そして、50年が経った。
魔道具、音楽くん(一度聞いたことある音楽を記憶から再生してイヤフォンから聴けるやつ)をつけながら穴を探す。
これまで10数個見つけたが、どれも日本には繋がっていなかった。
一方通行ではないと知れたのは良かったが、日本につながっていないなら意味がない。
魔力は……外の世界では人間の中では最高峰となった。
僕もおじいちゃんだ。顔にはシワができ始め、髪も白くなった。
だが魔力で寿命が伸びているので、まだまだ生きるだろう。
師匠が持っている本は全部読み終えてしまった。何冊読んだだろう?分からない、数えていないから……。貴重な暇つぶしが無くなってしまったが、読んだことのある本を師匠と感想を言い合うのは楽しかった。
特に……他にいいことはない。師匠とは奇妙な連帯感が生まれ、アホみたいに徒労な穴探しも集中してやっていた。
穴から誰かが落ちてくることもなかったし、何か物が落ちてくることもなかった。
他にやることがない。無言で穴探しする苦行。もう外の世界も、日本に対する思いも若干風化していた。
刑務所よりはマシ、だが、希望がないだけ刑務所の方がマシかも知れない。いつかは出られると言う希望が無い。ここで骨を埋めるかもしれん。
性欲はほぼない。あんだけ悩まされていた衝動はなくなり、思案にエネルギーを使うようになった。
日本に帰れない自分にとってほとんど無駄なことだ。だが別に悪いことでは無い。歳をとったら誰でもすることだ。
ああ、日本か、執着心も少なくなってきた。が、まだ残っている、燻っているものもある。
帰りたい。
そして150年が過ぎた。結局日本への穴は見つからなかった。
そして僕に、寿命が来た。
「師匠……」
「ああ」
「目が見えません……」
「ああ、ここにいるぞ」
「良かった……」
もう僕は飯を食べることもできなくなっていた。痩せ細り、水だけ飲み、あとは死を待つばかりだ。
「ごめん、なさい」
「なぜ謝る」
「150年もかけて、結局見つからなかった、貴重な時間を無駄にさせてしまいました、ごめんなさい……」
「いいんじゃよ、儂はまだ長生きするからな」
「そうですか、良かった……」
とくん、と言う心臓の音が聞こえた。多分、もうすぐ死ぬだろう。
「師匠、僕は楽しかった。この150年、悪いことはなかった。辛かったことはあったけれど、楽しかったです。師匠と会えて良かった……」
「うむ、儂もじゃ」
「僕が死んだら、骨は適当に埋めて、師匠の人生を送ってください、穴は諦めましょう」
「うむ、わかった」
「最後に言い残すことは、あるか」
「そうですね……」
「師匠と、この世界で旅をしたかったですね、僕のわがままで、それはできなかったけれど……」「……」
「もうそろそろかな……さようなら、師匠、お先に……」
「ハル!」
「あ…りが……」
「ハル……」
「……」
そして儂は、固有魔法を使った。
そいつは、不思議なやつじゃった。同じ日本人なのに、ちょっと違うような……。
弟子を取ったの生まれて初めてじゃ。弟子希望のやつはたくさんいたが、どいつもこいつも才能がない。鍛え上げようとする気持ちがわかなかった。
ハルに対してもそう感じた、初めの頃は。しかし固有魔法をうまく使い、たった一年で魔物を倒した時は驚いたものじゃ。戦うと言うことを学ばせようとしただけで、勝つとは思わなかった。逃げなければ100点、それでいいと思っていたのじゃが……。
同じ同郷のよしみとして弟子にしたが、弟子にして良かったかもしれん。
魔道具の有用性にも驚いたし、何より魔法を開発したり、無詠唱でここまで使える奴が現れるとは、思わなかった。こいつの頭はどうなっとるんじゃ?
そして何より、こいつは優しくて熱い奴じゃ。一度決めたことを貫く強さ。そして、儂の痛みに共感する優しさ。こいつは二つとも持っておる。
その美点はハルの印象を良くした。まぁ、性欲に振り回されているのが玉に瑕じゃが……。
それでもこの150年間、楽しかった。こんなに楽しいのは久しぶりじゃ。弟子を持つと言うのはいいのう。
儂は遺書を書きながらそう思った。
ハルにこれから使うのは、儂の全てを誰かに全て譲渡する魔法じゃ。これを使うと儂は死ぬ。
魂は日本に帰れたらいいが……まぁ、そこは運次第じゃな。
こいつは旅をしたいと言った。もう儂はいなくなるが……。
弟子の最後の願いを、叶えてやりたくなってしまった。
ハルよ、世界を見よ!
世界最強を継げ!
お前と出会えて良かった!さらばだ!
そして儂の意識は途絶えた。
「ん……」
気がつくと、目を覚ましていた。死後の世界か?と思ったが、まだ迷宮の中だ。
「あれ……?」
声がしわがれてない、それどころか体から活力が生まれている。
「師匠……?」
師匠は探してもどこにもいなかった。枕元に手紙が置いてあるだけだ。
……なにか、嫌な予感がする。
意を決して手紙を読む。
「ハル、ここでお別れじゃ。
儂の固有魔法を使って全ての力、財産、知識をお前に与えた。
儂はこの魔法を使うと死んでしまう。だからこの手紙を読んでいる時、儂はもうこの世にいない。
でもそれでいいのじゃ、一万年も生きるのは長過ぎた。死ぬにはちょうどいい日じゃ。
ハル、旅をしたいと言っていたな。儂はもういないが、お前はこの世界を楽しめ!
儂は楽しかったぞ!力を持っているし、頭も悪くはなかったからな。
日本への心残りはあるだろうが、それは最後にしよ、自分の夢を叶えるのじゃ!
ではな、知識には制限をかけさせてもらった。なんでも知ってたらつまらないからのう。言葉は使えるが、知識は必要な時に必要なだけ与えられるようにしておいた。
この150年間、楽しかった!世界最強の弟子として、胸を張ってこの世界を楽しめ!
それではな!一番弟子ウミ・ハルよ。
永遠の旅へようこそ!
追伸 儂の作った国がある。名前をカゼと呼ぶ。その国の知識は特に制限をかけてもらった。旅の途中で寄ってくれ!きっと驚くぞ!
もしカゼの今の王が愚かだった場合、儂の名前を出して殺してくれ。ではな」
「師匠……」
涙がとめどなく溢れてきた。師匠はもういない、いなくなってしまった。
親よりも長い間そばにいてくれた師匠、師匠がもういない。死んでしまった。
「遺骨も残らないなんてさ……」
墓をつくろうかと思ったが、魔物に壊されてしまうだろう。
僕はその場で手を合わせて、祈った。成仏できますように、と。
旅か……遺言の通り、してみよう。元からこの世界に興味はあった。
頑張るよ、師匠。
ありがとう。
時空魔法の転移を使って、この迷宮の入り口に戻った。