「―—おい、童話作家! 貴様のその貧相な構想のどこに、この画狂老人の描く『錦絵の躍動』が収まるというのだ!」
「黙れ浮世絵師! 僕のプロットはすでに完璧なんだよ! 貴様の描く線の圧が強すぎて、せっかくの文芸的余韻が台無しなんだ!」
カルデアの地下書庫の一角。
普段から折り合いの悪かったハンス・クリスチャン・アンデルセンと葛飾北斎(お栄)の二人が、巨大な原稿用紙を挟んで大激論を交わしていた。
その刹那、二人の執念と魔力、そしてカルデア内に充満していた『ハジケ粒子』が怪しく反応し、原稿用紙が爆発的な光を放ったのである!
「しまっ……魔力流出のオーバーフローだと!? 藤丸、逃げ――」
――ズドオォォォン!!
「……う、ううん……ここは……?」
藤丸立香が目を覚ますと、視界一面に広がっていたのは、白と黒のコントラストで構成された『二次元の漫画原稿用紙の世界』だった。
空には巨大なスクリーントーンが貼り付けられ、風が吹くたびに「ざわ……ざわ……」という描き文字(擬音)が空中を蠢いている。
「先輩! ご無事ですか!?」
「マシュ! それに……なんだこの空間は!?」
「説明しよう!」
ダ・ヴィンチちゃんの声が通信越しではなく、空に浮かぶ巨大な吹き出しの中から響いた。
「アンデルセンと北斎ちゃんが合作で描いていた『新作マンガ』が、ハジケ粒子の影響でそのまま特異点化しちゃったんだよ! 題して『漫画特異点・原稿地獄篇』だね!」
「またハジケ粒子かよ! どんだけカルデアの環境を汚染してんだあの男たちは!」
立香が天を仰いで叫ぶ。
「フフフ……漫画の世界だと? なら、この俺が主役(主人公)になる時が来たようだな!」
黄金のアフロを燦然と輝かせ、学ラン(※少女漫画風のフリル付き)を纏ったボボボーボ・ボーボボが颯爽と立ち上がった。その脇には、なぜかト音記号のコスプレをした首領パッチと、ベタ塗り用の黒インクに浸かっている天の助が控えている。
「主役になる前に服のセンスをどうにかしろ! 少女漫画と硬派漫画の要素を混ぜるな!」
立香の即座のツッコミ。
「まあまあマスター、奥へ進みましょう。特異点の中心部に原稿のコアがあるはずです!」
マシュに促され、一行はコマ割りの描かれた廊下を進んでいく。すると、次のコマ(見開きページ)に足を踏み入れた瞬間――
「なっ……なんだここはーーーーっ!?」
目の前に広がっていたのは、白黒の漫画背景のど真ん中に建設された、巨大な『四角いプロレスリング』だった!
リングの周囲には、無数の観客(※全員同じ顔をした謎の棒人間)が大歓声を上げている。
「なぜ漫画のコマの中にプロレスリングがあるんだよ! ジャンルはどうなったんだジャンルは!」
立香が頭を抱えると、リングの赤コーナーから、ずしり……ずしり……と地響きを立てて巨体が現れた。
リーゼントヘアに軍服を纏い、威圧感溢れる眼光。マルハーゲ帝国四天王の一人――軍艦だ!
「ハハハハハ! よくぞ来たなボーボボ! この『原稿用紙リング』こそ、お前たちの墓場だ!」
「軍艦ーーーっ!? なんで軍艦がアンデルセンたちの漫画の世界にいるんだよ!」
ビュティが叫ぶ。
「ふはは! 漫画の原作者たちが締め切り直前で発狂し、『もう何でもいいからバトルさせろ!』と投げやりになった隙を突いて乗っ取ったのだ!」
「原作者の闇が深すぎるだろ! 締め切り前の作家の迷走を悪用するな!」
立香の絶叫ツッコミが炸裂する。
「ええい、鬱陶しいツッコミ役め! この者を捻り潰せ!」
軍艦が手をかざすと、リングの青コーナーから、漆黒の甲冑を纏った少女――ジャンヌ・ダルク〔オルタ〕が、黒い旗を構えて不機嫌そうに飛び出してきた。
「ハァ? なんで私がこんな妙なボクシングリングみたいな場所に呼び出されてるわけ!? ムカつくから全員焼き尽くしてやるわよ!!」
「ジャンヌオルタ!? 軍艦の召喚に応じるなよ! 洗脳されてるのか!?」
立香が驚愕する。
「洗脳だぁ? 違うわよ!『美味いステーキ食わせてやる』って言われたから来たのよ!」
「釣られ方が安易すぎるだろアヴェンジャー!!」
「フッ……邪悪な竜の魔女よ。お前のその卑しい牙、我が真拳で打ち砕いてやる」
軍艦が重々しく構えを取る。その構えは、ボーボボの鼻毛真拳とは似て非なる邪悪な気配を纏っていた!
