「締め切りまであと三時間! 描け、描くのだ北斎! ファラオたちの二の舞など断じて許さん! 我らが提示するのは、究極の創作……『ブーディカの母性溢れる体内探訪記』だ!!」
「いよっ! 締切間際のこのヒリヒリ感、たまんねえねぇ童子! 筆が乗ってきたぞ、墨汁どばどばで描き上げてやるから覚悟しねぇ!」
カルデアの執筆部屋にて。
毒舌童話作家ハンス・クリスチャン・アンデルセンと、葛飾北斎(とアビゲイルのインクを借りてテンションが上がっているお栄さん)が、狂気的な速度で原稿用紙を黒く染め上げていた。
二人もまた、カルデアに蔓延する『ハジケ粒子』の恐ろしさを完全に失念していたのである。
――ズギャギャギャギャギャ!!
「な、なんだってー!? 今度はアンデルセンと北斎の同人誌原稿が暴走したってのか!?」
指令室で藤丸立香が叫ぶ!
「警報! 警報! 今度はカルデアの良心、ブーディカさんの体内に史上最大級の『超巨大生体特異点』が発生しました!」
ダ・ヴィンチちゃんの悲鳴が通信画面に響く!
「な、なんですってーッ!? ブーディカさんの体内……!? ご飯を作ってくれるブーディカさんの胃袋がピンチなんて、カルデアの食卓の存続に関わります!」
反省文ノート三冊の書き直しを終えたばかりのマシュが、鉛筆を投げ捨てて立ち上がった。
ミクロ化光線を浴びた立香、マシュ、ボボボーボ・ボーボボ、首領パッチ、天の助、ビュティ、ヘッポコ丸の一行は、ブーディカの開かれた口から喉を通り、胃の中へと急降下した!
「うわあぁぁぁぁぁっ!?」
粘液の滑り台を滑り落ち、たどり着いたブーディカの胃の中。
しかし、そこに広がっていたのは……薄暗い酸の海ではなく、なぜかド派手な照明が照らし出す、超巨大なプロレスの**『四角いリング』**だった!
「「「胃の中にリングがあるーーーーーっ!?」」」
立香とビュティの叫びが、広大な胃袋空間に空しくこだまする!
「フハハハハ! よくぞ来たな、カルデアの虫ケラども! そして……ジャンヌ・オルタはどこだぁぁぁっ!?」
リングの中央で仁王立ちしていたのは、マルハーゲ帝国四天王の一人――我流鼻毛真拳の使い手・**軍艦**!
かつてジャンヌ・オルタにボコボコにされた屈辱を果たすため、ブーディカの胃の中に特異点を作り出し、リベンジの機会を伺っていたのだ!
「軍艦! ジャンヌ・オルタは今、新作ゲームの発売日で部屋に引きこもってるわよ!」
ビュティが叫ぶ。
「何だと!? ならば代わりにお前たちを叩き潰し、このブーディカの胃袋ごと破壊してやる! 出でよ、我が新たなる最強の刺客!」
軍艦の手招きとともに、リングのコーナーから姿を現したのは――
無機質で鋭利な骨格、邪悪な紫色のコアを胸に輝かせ、プラモデル特有のランナーから切り出されたばかりのような見事なパーツ精度を誇る骨の魔兵――**『ドゥロースケルトン』だ!
「カチカチカチ……(精密な関節可動音)」
「な、なんですかあのスケルトンは!? ファンタジー系のプラモデルなのに、組み立て精度とポージングの可動域が異様に広いです!」
マシュがシリアスに分析する!
「ふっ……ここは俺に任せてもらおうぬ!『主食の王』たるこの天の助が、あの細っこい骨組みを叩き折ってやる!」
「よし、俺のオナラ真拳も貸してやるぜ! 行くぞ天の助!」
先陣を切ってリングへ飛び込んだのは、ヘッポコ丸と天の助!
「オナラ真拳奥義――『爆炎オナラ砲』!!」
「プルプル真拳――『ぬの拳』!!」
ヘッポコ丸のガスと天の助のぬめり気がドゥロースケルトンに襲いかかる!
……が!
『3mmジョイント・パーツ組み換え防衛陣形!』
カチッ! カチッ!
ドゥロースケルトンは驚異的なパーツ組み換え速度で装備を換装! ヘッポコ丸のオナラを関節の隙間から華麗に受け流し、天の助のトコロテンボディに鋭いプラスチックの拳を突き刺した!
