超かぐや姫!& ウルトラマンオメガ 〜八千年の孤独を照らす光〜 作:ひみつ
前回の章のように、過去作ウルトラマンの登場人物が名前は同じの別人として登場します。
6話『澄んだ瞳の来訪者』
あれから、幾千年の時が流れた。
時代は下り――大王や豪族といった権力者たちが、こぞって巨大な盛り土の墓――『古墳』を築く時代。
どれほどの月日が過ぎ去ろうと、ソラトとかぐやの絆、そして互いに交わした誓いが揺らぐことはなかった。
激しい戦いを終えたソラトは、清流の川に身を浸し、火照った体を冷やしていた。一方のかぐやは川辺の岩場でゴロリと横になり、のんびりと羽を伸ばしている。
果てしない旅路の中で、ソラトはウルトラマンオメガとして数多くの怪獣を鎮め、時にはその命を葬ってきた。
だが……ソラトの胸に燻る最大の疑問は、未だ晴れることがない。
(……おかしい)
記憶を失い、相棒のコウセイと出会う以前――かつて宇宙観測隊員だった頃に目撃した、ある惑星の『目覚めの刻』。
本来『目覚めの刻』とは、数千年に一度だけ訪れるはずの“怪獣の大量出現期”を指す。
しかしこの地球では、縄文のあの村から数千年が経過した今もなお、怪獣の出現が収まる気配がないのだ。それどころか、まるで何かに導かれるように活発化している。
(目覚めの刻のほかに……何か別の要因があるんじゃないのか?)
怪獣の頻出。この異常事態が加速すれば、いずれ自分ひとりでは守りきれなくなる刻(とき)が来るかもしれない。
その兆候は数年前から顕著になっていた。
だからこそソラトは対策として、怪獣の出現頻度が高い地域の神社(社)へ、自らのメテオカイジュウ――『ヴァルジェネス』を祀ってきたのだ。自分がその場にいなくとも、いざという時はヴァルジェネスが目覚め、そこに暮らす人々の生命を守れるように。
(この前も、遠くでヴァルジェネスの鼓動を感じた……。また新しい怪獣が現れて、戦ったんだな)
残された時間は決して多くない。一刻も早くこの異常の元凶、手掛かりを掴まなければ――。
そう思考を巡らせていた、その時だった。
「――あっ」
岩場で油断していたかぐやが足を踏み外し、派手な水音を立てて川へと転落した!
「あ〜れ〜っ!?」
どんぶらこ、と勢いよく川の濁流に浚われていく小さな影。
「あっ! ちょっと待て、かぐや!?」
ソラトは大慌てで川から跳ね起き、脱ぎ捨てていた上着をひっつかむと、流されていくかぐやを追って岸辺の森をがむしゃらに疾走した。
川下へと駆け抜けた先――開けた河原に、気品漂う人影があった。
「これはまた……ただの興のつもりであったが、なにやら面妖なものを釣り上げてしまったようだな……」
きらびやかで豪奢な古代の衣装を纏った美しい女性――神功皇后が、手に持った竹の釣竿の先をまじまじと見つめている。その釣り糸の針には、水から揚げられたかぐやが、うねうねと引っかかっていた。
周りを固める護衛の武士たちも、皇后の釣竿に引っかかった珍妙な「ウミウシ」のような存在を前に、刀の手繰りを握り直しながら首をひねっている。
「お〜い! そいつ、俺の連れなんだ。返してくれよ」
へらっとした笑顔で手を振るソラト。
高貴な人物を前にしても変わらないそのフランクさは、ソラトの魅力であると同時に、初対面の人間相手には命取りなほどの誤解を生む。側から見れば、不遜極まりない不審者にしか映らないのだから。
「何者だっ!?」
一瞬で空気が緊張で凍りついた。
護衛の武士たちが一斉に刀や槍を構え、四人の男たちが素早い足さばきでソラトを取り囲む。
「面妖な身なり……! 怪しい奴め!」
まあ、遥か未来の現代服を着ているのだから、この時代の人々からすれば奇妙極まりないのは無理もない。
「シンジョウ、油断するな!」
「ダイゴ、レナ! 皇后様をお守りしろ!」
武士たちのリーダー・ムナカタが、鋭い声で矢継ぎ早に指示を飛ばす。
釣竿を手にした皇后の前に、舎人のダイゴと采女のレナという若き二人がサッと割り込み、主を庇うように立ち塞がった。そして刃を構えた男たちが、じりじりとソラトとの間合いを詰めてくる。
「かかれっ!」
ムナカタの一声で、シンジョウ、ホリイ、ヤズミの三人が一斉にソラトへ飛びかかった。
(参ったな……仕方ない!)
