『ロード・エルメロイⅡ世の事件簿 封印都市ヤーナム』 作:丹波りん
四人は、先ほど発見した武器を囲んでいた。
血錆に覆われた無数の刃。
杖のような姿から一変し、鞭のように連なる異形の武器。
Ⅱ世はそれを記録しながら、構造を一つずつ確認していく。
「変形機構そのものはかなり複雑だな」
「これだけの仕掛けを、杖の内部に仕込んでいたということですか」
グレイが尋ねる。
「ああ。見た目を偽装する意味もあったのだろう」
ルヴィアも刃を観察している。
「医療協会の狩人が使用していたのだとすれば、
武器そのものにも何らかの思想があるのでしょうね」
「そうだな」
Ⅱ世は頷いた。
獅子劫は煙草を取り出しながら、武器へ視線を向けた。
「その辺は後で考えればいいんじゃねえか?」
「後で?」
「調べるものがまだ残ってるだろ」
獅子劫が部屋を見回す。
「ここは院長室なんだ。こんな武器一本だけってこともないだろ」
その言葉に、Ⅱ世も室内を見渡した。
「確かに」
四人は再び、手術台の周囲を中心に探索を始めた。
◆
「さて……」
パッチは少し離れた場所にある隠し棚の前に座り込んでいた。
先ほど見つけた仕掛け。
鍵穴に細い道具を差し込み、指先の感覚だけを頼りに内部を探っていく。
「……これは、普通の鍵じゃありませんな」
金具を僅かに動かす。
カチ。
反応はない。
「ふむ」
別の道具へ持ち替える。
今度は鍵穴の奥へ細い金属棒を差し込んだ。
内部の構造を探る。
押す。
回す。
僅かに戻す。
また押す。
「……なるほど」
パッチの口元に笑みが浮かんだ。
「こいつは、鍵を開けるんじゃない。順番を合わせる仕掛けですな」
小さな金属音。
一つ。
また一つ。
内部の機構が噛み合っていく。
そして――。
カチン。
最後の音が響いた。
「おや」
パッチが扉へ手を掛ける。
今度は、抵抗なく開いた。
「開きましたな」
隠し棚の奥。
そこには、さらに小さな空間が設けられていた。
その中央に。
一つの箱が置かれている。
黒い。
人の頭ほどの大きさ。
金属とも木ともつかない、奇妙な質感をしている。
長い年月を経たらしく、表面には細かな傷や変色が見られた。
しかし、それでも箱そのものは厳重に作られている。
何より目を引くのは、その表面だった。
奇妙な印のようなものが刻まれている。
文字にも見える。
紋章にも見える。
だが、通常の魔術刻印とはどこか違う。
「……ほう」
パッチが身を乗り出した。
「これはまた……」
箱へ手を伸ばす。
持ち上げる。
思っていたよりも重い。
「随分と大事にしまってあったようですな」
パッチは箱を抱えたまま、振り返った。
「皆様!」
声が院長室に響く。
「少々進歩がありましたぞ!」
Ⅱ世たちが振り返る。
「何だ、パッチ」
「見てくださいよ」
パッチが自慢げに箱を掲げる。
「あっしは、こんなものを見つけました」
「……箱?」
ルヴィアが目を細める。
「それは、どこから?」
「そこの隠し棚ですな」
パッチが得意げに答えた。
獅子劫が近づいてくる。
「また妙なもんを見つけたな」
「お褒めに預かり光栄です」
「褒めてねえよ」
パッチは気にした様子もなく笑った。
そして、箱を軽く撫でる。
「なかなか古い。ですが、
わざわざ隠し棚に仕込んであったくらいです。
価値のある品かもしれませんなぁ」
Ⅱ世は箱を見つめる。
「少し待て」
「おや」
パッチの手が止まる。
Ⅱ世が箱の表面を観察する。
刻まれている印。
通常の魔術刻印とは違う。
しかし、何らかの意味を持っていることだけは分かる。
「……これは、単なる装飾ではなさそうだ」
「呪術的なものですか?」
ルヴィアが尋ねる。
