【学マス×チェンソーマン】「プロデューサーの〇〇に触らせろぉぉ!」補習組のエリート咲季、胸のエンジンを爆発させてトップアイドル(とご褒美)を目指す   作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった

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100点満点

消毒液の刺激的な匂いと、規則正しく刻まれる心拍モニターの電子音が、静まり返った病室を満たしていた。

 

窓から差し込む柔らかな昼下がりの光が、白いシーツと、ベッドの上に横たわる月村手毬の姿を寂しげに照らし出している。

 

手毬は、ゆっくりと瞼を開けた。

 

「……ん……っ」

 

体に力を込めようとした瞬間、全身を突き刺すような激痛が走り、手毬は小さく息を呑んだ。首から胸元、両腕にかけて頑丈な包帯が巻かれ、点滴のチューブが痛々しく腕に繋がれている。『呪いの悪質ブロガー』との契約により、自らの寿命と精神エネルギーを強引に削り取った代償は、彼女の華奢な肉体を限界まで破砕していた。

 

「私……生き……てる……?」

 

かすれた声が、無機質な部屋にぽつりと落ちる。

 

手毬は目だけを動かし、周囲を見渡した。そして、ベッドの脇に置かれた小さなサイドテーブルの上に視線を止めた瞬間、彼女の息がピタリと止まった。

 

そこには、学園の自販機で買える安価な1缶のエナジードリンクと、丁寧に折りたたまれた1通のメモ用紙が置かれていた。

 

手毬の震える指先が、ゆっくりと伸ばされる。冷えた缶の表面には、まだかすかに水滴が残っていた。それは、彼女がどれほど過酷なレッスンで倒れそうになっても、いつも笑いながら「はい、手毬ちゃん! これ飲んで気合い入れ直して!」と差し出してくれていた、あの先輩のお気に入りの銘柄だった。

 

折りたたまれたメモ用紙を開く。そこには、丸っこく可愛らしい、だがどこか奔放な紫雲清夏の筆跡が残されていた。

 

『手毬ちゃんへ。もしこの手紙を読んでいるってことは、私はもう手毬ちゃんの隣にいないのかな。ごめんね。手毬ちゃんを巻き込んじゃって。でもね、私はもう手毬ちゃんに無理をしてほしくないんだ。アイドルなんて過酷な世界、もうやめて、普通の女の子として美味しいもの食べて、楽しく生きてほしいな。……本当はね、手毬ちゃんが泣いてるところ、一回くらい見てみたかったんだ。気楽にいこうね、手毬ちゃん』

 

「清夏……先輩……」

 

手毬の目から、溢れ出した涙が止まらなくなった。

 

ぽたぽたと手紙の表面を濡らし、文字が滲んでいく。手毬はエナジードリンクの缶を胸の前に強く抱きしめ、布団に顔をうずめて、声を押し殺しながら子供のように泣きじゃくった。

 

プライドが高く、誰の前でも弱みを見せまいと強がり続けてきた月村手毬の堤防が、完全に決壊していた。自分を救うために全レッスンデータと存在そのものを捧げ、学園のデータベースから跡形もなく消え去ってしまった紫雲清夏。二度とあの眩しい笑顔を見ることも、軽口を叩き合うこともできないという冷酷な現実が、手毬の心をズタズタに引き裂いていた。

 

ガチャン!

 

その時、病室の重いドアが、情緒も何もなく盛大に開け放たれた。

 

「やっほー! 手毬、生きのびてるじゃない!」

 

「ワハハハ! 泣き虫手毬の様子を見に来てやったぞ!」

 

部屋に踏み込んできたのは、頭と腕の手当を終えた花海咲季と、相変わらず騒々しいパワーだった。咲季の右手には、なぜか病気見舞いの定番として買ってきたらしい、葉のついた巨大なパイナップルが丸ごと一粒子抱えられている。

 

手毬は慌てて袖で涙を拭い、二人から顔を逸らした。

 

「……勝手に入ってこないでよ。鍵くらいかけなさい……」

 

咲季はベッドの脇までズカズカと歩み寄ると、手毬の濡れた目元と、抱きしめられているエナジードリンクを交互に見つめた。そして、何でもないことのように首を傾げて言い放った。

 

「手毬、泣いてるの? 清夏先輩が消滅したからって、そんなに悲しいわけ?」

 

あまりにもストレートで、配慮の欠片もない言葉。手毬はカッと頬を朱に染め、血走った瞳で咲季を睨みつけた。

 

「悲しいに……決まっているでしょ……! アンタには感情がないの!? 清夏先輩は……私やアンタたちのために、自分の存在を全部犠牲にして消えたのよ!? なんでそんな平気な顔でいられるのよ! アンタ、人間じゃないわ……!」

 

手毬の悲痛な叫びが、病室の壁に反響する。

 

咲季は手にしたパイナップルを見つめたまま、一瞬だけ沈黙した。

 

(悲しい……? 清夏先輩が死んで……悲しい……?)

