超かぐや姫!& ウルトラマンオメガ 〜八千年の孤独を照らす光〜 作:ひみつ
ソラトとかぐやは、絢爛豪華な宮殿の中へと案内された。
足を踏み入れたその場所は、間違いなくソラトとかぐやが数千年の旅路の中で訪れたどの集落よりも、圧倒的なスケールと美しさを誇っていた。
皇后の玉座へと続く回廊の手前、広く開けた広場を歩いていたソラトは、石壁に刻まれた巨大な壁画の前で足を止めた。
「なあ、あれは何なんだ?」
案内役を務めるダイゴに、ソラトが問いかける。
壁画には、祈りを捧げる巫女の姿と、その対面に鎮座する禍々しい“一つ目の怪物”が描かれていた。
「あれは『赤目様』です」
「赤目様……。さっき武士の人たちも言ってたな。俺のことを赤目様の刺客だって……」
「大変ご無礼を申し上げました。シンジョウさんに代わって謝罪いたします」
「いや、気にすんなって。それより、この壁画と赤目様について詳しく教えてくれよ」
「はい」
ダイゴが壁画の前で足を止めると、ソラトは肩の上のかぐやと共に、刻まれた図柄をじっと見上げた。
「この壁画は、皇后様の先先代様が記されたものです。先先代様……『ユザレ様』は、未来を見通す特別な霊力に長けた方でした」
「へえ……皇后様もすごい目を持ってたもんな」
「ご存知でしたか。はい、皇后様は“真実を見抜く目”をお持ちです。代々、何らかの特別な力を授かるのが皇后様の家系なのです」
『じゃあ、これはこれから未来で起きることなの?』
かぐやの問いに、ダイゴは静かに頷いた。
「はい。いつの日にかこの地に訪れる災いなのだと……僕も、武士の皆さんも、民たちもそう聞かされています」
ソラトは壁画に刻まれた“赤目様”の異形を見つめるうち、激しい既視感とともに、胸を突くような胸騒ぎを覚えた。
(こいつ……見たことがある…)
記憶の奥底。かつて宇宙観測隊として無数の星々を観察し、記録してきた膨大なデータベース。その中に残された、凶悪な一つ目の怪獣。その名は――。
「……ナイトファング」
絞り出すようなソラトの呟き。背筋を嫌な冷や汗が吹き抜けていく。
「え……? 知っておられるのですか、ソラト様?」
驚きに目を見張るダイゴ。
ナイトファング――悪夢を見せ、人々の心を喰らう極めて厄介な存在。もし戦うことになれば、これまでに立ち向かってきたどの怪獣とも比べものにならない難敵となる。
「え、ああ……いや! それよりさ、巫女の頭上……壁画の端々に描かれてるあの絵は何だ?」
咄嗟に誤魔化し、ソラトは壁画の上部を指差した。
そこには巫女を見守るように、仁王像のように佇む『二人』の巨人――『赤い巨人』と『銀色の巨人』が並び描かれていた。
「世界が深き闇に覆われし時、この地を救うべく現れる『救世主』だと……皇后様はおっしゃっていました」
「ふーん……」と二人を見上げるソラト。
『赤くて強そうだね。ソラトじゃない?』
肩の上から、かぐやが覗き込むようにして告げる。
「えー? 俺、あんな顔か?……って」
言った瞬間、ソラトの思考が跳ねた。
――こんなやり取り、昔、コウセイとしたことがあった。あれは確か、霧降山で『太平風土記』の絵解きを見ていた時だ。今のかぐやとまったく同じ言葉を、あの時のコウセイが笑いながら言ったのだ。
胸の奥に溢れ出す、懐かしくも温かい思い出。
「あの……ソラト様? 何か?」
「ん? ああ、いや! 何でもない、気にしないでくれ」
「は、はあ……」
首をかしげながらも、ダイゴはそれ以上追及しなかった。そこへ、回廊の奥から足音が近づいてくる。
