マホウトコロ   作:西野圭吾

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最終話 ありがとう、マホウトコロ

 

「いってぇ……」

 

 大講堂を出た直後、蓮根奎星は殴られた頭を押さえていた。

 

 卒業式を終えたばかりの校庭には、柔らかな春の光が満ちている。海から上がってきた風が羊脂玉の校舎のあいだを抜け、卒業生たちの深紅の魔法衣や、保護者の正装の裾を揺らしていった。遠くではまだ鐘が鳴っている。泣きながら友人と抱き合う者、笑って先生と写真を撮る者、家族へ誇らしげに卒業証書を見せる者。そんな晴れやかな人々の真ん中で、奎星だけが頭を押さえて騒いでいた。

 

「卒業生殴る!?」

 

「式が終わった瞬間に天井近くまで浮く卒業生がどこにいる」

 

 御影が低い声で返す。

 

「もう卒業してるから校則関係なくね!?」

 

「だから殴った」

 

「理屈おかしいだろ!」

 

「蓮根」

 

「何だよ!」

 

「声がでかい」

 

「今さら!?」

 

 後ろで日向が腹を抱えて笑った。

 

「最後まで殴られてんじゃん!」

 

「お前も投げてただろ、羽織!」

 

「俺は飛んでねえ!」

 

「俺も自力では飛んでねえ!」

 

「共犯は楓だな」

 

「ちょっと!」

 

 楓が勢いよく振り返った。

 

「何で私まで怒られんのよ!」

 

「お前が浮かせた」

 

「奎星がやれって!」

 

「言われたら何でもやるのか」

 

「最後くらいいいかなって思ったのよ!」

 

「水無瀬まで染まったな」

 

「誰に!?」

 

 全員の視線が、ほとんど同時に奎星へ集まる。

 

「俺!?」

 

「お前」

 

 御影が即答した。

 

「卒業祝いの言葉がそれ!?」

 

     *

 

 それからしばらく、校庭の一角は完全な撮影会になった。

 

「奎星! こっち!」

 

「おう!」

 

 日向が奎星の肩へ腕を回す。二人でカメラの前へ立ったところで、日向が訊いた。

 

「普通に撮る?」

 

「俺らが?」

 

「ないな」

 

「ない」

 

 二人は同時に頷いた。

 

「じゃ、撮りますよー。せーの!」

 

 合図が飛んだ瞬間、日向が片拳を突き上げ、奎星も卒業証書を空へ掲げる。

 

「うおおおおおおお!!」

 

「世界獲るぞおおおおお!!」

 

 ぱしゃり。

 

「何の写真?」

 

 横で楓が呆れた。

 

「未来の日本代表と!」

 

「未来の最強禍祓官!」

 

「どっちもまだなってないじゃない」

 

「未来だからいいんだよ!」

 

「十年後この写真めっちゃ価値出るぞ」

 

「売る気?」

 

「日向のは売れる」

 

「お前のは?」

 

「国宝」

 

「自己評価どうなってんのよ」

 

 次は岳だった。

 

「岳!」

 

「何」

 

「撮ろうぜ!」

 

「今食ってる」

 

「そのままでいいよ!」

 

 卒業用の魔法衣を着たまま、岳は片手に菓子を持っている。奎星はその袋を見るなり手を伸ばした。

 

「俺も食う」

 

「これ最後」

 

「半分!」

 

「嫌」

 

「卒業祝い!」

 

「関係ない」

 

「友達だろ!」

 

「それも関係ない」

 

 奎星が菓子へ手を伸ばし、岳が真顔のまま腕を上げてかわす。

 

 ぱしゃり。

 

「あ」

 

 撮られた。

 

 写真の中には、菓子を奪おうと必死な奎星と、それを無表情で守り抜く岳が残っていた。

 

「めっちゃ俺らっぽい」

 

「俺は食べてるだけ」

 

「それがお前っぽい」

 

 続いて伊織。

 

「伊織!」

 

「嫌な予感がする」

 

「撮ろうぜ」

 

「普通にね」

 

「分かってるって」

 

 二人は並んだ。奎星が姿勢を正し、伊織も眼鏡の位置を直す。

 

「……普通だ」

 

 楓が少し驚いた顔をした。

 

「できるんじゃん」

 

「俺を何だと思ってんの?」

 

「奎星」

 

 ぱしゃり。

 

 できあがったのは、二人とも正面を向き、卒業証書を持って微かに笑っている、やけに真面目な写真だった。

 

「うわ」

 

 日向が覗き込む。

 

「なんか官僚みてえ」

 

「嫌だな」

 

 伊織が即答した。

 

「俺はちょっとカッコいいと思った」

 

「じゃあ君だけ官僚になれば」

 

「禍祓官になるっつってんだろ!」

 

 そして楓の番になった。

 

「楓!」

 

「何よ」

 

「撮ろうぜ!」

 

「普通にしなさいよ」

 

「分かってる」

 

「その返事信用できない」

 

「ひど」

 

 二人が並ぶ。楓は警戒するように横目で奎星を一度見たが、撮影する生徒に呼ばれて正面を向いた。

 

「じゃあ撮りますよー」

 

「はい」

 

「おう」

 

 ぱしゃ――その直前。

 

 奎星が素早く手を伸ばし、楓の髪をぐしゃっと乱した。

 

「っちょっとぉぉぉぉ!!」

 

「はははははは!」

 

「奎星!!」

 

「いい写真!」

 

「どこがよ!!」

 

 楓が追いかけ、奎星が笑いながら逃げる。

 

「待ちなさい!」

 

「卒業生同士で追いかけっこ禁止!」

 

「誰が始めたと思ってんのよ!」

 

「俺!」

 

「分かってんなら止まりなさい!」

 

「嫌だ!」

 

「子供か!!」

 

 結局、写真には髪を押さえながら怒鳴る楓と、その横で逃げようとして大笑いしている奎星が写っていた。

 

「……消す」

 

「絶対駄目!」

 

「消す!」

 

「俺これ一番好き!」

 

「最悪!」

 

 そんな騒ぎがひとしきり続いたあと、日向がふと思いついたように言った。

 

「五人で撮ろうぜ」

 

 奎星、日向、楓、岳、伊織。

 

 二年前、奎星がこの学校へやってきてから、気づけばいつも同じ机を囲んでいた五人だった。

 

「どこ並ぶ?」

 

「俺真ん中!」

 

「即答ね」

 

「主人公だから」

 

「まだ言ってんの?」

 

「最後まで言う!」

 

 奎星が当然のように中央へ立ち、右に日向、左に楓、その外側へ岳と伊織が並ぶ。

 

「近くね?」

 

「写真なんだから寄りなさいよ」

 

「楓、肩当たってる」

 

「動くな!」

 

「岳こっち」

 

「菓子落ちる」

 

「今だけしまえ!」

 

「嫌」

 

「何で!?」

 

「はい、撮りますよー!」

 

 声がかかり、五人は前を向いた。

 

 ほんの一瞬だけ、騒ぐのをやめる。

 

 春の海。羊脂玉の校舎。深い赤の魔法衣と、それぞれの手にある卒業証書。

 

 そして五人は、同じ瞬間に笑った。

 

 ぱしゃり。

 

「……いいじゃん」

 

 奎星が写真を覗き込み、日向もすぐ隣から顔を寄せた。

 

「俺かっけえ」

 

「俺の方が」

 

「何の勝負よ」

 

「岳、菓子持ってんじゃん」

 

「記念」

 