ソラトも瞬時に身構えて応衛する。
殺気立って繰り出される刀と槍の連撃を、最小限の紙一重で見切り、軽やかに翻弄。一番へっぴり腰で突っ込んできたヤズミの手首を軽くひねり、刃を叩き落として無力化する。
「ヤズミっ!? ええい、やりおったな……!」
ホリイが怒号とともに力任せに槍を突いてくるが、ソラトはあっさりと半身でかわして懐へ潜り込む。槍の柄を肘打ちで叩き折り、怯んだホリイの首根っこを掴んでそのまま草むらへ投げ飛ばした。
「ホリイ、大丈夫か!?」
「あ痛てて……腰打ったわ。シンジョウ……こいつ、めちゃくちゃ強いで……!」
「ああ、分かってる! 俺が目にもの見せてやるぜ!」
威勢よく刀を構え直すシンジョウに、ソラトは困り顔で両手を上げた。
「だーかーら! 俺はそいつを返してほしいだけなんだって!争う気はない!」
「そんな言葉、信用できるかよ!」
「よせ、シンジョウ!」
飛びかかろうとしたシンジョウを、ムナカタの重厚な制止の声が押し止める。
「俺がやる。お前たちは下がっていろ」
「っ……はい!」
ムナカタが静かに刀を抜き放ち、ソラトの正面へと立った。
「かなりの手練れだな。どこの手の者かは知らんが、俺の目が黒いうちは皇后様に指一本触れさせん」
「隊長、その格好……噂に聞く『怪物使い』かもしれへんで! 気ぃつけてください!」
「いや、それよりも……『赤目様』の刺客かもしれないぜ!」
シンジョウとホリイの口から出た言葉に、ソラトの眉がピクリと跳ねた。
「赤目様? 怪物使い……? おい、その話詳しく――」
「問答無用! 覚悟っ!」
ムナカタが一閃の踏み込みで刀を振り下ろす! だが、その刃がソラトに達する直前――。
「――おやめなさい!!!」
一帯の空気を静まり返らせる凛とした声が響き渡った。神功皇后――イルマである。
「その者に悪意はありません。武器を収めなさい」
「しかし……っ! ……いえ、皇后様がその“目”でお確かめになられたのであれば。……失礼いたしました」
ムナカタは静かに刀を鞘へと納めた。他の面々も「皇后様のお言葉なら」と即座に納得し、構えを解く。
「我が者たちが無礼を働いた……申し訳ない」
庇うダイゴとレナを優しく手で制し、皇后自らがソラトの目の前へと歩み寄ってきた。
「いいって。俺の方こそ怪しい格好だしさ、気にしないでくれよ」
「この小さき者にも、怖い思いをさせたな」
皇后は手のひらに乗せたかぐやを、そっとソラトへと差し出した。
『ソラト〜〜ッ! 怖かったよおぉぉぉ!』
半べそをかきながら飛びついてくるかぐやを、ソラトは優しく手の上に迎えて乗せる。
「あなたは、ただこの者を守ろうとしていただけ……その目を見れば分かります」
皇后はソラトの瞳をまっすぐに見つめた。
「あなたのように澄んだ……悪意の欠片もない、美しき目をした者を私は見たことがない」
「そ、そう言われると……なんか照れるな……」
「……まるで、我々人間とは異なる存在のようだ」
心と物事の本質を看破する皇后の霊力は、本物だった。ソラトは密かに息をのむ。
(この人の目……すごいな。一瞬で人の本質を見抜くのか。……じゃあ、かぐやの正体にも気づいてるんだ)
果てしない旅路の中で、身体機能が特殊に発達した人間を何人か見てきたが、その中でも皇后の「洞察力」は群を抜いている。
(もしかしたら、俺の正体も……)
一瞬ヒヤリとしたソラトだったが、すぐにふっと口元を緩めた。
(まあ、いっか。悪い人じゃなさそうだしな)
ソラトが一人納得して頷いていると、神功皇后は柔らかく微笑み、ひとつの提案を口にした。
「無礼の詫びにはならぬかもしれないが……ぜひ我が宮殿へ、そなたたちを招きたい。いかがだろうか?」
不意の誘いに、ソラトと手のひらの上のかぐやは顔を見合わせる。
『いいんじゃない? ね、ソラト! 宮殿なら、美味しいご飯が食べられるかもしれないよ!』
「ふふ、ご馳走が望みか? 相分かった。腕によりをかけた料理を用意させよう」
かぐやの無邪気な一言に、皇后は快く頷いてみせた。
「ほんとか!? 何があるんだ?」
「獲れたての肉も、山海の作物も豊富にあるぞ」
「やった! ちょうど腹が減ってたんだよ。ありがとな!じゃあ、行くか、かぐや」
『うん!』
『ご飯』と聞いた瞬間、目を見張って食いつくソラト。
「かあ〜っ……図々しいやっちゃな〜、自分」
「だが、あの手練れぶりは本物だ。皇后様もあのように仰られているのだから、怪しい者ではあるまい。ならば快く歓迎すべきだな」
呆れ顔のホリイに、ムナカタが腕を組んで深く頷く。
「ってか、あいつが『かぐや』って呼んどるあの白いのは何なんや! 喋ってうねうね動いとるで!」
「よ、妖怪の類(たぐい)じゃないだろうな……?」
「なんやシンジョウ、もしかして怖がっとるんか?」
「ば、バカ言え! 誰がビビるかよ!」
「お前たち、皇后様の前だぞ。いい加減に慎まんか」
相変わらず賑やかなホリイとシンジョウの口論を、ムナカタが一喝して鎮める。そのやり取りを、皇后はくすりと楽しそうに見つめていた。
「ダイゴ、レナ」
「はい」
「何でしょうか、皇后様」
「宮殿に戻り次第、この者たちを客人として手厚くもてなしなさい。決して無礼のなきように」
「承知いたしました」
ダイゴとレナは顔を見合わせ、主に向かって深く頭を下げた。
「ヤズミ、帰路を護衛する。行くぞ」
「はい。隊長」
和やかな空気の中、一行は川辺を後にし、立派な盛り土――古墳の立ち並ぶ宮殿へと歩みを進める。
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