超かぐや姫!& ウルトラマンオメガ 〜八千年の孤独を照らす光〜 作:ひみつ
次の話も近いうちに更新します。
誤字脱字あったら申し訳ないです。
集落に来て最初の晩。
ソラトとかぐやは、満天の星々が瞬く夜空の下、パチパチと爆ぜる焚き火を静かに囲んでいた。
木串に刺された川魚が香ばしい煙を上げ、ソラトは焼き上がるのを今か今かと待っている。
『ソラト、子供たちとすぐ仲良くなったね』
「まあな」
昼間の食事の後、集落の人々は二人を大いに歓迎してくれた。
どこへ行っても「神様」と崇められて深々と頭を下げられるのには参ってしまったが、川へ出かけて子供たちと魚を追いかけているうちに、気づけばすっかり日が落ちていた。
『けど……もう〜! ほんっとにかぐやびっくりしたんだから! ソラトが宇宙人で、しかも巨人だなんて! 月よりもっと遠くから来てたなんてさ!』
ソラトは先ほど、かぐやに自分のすべてを打ち明けていた。
自分が「ウルトラマン」と呼ばれていること。宇宙人で、ここではない別の地球で仲間と過ごしていたこと。そして、宇宙の平和のために戦う途中で次元の歪みに巻き込まれ、この時代へ落ちてきたこと。
『話のスケールが大きすぎて、さすがのかぐやちゃんもパンク寸前だよ……』
宇宙も次元も股にかけた広大すぎるソラトの境遇に、さすがの「月の姫」も目を丸くして驚きを隠せない。
『かぐやも宇宙人だけどさ、宇宙のことなんて全然知らないな。ねえ、宇宙ってどんなところなの?』
「宇宙か……色んな星があって、綺麗で、広い場所だな。ほら、今空で光ってるあの光も、どこかの星なんだ」
ソラトとかぐやは、吸い込まれそうな夜空を見上げる。
「あの一つ一つに、命が芽吹いてる」
『ソラトはその命を守る……ウルトラマンなんだね』
「まあ……な」
命を守る――。
今のソラトを突き動かしているのは、コウセイやアユム、サユキといった仲間たちとの出会いと、ただ観測するのではなく「そこに息づく命を守りたい」という純粋な願いだ。
だが、過去の自分は違っていた。
ただ星々を観察し、記録するだけの『宇宙観測隊』の一員だった頃、自分は多くの星が滅び去るのを黙って見届けてきた。救えたはずの星を見放したことも一度や二度ではない。その冷酷だった過去が、時折胸を締め付ける。
自分にできるのは、あの日見放した命の痛みを絶対に忘れないこと。そして――。
『ソラト……?』
押し黙ったソラトを、かぐやが心配そうに見上げている。
「ん? ああ……なんでもないよ」
今目の前にいる――かぐやを守ること。
「そうだな、今の俺はオオキダソラトで、ウルトラマンオメガだ。大切な相棒と……仲間がくれた俺の名前なんだ」
『かぐやもね、名前を彩葉から貰ったんだよ』
「同じだな」
『うん!』
自分とかぐやは、案外似た者同士なのかもしれない。出会ってからの時間は短くとも、ソラトの胸には温かな親近感が芽生えていた。
「一人で食べるご飯よりさ、誰かと一緒に食べるご飯の方が美味しいんだ」
焼き上がった串焼き魚を手に、ソラトは語りかける。
「だから俺、決めたんだ。いつか……かぐやがまたご飯を食べられるようになったら、二人で死ぬほどご飯を食べるって」
『ソラト……』
「食べような。絶対」
『うん……!』
かぐやは黒真珠のような目を輝かせ、ウミウシの身体をぴょこんと揺らして力強く頷いた。
『じゃあその時は、かぐやが作るね!』
「おっ、かぐや料理できるのか!」
『もっちろん! 任せてよ!』
「なら焼きそば! 目玉焼き乗せてくれよな」
『え〜、ソラト子供っぽ〜い!』
「それが美味いんだよ。コウセイが作ってくれたからな」
『コウセイ……?』
「俺の――大切な相棒で、一番の友達だ」
星空を見上げながら、遠い空の向下にいる相棒の顔を思い浮かべるソラト。
ソラトは語り始めた。コウセイと出会い、喧嘩して、仲直りして、迷いながらも共に駆け抜けた青春の日々を。かぐやが愛おしそうに語ってくれた、酒寄彩葉との思い出と同じように。
『じゃあ、コウセイはかぐやにとっての彩葉と一緒なんだね!』
「そうだな。……一番、一緒にいたい奴だ」
やっぱり似てるな、とソラトは笑う。
「あーあ、またコウセイの焼きそばが食べたいな……」
『かぐやはね、彩葉のクソまずいパンケーキでいいから食べたいよ……』
「クソまずいのに食べたいのか? 変わってるな」
『水と小麦粉だけのパンケーキなんだよ? 彩葉が食べてたやつ。かぐやにも作ってくれたの』
「昼間の飯より不味そうだな……」
『彩葉が作ってくれたから美味しかったの! だから食べたいの!』
「あ……それ、わかる。俺もコウセイが作ってくれるから食べたいんだ」
『でしょ?』
「ああ」
暗い夜の中、二人の笑い声が弾けた。
『……あの子、この集落の子供だね』
「おーい、こっち来いよ」
ソラトが手を振ると、暗がりから少し警戒した様子の少年がそろりと姿を現した。
「どうしたんだ? みんなもう寝てる時間だぞ」
