「―—大変だ、藤丸くん! 南米ペルー、標高二千四百メートルの山嶺『マチュピチュ』周辺に、突如として観測史上最大級の特異点反応が検出された!」
カルデア指令室。メインモニターに映し出されたインカの空中都市・マチュピチュの立体映像が、激しく怪しい黄金色とバーベキュー(BBQ)ソースのアイコンで明滅していた。
ロマニ・アーキマンが口の端にトーストのクズをつけたまま悲鳴をあげる。
「ただの歴史改変じゃないよ……! この魔力波形、いや『ハジケ波形』は……マチュピチュ全域が『超大型野外バーベキュー会場』に書き換えられようとしている!」
ダ・ヴィンチちゃんが頭を抱えて叫んだ。
「BBQ会場……? 空中都市で野外焼肉ってことですか……?」
マシュ・キリエライト(※すっかり虫歯も治り、体内ダンジョンからも生還した)が首をかしげる。
「よし、肉なら任せろ! カルデアの食卓を守るため、私も同行しよう!」
エプロン姿で腕まくりをしたブーディカが、フライパンを掲げて名乗りを上げた。
「それに……あんな標高の高いところで変な召喚反応があったら、肉が焼き上がる前に焦げ付いちゃうからね!」
「ふふん、標高が高いといえば魔術の発動にうってつけですね。私も行きましょう、マスター!」
選定の杖をくるくると回転させながら現れたのは、キャスタークラスのアルトリア・ペンドラゴン(キャストリア)!
「キャストリア! 頼もしいけど、君も肉に釣られてないか!?」
藤丸立香のツッコミを合図に、レイシフトのカウントダウンが始まった。
『レイシフト……3、2、1……!』
ズザーーーーッ!!
光の収束とともに、立香たちが足を踏み入れたのは、霧立つ神秘的なマチュピチュの遺跡……のはずだった。
「……え?」
立香たちが目を見開くと、目の前には数々の歴史的石積みの壁――ではなく、全身を泥と汗で汚した『トレジャーハンターたちの巨大な立体レリーフ(壁画)』が果てしなく立ち並んでいた!
さらに、空間全体に充満しているのは、甘辛い特製タレとカルビが炭火で焼き上がる香ばしい煙!
「「「トレジャーハンターのレリーフとBBQの匂いが充満する異空間ーーーーーっ!?」」」
立香、キャストリア、ブーディカ、そして通信越しのロマニのツッコミが大合唱となった!
「なんなのこの空間は!? インカ帝国どこ行ったの!? なんで壁一面におじさんハンターの顔が刻まれてるのよーっ!」
キャストリアが杖を振り回して絶叫する。
「フハハハハ! 待っていたぞ、カルデアの肉食ども!」
アフロヘアーにサングラス、そして胸に『BBQ奉行』のゼッケンをつけたボボボーボ・ボーボボが、巨大なトングをシャキーンと構えて立ちはだかった。脇には首領パッチと天の助、ビュティ、ヘッポコ丸も控えている。
「ボーボボさん! またあんたたちの仕業か!」
立香が指を指すと、奥の炭火網から煙とともに二人の怪しい影が飛び出してきた。
「ハハハハ! 俺の『破天荒』な焼き加減を見せてやるぜ! パッチおやびん、俺の焼いた特選ロースを食べてください!」
鎖をじゃらつかせながら、首領パッチを「おやびん」と慕う男・破天荒!
「ぬぬぬ! 肉だけでは炭水化物が足りんぬ! 主食の王、この俺様が相手だぬ!」
全身が巨大な米粒(ごはん)でできた男・ライス!
「新キャラの渋滞がひどい!!」
ビュティと立香のツッコミが炸裂する。
「パッチおやびん! このカルデアとかいう連中を、俺の『鬼組(おにぐみ)真拳』で全員カチカチの冷めた米粒にして差し上げます!」
破天荒が鎖を振り回し、ライスが丼飯を構えて不敵に笑う!
「待ちなさい! ご飯と肉の組み合わせは最高だけど、主食の尊厳を侮辱する奴は私が許さないわ!」
ブーディカが包丁を構え、キャストリアが魔術陣を展開!
マチュピチュの山頂、BBQの煙と米粒の狂気が交錯する中で、かつてない波乱のバトルが幕を開ける――!
「パッチおやびん! 俺の『破天荒』な愛の力、今こそお見せします!!」
威勢よく鎖を振り回していた破天荒だったが、首領パッチが「うるせぇ! 邪魔だ!」と足蹴にした瞬間、その表情が熱烈な恍惚へと一変した。
「ああっ……! おやびんの愛のムチ……たまらん! 俺は今日からカルデアの味方です!」
「寝返りが速すぎるだろーーーッ!!」
立香の即座のツッコミがマチュピチュの遺跡に響き渡る。
味方に寝返った(?)破天荒は、懐から怪しい鍵を取り出すと、空間全体に向けて構えた。
「鍵真拳奥義……『カギ締め・オールロック』!!」
チャキーン! という小快な音とともに、襲いかかってきた雑魚ハジケリストやBBQゾンビたちの関節という関節に巨大な南京錠が出現! 動きを完全に封じられた敵が一斉にパタリと倒れ込んだ。
「へっ、口ほどにもない奴らだぬ! だが真の恐怖はここからだぬ!」
全身米粒の男・ライスが不敵に笑う。しかし次の瞬間、ライスの全身がメキメキと膨らみ、破裂した!
