「よし、解体するぞ」
「はい!」
「しっかしこの恐竜、名前はないんですか?」
するすると恐竜をバターのように切りながら、師匠に問いかけた。
解体は大雑把だった。内臓は肝臓と心臓とモツ以外は食えないらしい。モツは洗うのが面倒、と師匠が言っていたが、後で保存庫に入れておくらしい(虚空からものを取り出すことのできるアレのことだ)。保存庫は時間が経たないので腐ることはないらしい。便利だなぁ。
「名前はないな。ここは迷宮の奥地。誰もこの領域には到達しなかったから、誰も知らん魔物だ。本当はギルドの連中がつけるんだが、第一発見者がつけても良いことになってる。でも儂はつける気が起きない。ザコだからな」
「アレがザコ……」
「まったく、張り合いがないわい。強者の憂鬱じゃの」
「はぁ……」
アレがザコってことは、相当強いってことだな……某国がまたミサイル打ってきたら、怒って滅ぼしちゃうんじゃないかしら。
今更だが、師匠を恐ろしいと思う。同じ日本人(片方は元だが)だから安心してるってのはある。
けれど、その気になれば一瞬で僕のことなんか殺せるんだ。快楽殺人鬼じゃないだろうから、無駄に殺すってことはないだろうけれど……。
それでも、異世界は過酷だって思う。小説を読んでてもそう思った。小説の通りの異世界なのかは知らんが、日本みたいに戦争が起きてない国の方が少なかったかったり、冒険者も命を落とす。スラムがあり、殺し合いなんて日常茶飯事だ。
師匠はそんな世界を生き延びてきたはずだ、一万年も。敵対者には容赦しないだろう。
機嫌を損ねないようにしないとな。
そこまで思って、まだ師匠を信用してないことに気がついた。ここまでしてくれてるのに……。
でもそれは当たり前か、まだ信用できるか分からない。
じっくり見定めていこう。
解体作業が終わり、寝ることになった。
師匠は結界を張り、その中で布団を敷いた。最初は布団かぁ、ベッドじゃないんかと思ったが異世界に布団?とも思った。
「この布団は……再現したんですか?」
「おっ。よくわかったな、記憶を頼りに自分の国で作らせたんじゃ。重宝しとる。あまり好まれないが、お客さん用もある。それ、自分で敷け」
「はい、師匠」
……眠れない。
体の内部が熱くて苦しい。
まるで熱した鉄の塊を飲んだかのように、お腹の中が熱い。
(食中毒か?)
そう思ったが、熱したシチューを食べて食中毒は無いだろう。ストレスかな。
「ハル、起きてるか?」
「師匠……」
「実は言っておらなんだが、魔物の肉を食べると魔力を得ることができる。それも強い魔物であればなおのこと、じゃ。シチューに入ってた魔物の肉は相当強い魔物じゃ。外の魔物と比べるとのう。じゃからお前の体には今、魔力が生まれている」
「魔力……!」
そうか、現代日本人には魔力なんてない。あったら誰かしら魔法を発現していただろう。
だから僕の体には魔力がなかった。それが今、生まれようとしている。
それは喜ばしいことだった。
「数時間したら収まるから、耐えろ。それも修行の一つじゃ」
「はい、師匠……」
そして3時間後、お腹の熱は収まり、ようやく寝ることができた。
朝起きて、ご飯を食べて、場所を移動することになった。修行は夜だ。
日本に繋がってる穴を探すことになったが、一向に見つからない。
すぐに見つかるとは思ってない、けれど、本当に見つかるのか、一万年生きてる師匠ですら、初めてのことらしい。
そうなると、希望は薄いんじゃないだろうか……。
夜、ご飯を食べた後、修行が始まる。
「まず、魔法使いには向き不向きがある。属性によってじゃ。火、水、風、土、光、闇、時空属性がある」
「はい」
「それをまず測る、一個一個、試していこう」
「わかりました」
試した結果、僕は時空属性に適性があるのがわかった。他は不得意だ。
「うーむ、時空か……」
「何か問題が?」
「時空は攻撃に向いておらんからな。儂の保管庫も時空属性なのじゃが、どっちかというと生活に便利とかそういうものじゃな」
「そんな……」
「あと、魔力を持つものは固有魔法を得ることができる。ひとりひとり違う魔法じゃ。属性に縛られることはない。奥の手だからみんな秘密にする。お前も儂以外には黙っておくんじゃぞ」
「固有魔法は一人につき一つなんですか?」
「良い質問じゃ。固有魔法を複数持っている人もいる。ちなみに儂もそうじゃ。その固有魔法を調べよう」
「どうやって?」
「しばし待て」
そう言って師匠は僕の額に手を置いて、目を瞑った。魔力があるお腹ではないんだな、と漠然と思った。
「わかった」
「どんな魔法なんですか?」
「魔道具を作り出す魔法じゃ」
「魔道具……」
なんか……しょぼくないか?てっきり敵を瞬殺する魔法かと思った。
「それってどうなんですか?」
「珍しい、というより初めてじゃな、そんな魔法。望んだ通りの魔道具を作り出すことができる。が、注ぎ込んだ魔力量に依存する。すごい魔道具を作りたければ、それだけ魔力を消費する。便利な魔法じゃとは思うが、今の魔力量じゃ宝の持ち腐れじゃな」
「そうですか……」
まぁ、ものづくりは昔から好きな方だ。アイデアが湧けば強力な魔道具を作ることもできるだろう。だが、今は我慢だ。
「今、僕はどれだけの魔力量を持ってるんですか?」
「この世界の赤ちゃんぐらいじゃの」
「赤ちゃん……」
「元々魔力を持ってなかったんじゃ、そんなもんじゃ。1日でそれだけの魔力量を得ることができるなんてそうそうないんじゃぞ?外の魔物で得られる魔力量なんてほんの僅かじゃ。一年も経てば一般魔法使いと同じぐらいの魔力量になるはずじゃ」
「うーん……」
「まぁ、気長にの」
「わかりました」
気長にと言われても、早く帰りたい。あの魔物の肉は精力も回復するのか、性欲が危ないのだ。
師匠がいるから一人で済ますこともできないし……早く帰りたいな。
「ところで師匠はどれだけ固有魔法を持ってんですか?」
「儂?儂か」
「はい」
「儂は9つじゃ」