超かぐや姫!& ウルトラマンオメガ 〜八千年の孤独を照らす光〜   作:ひみつ

4 / 7
書けました。
どうぞ。
この作品どうですかね?面白いですか?


4話『不穏な爪痕』

 

 夜が明け始めた早朝。ソラトは、キサラの従者であるカムシンという男性の切迫した声で目を覚ました。

 

「神様っ! 神様っ!」

 

ただならぬ気配にソラトは寝ぼけ眼をこすりながら跳ね起きる。手のひらの中で丸くなって眠っていたかぐやも、驚いてぴょこりと身体を起こした。

 

「大変です! すぐに……すぐに来てください!」

 

ソラトはすぐさま上着を羽織り、かぐやを手に包み込んでカムシンの後を追った。

 

「こいつは……でかい爪痕だな」

 

案内されたのは集落の外れ。すでに人集りができており、そこにはキサラやレピ、そして母親のサクヤの姿もあった。

人集りを掻き分けたソラトの目に跳び込んできたのは、あまりに惨烈な光景だった。

 

食糧として飼育されていたイノシシが無残に食い荒らされ、あたり一面に赤黒い血溜まりが広がっている。頭部だけが転がる凄惨な現場。そして地面を深く抉り取るように残された、異様なほど巨大な三本爪の痕跡。

 

(この爪痕……見覚えがある。アユ姉と一緒に街を調査した時、ビルに深く刻まれていたやつと同じだ……)

 

爪の角度、深さ、そして漂う生臭い臭気。襲撃者の正体を、ソラトは確信を持って口にした。

 

「……テリジラスか」

「神様……心当たりがおありなのですか?」

「ああ。こいつはヤバい奴だ。平気で人を食う」

 

ソラトの一言に、村人たちの顔から一気に血の気が引いた。死の恐怖が波のように伝播していく。

 

「今日は誰も外に出ない方がいい」

「わかりました……! 皆のもの、神のお言葉だ! 本日は何があろうと集落の外へ出てはならぬ!」

 

キサラの長としての命に、人々は怯えながら頷いた。そしてキサラは最後の希望にすがるように、ソラトの前で膝を突く。

 

「神様……どうか、どうか我らをお救いください……!」

 

キサラに続き、集落の人々が一斉に地へ伏して懇願する。

 

「だーかーら! そういうのいいって! 顔上げろよ!」

 

参ったように頭を掻くソラト。サユキと瓜二つの顔でそんな風に拝まれると、どうにも調子が狂ってしまう。

 

「言われなくても助けるさ。一宿一飯の恩義ってのもあるしな。任せとけって」

 

安堵の息を漏らす人々。頼もしく胸を叩くソラトに期待の視線が集まる中、ソラトは爽やかに言い放った。

 

「よし、なら早速……朝ご飯だな! 今日は何?」

 

――ズコーッ!!

 

緊張感が一瞬で崩壊し、村人たちの大部分が盛大にズッコケた。

 

『ちょっとソラトォッ! 今はそんな場合じゃないでしょ!?』

 

かぐやがフシャーッ!と猫のように怒り狂い、ソラトの頭の上に飛び乗って、ウミウシの体を使って器用にポカポカと叩く。

 

「そんな場合なんだよ。大きくなるのって、もの凄く体力使うんだから。めっちゃ疲れるし。しっかり食べなきゃ戦えないの!」

 

さーて朝ご飯だ!と鼻歌まじりに家へ戻っていくソラト。

 

切羽詰まった危機を前にしても微塵も揺るがないソラトのマイペースさは、怯えていた人々に不思議な安心感と自然な笑みを与えていた。

ただ一人――残された爪痕を、憎悪の籠もった瞳で見つめ続ける少年・レピを除いて。

 

♢♢♢

 

キサラの住居で、ソラトは用意された食事をもぐもぐと口へ運び、刻一刻と迫る戦いに備えてエネルギーを蓄えていた。脇で見守るのはかぐやとキサラだ。

 

『ねえソラト……テリジラスって、どんな怪物なの?』

「怪物じゃなくて『怪獣』な。テリジラスは……透明になる能力を持った厄介な奴だ」

『透明!? 姿を消せるの!? なにそれズルじゃん!』

「ゲードスだって水吐いたり電撃出したりしてたろ。怪獣ってのは何でもアリなんだよ」

 

