超かぐや姫!& ウルトラマンオメガ 〜八千年の孤独を照らす光〜 作:匿名希望s
オメガの窮地、遥か遠い地――深緑の森の奥深くに静まり返る社(やしろ)から、眩い炎のごとき光が天高く飛翔し、暗雲の空に一筋の鮮烈な光を描いた。
そして、今――――。
「……かぐや……?」
ソラトは、何もない漆黒の虚無空間にただ一人佇んでいた。
戸惑うソラトの足元から歪むように景色が塗り替えられていく。目の前に広がったのは、もう数千年もの間見ることのなかった――懐かしい地球の、現代の街並みだった。
知っている舗装道路の匂い、見慣れたビルの色彩。懐かしさに胸が締め付けられたその瞬間、突如として頭上を巨大な影が塞ぎ、太陽の光を完全に奪い去った。
地響きと共にソラトが振り返ると、街の真ん中に巨大な異形が鎮座していた。
「……ゾメラ……!」
かつて、共に戦ったコウセイと命を懸けて打ち倒したはずの悪夢――殲滅細胞怪獣〈ゾメラ〉が、再びソラトの眼前に立ちはだかっていた。
ソラトは咄嗟に腕を振り上げ、頭部へ手を伸ばす。
いつものようにオメガスラッガーを握り締め、自らの力を解放しようと――。
だが、幾度腕を振り下ろそうとも、手に触れるのは己の髪と皮膚の感触だけ。
光の刃は現れず、オメガの力は静寂に閉ざされたまま応答しない。
「なんでだよ……! 出ろ……! 出ろよッ!」
変身できない焦燥と困惑に、声が掠れ、激しい苛立ちがソラトを包む。
ゾメラはそんなソラトなど視界にも入れず、街を蹂躙し始めた。熱線がビルを穿ち、崩落する瓦礫と悲鳴が街に満ちる。一瞬にして世界は大火の赤に染まり、逃げ惑う人々の絶叫が耳を刺す。
変身できない――ただの人間、無力な生命体でしかない。
それでもソラトは、目の前で炎に追われる親子へ向けて必死に手を伸ばした!
「逃げろ!」
だが、指先が触れ合うコンマ数秒前――爆風とともに猛烈な火の手が二人を包み込んだ。
助けようとした親子は黒煙の渦の中に呑まれ、消えた。
「くそっ……! くそおっ!」
届かなかった自分の手に血が滲むほど爪を立てるソラトの前に、追打ちをかけるように懐かしい声が届く。
「ソラト!」
そこに立っていたのは、命を共にしたかけがえのない仲間たちだった。
「コウセイ! アユ姉! サユキ!」
弾かれたように泥を蹴り、駆けるソラト。もう誰も失わせない、救いたい一心で手を伸ばす。
しかし――世界は無情に奪っていく。
目の前で、コウセイが瓦礫の下敷きとなり息絶えた。
伸ばした手の先で、アユ姉が炎に包まれ崩れ落ちた。
救いを求めるサユキが、崩落する底へ呑み込まれて消えた。
死んだ。みんな、自分の目の前で死んでいく。
絶対的な絶望が空間を支配し、ソラトの呼吸を奪う。
何も守れない。何一つ救えない。
そんな血と灰の惨劇の中――ポツリと、あのウミウシ姿のかぐやが倒れていた。
「かぐや……!」
せめて、かぐやだけは……! お前だけは、絶対に守る……!
「かぐやーーーーーーーッ!!!!」
ソラトは膝を泥と煤に塗れさせ、なりふり構わず地を這い、必死に手を伸ばす。
あと数センチ、あと数ミリで届く――。
ズ―――ンッ!!