 

咲季は自らの胸の上にそっと手を当てた。

 

胸の奥には、いつもと変わらない爆音のスター性エンジンが、静かにドクン、ドクンとアイドルの拍動を刻んでいる。

 

(私は……どうなんだろう。清夏先輩が消えて、寂しくないと言ったら嘘になる。でも……手毬みたいに、声を上げて涙を流すほどの感情が湧いてこないわ)

 

咲季の脳内で、思考の歯車が回転し始める。

 

(もし……パワーが死んだら? 私は泣くのかしら。……たぶん、泣かない。じゃあ、手毬が死んだらは? ……それも、少し「あいつがいないと静かだな」と思うくらいで、涙は出ないかもしれない)

 

冷酷なまでの客観性。咲季は自らの内面にある冷たさに、ふと恐怖のような違和感を覚えた。

 

(私は……人の心が壊れているのかしら。アイドルとして、誰かの感情に寄り添うべき存在なのに、私は仲間が消えても涙ひとつ流せないサイコパスなの……?)

 

自問自答の渦が、咲季の思考を沈殿させていく。

 

自分は狂っているのではないか。人の死すらも糧にして跳べと言われているような、底知れぬ冷たさを抱えているのではないか。

 

だが――その暗雲を一瞬で吹き飛ばしたのは、彼女の脳裏に浮かんだプロデューサーの顔だった。

 

(……待ちなさい。何悩んでるのよ、私!)

 

咲季の瞳に、カチリと怪しい情熱の火が灯る。

 

(清夏先輩が命を懸けて守ってくれたこの命! 手毬が泣いて立ち止まっているこの時間! 私が落ち込んでセンチメンタリズムに浸っていて何になるっていうのよ!)

 

咲季の胸のエンジンが、高回転でスパークを散らし始めた。

 

(私の目標は最初からただひとつ! 初星学園で1番のトップアイドルになり、プロデューサーの〇〇を、あの温かい身体を心ゆくまで見たり触ったり、完璧に解剖して揉み倒すこと! その最高のご褒美を手に入れるために、私はここまで這い上がってきたのよ!)

 

思考のベクトルが、180度、明後日の方向へと突き抜けた。

 

(仲間が死んだからって立ち止まっている暇なんて一秒もないわ! 私のこのストイックなエネルギーは、プロデューサーの身体に触るために全投入されるべきなのよ! 人の心なんて無くたっていい! 私は欲望のエンジンで誰よりも高く跳ぶアイドルになるんだからぁぁっ!)

 

葛藤、完結。

 

咲季の顔から迷いが一瞬で消え去った。彼女は不敵で、狂暴なまでのドヤ顔を浮かべると、抱えていたパイナップルを両手で持ち上げた。

 

バリッ! ガリッ!

 

「なっ……!?」

 

手毬とパワーが目を丸くした。咲季は皮も剥いていない生のパイナップルに、そのまま口から豪快にかぶりついたのだ。

 

果皮の鋭いトゲが唇を切り、果汁と血が混ざり合って顎を伝い落ちる。しかし咲季は意にも介さず、ガリガリと音を立てて豪快に噛み砕いて呑み込んでいった。

 

「ふはぁっ! 美味しいわね! ビタミンと糖分が全身に染み渡るわ!」

 

血塗れの口元で満足そうに笑う咲季を見て、手毬は引きつった顔で後ずさりした。

 

「あ、あんた……本当に最低のスケベ怪物ね……。人間じゃないわ……」

 

「なんとでも言いなさい! 私は私のストイックな欲望に従うだけよ!」

 

咲季が胸を張ったその時、病室のドアが再び開き、パステルカラーの私服を着た藤田ことねが、優雅な足取りで入ってきた。

 

「賑やかね、みんな。元気そうでなによりだわ」

 

ことねの登場に、手毬はハッと表情を引き締めた。京都での遠隔攻撃の噂は、すでに手毬の耳にも届いていた。新幹線で撃たれても即座に蘇生し、数百キロ離れた場所から刺客たちを一瞬で肉のペーストに変えた学園の「支配者」。

 

「ことね……あんた……」

 

「手毬ちゃん、怪我の具合はどう? ……清夏ちゃんのことは残念だったけれど、私たちは止まるわけにはいかないの」

 

ことねは可愛らしい笑みを浮かべながら、手帳を開いて視線を咲季とパワーへ向けた。

 

「さて、咲季。それとパワーちゃん。あなたたち二人には、これからもっと強くなってもらわなければならないわ」

 

「強くなる……? 私たちはもうサムライソードの腕を切り落としたわよ!」

 

咲季が胸を張ると、ことねはクスクスと小悪魔的に笑った。

 

「甘いわね、咲季。あなた、サムライソードに身体を真っ二つにされて、コベニちゃんに助けられただけじゃない。次の襲撃が来たら、またプロデューサー君を守れずに死ぬわよ?」

 

咲季の額に青筋が浮かぶ。

 

「くっ……!」

 

「だからね、学園の上層部にお願いして、あなたたち二人を指導してくれる『特別なコーチ』を用意したの」

 

ことねは手帳をパチンと閉じ、底知れない瞳で二人を見つめた。

 

「明日から、そのコーチの元で特訓してもらうわ。……安心しなさい。あなたたちのその生意気な態度も、甘い考えも、全部『もっとボロボロ』にして鍛え直してくれるはずだから」

 

咲季は血のついた口元を袖で拭うと、ニタリと極悪な笑みを深めた。

 

「最高じゃない……! どんな地獄のレッスンだろうが受けて立つわ! プロデューサーの〇〇を揉み倒すためなら……私は何度でも蘇って、1番になって見せるんだからぁぁっ!」

 

悲しみと狂気、そして溢れ出る煩悩が交錯する病室で、新たなる地獄の特訓へのカウントダウンが静かに始まろうとしていた。

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