【学マス×チェンソーマン】「プロデューサーの〇〇に触らせろぉぉ!」補習組のエリート咲季、胸のエンジンを爆発させてトップアイドル(とご褒美)を目指す 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
初星学園の女子寮、その一室の前で、花海咲季は渡された鍵を見つめていた。
「……ねえ、プロデューサー。確認するけど、ここが今日から私の部屋なのよね?」
「ああ。荷物も届いている」
「それなら、どうして手毬がいるの?」
廊下の奥から、月村手毬が大きな段ボール箱を抱えて歩いてくる。咲季と目が合うなり、手毬の足が止まった。
「それは私の台詞。どうしてアンタが、私と同じ部屋の鍵を持ってるのよ」
「同じ部屋?」
2人の声が重なった。
プロデューサーが答えるより先に、背後から軽い足音が近づいてきた。
「よかった。みんな揃ってるね」
藤田ことねは、手にした書類をひらひらと振った。
「特命補習組の共同生活、今日から開始でーす」
「聞いてないわよ!」
「私も聞いてない」
咲季と手毬が同時に言う。ことねは書類に目を落とし、困ったように眉を上げた。
「説明したつもりだったんだけどなあ。練習時間の調整と、生活面の確認。別々の部屋より、同じ場所にいたほうが連絡しやすいでしょ?」
「連絡なら端末でできるわ」
「私の練習時間は私が決める」
「ほら、もう意見が合ってる。幸先いいね」
「合ってない!」
ことねは2人の抗議を聞き流し、鍵を開けた。
部屋には机が3つと、まだ畳まれていない寝具が置かれていた。窓際には咲季の荷物、壁際には手毬の荷物。入口近くの小さな机には、ことねの手帳と電卓が先に並んでいる。
「……あんたも住むの?」
手毬が尋ねる。
「もちろん。私だけ離れたところにいたら、2人が何か決めても分からないじゃん」
「勝手に決めるのは、あんたでしょうが」
咲季は机の上の電卓を指さした。
「部屋に入る前から自分の場所を確保してるし」
「早い者勝ちってことで」
ことねが笑う。咲季は言い返そうとして、窓際の机に置かれた封筒に気づいた。中には明日からのレッスン予定が入っている。咲季と手毬の名前が、同じ時間帯に並んでいた。
「合同レッスン……?」
「そう。昨日の現場、2人とも別々に動いてたでしょ。咲季ちゃんは勢いがあるけど、周りを見る前に走っちゃう。手毬ちゃんは状況を見てるけど、咲季ちゃんに何をしてほしいか伝えてない」
ことねの声が、少しだけ真面目になった。
「次も一緒に動くなら、まず練習で合わせないと」
咲季は予定表を見つめた。手毬に助けられたことは覚えている。自分だけで切り抜けられなかったのも事実だ。
「……分かったわ。合同レッスンは受ける」
「私も、レッスンなら異論はない」
手毬が答える。ことねは満足げに頷いた。
その直後、咲季が手を上げる。
「ただし、朝のランニングは私のペースで行くわよ」
「合わせる練習だって、今聞いたばかりでしょ」
「走り始めてから合わせればいいじゃない」
「それじゃ遅いの!」
また2人の声が大きくなる。
ことねは手帳を開き、ページの端に小さく何かを書き込んだ。
「何を書いたの?」
咲季が覗き込むと、ことねは素早く手帳を閉じた。
「共同生活の課題。初日から見つかったから」
「今のは、手毬が突っかかってきたのよ」
「アンタが人の話を聞かないからでしょうが」
ことねはプロデューサーの方を向いた。
「ね。ここに3人でいたら、明日のレッスンまでに話すことが山ほどあるでしょ?」
プロデューサーは返事に困り、床に置かれた荷物を見た。
「……まずは片付けから始めないか」
その一言に、3人が部屋を見回す。段ボールはまだ開いておらず、寝具も広げられない。言い争いを続けていては、夜までに部屋を使えるようにならなかった。
咲季が最初の箱を持ち上げた。
「じゃあ、私が重いものを運ぶ。手毬は置く場所を決めて」
「勝手に棚へ押し込まないなら、いいわ」
「ことねは?」
「私は荷物の一覧を確認する。足りないものがあったら、買い出しも必要だし」
「それ、いちばん楽な仕事じゃない?」
「大事な仕事だよ!」
咲季は呆れながらも、箱を部屋の中へ運んだ。手毬が置き場所を指示し、ことねが一覧に印をつける。息はまだ合わない。それでも、さっきまで玄関を塞いでいた荷物が、少しずつ片付いていった。
窓の外では、初星学園の校舎に夕日が差している。
咲季は次の箱に手をかけ、2人を振り返った。
「明日のレッスン、負けないから」
「合同レッスンを勝負にしないで」
手毬が即座に返す。ことねはそのやり取りを聞きながら、予定表の余白に「まずは話を聞く」と書き足した。
3人の共同生活は、ようやく始まったばかりだった。
お気に入り登録や評価で応援していただけると大変励みになります!