「何の!?」

 

 そのときだった。

 

「僕も入る!」

 

「うわっ!」

 

 侑李が人混みを縫って走ってくる。

 

「侑李!?」

 

「集合写真!」

 

「もう撮ったけど」

 

「もう一枚!」

 

「まあいいけど」

 

 奎星が当然のようにまた中央へ戻る。そのすぐ横へ、侑李がするりと入ろうとした。

 

「親友の隣――」

 

「駄目」

 

 楓が片腕で止めた。

 

「え?」

 

「そこ俺」

 

 反対側には、すでに日向がいる。

 

「え? 何で!?」

 

「昔からこの配置だから」

 

「そうよ」

 

「僕、親友だよ!?」

 

「知ってる」

 

「だから何?」

 

「冷たくない!?」

 

 侑李は最後の望みを託すように奎星を見る。

 

「親友!」

 

「俺に言うなよ!」

 

「助けて!」

 

「別にどこでもよくね?」

 

「親友の隣がいい!」

 

「気持ちわりぃ!」

 

「ひどい!」

 

 結局、奎星の両隣は楓と日向が死守し、侑李は伊織の横まで追いやられた。

 

「よろしく、伊織」

 

「何で僕」

 

「親友の親友」

 

「その括りやめて」

 

 一番端では、岳が何事もなかったように菓子を食べている。

 

「じゃあ撮りまーす!」

 

「おう!」

 

「はい!」

 

「早く」

 

「腹減った」

 

「親友!」

 

「最後の何!?」

 

 ぱしゃり。

 

 今度の写真には、六人の笑顔が残った。

 

     *

 

 校庭には、相変わらず大勢の人が行き交っていた。卒業生、在校生、家族、教師、魔法省の職員や来賓、その足元を忙しなく走る小妖たち。あちらこちらで泣き声と笑い声が混ざり、「またな」「元気で」「頑張れよ」という言葉が春の風へ乗っていく。

 

 その景色をしばらく眺めていた奎星は、ふと表情を改めた。

 

「……よし」

 

「何?」

 

 楓が訊く。

 

「挨拶してくる」

 

「珍しくまとも」

 

「珍しく言うな!」

 

 卒業した。

 

 今日を迎えるまで、本当に色々な人の世話になった。いや、世話になったどころではない。迷惑を掛け、助けられ、叱られ、そのたびにまた誰かのところへ走っていった。

 

「真壁さん! 斎賀さん!」

 

 人混みの向こうに二人を見つけた瞬間、奎星は駆け出した。

 

「走るな!」

 

 高宮の声が、卒業後も変わらず飛んでくる。

 

「もう卒業したって!」

 

「転ぶなという意味だ!」

 

「先に言って!」

 

「言わなくても分かれ!」

 

 そのやり取りに気づいた真壁が、少し笑った。

 

「蓮根君」

 

「うす!」

 

「卒業おめでとう」

 

「ありがとうございます!」

 

 その隣で、斎賀がじっと奎星を見る。

 

「お前さ」

 

「何?」

 

「式で俺の顔見た瞬間、なんか嫌な顔してたよな」

 

「してねえよ!」

 

「した」

 

「してません!」

 

 真壁が眉を上げた。

 

「蓮根君」

 

「はい」

 

「斎賀に敬語を使うのか使わないのか、どちらかにしたらどうだ」

 

「……あ」

 

「お前、俺にだけ雑じゃね?」

 

「だって斎賀さんだし」

 

「どういう意味だ」

 

 真壁が小さく息を吐く。

 

「君はまず働き始める前に、敬語を覚えるところからだな」

 

「してません!」

 

「今の返しもおかしい」

 

「え!?」

 

「『使えています』では?」

 

「……難しい」

 

「禍祓官以前の問題だぞ」

 

 斎賀が笑った。

 

「大丈夫大丈夫。現場じゃ敬語なくても魔法撃てるから」

 

「玄弥」

 

「何?」

 

「お前は新人教育担当だろう」

 

「あ」

 

「最悪の教育方針出たぞ今!」

 

「四月から楽しみだな、蓮根」

 

「本当にお手柔らかにお願いします!」

 

 今度は綺麗な敬語だった。斎賀が吹き出す。

 

「俺にはできんじゃん!」

 

「命かかってるから!」

 

「研修で殺さねえよ!」

 

「斎賀さんの『殺さない』信用できねえ!」

 

「先に玄一郎に言え!」

 

「御影先生は殺さないもん!」

 

「何であいつだけ信用高いんだよ!」

 

 奎星は声を上げて笑った。

 

 それから、真壁へ向き直る。

 

「……でもさ、真壁さん」

 

「何だい」

 

「本当に、ありがとうございました」

 

 真壁の表情が、ほんの僅かに止まった。

 

「最初、病院で会ったときから。俺、真壁さんいなかったら何回詰んでたか分かんねえし」

 

 久我の事件から、黒曜の環、記憶を失ったスズメ、星帰り、神代、魔法省での一件、そして進路のことまで。困ったときに振り返れば、いつもこの男がいた。奎星の代わりに答えを決めることはなかったけれど、迷ったまま一人で立ち尽くさないよう、何度も次の道を示してくれた。

 

「……随分いろいろあったからな」

 

「俺が魔法省でキレたときも助けてくれたし」

 

「戸倉さんのときか」

 

「うん」

 

「机を叩いた件については、褒めていないぞ」

 

「そこはいいじゃん!」

 

「よくない」

 

「でもさ」

 

 奎星は笑った。

 

「俺、たぶん大人になってからも世話になると思う」

 

「最初から迷惑をかける宣言をするな」

 

「禍祓官になるからさ」

 

「それならなおさらだ」

 

「だからよろしく!」

 

「まったく……」

 

 真壁はしばらく奎星を見ていた。

 

 病院着で、魔法社会のことなどほとんど知らず、それでも御影の昔話を聞けば目を輝かせていた十七歳の少年。あの日から、もうすぐ二年になる。

 

 真壁は奎星の肩へ手を置き、軽く叩いた。

 

「蓮根君」

 

「うん」

 

「君なら大丈夫だ」

 

 奎星の目が、少しだけ大きくなる。

 

「間違えることもあるだろう。判断に迷う日も来る」

 

「……うん」

 

「そのときは、一人で全部決めようとするな。周りを見ろ」

 

 真壁が笑った。

 

「君には、それができる」

 

 奎星は一瞬黙り、それから照れくさそうに鼻を掻いた。

 

「……ありがと」

 

「敬語」

 

「ありがとうございます!」

 

「よろしい」

 

「真壁」

 

 斎賀が呆れた顔をした。

 

「お前、もう保護者じゃん」

 

「誰のせいだ」

 

「俺?」

 

「お前もだ」

 

「俺も!?」

 

 奎星はまた大笑いした。

 

「じゃあ四月からよろしく、斎賀さん!」

 

「おう」

 

「手加減して!」

 

「考えとく」

 

「しろよ!」

 

     *

 

 少し離れた場所には、人だかりができていた。

 

「御影先生、こっち見てください!」

 

「先生もう少し真ん中!」

 

「笑って!」

 

「無理を言うな」

 

「先生!」

 

「撮るなら早くしろ」

 

 御影玄一郎が数人の卒業生に囲まれている。ものすごく嫌そうな顔で腕を組み、ほとんど笑っていない。それでも逃げず、律儀に写真へ収まっていた。

 

「御影先生!」

 

「…………」

 

 御影が声の方を見る。

 