夜を照らす明かりのない縄文時代、人々の就寝は早い。日が落ちればすぐに夢の中だ。
「……焚き火が見えたから、気になって」
「そっか。名前は? なんて言うんだ?」
「オイラは……レピ」
「レピか。俺はソラト。このちっこいのがかぐやだ。よろしくな」
「神様……なんだよね?」
「んー、まあ……そんな感じかな。ほら、座れよ」
レピはソラトの左隣に腰を下ろし、パチパチと燃える火を見つめる。
「食うか?」
ソラトが手渡した焼き魚を、レピはコクリと頷いて受け取った。
もぐもぐと魚を口に運ぶ少年と、静かに時間を共有する。
「……神様、魚取るの上手かったね」
「おう」
「初めてだったんでしょ? オイラだって、最初はあんな風に掴み取りできなかったよ」
「神様が魚取るのは意外だったか?」
「うん。ちょっとびっくりした。オイラも、みんなも」
今日の午後、子供たちに混ざって魚を獲ろうとしたら「神様にそんなことをさせるなんて畏れ多い!」と大人たちに止められたのを思い出す。だが、人との触れ合いは本当に楽しかった。長らく孤独の中にいたかぐやにとっても、それは宝物のような時間だったはずだ。
「神様だろうがなんだろうと、飯は食わなきゃ生きていけないからな」
ソラトが笑うと、レピは意を決したような鋭い眼差しでソラトを見つめ直した。
「……怪物を、倒したの?」
「ああ」
正体に関わる問いに、ソラトはあっさりと頷く。今ここにコウセイがいたら、泡を吹いて焦り倒すか、猛説教を食らうところだ。だが、キサラにも見られている以上、隠す意味もない。
「……オイラも」
「ん?」
「オイラも怪物を倒したいんだ! オイラの手で……っ!」
立ち上がり、興奮気味に叫ぶレピ。
「そりゃ……なんでだ?」
ソラトが真剣な眼差しで問い正すと、レピは急に顔を伏せ、言葉を詰まらせた。
「それは……っ」
「レピ! こんなところにいたのね」
足音とともに現れたのは、若い女性だった。レピと瓜二つの顔立ちをしている。
「母さん……」
「神様、申し訳ありません……! うちの子がご迷惑を……」
レピの母親・サクヤは、焦ったように深々と頭を下げた。
「いいって、気にするなよ」
「レピ、行くよ」
「……うん」
レピはまだ何かを言いたそうにソラトを振り返ったが、サクヤに強い力で手を引かれ、暗闇の奥へと連れ去られていった。
(何か……あるな)
少年の瞳の奥に宿っていた復讐の火種。ソラトが思案していると、隣でかぐやが「ふぁぁ……」と大きな欠伸をした。
「眠いか?」
『うん……今日はね、かぐやすごく楽しかったんだ。ソラトに会えて……怪物は怖かったけど、久しぶりにたくさんの人と話せて……』
かぐやは小さな声で、ぽつりと胸の内を漏らす。
『……でもね、かぐや……寝るのが怖いんだ。今日のことが全部『夢』で……目を醒ましたら、またずっとひとりぼっちなんじゃないかって……そう思ったら、すごく怖くて……』
絶望の中に置き去りにされていた傷痕は、まだ癒えていない。
「大丈夫だって」
ソラトはしゃがみ込み、指先で優しくかぐやの頭を撫でた。
「夢なんかじゃないさ。俺が、かぐやの隣にいるから」
言葉とともに伝わる指先の温度。このウミウシの体は実体がなく、ぬくもりなど感じられないはずだった。それなのに――かぐやの心は、じんわりとした温かい安心感で満たされていく。
『……うん』
ソラトの優しさに守られ、かぐやは安心したように瞳を閉じた。
「よし、今日はもう寝るか」
ソラトは焚き火を消そうと、水の入った木の容器を手に取る。
――だが、次の瞬間。ソラトの動きがピタリと止まった。
背筋を走る、強烈な悪寒。
ソラトは大急ぎで振り返り、漆黒の森を鋭く睨み据えた。
(――クンクンっ)
鼻をひくつかせ、空気を嗅ぎ分ける。
焚き火の焦げくさい匂いの隙間から、かすかに漂ってくる異臭。
(この匂い……生臭い血と、肉が腐ったような……怪獣の匂いだ!)
かつてどこかで嗅いだことのある、狂暴な怪獣の臭気。
『ん〜……ソラト? どうしたの……?』
微睡みの中から、かぐやが不安そうに声を上げてくる。
「……なんでもない。あーあ、俺も眠くなってきた。寝るか!」
ソラトは瞬時に不敵な笑みを浮かべ、胸の内の胸騒ぎを押し隠した。焚き火に一気に水をかけ、ジュッと音を立てて煙が上がると、かぐやを包み込んで素早く住居へと戻ったのだった。
――夜更けの森。
静寂が支配する漆黒の闇の中を、巨大な影が蠢いていた。
グチャリ、と肉が踏み潰される嫌な音が響き、夜鳥が一斉に羽ばたく。
闇に溶け込み、姿を消しながら移動するその禍々しい気配は――確実に、集落へと近づいていた。
ウルトラマンオメガでウタさんを演じた役者さんは、ウルトラマンギンガSでキサラ女王も演じていたので、それに因んで関係あるキャラクターの名前を拝借して登場させてみました。ギンガSを視聴したことのある人なら顔も想像しやすいかと思って。
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