「ぬぬわぁぁぁぁぁっ!? 関節の可動域が広すぎて技がまったく決まらないぬーッ!?」
バツンッ! ドカァン!!
ドゥロースケルトンの見事な可動域から繰り出された『ジャーマンスープレックス』が炸裂!
天の助は胃液の海へ激しく叩きつけられ、ヘッポコ丸も軍艦の我流鼻毛真拳の一撃を受けてリングの外へと吹っ飛ばされた!
「ヘッポコ丸! 天の助ーッ!」
ビュティが悲鳴をあげる!
「ハハハハ! 弱すぎる! これがプラモデルの最新可動域と、俺の軍艦真拳の圧倒的パワーだ! 次は誰だ!?」
軍艦とドゥロースケルトンが勝ち誇る中、ブーディカの胃袋の酸がじわじわと上昇し始める!
圧倒的絶望とカオスが支配する胃袋のリング――はたしてこのピンチを救うヒーロー(ハジケリスト)は現れるのか!?
「ハハハハ! 見ろ、この圧倒的な可動域とパーツ精度を! 貴様らごときのハジケ技など、ドゥロースケルトンのジョイント可動の前には無力! このままブーディカの胃袋ごと、カルデアの連中を消化液の海に沈めてやるわぁぁぁ!」
リング上で高笑いを上げる軍艦。ドゥロースケルトンも関節をカチカチと小気味よく鳴らし、完璧なプロポーションでポーズを決めている。
胃袋の底部からは、じわじわと甘辛いタレの混ざった強酸の胃液が競り上がってきていた。
「くっ……! このままじゃブーディカさんの胃袋が破裂しちゃう! 天の助もヘッポコ丸も一瞬でやられちゃったし、どうすれば……!」
立香が汗を拭いながら叫ぶ。
その時――!
「**ちょっと待ちなさいよーーーーーっ!!!**」
「**余の! 余の晩餐(晩ご飯)を邪魔する不届き者はどこのどいつだーーーっ!?**」
ドゴォォォォォン!!!!!
胃袋の壁を突き破り、炎と桜吹雪のダブルエフェクトとともにリングへ乱入してきた二つの影!
黒い甲冑を揺らし、新作ゲームのコントローラーを握りしめたまま激怒する**ジャンヌ・オルタ**!
そして、華やかな真っ赤なドレスを翻し、空腹で目を血走らせた**ネロ・クラウディウス(ネロちゃま)**だ!
「ジ、ジャンヌ・オルタ!? ネロちゃま!? なんでここに!?」
立香が目玉を飛び出させる。
「当たり前でしょ! カルデアの食堂に行ったら『ブーディカが体調不良で今日の夕飯はナシ』って言われたのよ!? 私が楽しみにしていた特製ハンバーグが食べられない理由が、このタコブツ(軍艦)のせいだって聞いて跳んできたわよ!」
ジャンヌ・オルタが髪を逆立ててブチ切れる!
「左様! 余の美胃を満足させるブーディカの最高級のお肉料理を妨げるなど、万死に値する大罪! 奏者(マスター)よ、余とオルタの怒りの協奏曲(コンチェルト)を見せる時だ!」
ネロちゃまも愛剣『原初に開く帝冠(アエストゥス・エストゥス)』を構え、やる気満々だ!
「フン! 来たなジャンヌ・オルタ! 貴様に負けたあの日の屈辱、今日ここで晴らしてくれるわ! 行け、ドゥロースケルトン!」
軍艦が叫ぶ!
「カチッ!」
ドゥロースケルトンが超絶可動で跳躍し、鋭い骨の拳を繰り出す!
だが、ブーディカのご飯を奪われた二人の「食いしん坊パワー」は、可動域などという概念を遥かに凌駕していた!
「邪魔よぉぉぉぉぉっ!!」
ジャンヌ・オルタが身構え、腰を落として両手を突き出す!
「**波動拳ーーーーーっ!!**」
ズドォォォォォン!!
「「「サーヴァントが格闘ゲームの必殺技を出したーーーーーっ!?」」」
立香とビュティの叫びがハモる!
ジャンヌ・オルタの手から放たれたド派手な漆黒の波動弾が、ドゥロースケルトンを直撃! プラモデルの精密なジョイントパーツが「メリメリッ!」と悲鳴をあげる!
