「―—大変だ、藤丸くん、マシュちゃん! アトランティス海域に、あり得ない規模の時空歪曲……新たな『特異点』が発生した!」
カルデア中央指令室。メインモニターに映し出された大西洋の海域マップの一部が、鮮やかなパステルピンク色に激しく点滅していた。
ロマニ・アーキマンが狂ったようにキーボードを叩き、ダ・ヴィンチちゃんが眉をひそめてモニターを覗き込む。
「ただの特異点じゃないよ、ロマニ。この魔力波形……いや、狂気波形は……!」
「デジャヴだ……先週、指令室をタコ焼き空間に変えられた時と同じ波形だぁぁぁ!」
ロマニが頭を抱えて叫ぶのと同時に、指令室の自動ドアが「ウィーン」とけたたましい音を立てて開いた。
「フッ……呼ばれた気がして来てやったぜ。大西洋の海底へGOだ!」
黄金のアフロヘアーを眩しく輝かせたボボボーボ・ボーボボを筆頭に、首領パッチ、天の助、そして前回の騒動からすっかりカルデアに居着いてしまったビュティ、ヘッポコ丸、ソフトン、田楽マンの『ハジケ一行』がズカズカと侵入してくる。
「誰も呼んでねえよ! っていうか君たち、なんで当然のようにレイシフトルームの優先使用権を獲得してるの!?」
ロマニのツッコミが炸裂するが、ボーボボは完全にスルー。自分のアフロの中から『極太のシュノーケル』と『ピンクの浮き輪』を取り出し、完璧な海水浴スタイルに着替え始めていた。
「よし、藤丸! マシュ! 大西洋の底に眠る秘宝『伝説のビキニ』を回収しに行くぞ!」
「特異点修復だよ! ビキニ探しに行くんじゃないんだよ!」
藤丸立香が間髪入れずに突っ込む。
「先輩、でも海底調査となれば、レイシフトの準備を急ぐ必要があります。ハジケリストの皆さん……どうか道中は静かにしていてくださいね?」
マシュ・キリエライトが切実な目で訴えるが、すでに首領パッチはレイシフト筐体(コフィン)の中に『大量の入浴剤』を投入し始めていた。
「へへっ、これでレイシフト中もバブルバス気分だぜ! あ、バブの柚子の香り入れておいたからな!」
「コフィンを入浴剤で満たすなアァァァ! 精密機械だぞそれ!!」
立香の怒号が響く中、容赦なくレイシフトのカウントダウンが始まった。
『アンサマブル・プロセス開始……レイシフト……3、2、1……!』
「……う、ううん……」
光の濁流を抜け、立香が目を覚ますと、そこは蒼碧の海が広がる神聖なアトランティスの海域……のはずだった。
「……なぁ、マシュ。アトランティスの海底って、こんなに甘い匂いが漂ってたっけ……?」
「いいえ、マスター。神話の記述にも、このような『カラフルな砂糖の匂い』に関する記録はありません……」
立香とマシュが呆然と見上げると、そこには海底にそびえ立つ一際巨大な構造物があった。
城壁はビスケット、柱は巨大なチュッパチャプス、瓦屋根は色鮮やかな和菓子のアカシオン。
「「お菓子の龍宮城ーーー!?」」
立香とマシュの声がハモる。
「フハハハハ! 見ろ、あれぞ乙姫様が住まうとされる夢の城『お菓子龍宮城』だ!」
天の助が自分の体をプルプルさせながら感動に震えている。
「龍宮城の要素とお菓子の要素をごっちゃ混ぜにするな! アトランティスはどこ行ったんだよ!」
立香が叫ぶ横で、ビュティも頭を抱えていた。
「絶対におかしいわよ! お菓子の城なんてメルヘンなものが特異点なわけないじゃない!」
「まあまあ、せっかく来たんだから中に入ってみようぜ〜」
首領パッチが遠足気分でビスケットでできた大門を押し開けた。
――ギィィィィィ……。
「……え?」
門が開いた瞬間、メルヘンな外観とは裏腹に、城内からドロリとした重苦しい冷気と、血の匂い(※よく見ると濃縮赤ワインソース)が溢れ出してきた。
内部の廊下は暗闇に包まれ、壁からは甘いシロップが血のようにしたたり落ち、天井からは首を吊った(?)巨大なジンジャーブレッドマンがブラブラと揺れている。
「「「お化け屋敷並みのホラー空間じゃねえかーーーーーっ!?」」」
立香、ビュティ、そして通信越しにモニターを見ていたロマニとダ・ヴィンチちゃんのツッコミが同時に響き渡る!