「ダイゴ、食事の準備が整ったよ。お客様を宴の席へ――」
「ありがとう、レナ。ソラト様、お食事の用意ができたようです。こちらへどうぞ」
呼びに来たレナに頷き、ダイゴが歩き出す。
縁側の長い廊下を歩いていると、宮殿の庭先で地元の子供たちが楽しそうに駆け回っている光景が、かぐやの目に留まった。
『ねえねえソラト! かぐや、あの子供たちと遊んできていい?』
「ん? いいと思うけど……なあ?」
「ええ、一構いませんよ。レナ、僕はソラト様を宴席へお連れする。レナはかぐや様と一緒にいてあげてくれないか」
「わかったよ、ダイゴ。それじゃあかぐや様、行きましょうか」
『わーい! 』
かぐやは嬉しそうに、レナの差し出した手のひらへと飛び移った。
「暗くならないうちに帰ってこいよー!」
離れていく背中に声をかけるソラト。かぐやはレナの手の上で元気いっぱいに「うん!」と返事を返した。
♢♢♢
神功皇后に通された宴席。
数千年の時を経て、人類の食文化は飛躍的に進化していた。縄文の料理に比べれば格段に美味しくなっている。……まあ、遥か未来の現代食には遠く及ばないが。
「ごちそうさまでした!」
ソラトは差し出された膳の料理を、米一粒すら残さず綺麗に平らげて見せた。
その見事な食いっぷりに、宴を共にする皇后も嬉しそうに目を細めている。同じく同席していたダイゴ、そして警護として後ろに控えていたムナカタも、あまりの健闘ぶりに呆気にとられていた。
ふと、ソラトは開け放たれた回廊の向こう、庭先へと視線を向ける。
そこではウミウシ姿のかぐやが、地元の子供たちと無邪気に追いかけっこをして遊んでいた。
(本当に、純粋だなあ……)
見たこともない謎の生物であるはずのかぐやを、何の疑いもなく笑顔で受け入れ、走り回る子供たち。ソラトの胸に温かいものが込み上げてくる。
「子供というのは、そういうものですよ」
いつの間にか、ダイゴがソラトの隣に寄り添うように立っていた。
「純粋で、どこまでも綺麗な心を持っている。好奇心のままに、ありのままを受け入れるんです」
「……ああ、そうだな」
ダイゴの言葉に、ソラトはしみじみと頷いた。そして、ダイゴの横顔を見つめ返して笑う。
「あんたも、なんだか不思議な感じがするな。すごく……温かい。そんな感じだ」
「そうですか? ふふ、ありがとうございます」
爽やかに微笑むダイゴ。
ひとしきり和んだところで、ソラトは本題へと表情を引き締めた。神功皇后に向き直り、尋ねる。
「なあ、皇后様。あんたの部下たちが言っていた『怪物使い』って何なんだ?」
「あなたと似た……見慣れぬ衣服に身を包んだ男が、我が宮殿よりも巨大な怪物を操っている。そのような噂が、この都にまで届いているのです」
「噂にしては、ずいぶん具体的だな」
自分と似た格好をした男――ソラトの胸に、嫌な予感が過る。
「角の生えた怪物……いいえ、ソラト。あなたには『怪獣』と言った方が馴染むでしょうね」
「……やーっぱり、その“目”は本物なんだな」
真実を見抜く皇后の霊力。その見識に偽りはなかった。
「話を戻しましょう。角の生えた二足歩行の怪獣……それを自在に操る男の姿を、野山へ出ていた我が民の一人が目撃し、私へ伝えにきたのです」
皇后がその民の目を見たところ、一切の偽りも嘘もなかったという。
「その怪獣……『アーストロン』だな。この前、俺が倒した奴だ」
「やはり、あなたが……」
「目で見て分かってたんだろ? 俺が大きくなって“巨人”になるってことも」
「はい」