「今だネロ! 上へ打ち上げなさい!」
「任せるがよい! 余の華麗なる足技を見るがよい!!」
ネロちゃまが空中へ躍り出て、美脚をコマのように高速回転させる!
「**竜巻旋風脚ーーーーーっ!!**」
バババババババッ!!
「ぐあぁぁぁっ!?」
旋風脚の連続ヒットで宙に浮き上がるドゥロースケルトンと軍艦!
「さらに追撃! 燃え上がれ余の情熱!!」
ネロちゃまが低い姿勢から、天高く拳を突き上げる!
「**昇龍拳ーーーーーっ!!**」
ズバァァァァァン!!
炎を纏った拳が軍艦の顎を直撃! 宙高く打ち上げられた軍艦とドゥロースケルトン!
「「「完全に某・街頭の格闘ゲームのコンボ技じゃねえかーーーーーっ!?」」」
「仕上げよ、ネロ! 伝説のフィニッシュを決めるわよ!」
「うむ! 余たちの怒りの合体技、受け取るがよい!」
空中で体勢を崩した軍艦とドゥロースケルトンに対し、ジャンヌ・オルタとネロちゃまが背後から急接近! 互いの足を複雑に交差させ、相手の首と腕を完璧にロックする!!
そう、それは某・プロレス漫画における伝説の極限合体フィニッシャー――!
「「**マッスルドッキングーーーーーッ!!**」」
ドガーーーーーーーーーーーン!!!!!
胃袋のリングの中央に、凄まじい衝撃波とともに叩き落とされる軍艦とドゥロースケルトン!
リングは粉々に砕け散り、ドゥロースケルトンは全てのランナーパーツごとに綺麗に分解され、軍艦は白目を剥いて泡を吹いて倒れた!
『K.O.!!』
その瞬間、ブーディカの胃袋内に広がっていた特異点空間がサラサラと光の粒子になって崩壊!
立香たちは無事にブーディカの体内からの脱出に成功したのだった!
【カルデア・執筆部屋前】
「……ふう、無事に全員生還できて良かったよ」
立香が胸を撫で下ろす。
しかし、廊下の空気は絶対零度よりも冷え切っていた。
部屋の入口には、すっかり体調の戻ったブーディカが仁王立ちしていた。その手には、巨大な肉叩き用のハンマーが握られている。
「……アンデルセン。北斎」
笑顔だが、目が1ミリも笑っていないブーディカ。
「ひっ……! 待て、ブーディカ! これは創作の光に導かれたやむを得ない事故であってだな――」(アンデルセン)
「い、いかにも! アタイらはただ、おめえさんの母性を美しく描こうとしただけで――」(北斎)
「**言い訳は一切聞きません!!** 人の体内を勝手に格闘技のリングにするなんて……**今日のご飯は全員抜きで、朝まで廊下の雑巾がけです!!**」
「「ぎゃあぁぁぁぁぁぁっ!?」」
ブーディカの鬼の剣幕とハンマーの威圧感に、毒舌作家と天才絵師が悲鳴を上げて廊下を転がっていく!
……そして、その横では。
「ジャンヌ・オルタさん。ネロさん」
マシュが眼鏡をキラリと光らせ、手帳と「格闘ゲームの規約ガイドライン」を抱えて二人の前に立ちはだかっていた。
「いくらブーディカさんのご飯が食べたいからと言って、他社の有名格闘ゲームの必殺技や、有名漫画の合体フィニッシュ技を無断で使用して解決するのは、カルデアのコンプライアンス的に完全にアウトです!」
「げっ……マシュ……。だって、あいつらが先にプロテクターみたいなプラモデル出してきたから……」(ジャンヌ・オルタ)
「言い訳は無用です! お二人には、後で『パロディ技使用に関する反省文』を提出してもらいます!」
「む、むぎゅ〜〜〜っ! 余は皇帝だぞ!? 反省文など書いたことがないのだぞ〜〜〜っ!」(ネロちゃま)
マシュの説教じみた正義のツッコミの前に、タジタジになって頭を抱えるジャンヌ・オルタとネロちゃま。
「あはは……結局、今回も最後はマシュとお説教で終わりかぁ」
立香が苦笑いする。
「ぬぬ~! 私も反省文を書くぞ~!」
「お前は何も活躍してねえから書かなくていいよ!」
ビュティの冴え渡るツッコミが響き渡り、ハジケとカオスに満ちたカルデアの長い夜は、盛大な笑いとともに幕を閉じたのであった。
(第10話・完!)