パァァァン!!
米粒の皮を破って現れたのは、巨大な魚雷に手足と女性の顔がついた謎の生命体――魚雷ガール!
「「「魚雷ガールになっちゃったーーーーーっ!?」」」
キャストリア、ブーディカ、立香の絶叫がハモる!
「ボボボーボ・ボーボボ! バカなハジケは絶対に許さいわ!!」
魚雷ガールがボーボボへ向かって一直線にロケット突撃を敢行! ボーボボを巻き込んで遥か彼方の山肌へと激突し、大爆発を起こした。
「あいつら勝手に自滅して行ったわよ……」
ビュティが呆れ果てる中、BBQ会場の炭火の奥から、ドロリとした漆黒の魔力が湧き出し始めた。
「クハハハハ……バカどもの宴はそこまでだ……」
煙の中から現れたのは、黒い刺青を全身に刻んだ怪しい影。この特異点を裏で操っていた本当の黒幕――『アンリマユ(この世全ての悪)の断片』だ!
「アンリマユの断片……!? まさかこのカオスな空間を作り出したのはお前だったのか!」
立香が身構え、マシュが盾を構える。
「そうだ……この最弱のサーヴァントたる俺が、このマチュピチュを恐怖と絶望の地へと変えてやる……! だが、生憎と俺は戦闘に向いていない。ゆえに決着は――『大食い勝負』でつける!!」
「大食い勝負なのかよ!!」
立香の怒号が飛ばされる。
アンリマユの断片が提示したルールは単純明快。
【アンリマユの断片】vs【立香、ボーボボ、マシュ、キャストリア】のチーム戦!
デカ盛りまたは激辛の料理を食し、多くきれいに食べきった方の勝ちという謎のバトルだ!
「フハハ! 先行は俺だ! 喰らうがいい、四川の怨念が凝縮された『漆黒の地獄激辛マーラータン』!!」
アンリマユの断片が真っ赤に煮立った魔界のスープを一気に啜り始める!
対するカルデア陣営。割烹着を着たブーディカが、両手に巨大な大皿を抱えて登場した。
「ふふ、食の勝負なら負けられないわね! 私が作ったのはこれよ!『特製デカ盛りチャーハンプレート(総重量5キロ)』!!」
「美味そうだけど量が頭おかしい!!」
勝負の火蓋が切って落とされた!
「ぬおおお! 肉と米のフュージョン! いただきます!!」
ボーボボが豪快にチャーハンを口に放り込むが、わずか三口目で「あ、俺今日お腹壊してるんだった」とピタリと手を止めた。
「食べる前に気づけよ!!」
立香も必死にスプーンを動かすが、半分を過ぎたあたりで「ぐ、苦しい……もうお腹が破裂する……」と白目を剥いて撃沈。
「ハハハ! 見たかカルデア! 撃沈だな!」
激辛マーラータンを完食し、口から炎を吹きながら勝ち誇るアンリマユの断片。
しかし――カルデアには『真の胃袋のバケモノ』たちが残されていた。
「マスター……ブーディカさんのご飯を残すなんて、カルデアのサーヴァント失格です!」
マシュの目が怪しく光る!
「そうです! 食べ物を無駄にする奴は、選定の杖で叩き潰します! いただきます!!」
キャストリアが覚醒!
ガバッ! ガババババッ!!
マシュとキャストリアの二人は、恐ろしい速度でデカ盛りチャーハンプレートを吸引! まるで掃除機のような勢いで米粒一つ残さず皿を舐め尽くし、完食!
「「ごちそうさまでした!!」」
「な、なんだあの少女たちの胃袋はぁぁぁぁぁ!?」
アンリマユの断片はショックのあまり白身を泡吹いて倒れ、特異点は無事に消滅した。
【カルデア・食堂】
「――さて、立香。ボーボボ」
無事にカルデアへ帰還したものの、食堂には冷ややかな空気が満ちていた。
仁王立ちするブーディカの前に、正座させられている立香とボーボボ。
「せっかく作ってあげたチャーハン、残しちゃったわね……?」
笑顔だが目がまったく笑っていないブーディカ。
「ひ、ひえぇ……ごめんなさいブーディカさん……!」
「俺は悪くない、全部天の助のせいだ!」
「なんで私のせいにするー!?」
折角の特異点解決も虚しく、ご飯を残した二人(+濡れ衣の天の助)は、ブーディカによる「愛の説教とお残し厳禁・特訓おかわりスクワット」を叩き込まれるという、自業自得なお説教で幕を閉じるのだった。
(第5話・完!)