「ひやぁぁぁぁっ! なんだいこのグロテスクなお菓子たちは!? ゾンビ化したクッキーが蠢いてるよ!?」
通信画面のロマニが涙目になりながら叫ぶ。
「外見だけポップにして、中は完全な精神汚染型ホラー空間……! 趣味が悪いにもほどがあるよ!」
ダ・ヴィンチちゃんも不快感を露わにする。
「フフフ……よくぞ来たな、カルデアのゴミクズども、そしてハジケリストのバカどもめ……!」
暗闇の奥から、ガチガチと重い金属音を響かせて一人の男姿が滑り出してきた。
その身に纏うのは邪悪な暗黒の鎧。しかし、その身体はまるでコンクリートかダイヤモンドのように『カチカチ』に固まっている!
「俺はマルハーゲ帝国が刺客! ドロリン真拳の使い手・ドロリン伯爵だ!!」
「カチカチじゃねえか!!」
立香が即座に指を指して叫んだ。
「名前『ドロリン』なのに全身ガチガチに固まってるじゃねえか! ドロドロ要素どこに行ったんだよ!」
「ふははは! これぞ我がドロリン真拳の極意! 固まることで絶対の防御力を得ているのだ!」
「それドロリン関係ねえだろ! カチカチ伯爵に改名しろ!」
「問答無用! 喰らうがいい、ドロリン真拳奥義……『カカオ・スカルプチャー』!!」
ドロリン伯爵がカチカチの手を叩くと、天井のシロップが一気に凝縮し、濃厚な超高熱チョコレートの濁流となってカルデア陣営に襲いかかった!
「危ない、先輩っ!!」
「マシュ!?」
マシュが即座にデシュールドを構え、立香の前に立ちはだかる!
しかし、ドロリン伯爵の技は物理的な衝撃ではなく『概念的な固化』だった!
大量のチョコレートを浴びたマシュの体が、一瞬にしてカチカチに固まり――絶妙な造形の『カカオ100%チョコレート製マシュ銅像』へと変貌してしまったのである!
「マシューーーーーーーッ!?」
立香が絶望の叫びをあげる!
「ハハハハ! 見たか! お前たちの盾は今やただのおいしいチョコレート銅像だ! そのまま飾ってバレンタインにでも食うがいい!」
ドロリン伯爵が高笑いを上げる。
「そんな……マシュちゃんがチョコレートの銅像に……! 嘘だと言ってよ藤丸くん!」
通信越しのロマニが激しく動揺し、デスクを叩く。
「待つんだロマニ、何か様子がおかしいよ……!」
ダ・ヴィンチちゃんがモニターを凝視する。
チョコレートの銅像となったマシュ。
しかしその時――銅像の胸のあたりに、ミシミシと亀裂が走り始めた!
パリィィィィン!!
「不撓不屈の精神……! カルデアのデミ・サーヴァントを舐めないでください!!」
激しい音とともにチョコレートの外殻が弾け飛ぶ!
湯気が立ち込める中、現れたのは――
「「「なんで水着になってんだーーーーーっ!?」」」
立香、ビュティ、ロマニ、ダ・ヴィンチちゃん、さらにはドロリン伯爵までもが目玉を飛び出させてツッコミを叩き込んだ!
