マホウトコロ   作:西野圭吾

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第2話 家庭訪問?

 土曜日の東京は、朝から暑かった。

 

 駅を出た途端、熱を吸い込んだアスファルトから、むっとする空気が立ち上ってくる。南硫黄島の夏にも容赦はないが、あちらには海がある。潮を含んだ風が絶えず吹き、日陰へ入れば、火照った肌を撫でる涼しさがわずかに残っている。けれど東京の夏には、その逃げ場がなかった。道路も、壁も、停まっている車も、何もかもが昨日からずっと熱を溜め込んでいるようで、街全体が巨大な釜の中に沈んでいるようだった。

 

「暑っ……」

 

 蓮根奎星は駅前へ出て五分も経たないうちに、額へ浮いた汗を手の甲で拭った。

 

「まだ五分も歩いていません」

 

 隣を歩く烏丸スズメが、呆れたように彼を見る。

 

「東京の夏を舐めんなよ、スズメちゃん」

 

「私も東京に住んでいました」

 

「そういやそうだった」

 

「忘れないでください」

 

 スズメは白い半袖のシャツに濃紺のスカートという、一般社会へ出ても目立たない服装をしていた。学校で身につけている教員用の長衣はなく、顎の辺りで真っ直ぐ揃えられた黒髪だけが、いつもの彼女を思わせる。

 

奎星も制服ではなく、Tシャツの上に薄手のシャツを羽織っただけの格好だった。腰に神代榊を差して歩くわけにもいかないため、杖は細長い専用の袋へ収め、鞄の脇へ固定してある。

 

 二人が東京へ着いたのは、一時間ほど前のことだった。南硫黄島から大型のウミツバメで本土へ渡り、そこから一般社会の交通機関を乗り継いできたのである。

 

一年前、奎星が初めてマホウトコロへ向かったときも、順番こそ逆だったが、似たような道を通った。あの頃の彼は魔法の存在すら信じきれておらず、夜中に突然部屋へ現れ、魔法学校へ来いと言い出したスズメのことも、怪しい女としか思っていなかった。

 

 今では、こうして隣を歩きながら、彼女の歩幅に合わせることさえ自然になっている。

 

「コンビニ寄る?」

 

「寄りません」

 

「アイス」

 

「溶けます」

 

「今食うんだよ」

 

「ご実家まで十分もありません」

 

「十分あるならアイス一本いけるだろ」

 

「遺品を調べに来たのですよね?」

 

「研究者ってアイス食わないの?」

 

「そういう問題ではありません」

 

 奎星は不満そうに唇を尖らせたが、結局コンビニの前を通り過ぎた。自分たちの距離が、いつの間にかこれほど変わっていたことを、彼はおそらく自覚していない。

 

スズメもまた、わざわざ指摘するつもりはなかった。ただ、彼が少し先を歩けば自然に歩調を速め、遅れれば何も言わずに待つ。その繰り返しが、二人の間ではすでに会話と同じくらい当たり前になっていた。

 

 やがて、見慣れた住宅街へ入った。低い家々の間を細い道路が縫い、どこかの庭から風鈴の音が聞こえてくる。

 

植木へ水を撒く老人のホースから、陽を受けた水滴が細かな光となって飛び散っていた。遠くから車の音が近づき、二人の横を通り過ぎて、また別の生活の中へ消えていく。

 

 一年前の夏休みに帰ってきたときと、ほとんど変わっていない。

 

「ここ」

 

 奎星が顎で示した。

 

「覚えています」

 

「マジで?」

 

「一度来ていますから」

 

「一年以上前だぞ」

 

「あなたほど忘れません」

 

「一言多いな」

 

 角を曲がると、蓮根家が見えた。特別大きくも小さくもない二階建ての家で、父が休日になると洗っている古い車が、今日も同じ場所へ停まっている。玄関脇には母が選んだ妙に可愛らしい表札が掛かり、その下では、夏の陽射しを受けた鉢植えが少しだけ葉を垂らしていた。

 

 奎星は何の迷いもなく門を開けた。

 

「ただいまー」

 

「まだ入っていません」

 

「自分ちなんだからいいだろ」

 

 玄関へ向かいながら、奎星はポケットへ手を入れた。鍵を出そうとした、その瞬間だった。

 

 がちゃり、と内側から扉が開く。

 

「いらっしゃいませ!」

 

「うおっ」

 

 母が立っていた。

 

 満面の笑みを浮かべ、背筋を妙に伸ばしている。まるで旅館の女将のような出迎えだった。

 

「……何してんの」

 

「何って、お出迎えよ」

 

「したことないよね?」

 

「あなたじゃなくて烏丸先生を」

 

「息子も迎えろよ」

 

「蓮根君のお母様、ご無沙汰しております」

 

 スズメが丁寧に頭を下げると、母の笑みはいっそう深くなった。

 

