超かぐや姫!& ウルトラマンオメガ 〜八千年の孤独を照らす光〜 作:ひみつ
縄文時代編ラストです。
「おい! 大昔はお前の縄張りだったかもしれないが……今はここに生きる人間たちの場所だ。手出しはさせない!」
――ギシャアアアアアアッ!!
ソラトの威嚇に応え、テリジラスが鼓膜を刺す雄叫びを上げる。
「お前だって腹が減ってるんだよな。俺と同じだ。……だけどな、人の味を覚えて、人を襲い続けるお前を……生かしておくわけにはいかないんだよ!」
ソラトは右手を伸ばし、頭部のオメガスラッガーへ手を掛けた。
「レピの悔しさも……ショウの無念も……ここで俺が断ち切るっ!」
引き絞られた魂の叫びとともに、ソラトはオメガスラッガーを高らかに掲げた。
一瞬にして放たれた眩い真紅の光柱が、暗い森を明るく照らし出す。
避難の最中だったキサラたちは思わず足を止め、その神秘的な光景と、光の中から現れた巨人の背中に息を飲んだ。
(私たちは……神に出会えたのだ……)
人々を率いていたカムシンや村人たちが、畏怖と感動のあまりその場に膝をつく。
だが、ただ一人――レピの瞳だけは違っていた。
胸を打たれた少年には、姿が変わろうが神と呼ばれようが、ソラトは「ソラト」だった。自分たちと同じように飯を食べ、同じように話し、泣き、笑う、同じ目線で生きる人間なのだと。
「ソラト……! 負けるな……がんばれぇぇぇっ!!」
レピの口から溢れ出た決死の叫び。
――“がんばれ”。その言葉こそが、ウルトラマンにとって最大の力となる。信じてくれる人がいる限り、どれほど倒されようと、何度でも立ち上がるのだ。
オメガはオメガスコープでテリジラスを見る。
縄張りを荒らされた激怒と、捕食者としての飢えを剥き出しにして襲いかかってくるテリジラス。その雄叫びとともに、死闘の火蓋が切って落とされた。
振り下ろされる巨爪を、オメガは紙一重の踏み込みで見極め、軽やかにかわしていく。持ち前の戦闘センスと洗練されたフットワークで、相手の懐へと滑り込む。
襲い来る爪を側転でかわすと同時に、回転の勢いをそのまま殺さず、鋭い蹴りをテリジラスの肩口へ叩き込む!
怯んだ隙を見逃さず死角へ回り込み、背中への追い打ち。さらになおも暴れ回る爪攻撃をすれ違いざまにかいくぐり、重厚な拳の連打から強烈な前蹴り!
――ズドォォォンッ!!
地響きとともに巨体が打ち倒される。
オメガは頭部のオメガスラッガーを抜き放ち、研ぎ澄まされた真紅の刃を構えた。
だがその瞬間――テリジラスの巨体がまるで蜃気楼のように歪み、姿を消した。
「……っ!?」
視界から完全に消え去るテリジラス。
気配を断ち、背景と同化する光学迷彩――テリジラスが進化の過程で獲得した最強の狩猟能力だ。
『ほんとに透明になった!? これじゃあどこにいるか分からないよ!』
丘の上から見守るかぐやが焦りの声を上げる。
透明化したテリジラスは死角から素早い爪攻撃を繰り出し、オメガを翻弄。見えない刃の猛攻を受け、オメガの胸に輝くクリスタルが青から危険を告げる赤へと変わり、ピコン、ピコン……と明滅を始めた。
地球上での活動限界時間――残り僅か。
だが、オメガの心に焦りはない。レピの思い、キサラたちとの約束、そして――かぐやとの誓いがある。
(俺が……あいつを彩葉に会わせてやるって決めたんだ! こんなところで、膝をついている場合じゃないっ!)
かつてテリジラスと戦った時、自分はコウセイに助けられた。
今、隣に相棒はいない。だが、共に駆け抜けた思い出も、あの時の経験も、全て自分の中で確固たる強さとして息づいている!
(見てろよ……コウセイ!)
オメガはオメガスラッガーを胸前に構え、その場に仁王立ちとなった。
視覚を捨て、全神経を「研ぎ澄まされた感覚」へと集中させる。焦げくさい煙の奥から漂う、生臭く禍々しい血の匂い――。
(――そこだっ!!)
背後――六時の方向へ、オメガは振り向きざまにオメガスラッガーを一閃させた!
――ガァァァンッ!!
何もない空間で強烈な金属音が跳ね返る。オメガが気合いとともにスラッガーを押し込むと、空間が弾け飛ぶようにして、切断された巨大な赤い爪が地表へ突き刺さった。
右腕の爪を絶たれた激痛で、姿を現すテリジラス!
「ハアァァッ!」
悶える怪獣の懐へ一瞬で肉薄したオメガは、すれ違いざまに腹部を深々と一閃!