呆気にとられるかぐやとキサラに、ソラトは淡々と分析を続ける。

 

「姿を消せるから今まで見つからなかったんだ。家畜が襲撃されたのに誰も気づけなかったのもそのせいだな」

 

イノシシは全滅。作物は豊富な季節なので餓死の心配はないが、野放しにすればテリジラスは間違いなく今日か明日にでも人間を喰らいに集落へ踏み込んでくる。

 

「神様……ソラト様は、どのように戦われるおつもりなのですか?」

「んー、とりあえず外に出て威嚇してみる」

『威嚇?』

「そ。テリジラスは縄張り意識がめちゃくちゃ強い怪獣だからな。俺が挑発して怒らせて、集落から引き離してやっつける。あ、かぐやは留守番な」

『えっ、嫌だ! かぐやも行く!』

「危ないからダメ。ここでキサラと待ってろ」

 

そう言い切ると、ソラトは最後の料理を綺麗に平らげた。

 

「ごちそうさまでした!」

 

空になった葉っぱの器を見つめ、ソラトはキサラに視線を向ける。

 

「今日は貝と木の実と汁物か……やっぱり『肉』はないんだな」

「……気づいておられましたか」

 

キサラは悲しそうに目を伏せた。

 

「なんとなくな。この辺の森、川に魚取りに行った時もウサギ一匹いなかったから。……全部、テリジラスに喰われてたんだな」

「はい……数週間前から被害が出始めており……すでに、人間の犠牲者も出ております」

「……そっか」

 

ソラトはそれ以上深くは追及せず、静かに拳を握りしめた。

 

「姿を自在に消せる怪異だとは……夢にも思っておりませんでした。今一度お願い申し上げます、ソラト様……どうかこの村を、皆をお救いください……!」

 

再び深々と頭を下げようとするキサラの肩を、ソラトは優しく受け止めた。

 

「だから、もう頭を下げるなって。俺がなんとかする。だから安心して待ってろ」

「っ……感謝……いたします……!」

 

キサラの目から溢れ出る涙。

お腹を満たし、万全となったソラトは草のカーテンをくぐって外へと踏み出した。

 

「ん?……サクヤ?」

 

そこには、硬い表情で佇むレピの母親・サクヤの姿があった。

 

「神様……実は……」

 

サクヤは意を決したように重い口を開き、レピと亡き夫についての真実を語り始めたのだった。

 

「そっか……さっきキサラが言っていたのは、レピの父親のことだったんだな」

 

聞けば数週間前、レピの父親は狩りのために森へ入ったきり、帰らぬ人となったという。その現場にも、今回と同じ巨大な三本爪の痕跡が残されていたそうだ。

 

「あの子は……あの子は自分の手で、夫の仇を討つ気です。私の声なんて、もうあの子の耳には届きません……っ」

「わかった。レピのことも任せとけ」

 

泣き崩れそうなサクヤの肩をポンと叩き、ソラトはすぐさま疾走を開始した。

 

集落を抜け、木々が生い茂る森の深部へ。少し進んだところで、ソラトは小さな背中を見つけた。手には父の形見である弓が握られている。

 

「なーんかあると思ったよ、レピ」

 

ソラトはおどけたような調子で話しかけたが、その瞳に一切の余裕はなかった。少年の痛みを理解しているからこその、真剣な眼差しだ。

 

「神様……」

「キサラが外には出るなって言ったろ」

「……っ」

「サクヤから聞いたよ」

 

レピの身体がピクリと跳ねる。

 

「やめとけ……って言っても、聞かないよな」

「オイラが、父さんの仇を討つんだ……!」

「それでお前が死んだら、サクヤはひとりぼっちになるぞ」

「っ……! それでもっ……!」

「ひとりぼっちは……死ぬより辛い時があるんだ。……きっと今ここにかぐやがいたら、そう言うだろうな」

「……」

 

レピは何も言い返せず、悔しそうに唇を噛み締めた。

 

「お前の父さんも……戦ったんだろ。キサラが言ってたよ。この村で一番勇敢で、一番腕の立つ狩人だったって」

「……」

「レピ。お前の父親――ショウは、お前に任せたんじゃないのか? 残されるサクヤのことをさ……」

 

――その時だった。

 

周囲の空気が一変し、肌を刺すような禍々しい気配が森を満たした。

気配を察知したソラトは間髪入れずにレピの前に立ち、周囲を鋭く警戒する。……近くにいる。間違いなくテリジラスがすぐそこに迫っている!