「まあまあ、烏丸先生! 暑かったでしょう。どうぞどうぞ、中へ!」

 

「いえ、お気遣いなく」

 

「遠慮なさらずに」

 

「…………」

 

 奎星は母の顔をじっと見た。母は笑っている。笑っているのだが、どうにも不自然だった。普段なら「暑かったでしょう」と言う前に、まず息子へ「靴を揃えなさい」と言うはずである。

 

 一瞬遅れて、玄関の奥から父も現れた。

 

「お、おお。烏丸先生」

 

「ご無沙汰しております」

 

「遠いところ、どうも」

 

「いえ」

 

 父まで姿勢がいい。両手を前で組み、奎星の顔を見るたびに、何かを確認するような目をしている。

 

 奎星の眉間に皺が寄った。

 

「なあ」

 

「何?」

 

「何で二人ともそんな気持ち悪いの」

 

「帰ってきて第一声がそれ?」

 

「だって気持ち悪いだろ!」

 

「失礼ですよ、蓮根君」

 

「スズメちゃん、気づかない!?」

 

「何にです?」

 

「空気!」

 

 スズメは玄関の中を見回した。狭い玄関、靴箱、その上に置かれた母親趣味の小さな猫の置物。どれも以前と変わらず、どう見ても普通の蓮根家である。

 

「いつも通りでは?」

 

「いや、絶対何かある」

 

「早く上がりなさい。暑いでしょう」

 

「ほら! 母さんが俺に優しい!」

 

「どういう意味よ!」

 

 奎星は最後まで怪しみながら靴を脱いだ。

 

     *

 

 数分後、スズメは蓮根家の居間に座っていた。

 

 畳の匂いと、庭から差し込む夏の光。低いテーブルの向こうには、以前この家を訪れたときと同じ窓があり、その外では風に揺れた木の葉が畳の上へ淡い影を落としている。部屋の造りそのものは変わっていない。

 

 ただし、テーブルの上だけが明らかに違っていた。

 

 透明なグラスには、氷の浮いた冷たい麦茶が注がれている。その横には黒塗りの菓子皿が置かれ、艶やかな羊羹が、普段よりもずっと丁寧に切り分けられていた。羊羹を載せる皿まで、いつも使っているものより上等である。

 

 奎星は菓子皿を見つめた。

 

「何これ」

 

「羊羹」

 

「見りゃ分かる」

 

 母は澄ました顔で答えた。

 

「どこの?」

 

「いただきもの」

 

「嘘つけ。箱そこにあるじゃん」

 

 奎星が棚の上を指差す。そこには百貨店の包装紙が、隠す気もなく置かれていた。

 

「買ってんじゃん!」

 

「細かい男ねえ」

 

「何で今日だけ高いやつ買ったんだよ!」

 

「いいじゃない」

 

「前にスズメちゃんが来たときも羊羹出してたけど、こんないいのじゃなかったぞ!」

 

「覚えていたのですか」

 

 スズメが少し意外そうに奎星を見る。

 

「覚えてるよ。スズメちゃん、普通に食ってたじゃん」

 

「いただいたものを食べただけです」

 

「俺が『馴染むなよ』って言った」

 

「言っていましたね」

 

「懐かしいな」

 

 奎星は笑った。けれど、父と母は笑わなかった。

 

 その沈黙に気づき、奎星の笑顔が少しずつ消えていく。

 

「だから何なんだよ」

 

「何が?」

 

「二人とも!」

 

 父は咳払いをし、座布団の上で背筋を伸ばした。奎星は嫌そうに目を細める。さっきから感じていた嫌な予感が、いよいよ形を持ちはじめていた。

 

「烏丸先生」

 

「はい」

 

 スズメも自然に姿勢を正す。

 

 父は一度奎星を見、それからスズメを見た。最後に母へ視線を送り、母が小さく頷く。そのやり取りを見て、奎星の予感は確信へ変わった。

 

「何だよ」

 

 父が口を開く。

 

「……結婚の挨拶ですか?」

 

「違います!」

 

 スズメの返事は、奎星が今まで聞いた中でもかなり上位に入る速さだった。

 

「は?」

 

 奎星だけが一拍遅れて声を漏らす。

 

「何言ってんの、父さん」

 

「だってお前!」

 

 父のほうが慌てた。

 

「『スズメちゃんと大事な話があるから帰る』って!」

 

「うん」

 

「二人で!」

 

「うん」

 

「先生を連れて!」

 

「うん」

 

「大事な話!」

 

「そうだよ」

 

「それで何で分からないんだ、お前は!」

 

「何が!?」

 

 母がそこへ身を乗り出した。

 

「じゃあ、もしかして子供できた?」

 

「母さん!!」

 

 ぶっ、と小さな音がした。

 

 全員の動きが止まる。

 