残酷な地鳴りが響いた。
その手がかぐやに触れる直前、ゾメラの巨大な脚が、上空から容赦なく振り下ろされた。
ぐしゃり、と。
ソラトの目と鼻の先で、かけがえのない相棒の存在が踏み潰された。
熱も、音も、全てが遠のく。
――心が、真っ黒な闇に塗られていく。
世界が黒く染まり、精神が砕け、荒んでいく。
力のない己への激しい怨嗟。
約束も果たせぬまま、大切な存在をみすみす死なせてしまった無力さへの狂気的な怒りが溢れ出る。
「あああ……あああああああああッ!!!!」
ソラトは正気を失った獣のように咆哮し、何度も、何度も拳をアスファルトに叩きつけた。
爪が割れ、皮膚が裂け、血が吹き飛び、骨が軋もうとも関係ない。
己の体を壊し続けることでしか、胸を焼く激痛と罪悪感に耐えられない。
底なしの絶望が、ソラトの心も、存在も、すべてを黒く塗りつぶしていった。
♢♢♢
オメガはナイトファングの生み出す「悪夢」の深淵に呑まれ、大地に伏していた。
ナイトファングの凶眼から伸びる紫の奔流が、絶望に身を捩るオメガの精神から膨大なエネルギーを吸い上げ続けている。
それを見上げ、怪しく口角を吊り上げる男。
「イ・レーヴォ・ゲネス……」
大っぴらに姿を現した白の作業着姿の男は、エネルギーを蓄え続けるナイトファングを見上げ、満足げにその言葉を漏らした。
次の瞬間――白日の下に晒された男の頸元へ、一振りの鋭い刃が閃光となって振り下ろされた!
ザッ!と男は身を翻して刃を回避。不敵な笑みを消し、攻撃を仕掛けた者を冷たく睨みつける。
「皇后様の元へ向かう途上であったが……貴様、何者だ?」
刀を構え直したのは、ムナカタだった。
皇后救援へ急ぐ最中、この不審な男の存在と不気味な気配を察知し、急行してきたのだ。
ムナカタは鋭い刃の切先を真っ直ぐ男の胸元へ向け、周囲の空気をピンと張り詰めさせる。
「ソラト殿と似た風貌をしておるが……纏う気は禍々しさそのもの。貴様が件の『怪物使い』……いや、『怪獣使い』だな。此度の災厄、全て貴様の仕業だと言うのなら、容赦はせん!」
「マ・ドゥーク……ニンゲン……」
滅びろ――そう断片的な言語を発した男は、地面を蹴ってムナカタへ襲いかかった!
白刃を構えるムナカタに対し、男は一切臆することなく、素手による凶暴な打撃を繰り出してくる。
ムナカタは神功皇后の下で長年鍛え上げた動体視力と体術で攻撃を紙一重でかわしていくが、男の腕力とスピードは人理を超越していた。
――ガツンッ!!
激しい打撃の応酬の末、強力な手刀によってムナカタの刀が弾き飛ばされ、遠くの草むらへ突き刺さる。
武具を奪われ、一気に劣勢へ追い込まれるムナカタ。
「ソノ、イノチ……オマエタチハ……イケニエ……イ・レーヴォ・ゲネス……」
「生贄……だと!?」
この男を野放しにすれば、この国も、民も、全てが滅ぼされる!
刀を失おうとも、ムナカタの胸中に静かに燃える闘志の炎が消えることはなかった。
ムナカタは両拳を強く握り締め、力強く構え直す。
皇后を守るため、誇り高き仲間のため、そして逃げ惑う民のために――ムナカタは単身、怪異の男へと立ち向かっていった。
そして、オメガは――。
巨体は大地に横たわったまま、ぴくりとも動かない。
オメガの光は完全に途絶え、胸のカラータイマーは漆黒の闇に染まりきっている。
しかしナイトファングは、倒れたオメガに留めを刺そうとはしなかった。
ただひたすらに、オメガの魂から湧き出る絶望のエネルギーを貪欲に吸い上げ続けている。
このままでは、オメガはすべての命を吸い尽くされ、力尽きて死んでしまう……!
だが、恐ろしい怪獣と闇の波動を前に、ダイゴたちには手出しをする術がない。
ただ一人――神功皇后を除いては。
「ダイゴ。あなたはかぐやの元にお行きなさい」
「そんな……! 皇后様は……!?」
「私は、あの巨人の救援に向かいます」
「無茶です! あんな恐ろしい化け物の前へ行くなんて……!」
「私にはこの地を守る者として、そして代々受け継がれてきた責任があります。さあ、あなたはかぐやを……ソラト殿との約束を違えてはなりません!」
「っ……! ……はい! 皇后様、どうかお気をつけて!」
「かぐやを頼む」と言い残して戦いへ向かったソラトとの約束を果たすため、ダイゴは断腸の思いで頷き、皇后とは逆の方向へと走り出した。
一人残された神功皇后は、一歩一歩、倒れるオメガの元へと歩み寄る。
見上げるほど巨大なナイトファングと、光を失った巨人の姿をその目に映し、神功皇后は腹の底から決意と信念の咆哮を上げた。
「我が地でのこれ以上の狼藉……見過ごすことはできません!」
神功皇后は両目を強く閉じ、代々受け継がれてきた古代の霊力を解放した。
『真実を見る眼』――皇后の霊視が、悪夢の深淵に落ちたソラトの心の深層へと届く。
視えたのは、ナイトファングの悪意によって侵食され、黒く塗りつぶされかけたソラトの魂だった。
「立ちなさい、ソラト!」
神功皇后の声が、現実と悪夢の境界を突き破って響き渡る。
「あなたはあの小さき者……かぐやを守ると言ったはず! なら立ちなさい! 男が一度立てた誓いを、容易く破ってはなりません!!」
――ピクッ。
皇后の叫びに呼応するかのように、倒れていたオメガの指先が、ほんの少しだけ……力強く動いた。
「ヨケイナ……コトヲ……!」
それを見た男が、顔に激しい怒りを滲ませる。
邪魔者である神功皇后を真っ先に始末しようと狙いを定める男だったが、ムナカタがそれを逃さなかった!