「可能性はある。ただ、現段階では何を意味する印なのか分からない」
Ⅱ世は慎重に箱を観察した。
「時計塔の資料にも、こういったものはなかった」
「つまり、正体不明ってことですかい?」
パッチが言った。
「今のところはな」
Ⅱ世は答える。
箱には蓋らしき部分がある。
しかし、蝶番が見当たらない。
鍵穴もない。
継ぎ目すら分かりにくい。
「……厄介だな」
ルヴィアが眉を寄せる。
「ですが、ここまで厳重に隠されていた以上、
何か重要なものが入っている可能性は高いでしょう」
「ああ」
Ⅱ世も頷く。
「危険性は考慮する必要がある。しかし、
危険だからという理由だけで放置するのも問題だ」
「重要な情報が封じられている可能性もある、ということですわね」
「そういうことだ」
獅子劫が箱を見る。
「だったら、調べるしかないな」
「賛成ですわ」
ルヴィアも頷く。
グレイも箱を見つめた。
「……何が入っているのでしょう」
「それを確かめるのは、拠点に戻ってからにしよう」
Ⅱ世は箱から視線を外した。
「ここで開ける必要はない」
パッチは少し残念そうな顔をした。
「おや。今すぐではありませんか」
「慎重さという言葉を知らんのか、君は」
「知っておりますとも」
パッチは笑う。
「だからこそ、楽しみは後に取っておくのも悪くありませんな」
獅子劫が呆れたように肩をすくめた。
「結局、それが目的かよ」
「何が入っているか想像するくらい、いいでしょう」
その時だった。
割れた窓から差し込んでいた光が、いつの間にか弱くなっている。
室内を照らしていた明るさが、少しずつ失われていた。
獅子劫が窓の外を見る。
空が赤黒く染まり始めている。
「……もうこんな時間か」
Ⅱ世も外へ目を向けた。
「日が落ちるな」
「ですなぁ」
パッチが箱を抱え直す。
「そろそろお開きにしませんか?」
「そうだな」
Ⅱ世が頷く。
「今日のところはここまでにしよう。回収した資料と品を持って拠点へ戻る」
「賛成ですわ」
ルヴィアが答えた。
四人は院長室に残された資料を整理した。
院長の手記。
ヤーナムの歴史について記された資料。
血の医療に関する記録。
そして、先ほど発見した異形の武器。
パッチが見つけた黒い箱。
それぞれを慎重にまとめ、診療所内に確保していた拠点へ運ぶ。
外は、すでに夕暮れを越えようとしていた。
窓の向こうに見えるヤーナムの街並みが、薄暗い影へと沈んでいく。
昼間とは違う。
街そのものが、別の顔を見せ始めているようだった。
「では、私は一度キャンピングカーへ戻りますわ」
ルヴィアが言った。
「シャワーを浴びて、簡単な夜食を用意します」
「拙もお手伝いします」
グレイが頷く。
「では、行きましょう」
二人は荷物を置くと、キャンピングカーへ向かった。
男たちは病室に残った。
獅子劫は椅子に腰を下ろし、煙草を取り出す。
「……今日は随分と濃い一日だったな」
火を点ける。
煙がゆっくりと室内へ広がった。
Ⅱ世も椅子へ腰を下ろした。
「調査初日としては、情報が多すぎるくらいだ」
「そうでしょうなぁ」
パッチは黒い箱を見ながら答えた。
「しかし、まだ一番面白そうなところが残っていますぜ」
「君は本当にそればかりだな」
Ⅱ世がため息を吐く。
「おや、旦那だって気になっているでしょう?」
「気になっているからこそ、慎重に扱っているんだ」
「なるほど」
パッチは笑った。
「では、楽しみに待つとしましょう」
◆
しばらくして。
キャンピングカーでは、シャワーの音が響いていた。
グレイとルヴィアは交代で身体を温め、その間に簡単な夜食を用意していく。
保存の利く食材を中心に、温かい料理が作られていった。