「食らうがいい! 我流鼻毛真拳奥義……『骨々(コツコツ)行くぞ拳』ーーーッ!!」
軍艦の鼻から伸びた拳が、骨のような形状へと変化し、超高速の連打となってジャンヌオルタを襲う!
「ハッ、そんなださい名前の攻撃がこの私に――」
ジャンヌオルタが旗で受け止めようとした、その瞬間!
バシューーーーーッ!!
煙が立ち込め、光が収まると……ジャンヌオルタが立っていた場所には、ポツンと一つ、焼き立ての『極上ホットドッグ(マスタード・ケチャップたっぷり)』が転がっていた。
「「「ホットドッグになっちゃったーーーーーっ!?」」」
立香、ビュティ、そして通信のロマニたちのツッコミが完全に一致する!
「ふははは! 我が『骨々行くぞ拳』は、相手の肉体をコツコツと加工し、アメリカンなファストフードへと変貌させる恐ろしい技なのだ!」
「恐ろしい方向性がおかしいだろ! なんでファストフードなんだよ! 加工精度が高すぎるわ!」
するとその時――沈黙していたマシュが、すーっとホットドッグに歩み寄った。
その目は怪しく輝き、お腹からは「くぅぅ……」と小さな音が鳴っている。
「……マスター。邪竜の魔女の魔力が凝縮されたホットドッグ……非常に香ばしいソーセージの香りがします」
マシュがホットドッグを拾い上げ、口を大きく開けた。
「待て待て待てマシュ!! それジャンヌオルタだぞ! 食べようとするな!」
立香が慌ててマシュの肩を掴む!
「ですが先輩!『敵を食らう』のも戦術の一つです! パン生地もフワフワで、マスタードの酸味が食欲をそそります……いただきます!」
「いただきますするなアァァァ! 味の解説をするな! サーヴァントを完食してどうするんだよ! 人道的にアウトだろ!!」
マシュの暴走と立香の必死のツッコミが飛び交うリング上!
その光景を冷ややかな目で見下ろす軍艦と、アフロを解体し始めたボーボボ!
原稿用紙のリングで繰り広げられる、カオスと抱腹絶倒のバトルは後半へ――!
「いただきます……!」
「やめろマシュ! それはアヴェンジャーだ! ジャンヌオルタだ! 高カロリー以前の問題だーっ!」
立香の制止も虚しく、マシュは開いた大きな口で、マスタードたっぷりの「ジャンヌオルタ・ホットドッグ」をガブリと全力で噛みしめた!
メリメリッ……!
「あぐっ!? か、硬い……!? パン地が異常にモチモチしていて、ソーセージの芯がまるで竜の鱗のように堅固です……っ!」
「当たり前だろ! 邪竜の魔女なんだから歯が折れるぞ!!」
その時、マシュの口腔内から、ゴオォォォォ……と禍々しい業火の熱気が溢れ出してきた!
閉ざされた暗黒の口内で、屈辱に打ち震えるホットドッグ(ジャンヌオルタ)の咆哮が響き渡る!
『貴様……! この私を……この邪竜の魔女を『間食』扱いしたわねぇぇぇ!! 許さん……絶対に許さんぞカルデアぁぁぁ!!』
「むぐっ!? 口のなかg……熱っ!? 熱いです先輩っ!?」
『我が憎悪の炎よ! 内側から焼き尽くせ!! 【咆哮せよ、我が憤怒(ラ・ピュセル・オー・ブッシュ)】ーーーッ!!』
ドッゴォォォォン!!!!!
「ふぐわぁぁぁぁっ!?」
マシュの口から、まるで怪獣のブレスのような漆黒の黒炎が噴射!
爆風とともにマシュの口から解き放たれたホットドッグは、空中で激しい黒炎を纏いながら元の邪炎のドレス姿へと再構築された!
「ゲホッ……ゲホッ……! 死ぬかと思ったわよ! なんなのよあの口の中のプレッシャーは! 胃酸の代わりに魔力が充満してて呑み込まれるところだったじゃない!!」
髪を逆立て、顔を真っ赤にして叫ぶジャンヌオルタ!