「蓮根」

 

「今空いた?」

 

「空いてない」

 

「空いたじゃん!」

 

「今撮ってる」

 

「俺も入る!」

 

「勝手にしろ」

 

「やった!」

 

「許可ではない」

 

 奎星は卒業生たちの横へ遠慮なく割り込んだ。

 

「先生、最後くらい笑って!」

 

「嫌だ」

 

「笑えよ!」

 

「命令するな」

 

「卒業生だぞ!」

 

「だから何だ」

 

 ぱしゃり、と写真が撮られる。

 

 奎星は満面の笑顔。御影は、見事なくらいいつも通りの怖い顔だった。

 

「顔!」

 

「何だ」

 

「もっと嬉しそうにしてよ!」

 

「している」

 

「嘘だろ!」

 

「顔に出ないだけだ」

 

「出せ!」

 

「うるさい」

 

 周囲の卒業生たちは笑いながら離れていった。

 

「御影先生、ありがとうございました!」

 

「また来ます!」

 

「ああ」

 

「先生、元気で!」

 

「お前らもな」

 

 やがて人が途切れ、その場には御影と奎星だけが残った。

 

「御影先生」

 

「何だ」

 

「卒業したよ!」

 

「そうか」

 

「そうかじゃないって!」

 

 奎星が笑う。

 

「何か言うことないの?」

 

「…………」

 

「ほら」

 

「何がだ」

 

「卒業生に!」

 

「さっき言った」

 

「俺には聞いてねえ!」

 

「証書を受け取ってただろう」

 

「それ校長!」

 

 御影はしばらく黙っていたが、やがて少しだけ息を吐いた。

 

「……おめでとう」

 

「…………」

 

 奎星の顔が、ゆっくりと明るくなる。

 

「へへ!」

 

「何だ」

 

「いや。聞きたかっただけ」

 

「面倒な奴だな」

 

「二年近く見てて今さら?」

 

「最初から知ってる」

 

 そのとき、少し離れた場所から声が飛んだ。

 

「写真お願いしまーす!」

 

「父さん!?」

 

 いつの間にか奎星の父がカメラを構えている。隣には母までいた。

 

「いいから並びなさい!」

 

「何で来てんの!?」

 

「撮るに決まってるでしょ!」

 

 奎星は笑いながら御影の横へ並び、距離を見てすぐに文句を言った。

 

「御影先生、もうちょいこっち!」

 

「何でお前が指示する」

 

「近い方がいいじゃん!」

 

「十分だ」

 

「先生!」

 

「分かった」

 

 御影が半歩だけ近づく。

 

 奎星が、にっと歯を見せた。

 

 ぱしゃり。

 

 撮られた写真の中で、奎星はもう御影より少し低いだけだった。

 

 最初に会った頃は、もっと遠かった気がする。身長の話ではない。御影の強さも、考え方も、背負ってきたものも、何もかもが自分には届かない場所にあるように思えた。

 

「先生」

 

「何だ」

 

「俺さ、最初エクスペリアームス見せられたとき」

 

「ああ」

 

「地味だと思った」

 

「知ってる」

 

「失礼じゃね?」

 

「お前が言ったんだろ」

 

「あ、そうだった」

 

 御影が呆れた顔をする。

 

 奎星は笑いながら、腰へ手をやった。そこにはずっと使ってきた神代榊がある。

 

「でも、あれが最初だったんだよな」

 

 武装解除。相手の手から、必要なものだけを奪う魔法。

 

 倒すためでも、殺すためでもない。ただ、止めるために使う力。

 

「俺、あの頃さ。強い魔法覚えたら強くなれると思ってた」

 

 測定用の水晶を壊すほどの魔力があった。人形を吹き飛ばした。友人を傷つけかけて、自分の魔法が初めて怖くなった。

 

 それでも御影は、最初からずっと同じことを教えていた。

 

「必要な分だけ使えって」

 

 御影は答えない。奎星は神代榊へ一度目を落としてから、続けた。

 

「相手を止めるなら、止めるだけ。杖を飛ばすなら、杖を飛ばすだけ。壊さなくていいもんまで壊すな」

 

「…………」

 

「今なら、ちょっと分かる」

 

「ちょっとか」

 

「まだ十九にもなってねえんだから許せよ!」

 

「年齢の問題じゃない」

 

「すぐそれ!」

 

 奎星は笑い、御影の口元もほんの僅かに緩んだ。

 

「それから、俺が勝手に全部自分のせいだって思ったとき」

 

 御影の目が僅かに変わる。

 

「責任と原因を混同するなって言っただろ」

 

「…………」

 

「あれ、多分すげえ大事だったんだな」

 

 常若の庭で出会った、篠宮伊吹。自分と似た力を持ち、できるから、強いからと背負い続けて、止まれなくなった人。

 

 奎星はあの男を思い出しながら言った。

 

「俺、先生みたいになりたいって最初に言ったじゃん」

 

「ああ」

 

「まだ思ってる」

 

「知ってる」

 

「でも」

 

 奎星は顔を上げ、にっと笑った。

 

「超えるから」

 

「…………」

 

「言っただろ。俺、御影先生よりすげえ禍祓官になるから」

 

 御影はしばらく奎星を見たあと、ほんの少し口元を上げた。

 

「まず研修を終えろ」

 

「今そこ!?」

 

「玄弥に三日で追い返されるな」

 

「絶対嫌だ!」

 

「法規も覚えろ」

 

「うっ」

 

「記録も書け」

 

「うっ」

 

「報告をしろ」

 

「うるせえ!」

 

「禍祓官の仕事だ」

 

「分かってるよ!」

 

「ならやれ」

 

「やる!」

 

 即答だった。

 

 御影の目が、僅かに細くなる。

 

「あと」

 

 奎星が言った。

 

「先生」

 

「何だ」

 

「ありがと」

 

「…………」

 

「マジで」

 

 照れくさそうに頭を掻き、それでも今度は誤魔化さずに御影を見る。

 

「御影先生が先生でよかった」

 

 春の風が二人のあいだを通り抜け、校庭の向こうから生徒たちの笑い声を運んできた。

 

 御影はしばらく何も言わなかった。

 

「……そうか」

 

「またそれ!」

 

「他に何を言え」

 

「もっとあるだろ!」

 

「ない」

 

「ひでえ!」

 

 奎星は笑って、一歩、二歩と後ろへ下がる。

 

「じゃ、そろそろ行くね!」

 

「ああ」

 

「四月から禍祓官!」

 

「まだ研修員だ」

 

「細けえ!」

 

「重要だ」

 

「また来る!」

 

「勝手にしろ」

 

「写真持ってくる!」

 

「いらん」

 

「研究室に飾れ!」

 

「捨てる」

 

「絶対持ってくる!」

 

 奎星が背を向け、今度こそ走り出そうとした。

 

「蓮根」

 

 足が止まる。

 

「ん?」

 

 振り返る。

 

 そこに御影玄一郎が立っていた。怖い顔も、左頬の深い傷も、大きな身体も、何一つ初めて会った日と変わらない。

 

 何度も追いかけた背中。

 

 初めて、追いつきたいと思った人。

 

 御影は珍しく、言葉を探すように僅かな間を置いた。

 

「……強くなったな」

 

「…………」

 

 奎星の表情が止まった。

 

 その一言が、真っ直ぐ胸の奥へ入ってくる。

 

 最初の魔法。初めての決闘。失敗。怪我。朝練。倒されて、立って、また倒された日々。

 

