超かぐや姫!& ウルトラマンオメガ 〜八千年の孤独を照らす光〜   作:ひみつ

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2話『真紅の戦士と縄文の長』

 

『大きく……なっちゃった……』

 

目の前に聳え立つ真紅の背中を見上げ、かぐやは息をのんだ。あの優しい青年――ソラトの正体が、この光の巨人だったのだ。

 

『ソラトが……さっきの巨人だったんだ』

 

かぐやが見守る中、オメガはゲードスと相対し、オメガスコープで瞬時に敵の能力と生体データを分析する。

両者が沈黙の中で間合いを測る中、ゲードスが苛立ちを露わにして巨尾で波打ち際を激しく叩きつけた。それを合図に、戦火が切って落とされる。

 

咆哮を上げ、暴れ狂うゲードスの猛攻。だがオメガは冷静だった。巨躯から繰り出される攻撃を紙一重で回避し、時にはいなし、相手の癖を見極める。

鋭い爪による引っ掻き動作を見切ると、懐へ踏み込み、カウンターの拳をその太い腹へと叩き込んだ。

 

苦悶に揺らぐゲードスは、口から超高圧の水流を噴射する。オメガはそれを前転で潜り抜けると、勢いそのままに強烈な飛び蹴りを叩き叩き込んだ。

追撃とばかりに襲い来る尻尾の殴打を両手で受け止め、軸足を払って容易く薙ぎ倒す。巨体が浜辺へ打ち上げられ、まるで陸に上がった巨大な魚のように狂おしく跳ねた。

 

怪獣とて意志ある生物だ。痛みを知り、恐怖を覚えれば戦意を失う。無用な殺生は好まないオメガは、それ以上の追撃を止め、退却を促すように距離を取った。

 

だが、怒りに自我を失ったゲードスは諦めない。額から伸びる伸縮自在の触覚を、鞭のようにしならせてオメガの全身へ巻き付けたのだ。

 

――バチバチバチッ!

 

触角から強烈な高圧電流が放たれる。本来、深海で獲物を痺れさせて狩るための、外敵排除の奥の手。

 

「ぐっ……つあぁぁっ!」

 

激しい放電に叩かれ、膝を突くオメガ。視線がかすむ中、ふと横を見れば、岩陰から必死に自分を心配そうに見つめる小さなウミウシ――かぐやの姿が映った。

 

(あいつに……心配させるわけにはいかない……!)

 

オメガは全身の力で立ち上がると、頭部の『オメガスラッガー』を手元へと呼び寄せ、投擲。真紅の光軌が空を裂き、体に巻き付いていた触角を一閃のもとに切断した。

 

自慢の触角を失ったゲードスは、痛みにのたうち回り、慌てふためく。オメガは巻き付いていた残骸を投げ捨てると、怯えて後ずさるゲードスの足元へ、手から放った光弾を撃ち込んだ。

 

――ドンッ!

 

砂浜が爆ぜる。これ以上暴れるなら容赦はしないという、絶対的な警告。

その意思を察したゲードスは、完全に戦意を喪失し、悲鳴を上げながらほうほうの体で海へと飛び込んだ。波の破片を残し、その姿は深海の底へと完全に消えていく。

 

「もう暴れるなよ……」

 

静けさを取り戻した海を見つめ、オメガはひとつ吐息をついた。

 

「さてと……」

 

オメガは視線を再び海へと向け、オメガスコープを走らせる。

ゲードス暴れ回った影響で流されていないか懸念されたが、幸いにも反応は波打ち際のすぐ近くにあった。

 

オメガがそっと手をかざすと、超能力の光が海面を包み込む。海中から浮き上がってきたのは、電波の発信源――かぐやが乗ってきた宇宙船『もと光る竹』だった。

 

宇宙船とは名ばかりの、人間が両手で抱えられるほどの小さな竹型の筐体。オメガはそれを壊さぬよう、慎重に浜辺の砂の上へと下ろした。

 

岩陰から、小さな身体でトコトコと駆け寄ってくるかぐや。

巨人の身体が温かな光となって弾け、その粒子の中から、元の青年の姿をしたオオキダソラトが姿を現す。

 

戦いを終えたソラトは、まだ興奮冷めやらぬかぐやへ、いつもの優しい微笑みを向けたのだった。

 

しかし次の瞬間、ホッとしたのも束の間――ソラトの視界がぐにゃりと歪んだ。

脚から一気に力が抜け、身体がぐらりと大きく揺れる。ソラトはそのまま抗うこともできず、浜辺に下ろした『もと光る竹』のすぐ横へ崩れ落ちた。

 

『ソラト……!? ソラトっ!』

 

慌てたかぐやが、小さな身体で必死に駆け寄ってくる。

さっきの戦いで怪我でも負ってしまったのだろうか。不安に押し潰されそうになりながら顔を覗き込むかぐやに対し、砂に顔を埋めたソラトは絶え絶えの声を漏らした。

 

「は、腹が……へっ……た……」

 

――ぐううぅぅぅぅ〜〜〜〜っ!!

