「おかえり」
守衛のような人に挨拶された。おそらく迷宮に犯罪者や冒険者以外が入らないようにしているのだろう。
まいったな、ギルド登録をしていない。これで証明書なんかを見せろって言われたら違法になってしまう。
「どうも」
「見たことない顔だな、ハーフエルフか?ずいぶん長く潜ってたんだな」
「え?ハーフエルフ?」
ふと耳を触るとちょっと尖っていた。師匠ほどではないが……。
おそらく人間の僕とエルフの師匠が融合した結果、ハーフエルフみたいな感じになったのだろう。
「なんだ、自分の種族もわからないのか?」
「あはは、すみません、ずいぶんと寝不足で、ボケてたみたいです」
「ああ……急いで帰ってきたんだな。宿屋に行って早く寝な」
「ありがとうございます、そうします」
宿屋に行くにしても、お金がない。もちろん師匠のお金はあるが、いざって時以外に使いたくない。なるべく。これは師匠のお金であって僕のお金ではないから、師匠の国に全額寄付しようと思っている。
もちろん命の危険があれば使うが。
とりあえず冒険者ギルドに行こう……。
道端の人に冒険者ギルドへの道を聞いて、たどり着いた。結構大きいな。しかも三階建てだ。
このイル迷宮王国はたくさんの冒険者が迷宮目当てにやって来るから、その分大きいのだろう。
日光に久しぶりに浴びたからか、なんか快活だ。やる気が出る。
道すがら剣や杖を持った冒険者らしき人たちが多かった。中には無手の人もいる。頭髪を剃っていたからおそらくモンクなのだろう。
髪の毛の色は多種多様だった。流石にピンクとかはいなかったが、緑色の髪の女性を見たときはびっくりした。
そして冒険者ギルドに入る。テンプレとかあるのかな?
「すみません、冒険者登録をお願いします」
「かしこまりました」
受付嬢のお姉さんに話しかける。髪の毛は綺麗な水色で、身長は低かった。
「それではこちらにご記入を、あと登録料が銀貨一枚です」
「銀貨……分かりました」
早速師匠のお金を使ってしまうが、必要経費だ。後で稼いだら補填しておこう。
職業に魔法使いと書き、得意魔法に時空魔法と書く。
本当はどの属性の魔法も高いレベルで使えるようになってるのだが(そんな感覚がある)、目立つから一種類にしておいた。
「時空魔法の魔法使いですね、どれぐらい扱えますか?」
「一応、上級の時空魔法を扱えます」
「上級!?」
「ええ」
なんかまずかったかな。
「すみません、取り乱しました。冒険者の説明をしてもよろしいですか?」
「お願いします」
話を聞くと、初級、中級、上級のランクがあり、それぞれ10段階の段階がある。初級の1から始まり、上級の10で終わる。例外として超級のランクがあるらしいが、これは余程の力を持ってないとなれないし、世界で簡単に数えられるぐらいしかいないらしい。
依頼ボードには、初級の5以上の方とか、結構細かく書かれているらしい。へぇー。なんかハードなハローワークみたいだ。
「ん……?」
何やら別の窓口が騒がしい。聞き耳を立てる。
「だから、保管庫が使える魔法使いはいないのか?マスター」
「だーからいないって言ってんだろ!どんだけの冒険者がこの国に来てると思ってんだ!しかも依頼料は高額だし、払えんのか?順番を待つんだな」
「しかし、一年待ちというのは……そんなに待てるわけがないだろう」
「迷宮の奥地まで潜り込もうとする奴らは後を経たん。干し肉じゃ10日が限界だしな。それに荷物持ちがいても水の問題がある。だから時空魔法使いが必要なのはわかる。けれどな、時空魔法使いで上級の魔法、保管庫が使える魔法使いがどれだけ少ないか分かってんのか?魔法使いの1000人に一人レベルだぞ」
「そんなのはわかってる!」
「なら諦めるんだな」
「あのー」
「なんだ!?」
受付のお姉さんが話に入り込んできた。
「今、保管庫が使える時空魔法使いさんが冒険者登録に来ましたけど……」
「私たちは『イバラの傷』、十人ほどで活動しているクランだ」
「はぁ……僕はハルといいます。時空魔法使いです」
「私はリーダーのアリィ。剣士だ。こっちの男は同じ剣士のグラフ。そして火魔法使いのセリルだ」
「よろしくお願いします」
「ああ」
「どうも……」
「よろしく頼む!」
キリッとした赤髪のほおに傷がある美人なアリィさんに、黒髪のちょっと表情が鋭いグラフさん、そして気弱そうな茶髪のセリルさんが僕によろしくと言ってくれた。
十人と言っていたが三人しかいない。まぁクランというならば、分かれて行動することもあるのだろう。
「ハーフエルフは初めて見る。私は25歳、君は何歳だ?」
「僕ですか?僕は……」
いきなり174歳ですって言うのも憚られるな。精神年齢は若返ったが、この世界でハーフエルフの若者の年齢がわからない。しかたない、この世界に来た時の年齢にしよう。
「24歳です」
「24だと?エルフは100歳が成人年齢じゃなかったか?それまで里で暮らすと聞いたことがあるぞ」
「いえ……僕は里には暮らさなかったので。親もなく、困っていたところを師匠に拾われて、と言う感じです」
「ふーん、そんなことがあるのか。まぁ孤児は多いからな」
グラフさん、なんか失礼なやつだな……あんまり話したくなくなってきたぞ。
「変に勘繰って悪かったな」
「いえ、気にしていませんから」
「そうか」
お、謝ってくれた。意外といいやつなのかもしれない。
「早速だが、荷物持ちの依頼を受けてくれないだろうか?期間は一ヶ月、金貨十枚支払う」
「金貨十枚……」
「少ないか?」
師匠の知識によると、金貨一枚あれば一年は暮らせるらしい。日本円にすれば300万円くらいだ。それが10枚だから3000万円……。
どう考えても破格だ。冒険者はそんなに儲けられるのか?