『遅い』

 

『立て』

 

『相手を見ろ』

 

『考えろ』

 

『必要な力だけ使え』

 

『お前の魔法は完璧だった』

 

『やってみろ』

 

 ばらばらだった時間が、今の一言へ繋がっていく。

 

 鼻の奥が熱くなった。

 

 泣きそうになった。

 

 だから奎星は、すぐに笑った。

 

「当たり前だろ!!」

 

 校庭中へ届きそうな声だった。

 

「誰に鍛えられたと思ってんだよ!!」

 

「…………」

 

「今度会ったら絶対勝つからな!!」

 

「やってみろ」

 

「おう!!」

 

 奎星は今度こそ走り出す。

 

「廊下じゃないから走っていい!!」

 

「誰も止めてない」

 

「じゃあな先生!!」

 

「ああ」

 

 その背中が人混みへ消えていくまで、御影は黙って見ていた。

 

 やがて深く息を吐く。

 

「……はあ」

 

「泣きそうになってた?」

 

「なってない」

 

 後ろから声がした。

 

 斎賀玄弥だった。

 

「絶対なってたじゃん」

 

「なってない」

 

「玄一郎」

 

 真壁までいる。

 

「そんな顔、初めて見たぞ」

 

「うるさい」

 

「卒業かぁ」

 

 斎賀が奎星の消えた方角を見る。

 

「二年で随分デカくなったな、あいつ」

 

「うるさい」

 

「それ俺に言うこと?」

 

「二人ともうるさい」

 

 真壁が少し笑った。

 

「いい生徒だったな」

 

「…………」

 

 御影は返事をしなかった。

 

 ただ、その口元はほんの少しだけ上がっていた。

 

     *

 

「スズメちゃん!」

 

 校庭の反対側で、烏丸スズメは何人かの卒業生と話していた。声を聞いた瞬間、すぐに振り返る。

 

「蓮根君」

 

「写真!」

 

「いきなりですね」

 

「卒業したから!」

 

「写真と卒業に何の関係があるのです?」

 

「卒業写真!」

 

「それなら分かります」

 

「撮ろう!」

 

「はい」

 

 二人が並ぶ。

 

「もっと近く!」

 

 どこか遠くから日向の声が飛んできた。

 

「お前どこにいんだよ!」

 

「撮影監督!」

 

「頼んでねえ!」

 

「烏丸先生、もっと奎星の方!」

 

「朝比奈君」

 

 スズメの声が一段冷たくなる。

 

「はい」

 

「黙ってください」

 

「はい」

 

 奎星が笑った。

 

「怒られてやんの」

 

「あなたもですよ」

 

「俺!?」

 

「動かないでください」

 

「はい」

 

 二人は正面を向く。

 

 春の光と、羊脂玉の校舎。

 

 ぱしゃり。

 

 奎星はすぐ写真を確認した。

 

「いいじゃん!」

 

「そうですね」

 

「スズメちゃん笑ってる」

 

「写真ですから」

 

「俺も!」

 

「知っています」

 

「へへ」

 

 奎星が嬉しそうに笑う。

 

「卒業したんだけど」

 

「はい」

 

 スズメも少し笑った。

 

「卒業おめでとうございます」

 

「へへ!」

 

「本当に」

 

 一拍置いて、今度はゆっくりと言う。

 

「おめでとうございます」

 

 奎星は、その声を少しだけ静かに聞いた。

 

「……ありがと」

 

 それから校舎の向こうへ目を向ける。

 

「スズメちゃん」

 

「はい」

 

「ちょっと行きたいところある」

 

 スズメの瞳が僅かに動いた。

 

「…………はい」

 

     *

 

 賑やかな校庭を離れ、二人は回廊を抜けて人の少ない道へ向かった。羊脂玉の校舎が背後へ遠ざかるにつれて、代わりに海の音が近くなる。

 

 やがて現れたのは、古い石造りの塔だった。

 

「…………」

 

 奎星が少し笑う。

 

「なんか、いっぱい来るね。ここ」

 

「あなたが連れてくるからでしょう」

 

「スズメちゃんこそ結構俺のこと連れてくるよ、ここに!」

 

「私ですか?」

 

「そうだよ!」

 

「最初に来たのはあなたでしょう」

 

「逃げてきただけじゃん」

 

「そうですね」

 

「そこ即答!?」

 

 二人で螺旋階段を上っていく。こつ、こつ、と二人分の靴音が石壁へ重なって返った。

 

 昔、この階段を一人で上ったことがある。

 

 日向を傷つけ、自分の魔法が怖くなった日だった。力などない方がいいのではないかと思い、誰にも見つかりたくなくて、ここまで逃げた。

 

 それでもスズメは見つけに来た。

 

『私も、失敗しました』

 

 そう言って、自分の傷を初めて話してくれた。

 

『一緒に探します』

 

 魔法の使い方も、自分の力との付き合い方も、一緒に探すと。

 

「最初ここ来たとき、俺めっちゃ落ち込んでたよな」

 

「ええ」

 

「日向ぶっ飛ばして」

 

「正確には、魔力増幅の影響も――」

 

「もう知ってるって」

 

 奎星が笑う。

 

「でも、あのときは知らなかった。怖かったんだよ。スズメちゃん来て、自分の失敗の話してくれてさ。一緒に探すって言ってくれた」

 

 スズメは前を向いたまま、ほんの少しだけ笑った。

 

「覚えているのですね」

 

「忘れるわけないじゃん」

 

 その言葉に、一瞬だけ別の時間が重なった。

 

 一度、本当に彼を忘れた人。

 

 スズメは何も言わず、また一段上った。

 

 やがて二人は最上部へ出た。

 

 春の空が広がり、その向こうには青い海と白い波がどこまでも続いている。古い石壁も、吹き抜ける潮風も、あの頃と変わらない。

 

 星迎祭の夜、ここには花火があった。遠くから音楽が聞こえ、二人で下手くそなダンスをした。互いに足を踏みそうになりながら笑って、それから、まったく同じ星灯石のキーホルダーを持っていたことを知った。

 

「そういや」

 

 奎星が制服の内側へ手を入れる。

 

 ちりん、と小さな音を立てて、銀色の星が現れた。

 

「まだ持ってる」

 

「知っています」

 

「スズメちゃんは?」

 

 スズメも教員衣の内側から同じ星を出した。

 

 春の陽射しの下では、夜のような淡い光は見えない。それでも、二つは今も同じ形をしていた。

 

「ずっと持ってた?」

 

「はい」

 

「へへ」

 

「何です?」

 

「別に」

 

 奎星は海へ向き直った。

 

「星迎祭んときもさ、俺、スズメちゃんに嫌われたと思ってたな」

 

「あなたが急に距離を置いたのでしょう」

 

「だって避けられてると思ったんだよ!」

 

「私も、どう接すればいいか分からなかったのです」

 

「やっぱ避けてたじゃん!」

 

「少しです」

 

「ほら!」

 

 スズメが小さく笑った。

 

「でも、話しました」

 

「うん」

 

 あの夜。

 

『私は、あなたを嫌ってなどいません』

 

『あなたは……私にとって、とても大切な人です』

 

『私から、離れないでください』

 

 あの言葉を聞いた夜、奎星は眠れなくなった。

 

「俺さ。あれ聞いて、めちゃくちゃ嬉しかったんだよ」

 

「……知っています」

 

「言ったっけ?」

 

「顔を見れば分かりました」

 

「じゃあ言わなくてよかった?」

 