そう、チョコレートの鎧を脱ぎ捨てたマシュは、なぜか夏イベント仕様の『涼しげな水着姿(真夏のスポーツ風)』へと換装されていたのだ!
「は、熱気で……チョコの熱気で、いつの間にか夏モードに霊衣解放されてしまいました……! ですがマスター、私は戦えます!」
水着姿でガンバレルを構え、凛々しく言い放つマシュ!
「スタイル抜群だけどタイミングがおかしいよマシュちゃん! お化け屋敷ホラー空間で水着ってどういう属性の渋滞だよ!」
立香のツッコミが虚しく響き渡る。
「くっ……水着になろうが関係ない! このドロリン伯爵のカチカチ防御を破れる者など存在せん!」
ドロリン伯爵が再びカチカチの構えを取る!
その時、沈黙を守っていたボーボボが、ゆっくりとサングラスを掛け直した。
「……フッ、カチカチのドロリンか。面白ぇ。おい首領パッチ、天の助……あいつを『冷やし中華』の具にしてやるぞ」
「おうよ! 俺は紅生姜役だ!」
「ぬぬ〜! 私は錦糸卵だ〜!」
「「「全然意味がわからない!!!」」」
絶体絶命のお菓子龍宮城で、さらなる狂気の波乱が巻き起こる――!
「ふはははは! 無駄だ無駄だ! 俺の体はカチカチのドロリン真拳によってダイヤモンド以上の硬度を誇っているのだ! 水着になろうが、ネギを振ろうが、お前たちの攻撃など蚊の刺したほども効かんわ!」
ホラー映画さながらの重苦しい血みどろの回廊に、ドロリン伯爵の高笑いが響き渡る。
カチカチに固まったその漆黒の身体は、怪しい紫色のオーラを放ち、まさに鉄壁の要塞と化していた。
「先輩! 敵の防御力は通常攻撃の域を超えています! 宝具展開による一括掃討を提案します!」
水着姿でガンバレルを構えるマシュが、凛々しい表情で叫ぶ。
「待て、マシュ……! あいつらの『ハジケ』の空気に巻き込まれるな! 宝具を使う前に、もっと恐ろしい何かが起きようとしている!」
立香が第六感を働かせ、冷や汗を流しながら後退する。
その視線の先では、ボボボーボ・ボーボボがゆっくりと胸を張り、仁王立ちになっていた。その巨大なアフロヘアーが、なぜか怪しく黄金色に発光し始める。
「……フッ。カチカチのドロリンだと? 笑わせるな。真の『ハジケ』とは、カチカチの概念すらも溶かす、熱き熱量のことだ」
ボーボボが重厚な低音ボイスで語り出す。
「な、なんだその無駄にかっこいい雰囲気は……!?」
ドロリン伯爵が一瞬気圧される。
「見せてやるぜ……俺の腹の中に眠る、超高度文明の遺産をなぁぁぁ!!」
ギシギシギシ……!
突如、ボーボボの腹部が観音開きに左右へ開いた!
その内部から現れたのは、無数の超ハイテクなエネルギーメガ粒子砲の砲身と、巨大なエネルギー集束レンズ! 赤く明滅する警報音(サイレン)が鳴り響く!
「腹が開いたぁぁぁぁぁ!???」
ビュティが金札ものの顔芸で叫ぶ。
「鼻毛真拳奥義……『口からメガソニック砲』ーーーーーッ!!!」
「腹から出してんのに『口から』かよォォォォォ!!!!」
立香の魂の叫びが廊下にこだまする!
ドバァァァァァァァン!!!!!
ボーボボの腹部から解き放たれたのは、宇宙をも穿つような超絶怒濤のエネルギー光線!
まるで某アニメのトリプル・デビル・サテライト・キャノンの如き極大照射! 桃色のお菓子龍宮城の廊下が、一瞬で白い光の濁流に飲み込まれていく!