 スズメが口元を押さえていた。次の瞬間、彼女は激しく咳き込み、肩を震わせた。

 

「げほっ……ごほっ……!」

 

「スズメちゃん!?」

 

 奎星が飛び上がる。

 

 魔法省の査問でも、黒曜の事件でも、時間が巻き戻ったときでさえ、ここまで明確に狼狽えたスズメを見たことはなかった。幕末から血まみれで帰ってきて、彼女へ抱きついたときでさえ、スズメはもっと冷静だったはずである。

 

「大丈夫!?」

 

「ごほっ……だ、大丈夫、です……」

 

「全然大丈夫じゃねえじゃん!」

 

 奎星は隣へ移動し、咳き込むスズメの背中をさすった。細い背中が、彼の手のひらの下で小さく上下している。

 

「ゆっくり。ほら」

 

「誰の……せいだと……」

 

「俺!?」

 

 スズメが顔を上げた。目は据わっているのに、耳だけがわずかに赤い。

 

「ちゃんと説明するように言いましたよね」

 

「したよ!」

 

「何と」

 

「スズメちゃんと二人で帰るって。大事な話があるから」

 

「研究のためだと伝えてと言いましたよね!?」

 

「…………」

 

 奎星が固まった。

 

 研究室。夕方。スズメが言った言葉が、遅れて記憶の底から浮かび上がってくる。

 

 研究のために伺うことをご両親へきちんと伝えてくださいね。

 

 そのとき奎星は胸を叩き、まかせておけと答えた。

 

「…………」

 

「蓮根君」

 

「忘れてた」

 

「蓮根君!!」

 

「だって送ったあと、飯のこと考えてたから!」

 

「何の言い訳にもなっていません!」

 

 父が大きく息を吐き、そのまま座布団へ沈み込んだ。

 

「な、なーんだ……父さん、どうしようかと思っちゃったよ」

 

「どうしようって何だよ!」

 

「だって急に息子が若い女性を連れてくるって言うから」

 

「俺とスズメちゃんは教師と生徒!」

 

 母が即座に口を挟んだ。

 

「先生を下の名前でちゃん付けする生徒はいません」

 

「ここにいるだろ!」

 

「普通はいないって話よ」

 

「俺は普通だ!」

 

「普通ではありません」

 

「スズメちゃんまで!?」

 

 ようやく咳が収まったスズメが、麦茶を一口飲んだ。父も額の汗を拭い、少しだけ落ち着きを取り戻す。

 

「だから、こんな準備をしてきたんだ。羊羹も用意したし。ほら、烏丸先生」

 

「いただきます」

 

「スズメちゃん!」

 

 スズメは羊羹を一口食べた。舌の上で甘さを確かめるように、ほんの少し目を細める。

 

「美味しいです」

 

 母の顔がぱっと明るくなった。

 

「でしょう?」

 

「はい」

 

「スズメちゃん!」

 

「お茶にも合いますね」

 

「そうなのよ!」

 

「スズメちゃん! 研究の話!」

 

 三人は、まるで奎星の声など聞こえなかったかのように会話を続けた。

 

     *

 

「学校ではどうなんです?」

 

 父が訊いた。

 

「何が?」

 

「お前に聞いてない」

 

「俺の家なのに!」

 

 スズメは湯呑みを置き、母と父へ向き直った。

 

「学校生活についてですか?」

 

「はい」

 

「概ね元気です」

 

「概ね」

 

 母がその言葉を拾った。

 

「概ねって何です?」

 

「そのままの意味です」

 

「待って」

 

 奎星が割って入る。

 

「何で家庭訪問始まってんの?」

 

「いい機会じゃない」

 

「今日は研究!」

 

「先生が家に来たのだから、学校の話も聞きたいでしょう」

 

「最初に研究をやろうよ!」

 

 誰も聞かなかった。

 

「成績は?」

 

 父が尋ねる。

 

「父さん!」

 

「魔法史はよくできています」

 

「お」

 

 奎星の胸が少し張った。

 

「古代魔術に関する理解も、他の生徒よりかなり深いです」

 

「おお」

 

 さらに胸が張る。

 

「実技も悪くありません」

 

「ほら!」

 

「ただし」

 

 奎星の胸が元へ戻った。

 

「魔法法規に問題があります」

 

「言い方!」

 

「魔法史でも、興味のない年代になると露骨に集中力が落ちます」

 

「そこまで言う!?」

 

「基礎理論は理解しているのに、問題文を最後まで読まないため失点します」

 

「…………」

 

「答案を見直してくださいと言っても、終わった瞬間に伏せます」

 

「何で全部言うんだよ!」

 

 父が腕を組んだ。

 

「昔からだな」

 

「そうなのよ」

 

 母も頷く。

 

「小学校のテストも、最後の一問をよく読み飛ばしていたわ」

 

「昔の話を出すな!」

 

「変わっていないのですね」

 