「そういう意味ではありません」

 

「難しいな」

 

「今さらですか?」

 

「今さら」

 

 風が二人のあいだを抜ける。

 

 それから冬が来て、スズメは奎星だけを忘れた。

 

 名前も、顔も、二人で何をしたのかも、何を思ったのかも。

 

 全部が消えた。

 

 それでも、二人はもう一度この場所へ来た。

 

「記憶なくしたときも、スズメちゃん俺ここに連れてきたよな」

 

「はい」

 

「俺のこと知らないのに」

 

「日記に書いてありましたから」

 

「毎日俺のこと書いてたやつ」

 

「その言い方はやめてください」

 

「事実じゃん!」

 

「記録です」

 

「毎日?」

 

「…………」

 

「毎日?」

 

「記録です」

 

「毎日俺の記録?」

 

「蓮根君」

 

「はい」

 

「落としますよ」

 

「ごめんなさい」

 

 二人で笑う。

 

 記憶のなかったスズメは、昔の奎星を知らなかった。

 

 それでも目の前にいる彼と話し、怒り、笑い、手を握った。そしてもう一度、大切だと思うようになった。

 

「一回全部忘れたのにさ」

 

 奎星が少し得意そうな顔になる。

 

「また俺と仲良くなったんだよな」

 

「……以前も、それで威張っていましたね」

 

「人間関係の再現性」

 

「その言葉も覚えています」

 

「すげえじゃん俺」

 

「威張ることではありません」

 

「でもさ」

 

 奎星の声が少し静かになる。

 

「俺、嬉しかった」

 

 スズメが横を見る。

 

「覚えてたスズメちゃんも、忘れたスズメちゃんも、俺と一緒にいてくれたから」

 

「…………」

 

「だから、どっちもスズメちゃんなんだって分かった」

 

 記憶が戻った日、失ったはずの時間も、そのあと新しく作った時間も、どちらも消えなかった。

 

 観測塔、第零書庫、水月庵、八咫祭、星迎祭、常隠島。神代との戦い、列車の事故、記憶を失った冬、眞田、群馬、百五十年前の小萱、そして常若の庭。

 

 その全部が、今ここにいる二人へ繋がっている。

 

「……蓮根君」

 

「うん」

 

「ありがとうございます」

 

「何が?」

 

「全部です」

 

「でか」

 

「あなたが言わせたのでしょう」

 

「そうだけど」

 

 また二人で少し笑い、それからしばらく海を眺めた。

 

 青い海のずっと向こうには東京がある。

 

 霞が関。魔法省。

 

 四月から、奎星が働く場所だった。

 

「これからさ」

 

「はい」

 

「会う機会、減っちゃうね」

 

 スズメはすぐには答えなかった。

 

「スズメちゃんは南硫黄島で、俺は霞が関。研修終わったら、どこ配属かまだ分かんないし」

 

「そうですね」

 

「今まではさ、朝飯行ったらいたじゃん」

 

「教師席に」

 

「授業でも」

 

「はい」

 

「補習でも」

 

「はい」

 

「研究室行ったら、だいたいいたし」

 

「あなたが勝手に来ていたのですが」

 

「俺の定位置」

 

「違います」

 

「まだ言う?」

 

「もう卒業したので、定位置ではありません」

 

「…………」

 

 奎星が少しだけ寂しそうな顔をした。

 

 それを見たスズメは、小さく息を吐く。

 

「ですが」

 

「ん?」

 

「来てはいけないとは言っていません。卒業生が訪ねてくることまで禁止する規則はありませんから」

 

 奎星の顔がぱっと明るくなる。

 

「じゃあ来る!」

 

「仕事はしてください」

 

「するよ!」

 

「毎週は来ないでください」

 

「まだ頻度言ってねえ!」

 

「あなたなら言いそうなので」

 

「月二!」

 

「多いです」

 

「月一!」

 

「仕事次第でしょう」

 

「じゃあスズメちゃんが東京来てよ!」

 

「研究や魔法省の用務で行くことはあります」

 

「連絡して!」

 

「はい」

 

「絶対!」

 

「はい」

 

「一回!」

 

「返事は一度です」

 

「……それも、ずっと言われたな」

 

「最後まで直りませんでしたね」

 

「卒業したからもう直さなくていい!」

 

「社会人として直してください」

 

「逃げ道塞がれた」

 

 二人のあいだに、また静かな時間が戻る。

 

 波の音。風の匂い。春の陽射し。

 

 奎星はポケットの中で、そっと手を握った。

 

 何度も言おうとした言葉がある。

 

 一度だけ、本人のいない場所で言ったことはあった。神代冥司に精神の中で問われたとき、一秒も迷わず答えた。

 

『愛してる』

 

 けれど奎星自身は、あのときスズメがその言葉を聞いていたことを知らない。

 

 本人には、まだ言っていない。

 

 いつか好きな人ができたら、ちゃんと本人に言う。

 

 そう自分で言った。

 

 スズメは、その言葉も覚えていた。

 

『楽しみにしています』

 

 夏の空を渡るウミツバメの上で、そう返した。

 

 教師と生徒のままでは答えない。

 

 待つと決めた。

 

 そして今日、奎星は卒業した。

 

「……卒業、したんだ」

 

 奎星がぽつりと言う。

 

 スズメは何も答えなかった。

 

「俺ね」

 

 声が少し硬い。

 

 奎星は一度、大きく息を吸った。

 

 神代冥司と戦ったときよりも。御影へ杖を向けたときよりも。禍祓官試験の結果を開くときよりも。

 

 緊張していた。

 

 指先が、僅かに震えている。

 

「俺」

 

 スズメは何も言わず、静かに待っていた。

 

 奎星は彼女を見る。

 

 顎の辺りで揃った黒い髪。黒い瞳。初めて会った夜と同じ顔。

 

 けれど、もう知らない人ではない。

 

「スズメちゃんのこと」

 

 一度、喉が鳴った。

 

「好きだよ」

 

 風が止まったように感じた。

 

 スズメは何も言わない。

 

 数秒が過ぎるにつれて、奎星の表情へ少しずつ不安が混じり始める。

 

「あ、いや――」

 

「……私も」

 

「え?」

 

 スズメは真っ直ぐ奎星を見た。

 

 もう、教師が生徒へ向ける言葉ではない。

 

「私も」

 

 一拍。

 

「蓮根君のことが、好きです」

 

「…………」

 

 奎星の口がゆっくり開いた。

 

「……マジ?」

 

 スズメが少しだけ笑う。

 

「マジです」

 

「…………」

 

 一秒。

 

 二秒。

 

 三秒。

 

「スズメちゃん!!」

 

「ちょっと――」

 

 次の瞬間、奎星が抱き締めた。

 

「スズメちゃーん!!」

 

「蓮根君、苦し――」

 

「うわあああああ!!」

 

「ちょっと!」

 

「マジ!?」

 

「マジです!」

 

「好き!?」

 

「言ったでしょう!」

 

「俺のこと!?」

 

「他に誰がいるのです!」

 

「っしゃあああああああ!!」

 

「耳元で叫ばないでください!」

 

 それでも奎星は離れない。

 

 スズメも最初は驚いたように両腕を浮かせていたが、やがて諦めたように息を吐き、ゆっくり奎星の背中へ手を回した。

 

 その瞬間、奎星の腕へさらに力が入る。

 

「スズメちゃーん!」

 

「もう……」

 

 スズメが笑った。

 

 泣きそうで、それでも嬉しそうな顔だった。

 