 

まだ姿は見えない。だが猶予はないと判断したソラトは、レピを手で下がるよう制すると、近くの巨木へ渾身の力を込めた拳を叩きつけた。

 

――ズドンッ!!

 

地鳴りのような衝撃音が轟き、ミシミシと音を立てて大木が倒れていく。

直後、潜んでいた怪物がソラトの放った威嚇に反応した。

 

「おい! それ以上近寄るな!」

 

ソラトが放った鋭い一閃の威圧。

 

――ギャァァァァァッ!!

 

森の静寂を破り、鳥の悲鳴のような凶暴な咆哮が響き渡る。鳥たちが一斉に羽ばたき、森の動物たちが蜘蛛の子を散らすように逃げ出していく。

 

うねる空間の歪みから現れたのは、真っ赤な一本角と、長く鋭利な爪を携えた漆黒の怪獣――〈テリジラス〉。

 

「あいつが……父さんの仇……!」

 

仇敵の姿を前に、レピは憎悪に瞳を濁らせ、震える手で弓を引き絞った。

だが、人間ひとりの弓矢など通じる相手ではない。間合いを詰めたテリジラスが、巨大な爪をふたりに向けて容赦なく振り下ろす!

 

「放せぇっ!」

 

暴れるレピを強引に抱え込み、ソラトは地を蹴った。

宇宙人――ウルトラマンならではの超人的な身体能力で、上空へ大きく躍進。振り下ろされた巨大な爪をギリギリでかわし、後方へ着地する。

 

右手を頭部へ伸ばし、変身アイテム――オメガスラッガーを呼ぼうとしたソラトだったが、腕の中でなおもレピが暴走しようとしていた。

 

「父さんの……倅のオイラが仇を打つんだぁぁっ!」

「いい加減にしろっ!!」

 

ソラトの雷のような怒号が森に響き渡った。

 

「お前の父さんは……お前たちを守るために戦ったんだろ! 憎しみで立ち向かったんじゃない! その生き様を……息子のお前が否定するな!」

「っ……!」

「お前も……誰かを守るために強くなれ! お前の父さんのように!」

「でもっ、あいつは……っ!」

「お前の父さんの無念は……俺が晴らしてやる!」

 

ソラトの魂の叫びに胸を打たれ、レピの瞳から憎悪の毒気がスッと消え去っていった。

 

だが、ふたりが対峙している隙に、テリジラスは集落の方角を目指して突進を開始していた。

 

(そうか……あいつはずっと眠っていたんだ。それが『目覚めの刻』の影響で覚醒してしまった。かつて自分の縄張りだった場所に人間が村を作り、森に動物が増えていたから、縄張りを荒らされたと思って激怒してるんだ……!)

 

デマーガ、ゲードスに続いて三体目。この時代で起きている変異の背景に、ソラトの思考が研ぎ澄まされていく。

 

「レピ、しっかり掴まってろ!」

「うんっ!」

 

レピを抱えたソラトは、再び凄まじい脚力で跳躍。山を軽々と越え、テリジラスの頭上を飛び越えて集落の境界線へと先回りした。

 

すでに集落の人々は恐怖に包まれ、丘の上へと避難を開始している。

 

「あいつは俺に任せろ。お前は……母さんを村の人たちを守るんだ」

 

森の奥からは、危険を顧みずに走ってくるキサラとサクヤの姿があった。キサラの肩には、必死にこちらを見つめるかぐやもいる。

 

「行け、レピ!」

「うん……! ありがとう……ソラト!」

 

ソラトは無言で、少年の前にグッと右拳を突き出した。

一瞬首をかしげたレピだったが、ソラトの意図を察し、小さな拳をコツンと合わせた。

 

「頼んだぞ」

 

少年が駆け出していく背中を見送ると、ソラトはゆっくりと振り返る。

その瞳に宿るのは、集落を脅かす大怪獣を撃退する――真紅の戦士の冷徹なまでの決意だった。




次の話で縄文時代編、終わりの予定です。

この作品、面白いですか?

  • 面白い
  • つまらない
  • どちらとも言えない
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。