「スズメちゃん!」

 

 話はそのまま進路へ移った。

 

「第一志望が禍祓官?」

 

「闇の魔法使い、魔女を専門に逮捕、捜査する警察のようなものです」

 

「へえ……」

 

 父が少し驚いた顔をする。

 

「奎星がねえ」

 

「何だよ、その反応」

 

「いや、お前が仕事についてちゃんと考えていることに」

 

「考えてるよ!」

 

「教師も第二希望にしています」

 

「先生?」

 

 母が目を丸くし、次いで奎星を見た。その目が、みるみる不安そうになっていく。

 

「何だよ!」

 

「人に教えられる?」

 

「失礼だな!」

 

「私も少し心配です」

 

「スズメちゃん!?」

 

「ですが、人へ説明するときは意外と分かりやすいこともあります」

 

「ほら!」

 

「自分が理解している範囲なら」

 

「一言多い!」

 

「それより、補習は?」

 

 父が訊いた。

 

 奎星の顔から、すっと表情が消えた。

 

「父さん」

 

「ん?」

 

「今、一番聞いちゃいけない言葉」

 

「夏季補習を受けています」

 

「スズメちゃん!!」

 

「何で隠すのよ」

 

 母が呆れた顔になる。

 

「隠してねえよ!」

 

「日本を二回救ったから補習を免除してほしいと主張しています」

 

「そこまで言わなくていいだろ!」

 

 父が止まった。

 

「二回?」

 

 母も黙り込む。

 

 奎星が「あ」と声を漏らした。そういえば、両親にはまだきちんと話していない。

 

「俺、幕末に行ったんだよ」

 

 居間が静かになった。

 

 庭の外で蝉が鳴き、麦茶の氷がからん、と音を立てる。さっきまで賑やかだった部屋に、妙に広い空白が生まれた。

 

 父が奎星を見る。

 

「……何て?」

 

「幕末」

 

「どこの?」

 

「日本の」

 

「幕末って何個もあるの?」

 

「知らねえけど!」

 

 母がゆっくりスズメへ顔を向けた。

 

「烏丸先生」

 

「はい」

 

「うちの子は大丈夫なんでしょうか」

 

「大丈夫ではありません」

 

「即答!?」

 

「時間移動そのものは事実です」

 

「そっち!?」

 

 父が額を押さえた。

 

「ちょっと待て。待ってくれ」

 

「だから幕末へ行ってさ」

 

「何でそんなコンビニへ行ったみたいに言うんだ」

 

「気づいたらいたから」

 

「もっと怖いわ!」

 

「で、清弦っていう俺の先祖がいて」

 

「清弦?」

 

「蓮根清弦です」

 

 スズメが補足する。

 

「幕末期の魔法史に記録が残る人物です。奎星君の祖先であることは、以前から学校側でも確認されていました」

 

「そいつと会って」

 

「会った?」

 

「うん」

 

「先祖と?」

 

「うん」

 

「幕末で?」

 

「そう」

 

「似てた?」

 

 母の質問だけ、妙に方向が違った。

 

「めちゃくちゃ」

 

「写真ある?」

 

「ある」

 

「あるの!?」

 

「撮ったから」

 

「幕末で!?」

 

「そこ引っかかる?」

 

「引っかかるわよ!」

 

 結局、その写真まで見せることになった。

 

 奎星がスマートフォンを取り出し、保存されていた画像を開く。画面の中には、清弦と鈴、平坂、そして村人たちが写っていた。百五十年以上前の人々が、現代の小さな居間で、何も知らない父と母を見返している。

 

 父と母は、しばらく言葉を失った。

 

「……本当に似てるな」

 

 父が小さく言った。

 

「だろ?」

 

「奎星を真面目にした感じ」

 

「父さん!」

 

「こっちの女の人が鈴ちゃん?」

 

 母が画面を指差す。

 

「そう」

 

「可愛い人ねえ」

 

「だろ?」

 

 奎星は、なぜか自分のことのように得意そうな顔をした。

 

 スズメの目が横から向く。

 

「何であなたが得意そうなのです?」

 

「いや、清弦に言ってやりたくて」

 

「何をです?」

 

「お前、よくやったって」

 

「余計なお世話でしょう」

 

「絶対殴られるな」

 

「でしょうね」

 

 そのやり取りを、母は少しだけ面白そうな顔で眺めていた。奎星は、やはり気づかなかった。

 

     *

 

「これが幼稚園」

 

「母さん!!」

 

 調査が始まったのは、それからさらに一時間後だった。正確に言えば、まだ始まっていなかった。母が押し入れの奥からアルバムを引っ張り出してきたからである。

 

「見なくていいって!」

 

「せっかく先生が来たんだから」

 

「何のせっかくだよ!」

 