「高くないですか?一枚でいいですよ」
「一枚!?そんな安いわけがないだろう!」
アリィさんがびっくりして怒りだしてしまった。相場がわかんないんだよ……。
「すみません、でも取りすぎかなと思って……間をとって5枚でいいですよ」
「そんなに安くていいのか?助かるが……」
「アリィ、こう言ってるんだ、5枚でいいだろう。あまり使いすぎると副リーダーに怒られるぞ」
「まぁそうなんだが……」
セリルさんは物思いに耽っているのか、あんまり喋らない。魔法使いってこんなにぼんやりしているのが多いのかしら。
「では、5枚で、よろしくお願いします」
「ああ、では早速食料を調達してきてもらっていいか?お金は出す。あと水は……」
「あ、水魔法もある程度使えるので大丈夫です」
「そうか?優秀なんだな……」
そう言ってアリィさんは笑った。美人が笑うと花だな。グラフさんはあまり面白くなさそうな顔をしている。
「銀貨5枚、多いかもしれんが渡しておく。一ヶ月の分の食料を頼む。余ったら懐に入れてもらっていい」
「わかりました」
「明日の朝、ギルド前で集合でいいか?」
「はい、それでは」
三人と別れて市場に行く。日本で見た野菜とは少し違っていたが、似たようなものが多かった。
にんじんもどき、玉ねぎもどき、じゃがいももどきをあるだけ買って、次はパン屋さんに行く。
八百屋さんのおっさんからはすごい喜ばれた。おまけにサービスとナスもどきを貰った。
「ここか……」
パン屋さんに着いた。パン屋はいくつもあったが、どうせなら一番高いパンを買おうと思ったのだ。それだけのお金はあるし、どうせなら美味しいものを買いたい。
「こんにちは……」
そう言って中に入る。
「いらっしゃいませ」
白いコック姿の店員が現れる。店内を見渡すと、何度も何度も食べたことのある、見覚えのあるパンがあった。というかこの店のパンは、全て食べたことがある。
そうか……師匠はこの店で買っていたのか。
「この店にあるパンを全部ください」
「ああ、いつもありがとうございます」
「いつも?」
「あ……すみません、他のお客様と間違えてしまいました。何故でしょう?面影が似ていたからかもしれません」
「……」
「袋に入れますか?」
「いえ、保管庫待ちなので」
「おお……」
感慨深そうに店員はそう言った。おそらく師匠のことを思い出しているのだろう。
「いくらでしょうか?」
店員から言われたお金を支払い、一つづつ保管庫に入れていく。
「またきます。ありがとう」
あとは調味料を複数個買って、宿屋を探した。
残ったのは銀貨一枚だけど、なんとかなるだろう。
貴重品は保管庫の中だし、盗まれる心配もない。
銀貨100枚で金貨1枚分だから、およそ3万円分だ。日本でも3万円あったらいいホテルに泊まれる。
ということで、宿屋に泊まり(食事付きで3日分銀貨一枚だった)、食事を食べ、寝ることとする。
……硬いベッドに横たわりながら、色々考える。保管庫から布団を取り出し、地面にひいて、寝転ぶ。やはりこっちの方がいい。迷宮で寝泊まりしてもいいが(金もかからないし)、夜迷宮は閉じられているので、入れない。もちろん迷宮から出ていくことはできるのだが……。守衛が立っているから、無理に入るのもな、と思った。
一人で寝るのは久しぶりだ。孤独……まぁ、寂しさはほとんど感じない。
この異世界にやってきたんだな、という感じもあれば、日本にもうおそらく帰れないだろうという気持ち。それにこれからやっていけるのかという不安……。
あまりいい気分で寝られないだろうな、と直感的に思った。