「吐き出されたーっ!? っていうか口内で宝具ぶっぱなす奴があるか!! 口腔内爆発だぞそれ!!」
立香の怒号のようなツッコミが原稿用紙の空にこだまする!
「あ、あうぅ……先輩……歯が……奥歯がすっごくグラグラします……」
水着姿のマシュが口元を押さえ、涙目になりながらプルプルと震えていた。
「自業自得だろ! なんで本気で完食しようとしたんだよ!」
「ええい、鬱陶しい! 騙してこんなファストフードに変えやがったあのリーゼント、絶対に許さないんだからぁぁぁ!!」
激怒の絶頂に達したジャンヌオルタは、ボーボボたちを完全に無視し、リング中央でドヤ顔を決めていた軍艦へ突進!
「な、なんだと!? 我が『骨々行くぞ拳』のホットドッグ化を口内爆破で破っただと……!?」
「問答無用! 喰らいなさい!!」
ジャンヌオルタは黒い旗を投げ捨てると、軍艦の巨体を両腕で強引に持ち上げ、その両脚を自身の首に割り込ませてクラッチ!
完璧なフォームで垂直落下式に急降下する!
「なっ……これは、某キン肉な超人レスラーの……!? グワーーーッ!?」
ズドォォォォォォォン!!!!!
「「「キン肉バスターだーーーーーっ!?」」」
プロレスリングのキャンバスが真っ二つに叩き割られ、軍艦は白目を剥いてリングの露と消えた!
「な、なんでアヴェンジャーが完璧なキン肉バスター決めてんだよ! 宝具より威力出てそうじゃねえか!!」
立香の本日一番のツッコミが炸裂する。
「ふーっ……ふーっ……スッキリしたわ。じゃあねカルデア、二度と私をホットドッグにするんじゃないわよ!」
捨て台詞を残し、ジャンヌオルタは霊体化して退去していった。
「……あれ? 僕たちの出番は……?」
首領パッチがぽかんと口を開ける。
そこへ、ずっと大人しくしていたヘッポコ丸がスッと前に出た。
「……ハッ! 何だったんだこの戦いはーっ! 原稿用紙の中で軍艦が出てきて、ホットドッグ食べようとして口の中で宝具が爆発して、最後はキン肉バスターって、話の支離滅裂さが限界突破してんだろーーーーーッ!!」
「ヘッポコ丸の超正論ツッコミ入ったーーーッ!!」
ビュティと立香の声が重なる。
ヘッポコ丸の鮮やかなツッコミの衝撃波により、アンデルセンと北斎の新作マンガ特異点は跡形もなく霧散し、一行は無事にカルデアへと引き戻されたのであった。
……だが、本当の地獄はカルデアへ戻った後に待っていた。
「ひ、ひえぇぇぇぇ……! いやです……嫌です先輩! 私、医務室には行きませんっ!」
カルデア医務室の廊下。
あのマシュ・キリエライトが、ドアの枠にしがみついて号泣していた。
「ダメだよマシュ! さっきレントゲン撮ったら、口内爆発の衝撃とジャンヌオルタの竜の鱗の硬さで、奥歯がボロクソの虫歯&ヒビが入ってたんだから!」
立香が必死にマシュの腰を引っ張る。
「だって……だってダ・ヴィンチちゃんの顔が怖いです……!」
医務室の奥から、白衣を着て手に『巨大なドリル(※宝具級の魔導工具)』を持ったダ・ヴィンチちゃんが、般若のような笑みを浮かべて静かに歩み寄ってくる。
「ふふふ……マシュちゃん? サーヴァントの魔力爆発を口の中で受け止めるなんて、最高の臨床データだよ? でもね……今日はハジケ粒子の緊急治療で麻酔薬が全滅しちゃってねぇ……」
「え……麻酔……なし……?」
マシュの顔からサーッと血の気が引いていく。
「さあ、お口をあ~んしてね? あっという間に『ガガガガッ』と削ってあげるからねぇぇぇ!!」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!(ガガガガガガガガ!!)」
医務室から響き渡る、絶叫と凄まじい削岩音。
「……痛そうだね……」
医務室の外で、トコロテンの残骸をつまみ食いしながら天の助が呟く。
「自業自得だっつーの!!」
立香とビュティのシンクロツッコミがカルデアの廊下に響き渡り、マシュの悲痛な叫びとともに幕を閉じたのであった。
(第3話・完!)