真・女神転生 APOCRYPHA   作:DMDK

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エピソードⅤ
プロローグ Ⅴ


 

 遥か頭上に仰ぎ見るものが、人類にとっての新たな害悪になるのだと。

 

 はっきりとそう判明した後になっても、しかしそれを受け入れられなかったものというのはいる。無理もないとは言えるが。

 

 なにしろそれは、太古の昔から――それこそ文献に記されている限りの昔から――人々に神聖視されていたのだ。地上に恵みをもたらし、生命を育み、そして目映い光で照らし出す。比喩ではない。そのままの意味だ。それは太陽と呼ばれ、しばしば希望の象徴としても讃えられた。

 

 地上が太陽から受けている恩恵となると、計り知れない。どれだけ並べ立てたところで足りないだろう。地球とそこに住む生物は、太陽によって生かされていると言っても断じて過言ではない。だからこそ古くから太陽は時に崇められ、神と同一視すらされてきた。生命の源であり、そして光であると、人が神と聞いてしばしば連想するものというのは概ね太陽の役割そのものだ。

 

 希望の光、などという言い回しもある。太陽がもたらすものを、人類は――礼を述べようにも届く距離ではないので――ひたすらに自分達よりも格上の、高次の存在から下賜されたものであると、そう認識していた。

 

 ――間違っていない。なにひとつ、間違いなどではない。

 

 だからこそ、太陽から降り注ぐ有害な情報が地上の生物の駆逐を始めたところで、それを神と崇めることをやめられはしなかったのだ。

 

 無論、太陽からもたらされるもののすべてが地上にとって有益なはずはない。紫外線などがわかりやすい例だろう。環境破壊が取り沙汰された前世紀末、あるいはそれよりもっと以前からも、人々はそれを理解していた。太陽は恵みを与えるが、そうでないものも時には与えるのだと。

 

 だが黒く染まった太陽が地上へと降らせるのは、どこまでも有害な情報でしかない。それ自体が際限なく生物を殺し、生物を生物でなくする、純然たる悪意だ。つまりは悪魔だ。

 

 それでも、それを神と呼ぶのであれば。

 

 手の届かない場所から地上に這う生き物を根絶やしにしようとする悪意を、神と呼ぶのであれば。

 

 神が人を抹殺しようとしているのだと、そう認めるしかないのだということになる。神の悪意を認めることになる。

 

 ――太陽に悪意があるのかという、根本的な疑問はさて置いて。

 

 

 

 当たり前だが、太陽と神を切り離して考えているものもいる――どちらが多いのかと聞かれれば、即答することはできないが。

 

 ともあれ太陽を神と呼ぶことに抵抗のある人間や、あるいは変色した太陽を単なる自然現象としか捉えないどこまでも現実的な人間は、至極真っ当な反応として、有害な情報から身を守る術を考案した。そして至ったのが、人体の悪魔化という結論だ。

 

 シュバルツバースの出現と悪魔の蹂躙が人類に残した技術から生み出されたそれは、流石にまだ実用には程遠い代物だった。仮に実用化に至ったとしても、人体を変質させるウイルスプログラムに抵抗を示さないものというのもそうはいないだろう。太陽からの有害な情報が悪魔には効果がない――もしくは、標的にしていない――という確かなデータがあったところで、こればかりは仕方がないと言える。死にたくなければ悪魔になれと言われて、素直に頷けるものというのはそれほど多くない。

 

 ――試験的にウイルスプログラムを投与した被験者には、身体の一部になにかの模様が現れるという事実が判明していた。

 

 奇妙なことにその模様は被験者によって形状も発生する部位もまったく異なり、投与された悪魔の情報を象徴しているのではないか、などと唱えるものもいる。まああり得ない話ではないのだが。

 

 果たして、誰が最初に言い始めたのかは知らないが。

 

 いつしかその模様には、呼び名がついていた。その名はある地方の言語で「個」、あるいは「我」を意味する単語だと言う。

 

 即ち、アートマと。

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