 スズメは畳へ座り、開かれたアルバムを興味深そうに眺めていた。古い写真の角は少し丸くなり、台紙には長い年月の間に染みついた紙と埃の匂いが残っている。

 

「これが蓮根君ですか?」

 

「そうです」

 

「丸いですね」

 

「子供は丸いんだよ!」

 

「今より髪が短いです」

 

「幼稚園児だからな!」

 

「これは運動会ですね」

 

「母さん!」

 

「一等だったのよ」

 

「お」

 

 スズメが少しだけ顔を上げた。

 

「足は速かったのですね」

 

「今も速いよ!」

 

「逃げ足は」

 

「普通に走るのも!」

 

 父が別の写真を指差した。

 

「これは小学校」

 

「やめろ!」

 

 写真の中では、歯が一本抜けた奎星が、満面の笑みで虫取り網を持っていた。夏の陽射しを浴びた顔は今よりずっと丸く、得意げに胸を張っている。その隣には、捕まえた虫を入れたらしい透明なケースがぶら下がっていた。

 

 スズメの口元が、わずかに緩む。

 

「楽しそうですね」

 

「見るな!」

 

「なぜです?」

 

「恥ずかしいから!」

 

「今とあまり変わりません」

 

「どこが!?」

 

「顔が」

 

「変わってるだろ!」

 

「うるさいところも」

 

「写真からうるささ分かる!?」

 

「分かる気がします」

 

「ひどくね!?」

 

 誰も助けてくれない。

 

「研究の話は!?」

 

 奎星の叫びだけが、蓮根家の居間へ虚しく響いた。

 

     *

 

 それでも、アルバムが三冊目へ入ったところで、部屋の空気が少し変わった。

 

「あ」

 

 奎星の指が止まる。

 

 そこにあったのは、少し色褪せた古い写真だった。幼い奎星が写っている。その隣には、白髪の混じった女性が座り、彼の頬を片手でつまんで笑っていた。

 

「ばあちゃん」

 

 蓮根八重子だった。

 

 写真の中の八重子は、幼い奎星の頬を容赦なく引っ張っている。奎星は嫌そうな顔をしているのに、逃げようとはしていない。二人の間には、長い時間を一緒に過ごしてきた者だけが持つ、遠慮のない親しさがあった。

 

「よくやられてたのよ、それ」

 

 母が笑う。

 

「覚えてる」

 

 奎星も写真を見ながら笑った。

 

「痛えんだよ。ばあちゃん、指強くて」

 

「魔法使いだから?」

 

「関係ないだろ」

 

 スズメは写真を見つめていた。

 

 八重子の顔。その隣にいる小さな奎星。誰が見ても、ごく普通の祖母と孫の写真だった。鬼火鳥もいない。霊脈もない。杖もない。ただ夏の日差しの中で、二人が笑っている。

 

「……この頃には」

 

 スズメが静かに言った。

 

「八重子さんは、すでに蓮根家と鬼火鳥の関係をご存じだったのでしょうね」

 

「多分」

 

 奎星は写真を見たまま答えた。

 

 知っていた。魔法のことも、鬼火鳥のことも、神代榊へ至る道も、蓮根家が何を受け継いできたのかも。それでも八重子は、それを孫へ背負わせなかった。

 

 普通の学校へ行って、普通に馬鹿をやって、好きなことを見つけて、好きに生きてほしい。あの場所で、八重子はそう言った。

 

「ばあちゃんの物って、どこ?」

 

 奎星が母を見る。

 

「押し入れの奥。まだあるわよ」

 

「見ていい?」

 

「いいけど」

 

 母は少し考えてから、肩をすくめた。

 

「本当に大したものはないわよ?」

 

「それでいいんです」

 

 スズメが答えた。

 

「重要な資料である必要はありません」

 

 その言葉が、後になって妙に残った。

 

     *

 

 八重子の遺品は、奎星が想像していたよりもずっと普通だった。

 

 古い眼鏡。若い頃に使っていたらしい革の財布。何十年も前の年賀状。旅行先で買った小さな土産物。住所録、手紙、古い写真、診察券、レシート。料理の作り方を書いた紙まである。

 

「ばあちゃん、肉じゃがの作り方メモってんじゃん」

 

「覚えるまで時間がかかったのよ」

 

 母が笑った。

 

「料理下手だった?」

 

「最初はね」

 

「初耳」

 

「あなたが生まれた頃には、普通に作れるようになっていたもの」

 

 奎星は紙をひっくり返した。そこには魔術式など一つもなく、少し癖のある字で、醤油と砂糖の分量、じゃがいもを煮崩さないための注意が書かれている。

 

《醤油 大さじ二》

 

《砂糖 少し》

 

《じゃがいも煮崩れ注意》

 

「……普通だな」

 

「普通ですよ」

 

 スズメが言った。

 

 それからしばらく、二人は黙って遺品を見ていった。何か秘密が出てくると思っていたわけではない。それでも奎星のどこかには、少しくらい期待があった。

 