「皇后様の邪魔はさせん!相手は俺だ!」
ムナカタの力強い叫びとともに、執念の拳が男へと叩き込まれる――!
――ガシィッ!!
しかし、男はその拳をいとも易々と片手で受け止めた。
生身の人間とは地力が違いすぎる……!
ムナカタが驚愕に目を剥く隙に、男は容赦なくその首元を締め上げた。
そして、倒れたオメガへ必死の激を飛ばし続ける神功皇后を不快そうに睨みつけると、ナイトファングへ向けて怒鳴りつけるような言葉を放つ。
「マ・ドゥーク! ソノニンゲン……ケセ!」
ナイトファングは完全に男の支配下にあった。
命令を受けた悪夢魔獣は、神功皇后を押し潰さんと巨大な腕を高く振り上げる。
死の危機が目前に迫る――しかし、神功皇后の瞳に怯えの色は一切なかった。
「皇后様!!!」
締め上げられたムナカタが血を吐くような声を張り上げた、まさにその時!
――ドォォォォンッ!!
天を切り裂き、上空から絶え間ない火弾の雨が降臨した!
頭上から直撃した無数の火球がナイトファングを激しく爆炎で包み込み、その巨腕を力ずくで止め、怯ませる!
さらにその一発が男のすぐ足元へ着弾。男は咄嗟にムナカタの手を放し、空中で身を翻して跳躍、不機嫌そうに警戒の構えを取った。
拘束を脱し、荒い息を吐きながらムナカタが空を見上げる。
「あれは……!?」
暗雲を切り開いて舞い降りてきたのは――大きな翼を広げた、真っ赤な炎の威容を誇る美しき大鳥の姿。
赤き鳥は、避難するレナやかぐやたちの頭上を雄大に旋回し、その神聖なる大いなる姿を大衆の前に現した。
「今度はなんや……!? また化け物が出おったで……!!」
頭を抱えて声を上げるホリイ。
だが、レナの手の中にいるかぐやの瞳には、はっきりと『希望の光』が宿っていた。
空を舞う巨体は敵ではない。
四神が一つ・朱雀の化身たるメテオカイジュウ――その名も!
『ヴァルジェネス!!』
かぐやは声を限りに、その名を呼んだ。
『お願い! ソラトを助けて!!』
――カァァァァンッ!!
かぐやの悲痛な叫びに、まるで「任せろ!」と応えるかのように。
空を羽ばたくヴァルジェネスは、清廉な鐘の音のような美しい啼き声を響かせ、一気に急降下。全身に全身全霊の烈火を纏った超高速の突進が、ナイトファングの巨体を横合いから猛烈に吹き飛ばしたのだった!
舞い降りた朱雀・ヴァルジェネスが地に足をつけ、翼を大きく広げる!
火、水、風、土――あらゆる自然のエレメントを怒涛のごとく解放し、全力の連続攻撃でナイトファングを圧倒し始めた。
目の前で繰り広げられる圧巻の戦況、そして何より思い通りに運ばない事態に、男――ゾヴァラスは激しい困惑に包まれていた。
綿密に組み上げた計画の綻び。
湧き上がるのは、身の内から激流となって溢れ出す猛烈な苛立ちと怒り。
(バカな……ゲネスの手によって造られたこの私に……感情など、存在し得るはずがないのに……!?)
胸を焼く異物のような不快感に歯噛みする男。
その時――静かに佇む神功皇后が、男の破綻した内面を慈しむような、あるいは見抜くような眼差しで捉えた。
「あなたは……!」
内なる存在の根本を見透かされ、得体の知れぬ神威に侵されたと感じた男は、顔を一層歪めて激昂する。
「―――ッ!」
男が邪悪な念を込めてヴァルジェネスを鋭く睨みつけた!