致命傷を負わせたオメガは反転し、スラッガーを頭部へと装着。両腕に膨大な光のエネルギーを充填し、十字に交差させた。
オメガの一撃・レティクリュート光線。
放たれた眩い青の必殺光線が、テリジラスの全身を包み込む。抵抗する力すら残されていない怪獣は、一瞬の光の奔流の中で安らかに粒子となって消滅していった。
スラッガーでなぎ倒すこともできた。だが、それでは苦しみを与えるだけだ。せめて一瞬で苦痛なく葬ること――それが、生存本能に従って暴れただけの怪獣に対する、オメガなりの慈悲だった。
(眠れ……この地で、安らかに)
オメガは地面に刺さっていたテリジラスの切断された爪を引き抜くと、奴が散ったその場所へと静かに突き立て直した。
ただの自己満足かもしれない。それでもソラトは、奪ってしまった命を静かに弔ったのだ。
直後、その爪から淡い光の粒子が立ち上り、天へと昇っていった。
こうして、古代の集落を脅かした脅威は、完全に去ったのだった。
♢♢♢
戦いが終わり、静けさを取り戻した森。
ソラトは肩にかぐやを乗せ、レピ、そしてサクヤと共にテリジラスが散った場所を訪れていた。
倒木の中に、静かに佇む真紅の巨爪。
「レピ。テリジラスだって、生きるのに必死だったんだ。俺やお前たちと同じように……。お前の家族を奪った事実は消えない。だけどな、お前もいつか一人前の狩人になるなら……命を軽んじるような男にはなるな」
レピは黙って、ソラトの言葉に頷いた。
「草も、木も、花も、動物も、みんな命を持ってる。命を大切に……それができる強い男になれ。きっとお前の父さんも、そういう奴だったはずだ。会ったことはないけどな」
「……うん。父さんも言ってた。『命をいただく以上、絶対に敬意を払え』って」
「そっか。なら、もう大丈夫だな」
ソラトは柔らかな笑みを浮かべ、レピの頭をワシワシと撫で回した。レピは照れくさそうに、けれど誇らしげに鼻を鳴らした。
「ソラト……?」
「俺とかぐやは、もう行くよ」
ソラトの言葉に、レピの顔が一瞬寂しげに曇る。だが少年はすぐに顔を上げ、大切そうに抱えていたものをソラトに差し出した。
「待って! これ……!」
手渡されたのは、竹で作られた小さな水筒と、木の実が詰まった草の包みだった。
「これは……?」
「キサラ様から、ソラトに渡してくれって。木の実と、水汲み用の竹筒。……ちゃんと食べないと、また倒れちゃうでしょ」
「……そうなだな。ありがとうな、レピ!」
ソラトは最後に、もう一度レピの頭をしっかりと撫でた。
「それじゃあな!」
『ばいばーい! 元気でねー!』
背を向け、歩き出す二人。
レピは跳ねるように腕を振り、大声でふたりを見送った。その瞳に、もう仇討ちに囚われていた暗い陰りはない。年相応の、健やかな子供の笑顔だった。
サクヤもまた、一人の母親として深く深々と頭を下げ、村を救ってくれた二人に心からの感謝を捧げた。
♢♢♢
小高い丘の上から、集落を去っていくソラトと肩の上の小さな影を、キサラとカムシンが静かに見つめていた。
会話の声までは聞こえない。けれどキサラには分かっていた。彼らが去ること、そしてこれが二度と会えぬ永劫の別れになるであろうことを。
旅立つソラトの後ろ姿を見つめながら、キサラは静かに己の認識を改めた。
「彼は……一人の『人』だったのですね。神などではなかった……。ただ、大切な人の隣を歩み、彼女にそっと寄り添うだけの、温かい人……」
巨人の姿を目にした時、彼女は「人々を正しき方向性へ導いてくれる神」に出会えたのだと思った。けれど、違ったのだ。ソラトは自分たちと何も変わらない、心を持つ何も変わらぬ人間だった。
「カムシン」
「はっ」
「未来へ伝えましょう。私たちがなし得るあらゆる手段を使って……この村を救ってくれた奇跡の戦士を……あの『光の巨人』の存在を」
「承知いたしました」
「ありがとう……そして、さようなら。ソラト、かぐや……あなたたちのことを、私たちは決して忘れません」
♢♢♢
木漏れ日が差し込む深い森の道を歩みながら、ソラトはふと肩の上を見上げた。
「かぐやは……よかったのか? やっと人間に会えたのに」
『うん。仲良くなったのにお別れなのは、ちょっと寂しいけど……かぐやはソラトと一緒にいたいから』
「かぐや……」
『それに、ソラトには気になることがあるんでしょ?』
「ああ。この時代で『目覚めの刻』が起きてる。その原因を知りたい……俺がそれをうやむやにするのは……ダメなんだ」
時空を超えてこの過去の世界へ投げ出されたこと。それには、きっと意味があるはずだから。
「だから、この世界をもっと見てみたい。あの村だけじゃない……もし目覚めの刻が進行してるなら、怪獣たちは次々と目覚めてしまう」
『なら行こっ! 大冒険の旅へレッツゴー!』
「おう」
『それにさ……ソラトがかぐやを、彩葉に会わせてくれるんでしょ?』
――なら、どこまでだってついて行くよ。
「ああ、必ず」
『よーっし!待っててね、彩葉!ソラトと行くからねー!』
声高らかに叫ぶかぐや。そしてソラトも。
「俺も、必ず未来へ行くからな!待ってろよな、コウセイ!」
歩みを進める二人の旅路。
だが、その背後――生い茂る木々の影から、じっと二人を凝視する不気味な視線があった。
古代の風景には不釣り合いな、遥か未来――現代の衣裳を纏った謎の男。
男は冷徹な眼差しでソラトの後ろ姿を見つめ、低く呟いた。
「マ・ドゥーク・オメガ……イ・レーヴォ・ゲネス……」
男は意味深な異星語を残し、漆黒の影となって森の奥深くへと姿を消した。
――そして、数千年の時が流れる。
かつて縄文の地に降り立った『赤い巨人の伝説』は、言葉を変え、形を変えながら、密かに未来へと語り継がれていくこととなる。
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