皇后は静かに頷いてみせた。
「なっ……!?」
「巨人の……正体……!?」
扉の脇に立っていたムナカタとダイゴが、信じられないものを見るかのように目を見張り、息を呑む。
「けど、その男ってのが分からないな……」
ソラトの頭の中に思考が巡る。まさか自分と同じ宇宙人なのか? あるいは、かぐやのように時空を超えて漂着した……いや、それはないか。ソラトはすぐに最後の考えを打ち消した。
しばらく思案してみるが、今ある情報だけでは答えは出ない。
「ま、そのうち会えるか」
俺がアーストロンを倒して計画を邪魔した以上、向こうから必ずちょっかいを出してくるはずだ。ソラトはそう踏んでいた。
「……三日後の皆既日食の刻、『赤目様』が降臨します」
皇后が真実を静かに告げると、ダイゴとムナカタの顔に一気に緊張が走った。
「赤目様……って、あの壁画に描かれてた奴だな」
「はい」
「ヤバいぞ、そいつは」
ソラトの瞳から平然とした色が消え、鋭い真剣な眼差しへと変わる。言葉からフランクさが消え、重みが宿る。
「赤目様……いや、『ナイトファング』。それがそいつの名前だ。人を眠らせて悪夢を見せ、その恐怖や絶望をエネルギーに変えて食らう、めちゃくちゃ嫌な奴だ。しかも……強い」
ナイトファングの厄介な能力を思い出し、ソラトは顔をしかめる。
「何と面妖な……人を悪夢で惑わすというのか。眠ってしまっては手が出せん……!」
ムナカタも苦々しく唸り、頭を悩ませる。
「何か……弱点があった気がするんだけどな……」
確か、何か決定的な弱点があったはずだ。だが……思い出せない。遠い過去の記憶の霧が邪魔をする。
「ま、戦いながら思い出せばいいか」
ぽつりと呟いたソラトの言葉に、神功皇后は驚いたように目を丸くした。
「……戦って、くださるのですか?」
「え? 当たり前だろ」
それは、神功皇后が自らの誇りを捨て、膝を折ってでも乞うつもりだったこと。
先祖から受け継がれたこの誇り高き地を、共に生きるかけがえのない民たちを守るためなら、一国の指導者としての面目を捨てて頭を垂れる覚悟を固めていたのだ。
しかしソラトは、誰に頼まれたわけでもなく、ただ当然のように『戦う』と言い切った。
「それが、俺の“やるべきこと”だからな。任せとけって!」
ソラトがニッと笑って親指を立ててみせると、皇后の唇からふっと笑みがこぼれた。
その時だった!
どたばたと廊下を揺らす荒々しい足音が響き渡る。
「隊長! 皇后様! たい、大変や〜〜っ!!」
血相を変えて飛び込んできたのは、ホリイだった。
「何事だ、ホリイ!」
「どデカいバケモンが、この宮殿に向かって近づいてきてんですわ!」
「何だと……!? まさか『赤目様』がもう……!?」
驚愕するムナカタたち。だが――。
クンクン、と鼻を鳴らしたソラトの顔つきが変わった。
「いや……違う! この感覚は……ナイトファングじゃない!」
鼻につくのは大地の匂い、ナイトファングであるならもっと嫌な匂いがするはずだ。それに今はまだ皆既日食の時ではない。
ずしん、ずしん……と地鳴りが響き始め、地響きが宮殿を揺らす。怪獣は目と鼻の先まで迫っている。ソラトは素早く立ち上がり、全身の神経を研ぎ澄ませた。
「急ぎ民たちの避難を!」
「ハッ、お任せを! ホリイ、行くぞ!」
皇后の意を汲んだムナカタが即座にホリイを連れて脱兎のごとく駆け出していった。
この章ではかぐやが活躍する予定です。
この作品、面白いですか?
-
面白い
-
つまらない
-
どちらとも言えない