「『烏丸先生です』とは」

 

 少し間を置く。

 

「言えませんね」

 

「…………!」

 

 奎星が勢いよく身体を離し、スズメの顔を見る。

 

「じゃあ」

 

「はい」

 

「スズメちゃんでいい!?」

 

「今さらでしょう」

 

「やったあああ!」

 

「声」

 

「大好き!」

 

「…………」

 

「大好き大好き!!」

 

 スズメの頬が一気に赤くなる。

 

 それでも今度は、目を逸らさなかった。

 

「……私も」

 

「ん?」

 

 小さい。

 

 けれど、はっきりした声だった。

 

「大好きですよ」

 

「…………」

 

 奎星が完全に止まった。

 

「…………マジ?」

 

「二回目です」

 

「もう一回言って!」

 

「嫌です」

 

「何で!?」

 

 そのとき。

 

 ぱしゃり。

 

「…………」

 

「…………」

 

 二人が同時に固まった。

 

 少し離れた螺旋階段の入口から、押し殺した声が聞こえる。

 

「おい馬鹿!」

 

「シャッター音切り忘れてた!」

 

 奎星の眉がゆっくり上がる。

 

「誰だ!?」

 

 ばっと振り返った。

 

 そこには、日向、楓、岳、伊織、侑李。

 

 五人そろって固まっていた。

 

「…………」

 

 特にスズメは、耳まで真っ赤になっている。

 

「お、お前らなぁ!!」

 

 奎星が叫んだ。

 

「なーに言ってんだ!!」

 

 日向も負けじと叫び返す。

 

「俺らずっと待ってたんだぞ!!」

 

「何をだよ!!」

 

「お前らがくっつくのをだよ!!」

 

「はあ!?」

 

 楓が深く、深く息を吐いた。

 

「本当に……」

 

 スズメへ少し申し訳なさそうに頭を下げ、それでも笑っている。

 

「本当に、ずっと長かったです」

 

「水無瀬さんまで……」

 

「すみません」

 

 伊織はいつも通りの顔で言った。

 

「僕、もう付き合ってるのかと思ってた」

 

「ちょっと待てやァ!!」

 

「違ったんだ」

 

「違うわ!」

 

「昨日まで教師と生徒だったしね」

 

「分かってんなら言うな!」

 

「親友!」

 

 侑李はなぜか感動していた。

 

「よかったね!」

 

「お前は何で泣きそうなんだよ!」

 

「だって親友の恋が!」

 

「うるせえ!」

 

 スズメは両手で顔を覆いかけている。

 

「……皆さん」

 

「すみません烏丸先生!」

 

 楓は今度こそ本気で謝った。

 

「止めたんですけど」

 

「嘘つけ!」

 

 奎星が指を差す。

 

「お前今写真見てたじゃん!」

 

「証拠保全」

 

「何の!?」

 

 日向が笑いながらスマートフォンをしまう。

 

「いやー」

 

「日向」

 

「何だよ」

 

 奎星の目が細くなる。

 

「…………」

 

「何だよ、その顔」

 

「そういやさ」

 

「何」

 

 奎星の口元が、にやあ、と上がった。

 

「日向!!」

 

「何だよ!」

 

「てめえもそろそろ言わなきゃいけねえんじゃねえの!?」

 

「…………」

 

 日向が止まる。

 

 楓も止まった。

 

「……え?」

 

 さっきまでの騒がしさが、一瞬で違うものへ変わる。

 

「お」

 

 伊織が岳の袖を引いた。

 

「こっち」

 

「何で」

 

「邪魔だから」

 

「飯」

 

「あとで」

 

「腹減った」

 

「三分」

 

「長い」

 

「耐えて」

 

 二人は奎星たちの方へ移動した。

 

 侑李も首を傾げる。

 

「え、何?」

 

「こっち来て」

 

「何が始まるの?」

 

「見てれば分かる」

 

 スズメもまだ顔を赤くしたまま、奎星の隣へ立った。

 

「日向」

 

 奎星がにやにやする。

 

「うるせえ」

 

「何も言ってねえよ」

 

「顔がうるせえ!」

 

 朝比奈日向は、耳まで真っ赤になっていた。さっきまで奎星を散々からかっていた男とは思えないほど、露骨に緊張している。

 

 水無瀬楓を見る。

 

 楓も、もう何が起きようとしているのか分かっていた。

 

「……日向」

 

「…………」

 

「何?」

 

「…………」

 

「ちょっと」

 

「楓」

 

 日向が呼ぶ。

 

「……何よ」

 

「俺」

 

「うん」

 

 十二年。

 

 六歳からずっと一緒だった。

 

 喧嘩して、笑って、同じ授業を受けて、同じ学校で育った。奎星がこの場所へ来るより、ずっと前から。

 

 日向の拳が強く握られる。

 

「楓」

 

「だから何よ!」

 

 日向は大きく息を吸った。

 

「楓、大好きだ!!」

 

「…………!」

 

「ずっと昔から!!」

 

 声が観測塔いっぱいに響いた。

 

「大好きだ!!」

 

「も、もう!」

 

 楓の顔も一気に赤くなる。

 

「いきなり!」

 

「今言えって言われたから!」

 

「人のせいにすんな!」

 

 奎星が叫ぶ。

 

「黙れお前!」

 

「続けろ!」

 

「見るな!」

 

「無理!」

 

 日向はもう奎星を見なかった。

 

 楓だけを見る。

 

「俺、プロになって」

 

「……うん」

 

「東京じゃなくなるかもしんねえし」

 

「うん」

 

「遠征もあるし」

 

「……うん」

 

「今までみたいに毎日会えるわけじゃねえけど」

 

 楓の目が僅かに揺れる。

 

「でも」

 

 日向が一歩近づいた。

 

「ずっと好きだった」

 

「…………」

 

「だから、楓」

 

 そのまま抱き締めた。

 

「っ――!」

 

「大好きだ!」

 

「もう……!」

 

 楓の両腕が一瞬宙で止まり、それから、ゆっくり日向の背中へ回った。

 

「…………」

 

「楓?」

 

「……言うのが」

 

「え?」

 

「言うのが遅いのよ!!」

 

「…………」

 

 日向の目が大きくなる。

 

「それって」

 

「知らない!」

 

「え!?」

 

「自分で考えなさい!」

 

「好き!?」

 

「うるさい!」

 

「俺のこと!?」

 

「うるさいって言ってるでしょ!!」

 

「それ答えじゃん!」

 

「うるさい!!」

 

「うおおおおおおお!!」

 

「叫ぶな!!」

 

 今度は日向が大騒ぎしていた。

 

 奎星はにやにやしながら、隣にいるスズメへ顔を寄せる。

 

「俺らもあんな感じだったんだ」

 

 小声で囁いた。

 

 スズメの目がゆっくり奎星へ向く。

 

「…………」

 

 ぱしっ。

 

「いた〜!」

 

「何を言っているのです」

 

「だって今!」

 

「一緒にしないでください」

 

「俺も抱きついたじゃん!」

 

「言わなくていいです!」

 

「照れてる?」

 

「蓮根君」

 

「はい」

 

「黙ってください」

 

「卒業したから命令効かない」

 

 ぱしっ。

 

「痛い!」

 

「今のは教師としてではありません」

 

「じゃあ何!?」

 

「知りません!」

 

「スズメちゃーん!」

 

 その横で、楓はまだ日向に抱き締められていた。

 

「……離しなさいよ」

 