直後、優勢に攻めていたヴァルジェネスの動きがピタリと鈍くなる。攻撃の手が止まり、頭を抱えて苦しむように後退りを始めると、ついには地に膝をついてしまった。
その眼光の不気味さに、神功皇后は瞬時に事態を察した。
「いけません! あの男を止めなさい!!」
皇后が叫ぶようにムナカタへ告げる。
男は怪獣の精神を直接汚染し、意のままに操る能力を持っているのだ。このままでは赤目様――ナイトファング同様、ヴァルジェネスまでもが闇の傀儡へと成り下がってしまう……!
だが、その窮地に――泥を蹴って跳躍する者たちがいた!
「この野郎ーーーーーッ!!!!」
突如、横合いから飛び出してきたシンジョウが、男の不意を突いて全身で襲いかかる!
激しく地面を転がり、もみ合う二人。
しかし、圧倒的な肉体性能を誇る男は、即座にシンジョウの襟首を掴み上げ、豪快な巴投げで投げ飛ばした!
受身を取る余裕もなく地面へ叩きつけられたシンジョウ。男は立ち上がり、冷酷な瞳でシンジョウへ向け、引導を渡すべく拳を振り上げる。
だが、またしても人間の執念がその邪魔に入った!
「やあああああーーーーーッ!!!?」
大声を上げて駆けつけたヤズミが、命がけの突進で男の胴体へダイブ!
「ぐッ……!?」
ヤズミは全身の筋力を振り絞り、男の腰にしがみついてその動きを強引に封じ込めた。
「よくやった! シンジョウ、ヤズミ!!」
男がヤズミを力任せに投げ飛ばす――だが、その一瞬の隙を見逃さず、体制を立て直したムナカタが肉薄!
刀を捨てた武士の頭(かしら)の、執念を秘めた強烈な正拳突きが、男の頬を鋭く撃ち抜いた!
――ガァンッ!!
「クッ……!!」
次から次へと立ち塞がる人間たちの乱入。
絶え間ない邪魔により、男はヴァルジェネスへの精神支配を完全に中断せざるを得なくなった。
洗脳の呪縛から間一髪で逃れたヴァルジェネスは、再び咆哮とともに再起!
翼を力強く羽ばたかせると、竜巻のように吹き荒れる暴風でナイトファングの巨体を吹き飛ばし、連続の火球を浴びせて追い詰めていく。
更に神功皇后の放つ神聖な霊力が辺りを清め、ナイトファングを縛る暗黒の洗脳までもが揺らぎ始めていた。
「ニンゲンメ……!!」
男――ゾヴァラスの脳裏に、憎悪に満ちた過去の記憶が鮮明に蘇る。
そうだ、あの時もそうだった。
憎きオメガという存在のみならず、彼の傍らにいた矮小な「人間たち」に邪魔をされたからこそ、地球の支配も、滅びしゲネスの完全復活も阻まれたのだ……!
「イ・レーヴォ・ゲネス……ジャマハ……サセナイ……!!」
ムナカタ、シンジョウ、ヤズミの三人に包囲されながらも、ゾヴァラスの瞳に宿る邪悪な執念が消えることはない。
散っていった滅亡の遺産――『ゲネス』の意思をその身に宿す最後の生き残りである男……〈ゾヴァラス〉にとって、この悲願だけは譲れないのだ。
その渦中、肩で息を吐くシンジョウが、横たわる光の巨人へ向けて腹の底から叫んだ。
「おい!いつまでお寝んねしてる気だ!立ち上がれ!ウルトラマンなら立ち上がれ!」
シンジョウの声援に引き引き寄せられるように、ムナカタ、ヤズミ、そして神功皇后も声を揃える!
「ソラト殿!」
「立ってください!」
「ソラト!」
諦めない人間たちの、魂を揺さぶる叫びがオメガの元へ届く。
そこへ大慌てで駆けつけてきたホリイ。その背後にはレナ、そしてダイゴの姿があった。
ダイゴの両手の中には、小さな光を放つあの存在――かぐやがいた。
『ソラトーーーーーーーーッ!!!!』
かぐやの全身全霊の叫びが、暗雲を突き破り、地に伏したオメガ――ソラトの深く冷たい心の闇の底へと、真っ直ぐに届いていった。
な、長い…超かぐや姫!までに行くのが長い…!
江戸と昭和の話は書きたいですね。
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