 蓮根家の秘密。鬼火鳥についての記録。神代榊の場所。清弦から続く何か。もしかしたら八重子が、自分へ何かを残しているのではないか。そんな期待が、胸の底に薄く残っていた。

 

 けれど、何も出てこなかった。

 

 奎星へ課された使命もなかった。謎を解くためだけに用意された遺言も、未来の孫へ向けた秘密の手紙も、何百年も前から待っていた魔法の道具も、どこにも見当たらなかった。

 

 そこに残っていたのは、蓮根八重子という一人の女性が、長い人生を生きた痕跡だった。

 

 友人と笑っている写真。旅行先で撮った写真。娘が小さかった頃の写真。幼い奎星を抱いた写真。年賀状を送った相手。昔働いていた場所らしい住所。病院、店、友人、知人、親戚。誰かが結婚して住所を変えた跡。亡くなった相手の名前の横へ、小さく引かれた線。

 

 魔女ではない。蓮根家の秘密を知る者でもない。ただ、八重子だった。

 

 奎星は一枚の写真を手にしたまま、少しだけ笑った。

 

「ばあちゃんらしいな」

 

「そうですね」

 

 スズメも静かに答えた。

 

 そのとき、奎星の指が止まった。

 

 古い住所録だった。今使われている電話番号の桁数とは違う頁もあり、何度も書き直された紙の端は、長い年月の間に指でめくられ続けたせいか丸くなっている。

 

「何です?」

 

「これ」

 

 奎星が一つの文字を指差す。

 

 スズメが身を寄せた。

 

 古い住所の中に、地名が記されている。

 

《小萱》

 

「…………」

 

 スズメの目が止まった。

 

「小萱村?」

 

「そう見えます」

 

 奎星が住所録を持ち上げる。

 

「何で、ばあちゃんの住所録に」

 

「待ってください」

 

 スズメの声が変わった。研究室で古い資料を見ているときと同じ、静かだが鋭い声だった。

 

 二人で次の頁をめくる。別の名前の住所の末尾に、また同じ文字があった。

 

《小萱》

 

「ある」

 

「はい」

 

 さらに古い住所へ進む。

 

《旧小萱村》

 

「また」

 

 その次は住所ではなかった。昭和のものらしい小さな白黒写真の裏に、八重子の字らしい文字が残されている。

 

《小萱にて》

 

 奎星とスズメは顔を見合わせた。

 

「ばあちゃん、小萱村知ってた?」

 

 奎星が母へ訊く。

 

「こがやむら?」

 

「うん」

 

「さあ……聞いたことないわ」

 

「父さんは?」

 

「ないな」

 

 父も首を傾げた。

 

「昔の友達じゃないか?」

 

「でも村だぜ」

 

「昔の地名なんて、今と違うところがいっぱいあるだろ」

 

 父は何気なく言った。

 

 その一言に、スズメの手が止まった。

 

「……昔の地名」

 

「スズメちゃん?」

 

 返事はなかった。

 

 スズメは鞄を引き寄せ、中から数枚の資料を取り出した。

 

「持ってきたの?」

 

「当然です」

 

「俺、何も持ってきてない」

 

「知っています」

 

「何で」

 

「あなたなので」

 

「腹立つ!」

 

 スズメは答えず、数枚の紙を畳の上へ広げた。蓮根家に関する古い記録、霊脈、鬼火鳥、歴代の蓮根家が移動した場所。そして今回の調査のために複写してきた古い地図である。

 

「小萱村……」

 

 スズメの指が地図上の文字を追う。

 

「幕末には存在しています」

 

「俺、行ったからな」

 

「はい」

 

「清弦の家があった」

 

「聞いています」

 

「鈴ちゃんの家も」

 

「何度も聞きました」

 

「貧乏な村だった」

 

「それも」

 

「石、めっちゃあった」

 

 スズメの指が止まった。

 

「石?」

 

「うん」

 

 奎星も地図へ身を乗り出した。

 

「田んぼとか畑の脇に、山から落ちてきたみたいな石がいっぱい積んであった」

 

 記憶が、ゆっくりと形を取り戻していく。

 

 夜、清弦と鈴を送りながら歩いた道。町から離れ、山裾へへばりつくように広がっていた小さな農村。狭い田畑。畦へ積み上げられた大小の石。古びた茅葺き屋根。細い道。誰かの家から聞こえた子供の泣き声と、それに応じる三軒先からの声。

 

 そして、村を見下ろすように枝を広げていた巨大な神代榊。

 

「山……」

 

 スズメが呟いた。

 

「え?」

 

「小萱村の位置を、現在の地形へ重ねます」

 

 スズメは別の地図を取り出した。比較的新しい地図で、奎星にも見覚えがある。

 

「あれ」

 

「覚えていますか?」

 