「嫌」

 

「暑い」

 

「あと一分」

 

「長い!」

 

「十二年待ったんだぞ!」

 

「私も――」

 

 楓が止まった。

 

 日向も止まる。

 

「今何て?」

 

「何も言ってない!」

 

「言ったよな!?」

 

「言ってない!」

 

「『私も』って!」

 

「言ってない!」

 

「言った!!」

 

 奎星がとうとう我慢できなくなった。

 

「マッジでそう!!」

 

「何がだよ!」

 

「星帰りの前夜だって、いい感じだったのによ!!」

 

「…………」

 

「…………」

 

 日向と楓が同時に奎星を見る。

 

「え?」

 

「ほら!」

 

 奎星が二人を指差した。

 

「常隠島!」

 

「お前――」

 

「夜の浜辺!」

 

「待て」

 

「手握って!」

 

「待て待て待て!」

 

「日向が『絶対に俺が守る』とか言って!」

 

「うわあああああああ!!」

 

「楓が日向の肩に頭乗せて!!」

 

「奎星ぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 日向の顔が爆発したように赤くなる。

 

「な、なんで知ってんだよ!?」

 

「見てたから!」

 

「はあああああ!?」

 

 楓は額を押さえた。

 

「見られてたらしいわ」

 

「知ってたの!?」

 

「後で聞いたのよ」

 

「誰に!?」

 

 楓の視線がゆっくり奎星へ向く。

 

「…………」

 

 奎星がニヤニヤしながらピースした。

 

「うわああああああ!!」

 

 日向が頭を抱える。

 

「十二年越しの告白の黒歴史全部見られてんじゃん!!」

 

「黒歴史って言うな!」

 

 楓が怒鳴った。

 

「いい思い出でしょうが!」

 

「楓!?」

 

「あ」

 

「今の聞いた!」

 

「うるさい!!」

 

「好きってこと!?」

 

「うるさい!」

 

「俺日本代表になる!」

 

「今関係ない!」

 

「嬉しい!」

 

「分かったから離しなさい!!」

 

「嫌!」

 

「朝比奈君」

 

 スズメが静かに言った。

 

「水無瀬さんが困っています」

 

「すみません!」

 

 日向は反射的に離れた。

 

「先生強ぇ……」

 

 奎星が感心したように呟く。

 

「お前もさっき従ってたろ」

 

「俺は違う」

 

「何が」

 

「愛」

 

「何言ってんだこいつ」

 

 伊織が冷たい目で見た。

 

「さっきまで感動してたのに!」

 

「もう十分」

 

 そのとき、岳がぽつりと言った。

 

「飯」

 

「…………」

 

 全員が岳を見る。

 

「早く飯食いに行こう」

 

「お前さぁ!」

 

 日向が笑った。

 

「今めちゃくちゃいいとこだっただろ!」

 

「腹減った」

 

「ずっとそれじゃん!」

 

「卒業式長かった」

 

「言ってたわね」

 

 楓もとうとう笑い、奎星も、伊織も、侑李もつられて笑った。

 

「じゃあ行こう」

 

「僕もお腹空いた」

 

「お前らさぁ!」

 

「飯!」

 

 奎星が拳を上げる。

 

「卒業祝い!」

 

「うお!」

 

 日向も拳を突き上げた。

 

「何食う!?」

 

「いっぱい」

 

 岳が答える。

 

「具体性ゼロ!」

 

「小妖たち何か用意してるんじゃない?」

 

 楓が言った途端、奎星の顔が輝いた。

 

「マジ!?」

 

「天ぷら!」

 

「ケーキあるかな!」

 

「たぶん」

 

「行くぞ!」

 

「走るな!」

 

「誰が止めんだよ!」

 

「私よ!」

 

「楓もう卒業生!」

 

「関係ない!」

 

「親友、待って!」

 

「来い侑李!」

 

「今初めて自分から呼んだ!」

 

「そこ感動すんな!」

 

 全員が螺旋階段へ向かう。

 

 奎星も数歩進んだところで、ふと振り返った。

 

「あ」

 

 スズメが、まだ観測塔の中央に立っている。

 

「スズメちゃん!」

 

「はい」

 

「行こう!」

 

「……私もですか?」

 

「当たり前じゃん!」

 

「卒業生の集まりでしょう」

 

「先生じゃないんだろ?」

 

「…………」

 

「さっき」

 

 奎星が、にっと笑う。

 

「もう『烏丸先生です』とは言えないって言ったじゃん」

 

「そういう意味ではありません!」

 

「行こうぜ!」

 

「話を聞いてください!」

 

 そう言いながらも、スズメは歩き出した。

 

 奎星の隣へ。

 

     *

 

 螺旋階段を下りていく。

 

 先頭では、日向と楓がもういつもの調子で言い合っていた。

 

「だから俺、ずっと好きだったんだって!」

 

「声が大きい!」

 

「六歳から!」

 

「そこまで!?」

 

「多分!」

 

「多分なの!?」

 

「覚えてねえよ!」

 

「じゃあ言うな!」

 

 少し後ろでは岳がまた、

 

「飯」

 

 と呟き、伊織が呆れたように返す。

 

「もう分かったよ」

 

「旅行、どこ行く?」

 

 侑李が急に訊いた。

 

「今?」

 

「卒業したから」

 

「それは今決めることじゃない」

 

「しおり作るね」

 

「やめて」

 

 笑い声が、古い石造りの塔へ何度も反響する。

 

 奎星とスズメは最後尾を、並んでゆっくり歩いていた。

 

 さっき、好きだと言った。

 

 好きだと返された。

 

 それなのに、話すことも、隣を歩く距離も、昨日までとそれほど変わらない気がした。

 

「スズメちゃん」

 

「何です?」

 

「手」

 

「……何です?」

 

「繋ぐ?」

 

「…………」

 

「嫌?」

 

「嫌とは言っていません」

 

「じゃ」

 

 奎星が手を差し出す。

 

 スズメは少しだけ、その手を見た。

 

 昔、怖くて震えていた手。

 

 常隠島では、自分から握った。

 

 記憶を失った冬も、もう一度握った。

 

 眞田と戦う前には、『信じなくていい。俺を見てて』と言って触れてきた。

 

 手そのものが大きくなったわけではない。

 

 けれど、そこへ積み重なった時間は、あの頃よりずっと多い。

 

 スズメは、その手を取った。

 

「へへ」

 

「何です?」

 

「何でもない」

 

「そうですか」

 

「うん」

 

 二人は手を繋いだまま、塔を下りていった。

 

     *

 

 外へ出ると、校庭からまた鐘の音が聞こえた。

 

 春の風。青い海。光を返す羊脂玉の校舎。

 

 奎星はそこで一度立ち止まり、学校を見上げた。

 

 初めて来た日、何も知らなかった。

 

 魔法も、魔法省も、禍祓官も、守護霊も、霊脈も知らなかった。ここで出会う友達も、先生も、自分がどんな魔法使いになるのかも。

 

 ただの高校生だった。

 

 進路希望へ「海賊」と書き、何になるのかも、何をしたいのかも、ろくに考えていなかった。

 

 そこへ一羽の鴉が来た。

 

 烏丸スズメが来た。

 

 魔法を知り、御影玄一郎に出会い、日向、楓、岳、伊織、侑李と出会った。そして、もっとたくさんの人たちと関わった。

 

 魔法を間違えた。人を傷つけた。怖くなって逃げた。それでも戻った。

 

 負けた。

 

 勝った。

 