ヤーナムへ入ってから初めて、まともに落ち着ける時間だった。
やがて料理が完成すると、二人はそれを病室へ運んだ。
「お待たせしました」
グレイが料理を机へ並べる。
「今日は簡単なものですけれど」
「十分だ」
Ⅱ世が答える。
獅子劫も煙草を灰皿へ押しつけた。
「ありがたいねぇ」
パッチは料理を見ると、嬉しそうに笑った。
「これは助かりますな」
全員が席につく。
簡単な夜食だった。
しかし、張り詰めていた空気が少しだけ緩む。
誰もが無言で食事を続けた。
食事を終える頃には、外は完全に夜になっていた。
窓の外。
ヤーナムの街は暗闇に沈んでいる。
遠くの尖塔だけが、月明かりの中にぼんやりと浮かんでいた。
Ⅱ世が食器を片付ける。
「さて」
その視線が、机の上へ向けられる。
黒い箱。
「始めるとしよう」
パッチが待ってましたとばかりに身を乗り出した。
「ようやくですな」
「まず、外側から調べる」
Ⅱ世は箱を机の中央へ置いた。
ルヴィアも隣へ座る。
グレイは記録用の紙を用意した。
獅子劫は少し離れた位置から見守る。
箱の表面。
そこに刻まれた奇妙な印。
「この印については、まだ何も分かっていない」
Ⅱ世が言った。
「文字なのか、紋章なのか。それとも単なる装飾なのか」
「魔術的な意味を持つ可能性は?」
ルヴィアが尋ねる。
「否定はできない。ただ、私たちが知る一般的な魔術刻印とは一致しない」
Ⅱ世は箱へ手をかざした。
魔力を流す。
ごく微量。
表面を撫でるように、慎重に魔力を通していく。
何も起こらない。
「……反応は薄いな」
Ⅱ世が呟く。
「私にも試させてくださいな」
ルヴィアが反対側へ手を置く。
彼女もまた、慎重に魔力を流した。
箱の表面に刻まれた印が、僅かに魔力を弾いた。
「こちらですわ」
「どこだ?」
「この刻印の一部だけ、魔力の流れが不自然です」
Ⅱ世が覗き込む。
「……確かに」
「ですが、単純な封印ではありませんわね」
「内部を閉じるためのものというより、機構そのものに組み込まれている?」
「その可能性があります」
二人は箱を挟んで、刻印と継ぎ目を交互に確認する。
「ここから魔力を通してみる」
「では、私はこちら側から」
「同時に流すと反発するかもしれん」
「でしたら、私が先に」
「分かった」
ルヴィアが少量の魔力を流す。
Ⅱ世がその流れを追う。
箱の内部へ魔力が入り、途中で行き止まった。
「止まった」
「こちらも同じですわ」
「なら、封印というより……」
Ⅱ世が僅かに考える。
「鍵か」
「物理的な鍵ではなく、魔術的な認証のようなもの?」
「そう考えると、この刻印の配置にも意味がある」
Ⅱ世は別の箇所へ指を移す。
「ここだ」
ルヴィアが魔力を流す。
Ⅱ世も同時に合わせる。
今度は、箱の内部で小さな音がした。
カチ。
二人が手を止める。
「……開いた?」
グレイが小さく尋ねる。
「まだだ」
Ⅱ世が答える。
「今のは第一段階だろう」
「では、次はこちらですわね」
ルヴィアが別の刻印へ指を添える。
Ⅱ世が反対側から魔力を通す。
カチ。
また一つ。
内部の機構が動いた。
「なるほど」
Ⅱ世の目が細くなる。
「一つずつ術式を解除する構造か」
「それなら、焦らず進めましょう」
「ああ」
二人は互いに確認しながら、少しずつ魔力を通していった。
刻印の一つ。
継ぎ目。
箱の角。
それぞれに僅かな魔力を流し、反応を確かめる。
途中で何度か反応が途切れた。
そのたびに二人は手を止め、どこで流れが変わったのかを確認した。
「こちらではない」
「では、ひとつ前へ戻しますわ」
「そうしてくれ」
急ぐことはしなかった。