「……これ」

 

 一年前、鬼火鳥たちを故郷へ帰した日。大型ウミツバメの上で、スズメが広げていた地図だった。

 

「鬼火鳥を帰したときの」

 

「はい」

 

 スズメは当時の経路を指で辿った。

 

「神代榊の反応を追って移動しました。この付近から、一般地図の記録が極端に少なくなっています」

 

「あったな。そんな話」

 

「そして、最後に」

 

 指が止まる。

 

「ここです」

 

 そこには、四方を険しい山に囲まれた谷が描かれていた。現在の地図には、ほとんど何も記されていない。道路も、集落名もない。ただ山の線だけが、古い地図の輪郭と重なっている。

 

 奎星の顔から、少しずつ笑みが消えていった。

 

 一年前の景色が蘇る。大型ウミツバメの背中から見下ろした谷。高度が落ちるにつれて近づいてきた木々の梢。四方を険しい山に囲まれた、深い谷。谷底だけが不自然なほど濃い緑に覆われ、その森の切れ間から、巨大な榊の枝が空へ伸びていた。葉は星空のように瞬き、その周囲を何百羽もの鬼火鳥が飛び交っていた。

 

「待って」

 

 奎星の声が低くなる。

 

「俺ら……あそこ行ってる」

 

「はい」

 

 スズメも地図を見つめている。

 

「でも」

 

 奎星は記憶を探った。家は見ていない。田んぼも、石垣も、道も見ていない。

 

「村なんかなかったぞ」

 

「私たちは村を探していません」

 

「…………」

 

「上空から神代榊を確認し、その付近へ降りています。目的は鬼火鳥を野生へ返すことでした」

 

「あ」

 

「谷全体を調査してはいません」

 

 そうだった。

 

 大型ウミツバメは巨大な神代榊の近くへ降りた。保護していた鬼火鳥を一羽ずつ外へ出し、岳が最後まで手放せなかった一羽を帰した。鬼火鳥が残していった羽根を拾い、何百羽もの青白い炎を見送った。

 

 誰も、地面に転がる石を村の痕跡として意識してはいなかった。村の跡を探してもいない。そこに昔、人が住んでいた可能性すら考えていなかった。

 

 奎星は古い地図と新しい地図を交互に見た。

 

「これ」

 

 まず幕末の地図へ指を置く。

 

「小萱村」

 

 次に現在の地図へ指を移す。

 

「鬼火鳥の谷」

 

 二つの場所が重なる。山の形、谷へ入る道、古い沢の位置。そして何より、神代榊。

 

「神代榊」

 

 奎星が呟いた。

 

 幕末で見た大樹。清弦が霊脈を感じ取っていた木。鈴が暮らした村の空を、何十羽もの鬼火鳥が当たり前のように飛んでいた場所。

 

 未来には、同じような深い谷があり、同じように巨大な神代榊が立ち、その周囲を何百羽もの鬼火鳥が飛んでいる。

 

「……マジか」

 

 奎星は畳へ座ったまま、ゆっくり息を吐いた。

 

 今まで知っていた。全部、知っていた。ただ、それぞれの記憶が繋がっていなかったのだ。

 

 去年の夏、自分たちはあの場所へ空から入った。森に覆われた谷しか見ていない。幕末では、同じ場所を人の足で歩いた。畑があり、家があり、人がいた。清弦がいて、鈴がいた。

 

 百五十年以上の時間が、その二つの景色の間に横たわっている。

 

「小萱村……なくなったんだ」

 

 奎星が小さく言った。

 

「少なくとも、現在の地図にその名はありません」

 

「でも」

 

 奎星は住所録を見る。八重子の字。小萱。旧小萱村。そして写真。

 

「ばあちゃんは知ってた」

 

「はい」

 

 スズメが答えた。

 

「おそらく、地名が失われた後も、何らかの形で関わりが残っていたのでしょう」

 

「蓮根家だから?」

 

 スズメはすぐには頷かなかった。

 

「分かりません」

 

「……そっか」

 

「決めつけるべきではありません」

 

「うん」

 

「八重子さんが魔女だったからなのか。蓮根家だからなのか。それとも、ただ友人がいたからなのか」

 

 スズメは古い写真へ目を落とした。何人かの若い男女が写り、八重子もその中で笑っている。魔法を示すものは何もない。

 

「今ある資料だけでは分かりません」

 

「でも、それでいいのかもな」

 

「え?」

 

 奎星は写真を一枚手に取った。

 

「ばあちゃん、何でも魔法で生きてたわけじゃないし」

 

 八重子が言ったことを思い出す。

 

 普通の学校へ行って、普通に馬鹿をやって、好きなことを見つけて、好きに生きてほしかった。

 