 死にかけた。

 

 泣いた。

 

 笑った。

 

 学校を失い、取り戻した。記憶を失った人と、もう一度関係を作った。百五十年前へ行き、先祖に会い、未来を奪おうとした人と戦った。

 

 そして今日、卒業した。

 

 好きな人へ、自分の言葉で好きだと言えた。

 

「奎星ー!」

 

 遠くから日向が叫ぶ。

 

「早くしろー!」

 

「飯なくなる!」

 

 岳まで珍しく声を張る。

 

「岳が全部食べるわよ!」

 

 楓が笑った。

 

「僕たちは先に行くよ」

 

 伊織も手を上げる。

 

「親友ー!」

 

 侑李の声が続く。

 

「その呼び方やめろ!」

 

 奎星が笑いながら叫び返した。

 

「蓮根君」

 

 隣からスズメの声。

 

「はいはい」

 

「返事は一度です」

 

「卒業したって!」

 

「社会人でも同じです」

 

「じゃあ一回!」

 

「何がです?」

 

「好きって言って!」

 

「嫌です」

 

「さっき言ったじゃん!」

 

「一回で十分です」

 

「俺は何回でも言うよ!」

 

「知っています」

 

「好き!」

 

「声が大きいです」

 

「大好き!」

 

「聞こえています!」

 

「スズメちゃーん!」

 

「もう!」

 

 笑い声が、また校庭へ響く。

 

 大講堂の前では、御影がその声に気づいて遠くを見る。真壁も、斎賀も、九重院も、高宮も、早瀬も、土御門も、薬師寺も、藤森も、鷹司も。

 

 生徒たちも、家族も、小妖たちも、それぞれの場所から卒業生を見送っていた。

 

 ここを出れば、同じ毎日はもう来ない。

 

 四月になれば、奎星は霞が関へ行き、禍祓官になるための最初の仕事を始める。

 

 日向は箒へ乗り、日本一のチームへ向かう。

 

 ほかの皆も、それぞれ別の場所へ進んでいく。

 

 毎朝、同じ机へ全員が揃うことは、もう当たり前ではなくなる。

 

 けれど、それは失うことではない。

 

 また飯を食えばいい。

 

 旅行へ行けばいい。

 

 仕事が終わったら連絡すればいい。

 

 困ったら帰ってくればいい。

 

 会いたいなら、会いに行けばいい。

 

 未来はきっと、そうやって続いていく。

 

「奎星!」

 

「早く!」

 

「おう!!」

 

 奎星は繋いでいた手を一度、少しだけ強く握った。

 

 スズメも握り返す。

 

 それから二人で皆の方へ歩き出し――途中で奎星だけが我慢できなくなった。

 

「飯ぃぃぃぃぃ!!」

 

「ちょっと!」

 

「岳に食われる!」

 

「走らないでください!」

 

「校庭だからいいじゃん!」

 

「人が多いでしょう!」

 

「奎星!」

 

「前!」

 

「うわっ!」

 

「危ない!」

 

「ははははは!」

 

「笑うな日向!」

 

「お前最後までそれかよ!」

 

 奎星が前を向いたまま笑った。

 

「最後じゃねえよ!」

 

 そして、大きな声で叫ぶ。

 

「これからだろ!!」

 

 春の風が南硫黄島を抜けていく。

 

 羊脂玉の校舎が柔らかな光を返し、海の向こうには、まだ知らない場所が広がっている。

 

 まだ知らない仕事がある。

 

 まだ会っていない人がいる。

 

 失敗も、後悔も、別れも、きっと待っている。

 

 それでも、行きたい場所がある。

 

 やりたいことがある。

 

 会いたい人がいる。

 

 だから、先へ行く。

 

 六歳から十二年をこの学校で過ごした者も、十七歳の春に突然魔法を知り、二年足らずでそこへ追いついた者も、今日、同じ門を出ていく。

 

 蓮根奎星は、もうマホウトコロの生徒ではない。

 

 けれど、この場所で過ごした時間までなくなるわけではない。

 

 魔法を知った日。

 

 友達ができた日。

 

 追いつきたい背中を見つけた日。

 

 好きな人と、初めて出会った日。

 

 そのすべてを持って、彼は未来へ行く。

 

「待てってぇぇぇぇ!!」

 

「遅い!」

 

「岳! 俺の分残せよ!」

 

「早い者勝ち」

 

「卒業祝いだぞ!?」

 

「それとこれとは別」

 

「伊織ぃ!」

 

「僕に言われても」

 

「楓!」

 

「自分で取りなさい!」

 

「日向!」

 

「俺も食う!」

 

「侑李!」

 

「僕取っとく!」

 

「親友!!」

 

「やっと認めた!」

 

「そこじゃねえ! 飯!!」

 

 笑い声が、春の校庭を遠ざかっていく。

 

 その少し後ろを、スズメが小さく笑いながら追いかけた。

 

 春の空。

 

 青い海。

 

 白い校舎。

 

 国立魔法学校マホウトコロ。

 

 ここでの物語は、今日、一つの終わりを迎えた。

 

 けれど、その先にも道は続いている。

 

 明日も。

 

 その次の日も。

 

 彼らが歩いていく限り。

 

 

マホウトコロ 完




これにて『マホウトコロ』完結です!
ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございました!

日本にも魔法学校があるならそこにもハリー・ポッターみたいなストーリーがあってもいいじゃん!と思って書き始めたのがこの作品の始まりでした。
小説を書くのは初めてで試行錯誤しながら書いてきましたが、私の書きたいことは全て出せました!

学校へ行って、友達と馬鹿なことをして、先生に怒られて、失敗に悩み、成功に浮かれ、将来に悩んだりする。
そのときはずっと続いていくように思えたのに振り返れば一瞬で終わってしまう。

魔法学校や事件はあくまで舞台であって、私が描きたかったのはそういう普遍的な帰ってこない青春だったのだと今になって思います。

奎星たちは確かに普通の学校生活とは少し違う学生生活を過ごしました。魔法を使い、命を懸けて戦い、ときに時代を越えて。
それでも笑ったり、喧嘩したり、先生に怒られたり、友達とご飯を食べたりする時間はきっと自分たちの学生時代とどこか似たものだったんじゃないかと思います。

もし読んでいる方の中に、奎星たちと同じような高校生だったり、まさに学生生活真っ只中にいる方がいたら。
今は何でもないように思える毎日も、いつか振り返れば二度と戻れない時間になっているのかもしれません。友達と教室で無駄話したり、先生にガチ説教されたり、へこむような大ミスをしたり、好きな子と話せて浮かれたり、その全部が懐かしくなる日が来ると思います。
だからといって毎日を特別だと思って過ごす必要はありません。奎星みたいに失敗したり寄り道したり、適当に笑って過ごしてもらえたらな、と思います。

そして学生時代を終えた方には、この作品を読んでいる間だけでも、自分にも確かにあったあの頃を思い出してもらえたら嬉しいです。

マホウトコロの物語はここまでです。
けれど奎星たちの物語はこれからも続いていきます。今までより集まる機会は減るだろうし、みんな成長していって変わっていくでしょう。けれどみんなで過ごした青春だけはずっと変わらず心の中にあり続けます。


なっがい話になりましたが最終話まで読んでくれて本当に嬉しいです!
もし皆さんの中に好きなキャラクターや忘れられない場面、読んでて一番面白かったシーズンとかがあれば感想で教えてくれたら嬉しいです!

本当にありがとうございました!
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