 

直後、静かな浜辺に響き渡ったのは、先ほどのゲードスにも負けないほどの豪快な大咆哮。ソラトの腹の虫の鳴き声だった。

 

『……へ?』

 

絶体絶命の重傷を覚悟していたかぐやの口から、思い切り素っ頓狂な声が漏れ出る。

 

無理もない。異世界、それも遥か昔の大昔、縄文時代に飛ばされてからというもの、デマーガ、そしてゲードスと飲まず食わずの連続戦闘。体力の限界も、空腹の限界もとうに超えていたのだ。

 

盛大にお腹を鳴らして倒れ伏すソラト。

 

『ちょっと! しっかりしてソラト!』

 

頭上で響くかぐやの焦った声を遠くに聞きながら、ソラトはそのまま気持ちよく意識を手放したのだった。

 

♢♢♢

 

「……ん……う……魚の焼ける匂い……?」

 

香ばしい匂いに鼻腔をくすぐられ、ソラトはゆっくりと瞼を開けた。

身を起こすと、そこは草や土で屋根が葺かれた素朴な住居の中だった。

 

すぐ隣には、目覚めたソラトを嬉しそうに見つめる小さなウミウシ――かぐやの姿がある。だが、今のソラトの瞳に何よりも色濃く映ったのは、目の前に並べられた料理だった。

 

ソラトは目の色を変え、ガタッと身を乗り出す。

 

『ちょっと! かぐやよりご飯なの!?』

「ん、悪い悪い……! 腹減ってて、つい……」

『もう……』

 

ソラトは照れくさそうに頭を掻き、改めて眼下の食事に視線を落とした。

床の葉の上に並べられているのは、直火で炙っただけの小魚、ドングリやクルミといった堅果類。色彩豊かで美味しそうなご馳走……とは、お世辞にも言えない品々だ。

 

「……箸はないか」

 

ここは八千年前の縄文時代。食事を箸で食べる文化も無ければ、スプーンもナイフもない。基本は手掴みだ。

本当に遥か過去の地球に来てしまったのだと実感しつつも、腹の虫が限界を訴える。空腹には勝てず、ソラトは小魚を摘まんで口へ放り込んだ。

 

「……味が、薄い……」

『調味料なんてないからね……あるのは海水くらいの塩味だよ』

 

現代の濃い味付けに慣れ親しんだ舌にはあまりに素朴すぎた。ソラトはなんとも言えない微妙な表情を浮かべる。

 

「食うしか……ないか」

 

物足りなさを感じつつも、ソラトは空腹を満たすためにもぐもぐと食べ進める。ふと、隣でじっと自分を見つめるかぐやへ視線を向けた。

 

「かぐやは食べないのか? あんまり美味しくはないけどな」

『……かぐやはね、食べられないんだ』

「そう……なのか?」

『うん。このウミウシの体は借り物みたいなもので……かぐやの本体は『もと光る竹』の中にあるから』

 

ソラトの食べる手が止まる。

自分だけが食事をしていることへの気まずさと申し訳なさが胸を刺した。そんなソラトの葛藤を察したかぐやは、ウミウシの身体をぴょこんと揺らして笑い飛ばす。

 

『かぐやのことは気にしないで! ソラトはしっかり食べてよ! 食べなきゃ大きくなれないでしょ? またで〜っかい怪物が来たら、守ってもらうんだから!』

「……おう。そうだな!」

 

かぐやの優しさに救われ、ソラトが笑みを返したその時だった。

 

入口にかかる草のカーテンを押し開けて、一人の若い女性が入ってきた。ソラトと同年代か、少し若いくらいの女性だ。

だがそれ以上に、その女性の「顔立ち」を見たソラトは目を見開いた。

 

「えっ……サユキ!?」

「さゆき……? 私はキサラと申します」

 

キサラと名乗った女性は、ソラトが元の世界で共に戦った特捜チーム『怪特隊』の仲間――サユキと瓜二つだったのだ。あまりのそっくり具合に、ソラトは危うく食べかけのクルミを喉に詰まらせそうになる。

 

「なんだ……驚いた。ここにサユキがいるはずないもんな。俺の知ってるサユキより若いし……」

『キサラさんはね、この集落の長(おさ)さんなんだって!』

「おさ? ああ、偉い人か」

『このお料理も、キサラさんが用意してくれたんだよ』

「そうだったのか。ありがとな、助かったよ」

 

ソラトが素直に礼を言うと、キサラは少し困ったように眉を下げた。

 

「……お食事は、お気に召されませんでしたでしょうか?」

「ま、まあ……」

 

現代の味に舌が慣れているソラトは、正直に苦笑いを浮かべてしまう。

 

「お気に召さなかったようで、申し訳ありません……すぐに別のものを……」

「いいいい! 大丈夫だから! ほんとに!」

「然様ですか。寛大なお心に感謝申し上げます……神様」

「神様? 誰が? 俺?」

「こちらにおわす『かぐや様』と同じ、お連れの神様なのでしょう?」

 

ソラトとかぐやは顔を見合わせ、端に寄ってコソコソと耳打ちし合った。

 

「どーなってんだ?」

『えっとね、キサラさんたち…ここの集落の人ね、かぐやたちのことを神様だと勘違いしてるみたいで……』

「ほーん、だからかぐやが喋ってても驚かないわけか」

『そうそう。……って、ソラト、縄文人の言葉が分かるの?』

「まあな、俺も一応宇宙人だし」

『ソラトの事情も、あとで教えてね……』

「そりゃそうだな」

 

コソコソ話を終えると、ふたりは向き直る。ソラトは屈託のない笑顔でキサラに手を振ってみせた。

 

「よろしくな、キサラ!」

「お気が済むまでご滞在ください。あの恐ろしい怪物を追い払ってくださった、せめてものお礼ですので。……それでは、ごゆるりと」

 

キサラは深々と一礼し、静かに立ち去っていった。

 

(ほんと……サユキにそっくりだなあ……。サユキはもっとテンション高かったけど)

 

去っていくキサラの背中に元の世界の仲間を重ね、寂しさと懐かしさが混ざった溜息をつくソラト。

だが次の瞬間、ソラトは残った料理を豪快に一気に口へとかき込んだ。

 

「ごちそうさまでした!」

 

味は薄くとも、人の温もりがこもった食事を、ソラトは一粒も残さず綺麗に完食したのだった。

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