【学マス×チェンソーマン】「プロデューサーの〇〇に触らせろぉぉ!」補習組のエリート咲季、胸のエンジンを爆発させてトップアイドル(とご褒美)を目指す 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
初星学園の本校舎タワー、その地下数十メートルの最深部に位置する特殊隔離防音練習場。
分厚い特殊合金の防音扉で塞がれたその空間は、冷たいコンクリートの打放しの壁に囲まれ、照明の光すらどこか暗く重苦しい。かつて学園の治安を乱した暴走候補生や、特殊な判定プログラムを宿した危険分子を抑え込むために使われていたという、都市伝説のような秘密のレッスン施設だった。
その中央で、花海咲季とパワーは床にへたり込み、荒い息を吐いていた。
「……で、ことね。なによこのカビ臭い地下室は。私にこんな暗い場所でレッスンをしろっていうの? 1番を目指すトップアイドル候補生に対する待遇としては、著しく不適切じゃないかしら」
咲季は肩で息をしながら、不機嫌そうに額の汗を拭った。横に座るパワーも、己の角を弄りながら不満げに鼻を鳴らす。
「そうだぞ! ワシのような超絶美少女アイドルをこんなジメジメした穴ぐらに閉じ込めるとは何事だ! 学食の特製カツ丼を食わせろ! 肉を食わせなければワシは一歩も動かんぞ!」
二人を見下ろす藤田ことねは、パステルカラーの私服の袖を軽く整えると、可愛らしい笑みの裏に計算高い冷徹さを忍ばせて首を振った。
「文句を言っている余裕があるなら、体力を温存しておくことね。……咲季、パワーちゃん。あなたたちは前回の襲撃で、サムライソードという刺客に完膚なきまでに叩きのめされたわ。咲季は身体を真っ二つにされ、パワーちゃんは怯えて逃げ回るだけだった。……今のままじゃ、次に『銃の悪質ブロガー』の手先が襲ってきた時、プロデューサー君を守ることもできずに全滅するわ」
ことねの言葉に、咲季の眉がぴくりと跳ね上がった。
「くっ……! 言わせておけば……! 私だって油断しただけよ! 一般生徒が盾にされなければ、私のストイックなチェンソーパフォーマンスであの刀男なんて細切れにして泥水を吐かせていたわ!」
「結果が全てよ、咲季。負けた事実は変わらないわ」
ことねは手帳をパチンと閉じると、練習場の暗がりへ向かって視線を向けた。
「だから……あなたたちを徹底的に解体し、再構築してくれる『指導者』を連れてきたの。……よろしくお願いいたします、邦夫さん」
暗がりから、重い靴音を響かせて一人の男が歩み出てきた。
黒いトレンチコートを羽織り、眼光は鷹のように鋭く、口元には無精髭を蓄えた男――学園長の手先であり、学園の裏の治安維持を一身に担う伝説の鬼指導者、十王邦夫(じゅうおう・くにお)だった。
邦夫は手に持った缶コーヒーを無造作に飲み干すと、空き缶を力任せに握り潰して床へ捨てた。ガシャン、と高い金属音が静まり返った練習場に響き渡る。
「……藤田。こいつらが例の、頭の悪い補習組の怪物共か」
邦夫の声は、地底から響く重低音のように冷たく、重かった。その眼光が咲季とパワーを射抜いた瞬間、二人の背筋にゾクリと氷のような戦慄が走る。
「な……なによ、このオジサン。気安くバカにしないでちょうだい。私は初星学園で1番になる女、花海咲季よ!」
「ワシもだ! ワシはIQ300の超天才美少女アイドルなのだぞ! 無礼者め、ひれ伏すがよい!」
キャンキャンと吠える二人に対し、邦夫は微動だにしなかった。彼はコートのポケットに両手を突っ込んだまま、呆れたように吐き捨てた。
「威勢だけは一人前だな。……いいか、ガキども。俺は初星学園で最も苛烈で、最も情のない指導者だ。これまで何十人もの自称エリート候補生を潰し、挫折させ、退学へ引きずり降ろしてきた。……だが、そんな俺にも一つだけ得意なことがある」
邦夫が一歩、前へ足を踏み出す。その瞬間、練習場全体の空気が物理的な重圧となって二人の肩に圧しかかった。
「それはな……『頭の悪いバカを、死なない程度に叩き潰して最強に育てること』だ」
「なっ……!?」
「今日からのお前たちの目標は単純だ。――俺を殺すつもりで倒してみろ」
邦夫の言葉が終わるか終わらないかの、まさにその瞬間だった。
ドドンッ!
空気を爆砕するような凄まじい衝撃波が咲季の視界を覆った。
邦夫の姿が一瞬で消えた。超絶的な踏み込み。咲季が「え……?」と声を漏らす間すら与えられず、邦夫の太く引き締まった右腕が、咲季の胸元へと一直線に叩き込まれた。
ドガァァァァンッ!
「ガハッ……!? ぐぁぁぁぁっ!?」
肺の中の酸素が一瞬で全吐出される感覚。咲季の身体は弾丸のような速度で後方へ吹き飛ばされ、コンクリートの壁面に激しく激突した。壁に大きな蜘蛛の巣状の亀裂が走り、パラパラと灰色の塵が舞い散る。
「さ、咲季ぃぃっ!?」
パワーが驚愕の悲鳴を上げる。しかし、邦夫の容赦ない追撃は止まらない。邦夫は振り返ることもなく、背後から襲いかかろうとしたパワーの顎下へと、鋭くしなるローキックを叩き込んだ。
バキッ!