危険なものが入っている可能性がある以上、無理にこじ開ける理由はない。
やがて。
最後の刻印へ魔力を通した瞬間。
箱の内部から、低い音が響いた。
ゴトリ。
蓋の一部が僅かに浮く。
Ⅱ世とルヴィアが顔を見合わせる。
「開いたな」
「ええ」
ルヴィアが頷く。
「では、ゆっくり開ける」
ルヴィアも身構えた。
Ⅱ世が蓋へ手を掛ける。
僅かに持ち上げる。
中から何かが出てくる気配はない。
「……大丈夫そうですわ」
「なら、もう少し」
蓋が開いていく。
黒ずんだ布が見えた。
その中央に、何かが包まれている。
Ⅱ世はすぐには触れなかった。
「まず、魔力反応を確認する」
ルヴィアが頷く。
二人で慎重に内部を探る。
強い攻撃性を示す反応はない。
しかし、完全に無反応でもない。
「……妙ですわね」
「そうだな」
「何かがあるのは確かです」
「だが、術式として捉えにくい」
Ⅱ世は眉を寄せた。
「なら、直接見るしかない」
布の端を、慎重に持ち上げる。
その下から。
人間の頭蓋骨が現れた。
「……」
誰も言葉を発しなかった。
頭蓋骨そのものは、明らかに人間のものだった。
しかし。
頭頂部。
脳が収まっていたはずの部分が、大きく割れている。
その裂け目から。
何かが、覗いていた。
青白い。
半透明にも見える。
肉とも粘液とも判別しにくい、柔らかな質感。
細長い胴体。
輪郭は蛞蝓や幼虫のように見える。
しかし、普通の軟体生物とは明らかに違っていた。
一つではない。
頭蓋の裂け目から、複数の青白いものが重なるように伸びている。
互いに絡み合い、あるいは頭蓋の内部から押し出されるようにして、
ゆっくりと蠢いている。
表面は濡れているように光を反射していた。
それらは、這い出そうとしているようにも見える。
しかし、実際にどこかへ移動しようとしているのかは分からない。
時折、身体を縮める。
伸ばす。
また縮める。
まるで呼吸にも似ている。
だが、呼吸器官らしきものは見当たらない。
顔もない。
目もない。
口のようなものも確認できない。
ただ、青白い軟体の塊が、頭蓋の内側で生き物めいた動きを続けている。
「……何ですの、これ」
ルヴィアが、思わず声を落とした。
グレイは息を呑んだ。
「……拙には、蛞蝓のように見えます」
「そうだな」
Ⅱ世も目を細める。
「だが、蛞蝓と断定する理由はない」
その時。
青白いものの一つが、僅かに頭蓋の外へ伸びた。
ぬるり、と。
表面が光を反射する。
グレイの肩が僅かに強張った。
「……動いています」
「ああ」
Ⅱ世は答えた。
「しかし、生命活動によるものとは限らない」
Ⅱ世はさらに観察する。
「魔術によって動かされている可能性もある。
あるいは、保存された何らかの生命体かもしれない」
「それにしても、生物としては奇妙すぎますわ」
ルヴィアが言った。
「ええ」
グレイも頷く。
「拙には、呼吸をしているようには見えません」
「動きに規則性は?」
「完全にはありません」
グレイは慎重に観察する。
「縮んだり伸びたりしています。でも、
拙たちが近づいたことに反応しているのかは分かりません」
「触れない方がいいな」
獅子劫が低く言った。
彼は頭蓋を見つめながら、警戒を強めていた。
「俺が気になるのは、頭蓋そのものだ」
「頭蓋が?」
「ああ」
獅子劫は慎重に続けた。
「人骨を使った魔術なら、死霊術の類を疑う」
Ⅱ世が獅子劫を見る。
「死霊術か」
「頭蓋ってのは、死者を扱う術じゃそれなりに意味を持つ」
獅子劫は、青白い軟体状のものへ視線を移した。
「だが、普通の死霊術なら、死者そのものや、
その残留思念をどう扱うかが問題になる」
「今回は違う?」
「少なくとも、俺にはそう見える」