「グァァァァァァ!? な、なんだこの威力はァァァ!? カチカチの俺の防御が……融解していくぅぅぅぅ!!」
ドロリン伯爵は悲鳴をあげる暇もなく、光の彼方へと吹き飛ばされ、星となって消えていった。
「ふう……また一つ、無駄な命を散らしてしまったか……」
ボーボボがパタンと腹部を閉じ、黄昏れながら煙を吐き出す。
「……って、ちょっと待ってください先輩!」
突如、水着姿のマシュが真顔で一歩前に出た。
「あの技……絶対に腹部のメガソニック砲ですよね!? なのに『口から』と主張するのは、射撃シミュレーションの観点からも、構造解剖学の観点からも絶対に矛盾しています! そもそも口をまったく開けていませんでした! ノン・コンプライアンスです!!」
「マシュの完璧で論理的なノリツッコミが入ったーーー!?」
立香が目を丸くする。
「マシュちゃん、ツッコミの切れ味がサーヴァント級になってるよ……!」
通信画面のロマニも引いている。
ドロリン伯爵が吹き飛んだことで、周囲のホラー空間は徐々に崩壊し、元の(一応メルヘンな)お菓子龍宮城の最深部へと空間が繋がった。
「ふぅ……なんとか刺客は倒したみたいね」
ビュティが息をつく。
その部屋の中央、豪華なキャンディの台座の上に、ぽつんと一つ、重厚で輝かしい『装飾宝箱』が鎮座していた。金色の装飾が施され、いかにも伝説の秘宝が入っていそうな雰囲気を醸し出している。
「む! 見ろ! あんなところに宝箱があるぞ!」
天の助がプルプルと目を輝かせた。
「待つんだ、天の助! アトランティスの特異点の核心に、あんな都合よく宝箱が置いてあるなんて怪しすぎるよ!」
立香が制止しようとする。
「ふはは! カルデアのマスターは臆病だな! これぞ龍宮城の乙姫様が残した秘宝『ぬのタオルの詰め合わせ』に違いない!」
天の助は立香の制止を聞かず、満面の笑みで宝箱へ駆け寄り、ガバッと蓋を開け――
パカッ。
ガブリ!!!!!
「ぬわーーーーーーーっ!?!? 上半身が食われたーーーーーーーっ!?」
宝箱から生えた、おどろおどろしい牙と巨大な赤い舌!
天の助の頭から胴体にかけてが、見事にミミックの口の中へとすっぽりと飲み込まれていた! お尻とプルプルの足だけが外でジタバタと暴れている!
「ミミックだーーーっ!! 完全にミミックに食われてるーっ!!」
首領パッチが指を指して大爆笑する。
通信画面から、ダ・ヴィンチちゃんがメガネをクイッと上げながら、どこか呆れたような、しかし鋭いツッコミを飛ばす。
「ちょっとちょっと! どこかで見たことある光景だと思ったら、某・魔法使いの旅に出てくる『暗くて怖いよ〜!』って叫ぶエルフの魔法使いのパロディかい!? 99%の確率で宝箱の中身がミミックだって分かってるのに引っかかるタイプだろそれーーーっ!」
「しかも天の助、トコロテンだから噛み切られずにずっと『ぬ〜ぬ〜』引き伸ばされてるわよ!」
ビュティの冷ややかなツッコミが追い打ちをかける。
「助けて〜! 暗くて怖い〜! 誰かこのミミックにメラゾーマ(※他社)を打ち込んでくれ〜!」
「魔法の体系まで混ざってんじゃねえか!!」
立香が頭を抱えて叫んだ。
結局、ボーボボがアフロから取り出した『巨大な爪切り』でミミックの歯を一本ずつ抜いて天の助を救出。
宝箱の中身は……ただの『使い古された黄色いタクシーのクラクション』だった。
プップー! と虚しく響くクラクションの音。
「……ねえ、藤丸くん。僕たち、なんでアトランティスに来たんだっけ……?」
通信の向こうで、ロマニが魂の抜けたような目で呟いた。
「僕にも分からないよドクター……ただ、笑うしかないよ……はは、ははははハハハハハ!!!」