 自分だって、きっとそうだったのだ。鬼火鳥の秘密を守るためだけに生きていたわけではない。誰かと遊び、働き、結婚し、娘を育て、孫へ小遣いを渡し、ゲームの操作を覚えようとして三分で諦め、肉じゃがの味を覚えるために醤油の量を紙へ書いた。

 

 その人生の中に、小萱という土地があった。ただ、それだけなのかもしれない。

 

 けれど、その「ただそれだけ」が、百五十年以上前の村と現在の谷を繋いでいた。

 

「スズメちゃん」

 

「はい」

 

「行く?」

 

 返事はすぐには来なかった。

 

 スズメは二枚の地図を見ている。古い地図と現在の地図。その上には、八重子の住所録が置かれていた。紙の上に並んだ三つの時代が、夕方の光の中で静かに重なっている。

 

「……調査する価値はあります」

 

「じゃ、決まり」

 

「まだ何も準備していません」

 

「行ったことある場所だぜ?」

 

「だからといって、何の準備もせず山へ入ってはいけません」

 

「前行ったとき、普通に行けたじゃん」

 

「大型ウミツバメと鷹司先生と御影先生と真壁さんがいました」

 

「…………」

 

「今回は?」

 

「俺とスズメちゃん」

 

「却下です」

 

「早っ!」

 

「最低でも現地の資料を調べ、現在の地形を確認します」

 

「じゃあ、それやって行こう」

 

「蓮根君」

 

「何?」

 

「あなた、明後日から補習ですよね」

 

 奎星の顔から光が消えた。

 

「今それ言う?」

 

「現実です」

 

「小萱村見つけたんだぞ!?」

 

「補習はなくなりません」

 

「歴史的大発見かもしれないじゃん!」

 

「魔法法規は免除されません」

 

「何で俺の人生こうなの!?」

 

 父が少し離れたところから声をかけた。

 

「何か分かったのか?」

 

「分かった!」

 

 奎星は勢いよく振り返った。

 

「俺、幕末で住んでた村、一年前に行ってた!」

 

 父が止まった。母も止まった。

 

「ごめん」

 

 父が言った。

 

「全然分からない」

 

「俺も今分かったんだよ!」

 

「順番に説明しなさいよ」

 

「長い!」

 

「さっきから全部長いわよ!」

 

 また居間に声が響く。その横で、スズメは小さく息を吐いた。呆れているようにも見えたが、口元にはほんの少しだけ笑みが浮かんでいた。

 

     *

 

 夕方になると、西日が蓮根家の庭へ差し込み、畳の上へ長い影を落とした。テーブルの上には、すっかりぬるくなった麦茶と、ほとんどなくなった羊羹が残っている。開きっぱなしのアルバム、古い住所録、地図、写真。八重子の人生が、雑然としながらも不思議な秩序を持って広がっていた。

 

 奎星は一枚の写真を持ち上げた。

 

 若い八重子が笑っている。写真の裏には、八重子の字で《小萱にて》と書かれていた。

 

 たった四文字だった。

 

 使命など書かれていない。未来の孫への言葉もない。鬼火鳥という文字すらない。

 

 けれど、その何でもない四文字が、百五十年以上前に蓮根清弦と白川鈴が生きた村へ繋がっている。そして一年前、奎星たちが鬼火鳥を帰した谷へも繋がっている。

 

「なあ」

 

 奎星が言った。

 

「はい」

 

「あそこ行ったらさ」

 

 スズメが顔を上げる。

 

「何か残ってるかな」

 

 家はないかもしれない。道も、田畑も、茅葺き屋根も、すでに森へ呑み込まれているかもしれない。百五十年以上という時間は、それほど長い。

 

 それでも、石なら残っているかもしれなかった。

 

 奎星は幕末の村を思い出す。狭い田畑。山から転がり落ちてきたような石。畦へ積み上げられた大小の石。人の暮らしを守るため、誰かが一つずつ運び、積み重ねた石。

 

「分かりません」

 

 スズメは答えた。

 

「ですが」

 

 彼女は現在の地図へ指を置いた。名もない深い谷が、夕暮れの光の中で静かに浮かび上がっている。

 

「一度、地上から見てみる必要はありますね」

 

 奎星の口元が上がった。

 

「だよな」

 

 あの日、彼らは空から来た。神代榊を見つけ、鬼火鳥を帰し、それで帰った。谷を調べて回ったわけではない。神代榊の周辺へ降りただけで、谷の地形や遺構を調査してはいない。

 

 家々の跡が。道の跡が。畑を区切っていた石が。百五十年以上前の小萱村が、まだどこかに残っているかもしれない。

 

 窓の外で蝉が鳴いた。

 

 夏の夕暮れ、東京の小さな家。笑い声と羊羹と幼い頃の写真に囲まれた場所で、奎星とスズメは次に向かう場所を見つけた。

 

 鬼火鳥の故郷。

 

 かつて、小萱村と呼ばれていた谷へ。

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