獅子劫が目を細める。
「頭蓋の中に、死者の魂がいるようには見えない。
むしろ、何か別のものが入り込んでいるように見える」
「別のもの……」
グレイが呟く。
「ああ」
獅子劫は頷いた。
「それが生物なのか、魔術的な存在なのかは分からねえ。
ただ、少なくとも普通の死体じゃない」
Ⅱ世も頭蓋を見つめた。
「つまり、頭蓋が器なのか。それとも、
あの軟体状のものと一体になっているのか」
「そこまでは分からない」
ルヴィアが慎重に言う。
「ですが、少なくとも自然にこうなったとは考えにくいですわ」
「同感だ」
Ⅱ世は頷いた。
グレイは記録用の紙へ目を落とした。
「では、どう記録しましょう」
「名称不明」
Ⅱ世が答える。
「人間の頭蓋骨内部から、青白い軟体状の構造物が複数確認された。
自発的な運動あり。生物であるかは不明」
「はい」
グレイが書き留める。
パッチはしばらく黙って頭蓋を見つめていた。
やがて。
「……いやぁ」
小さく息を吐く。
「これは、思っていたものとは随分違いますな」
獅子劫が横目で見る。
「金貨でも期待してたのか?」
「せめて宝石くらいは」
パッチが肩をすくめる。
「ですが……」
再び頭蓋を覗き込む。
青白い軟体状のものが、ゆっくりと蠢く。
「これはこれで、欲しがる好事家はいそうですな」
「……本気で言っているのか?」
Ⅱ世が呆れたように言う。
「世の中には変わったものを集める御仁がいるんですよ」
パッチは真顔だった。
「珍しい骨。
呪具。
正体不明の生物。
そういうものを金に糸目をつけず欲しがる人間は、案外いるもんです」
「これは生物かどうかすら分からんぞ」
「だからこそ、でしょうなぁ」
パッチは楽しそうに笑った。
しかし、すぐに表情を引き締める。
「ただし……」
頭蓋の内部を見つめる。
「これが本当に生きているのなら、扱いには気をつけた方がいい」
獅子劫が意外そうにパッチを見る。
「珍しくまともなことを言うじゃねえか」
「商売人は命あっての商売ですからねぇ」
パッチは肩をすくめた。
ルヴィアは頭蓋を観察しながら、静かに言った。
「それにしても……」
人間の頭蓋。
そこから這い出すように伸びる、青白い軟体状のもの。
「これを一体、何の目的でここへ保管していたのでしょう」
Ⅱ世は答えなかった。
箱の内側。
黒ずんだ布。
頭蓋骨。
そして、その内部に収められた正体不明のもの。
「保存状態から考えても、偶然ここへ置かれたとは考えにくい」
Ⅱ世が言った。
「隠し棚のさらに奥へ厳重に保管されていた。
つまり、これをここへ置いた人物にとって、少なくとも何らかの価値があった」
「院長でしょうか」
グレイが尋ねる。
「まだ断定はできない」
Ⅱ世は首を振った。
「しかし、この診療所に残された他の記録と無関係とも思えない」
獅子劫が腕を組む。
「血の医療。
人体実験。
獣化。
そして、これか」
「ああ」
Ⅱ世は頭蓋を見つめる。
「すべてが繋がっている可能性はある」
ルヴィアが静かに言った。
「逆に、別々のものを一つに見ている可能性もありますわね」
「その通りだ」
Ⅱ世が頷く。
「だから、今の段階では名前すら付けられない」
青白い軟体状のものが、また僅かに動いた。
誰も触れていない。
誰も近づいていない。
それでも。
ゆっくりと。
確かに。
それは頭蓋の内側から這い出すように蠢いていた。
五人は、しばらくそれを見つめていた。
まだ正体は分からない。
生物なのか。
魔術的な現象なのか。
死体に宿った何かなのか。
あるいは、そのどれでもないのか。
分かっているのは、ただ一つ。
この黒い箱が、単なる保管容器ではなかったということだけだった。