっていた咲季の真っ二つの胴体を、力任せに両腕で抱え上げた。
「ごめんなさいぃぃ! ごめんなさいぃぃ! 咲季ちゃんを奪われたら、私の今月の特別手当が出なくなっちゃうんですぅぅ! 家族への仕送りができなくなっちゃうんですぅぅっ!」
狂気じみた泣き叫び声をあげながら、コベニは咲季の重い身体を背負い、超人的な脚力で夜の路地裏へと弾丸のように疾走していった。
「待て……! 待てぇぇぇっ、チェンソーを返せぇぇっ!」
腕を失ったサムライソードが血を撒き散らしながら絶叫するが、咲季を抱えたコベニの背中は、あっという間に夜の闇の中へと消え去っていった。
「くそっ……! 引くわよ、サムライソード! これ以上は危険すぎる……!」
沢渡アカネは悔しさに唇を噛み締めながら、腕を押さえて崩れ落ちるサムライソードを支え、闇の中へと撤退を余儀なくされたのだった。
――数分後。安全な裏路地の暗がり。
「はぁ……はぁ……はぁ……っ! た、助かった……助かりましたぁぁっ……!」
咲季の胴体を地面に降ろしたコベニは、その場にへたり込み、子供のように大声をあげて泣きじゃくっていた。
包丁を握っていた手はガタガタと震え、先ほどまでの神速の動きが嘘のように無力な少女に戻っている。
その横で、真っ二つに裂かれた咲季の目が、うっすらと開いた。
「……コベニ……ちゃん……?」
胸のエンジンが僅かに息を吹き返し、咲季の口から吐息が漏れる。
「さ、咲季ちゃんっ!? 生きてる!? よかったぁぁっ! 咲季ちゃんが死んだら、私のボーナスがカットされて、お母さんに怒られちゃうところだったよぉっ!」
泣きつくコベニに対し、咲季はズタズタに裂けた身体の激痛に顔を歪めながらも、不敵で、どこか毒々しいまでの笑みを浮かべてみせた。
「……ハッ……痛いわね……全身が……引き裂かれそうよ……。でもね……コベニちゃん……」
咲季は血に塗れた指先をぎゅっと握り締めた。
「プロデューサー君の身体に触るまでは……あの温かい胸筋や腹筋を……この手で完璧に解剖して揉み倒すまでは……私、死んでも死にきれないわよぉ……っ!」
「うわぁぁぁん! 瀕死なのに考えてることがスケベすぎるよぉぉっ!」
コベニの悲痛なツッコミが、夜の路地に虚しく響き渡った。
数時間後。東の空が白み始めた初星学園の本部待合室。
京都から戻ってきた藤田ことねが、私服を着替えることもなく、冷えた缶コーヒーを片手にソファーに腰掛けていた。その前には、手当を終えたコベニが小さくなって座っている。
「……見事な活躍だったわね、コベニちゃん。咲季の身体を無事に奪還してくれたこと、学園としても高く評価するわ」
ことねは可愛らしい笑みを浮かべて言ったが、その瞳の奥には計算高い光が宿っていた。
「ねえ、コベニちゃん。あなた、あんな恐ろしい身のこなしができるなんて知らなかったわ。……一体、どんな判定プログラム(悪魔)と契約しているの?」
ことねの問いかけに、コベニはビクッと肩を跳ね上げた。
彼女は視線を泳がせ、手に持った温かいお茶の湯気を見つめながら、ぽつりと呟いた。
「……それは、秘密です」
ことねは一瞬だけ目を細めたが、すぐにクスクスと可愛らしく微笑んだ。
「そう。秘密なら、無理に聞かないわ。……でも、これからも特命補習組のために、しっかり働いてもらうからね」
学園の闇と、少女たちの秘密と嘘が交錯する中、最悪の襲撃事件は、さらなる波乱の予感を孕んで静かに収束へと向かっていくのだった。