「ギャフンッ!?」
パワーは空中で綺麗に三回転半し、脳揺れを起こしながら床へと豪快に叩きつけられた。
わずか二秒。咲季とパワーは、何が起きたのかすら理解できないまま、絶命寸前の打撃を受けて床に伏せていた。
「ふん……話にならんな」
邦夫はポケットから新しい缶コーヒーを取り出し、プルタブを引いた。コクコクと喉を鳴らして飲む姿は、まるで散歩の途中でゴミを蹴飛ばしたかのように平然としている。
「が……は……っ……ゲホッ……!」
壁の窪みから、血を吐きながら咲季が泥臭く這い出してきた。肋骨が数本折れ、内臓が破裂しそうな激痛。視界は真っ赤に染まり、全身の全細胞が「逃げろ」と悲鳴を上げている。
しかし、咲季の胸の奥で、カチリと不吉なスパークが散った。
ドクン……ドクン……ドクンッ……!
止まりかけていた拍動が、一瞬で暴走的な高回転へと跳ね上がる。
(痛い……激痛……骨が砕けて、全身が千切れそうよ……! 普通の候補生なら、これでトラウマになってアイドルを辞めるレベルの恐怖ね……!)
咲季は血で赤く染まった前髪を乱暴に払い、ニタリと、凶悪なまでの笑みをその端正な顔立ちに浮かべた。
(でもね……! ここで倒れたら……プロデューサーの〇〇に触れない! あの温かい胸筋や腹筋を、この手で心ゆくまで解剖して揉み倒すという私のご褒美が立ち消えになるのよ! そんなの……死んでも嫌ぁぁぁっ!)
咲季の脳内で、ストイックなアイドルとしての誇りと、剥き出しのスケベ心が過酷なシナジーを起こす。
咲季は胸元のスターターコードを力任せに引き抜いた。
ブォォォォォンッ!
爆音とともに彼女の頭部と両腕から輝くチェンソーの光刃が突き出す。咲季は床を叩き割り、血みどろの笑顔で邦夫へと躍り出た。
「最高じゃない……! 最高のレッスンじゃないのよ、オジサンぁぁぁっ! 私のご褒美を邪魔する奴は……指導者だろうが悪魔だろうが、全員まとめて刻み刺してあげるわぁぁっ!」
「ワシもだ! ワシの最高IQのパフォーマンスを見せてやる! 肉を食わせろぉぉっ!」
パワーも血の槍を形成し、咲季と挟み込むように邦夫へ突進する。
二人の狂暴なパフォーマンスが、邦夫の身体へと肉薄した。
しかし――。
ドカッ! バキッ! ズドォンッ!
「甘い」
邦夫の最小限の動作による無慈悲なカウンターが、二人の攻撃を完璧に見切り、骨ごと粉砕した。咲季のチェンソーは力任せにいなされ、パワーの槍は一瞬で砕かれる。
数秒後、二人は再び血の海の中に沈み、ピクリとも動かなくなった。
邦夫はポケットから学園特製の「高濃度栄養蘇生液」を取り出すと、二人の口の中へと力任せに注ぎ込んだ。瞬時に傷が塞がり、激痛とともに二人の意識が強引に覚醒させられる。
「ゲホッ……ゴホッ……! ゲロ吐きそう……!」
「ひぃぃぃっ! 死ぬ! ワシはもう死んだのだ! 墓を建てろ!」
泣き叫ぶ二人を見下ろし、邦夫は冷ややかに言い放った。
「立て。レッスンはまだ始まったばかりだ」
「な……なんですって……!? 今、死にかけたのよ!? 普通はここで『今日はここまで』でしょ!?」
咲季が叫ぶが、邦夫は缶コーヒーを一口含み、冷徹に首を振った。
「お前たちには圧倒的に足りないものがある。それは……命がけの狂気と、死線の中で冷静に頭を回す戦術だ。……お前たちはバカだ。力任せに突っ込むだけで、自分の持つ能力を10パーセントも使いこなせていない。だからサムライソードのような格上に一瞬で裁かれる」
邦夫は二人を指差し、断言した。
「お前たちが俺に勝つ方法はただ一つ。……『狂人』になれ。常人の思考を捨て、死の中で頭を回して俺を殺せ。……できなければ、毎日何百回でも叩き潰して、その肉体に叩き込んでやる」
咲季は荒い息を吐きながら、血に濡れた床に爪を立てた。
(狂人になれ……? 常人の思考を捨てろ……?)
咲季の口元が、ゆっくりと歪んでいく。
(ハッ……笑わせないでよ。私を誰だと思っているの? 私はプロデューサーの〇〇に触りたいという不純で純粋な欲望のためだけに、自分の命すらチップにして跳べる女よ……! 最初から正気なんて持ち合わせていないわよぁぁぁっ!)
咲季は再び立ち上がり、胸のエンジンを爆音で空吹かしさせた。
「乗ったわよ、オジサン! 私を……私とパワーを、その『バカでもなれる最強』に鍛え直してみせなさい! プロデューサーの身体を揉み倒すためなら……こんな地獄、何万回でも耐えて見せるわぁぁぁっ!」
「ワシもだーっ! 肉だ! 肉を食わせろぉぉっ!」
「よし。――来い」
邦夫が微かに口元を緩め、拳を構え直した。
ドカァァァンッ!
絶叫と爆音、そして血と汗の飛び散る地獄の無限レッスンが、暗い地下練習場で果てしなく繰り広げられていく。
倒されては蘇生され、叩きのめされては立ち上がる。
1番のアイドルという栄光と、プロデューサーへのどこまでもストイックで暴走したスケベ心を胸に秘めた花海咲季の、血みどろで過酷な強化合宿は、夜が明けてもなお終わることはなかった。