(3年後 4月2日)
あれから3年後、正人は高校生になっていた。
中学卒業と同時に施設を退所した後は叔父夫婦の元へ親権が移り、現在では叔父から同意の上で渋谷区にあるアパートで1人暮らしをしている。
そして今日は始業式前最後の平日休みであるが…正人の17歳の誕生日でもある。
彼は朝食を食べ終えるとリビングにある写真立てに手を合わせていた。
写真には両親の他に双子で弟である正彦が写っている。
「…親父…お袋…正彦…俺は17歳になったぞ…相変わらず元気だから安心してくれ…親父達の分まで長く生きてやるからな…」
彼はそう呟いて再び写真を眺めると少し表情を緩めた。
「…さてと…午後になったらいつもの場所行くか…」
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[東京都 渋谷区]
時刻は15:00。
渋谷区の街中へやって来た正人は歩きながら考え事を始めた。
『そういえばいつだったかナンパに絡まれてた奴は元気にしてるだろうか…』
そう心の中で呟くと1人の少女を思い浮かべる…ナンパに絡まれていて困っていたところを助けた彼女…当時12歳とは思えない程綺麗な顔立ち…吸い寄せられるような瞳…そして初めて会ったのにも関わらずお互い居心地が良く会話が弾み、終いにはお互いが何故施設へ入ったのかを話し合ったあの少女の事を…
『確か当時は12歳って言ってたから今は中学3年か…今考えてみても12歳で東京まで来る度胸は凄かったな…』
彼は心の中で再びそう呟くと軽く笑みを浮かべた。
するとそこへ聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「…あれ!?ま〜くんじゃない!?」
「ん?」
彼が振り返るとそこにはあの時と同じ色の帽子…紫がかった黒髪ロングヘア…瞳には自分と似たような六芒星型のハイライト…そして以前会った時よりも大人びた顔になっている少女…星野アイだった。
「…アイか?」
「やっぱりま〜くんだ!!久しぶりだね〜!」
「3年ぶりくらいか?よく覚えていたな。」
「忘れるわけないよ〜♪あの時わざわざ送ってくれたんだもん♪それ言ったらま〜くんもよく私のこと覚えてたね〜?」
「12歳の子供が施設飛び出して東京来たんだぞ?インパクトが強すぎる。」
「えへへ〜…」
アイは相変わらずテヘッとした表情で舌を出した。
一方で正人も固い表情から穏やかな表情になっている。
「…それで?今日はどうしたんだ?また抜け出して来たのか?」
「流石にもうしないよ〜…あの後結構叱られたんだから〜…」
「じゃあ何で?」
「えっとね…」
アイは周りをキョロキョロを見回す。
「ん?どうした?」
「…ちょっと場所変えない?ま〜くんとのんびり話したいから。」
「…それなら良い場所がある。ついて来い。」
そう言って正人はアイを連れてとある場所へ向かった。
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(渋谷区 某所)
それから数分後。
2人は人混みを抜けてひっそりとした場所にある喫茶店を訪れていた。
壁に沿ったカウンター席で2人は並んで座っている。
しかしアイは少し落ち着かない様子でキョロキョロと店内を見渡している。
「………」
「…どうした?そんなにキョロキョロして。」
「いや〜…なんかね?こういうお店来るの初めてだからちょっと落ち着かなくて…」
「…別に気を張る必要はない。肩の力を抜いてリラックスすれば良い。」
「…ま〜くんってさ?おじさんみたいな発言するよね〜。」
「失礼だな…俺はまだ17歳だ…」
「だって落ち着いてるんだも〜ん♪」
アイはそう言って正人に笑いかけた。
それに釣られて正人も自然と笑顔を浮かべる。
「…それで?今日は東京へ何しに来たんだ?」
「実はね〜…私アイドルグループに所属してるんだ〜♪毎週決まった日にレッスンだから結構頻繁に来てるの♪」
「なるほどなぁ……俺と一緒に居て大丈夫なのか?アイドルはそういう事には厳しいとよく聞くが…」
「あぁ〜…バレたら適当に誤魔化すから安心して!」
「余計に心配なんだが…」
そうしているうちに注文した飲み物が運ばれて来た。
正人はブレンドコーヒー、アイはメロンクリームソーダをそれぞれ飲み始める。
「んん〜♪美味しい〜♪」
「それなら良かった。」
「…ねぇねぇ、ま〜くんは今何してるの?高校生?」
「あぁ、今は春休みだからな。土日休んで来週からはまた学校さ。学校終わった後も近所のスーパーでアルバイトしてる。」
「大変だねぇ…」
「まぁな。でもそのおかげで貯金もある程度貯まってるし別に苦にはならないな。」
「なるほどね〜。」
アイは感心したように頷いた。
「…アイはどうだ?アイドル活動はやっぱり大変か?」
「そりゃあ大変だよ〜。決まった日に歌とダンスのレッスンするし、ダンスの振付も複雑だから覚えるのが大変でさ〜。……でもね?最初の頃と比べてファンも増えてきてるから成長してるっていう実感が持てるから楽しいんだ〜。」
「なるほどな。……メンバー達とは仲良くやれてるのか?」
「……まぁね。」
アイは笑っていたが微かにぎこちなくなっている。
もちろん正人がそれを見逃す事はなかった。
「…上手くいってないんだな?」
「…えへへ…バレた?」
「あぁ。…良ければ話してみろ。」
「…実はね…?私メンバーの子達から嫌われてるの…」
「嫌われてる?」
「うん…3年前グループが結成されて最初はみんな仲良くしてくれたり…芸能界に入ったばっかりで戸惑ってた私にアドバイスしてくれたりして…良い関係だったの…でもね…?グループのセンターが私に決まってから急にみんな冷たくなって…1人に至っては私に嫌がらせしてきたの…その子は社長から契約解除を伝えられて辞めていった…それからは余計にメンバーの子達との溝が深まっちゃって…それが今も続いてるの…」
「………そうか。話してくれてありがとな。すごく辛かっただろう。」
彼はそう言ってアイの頭を優しく撫でた。
彼女は一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに涙を堪えるような顔になった。
「………」
「…アイ…お前アイドルだから泣かないとか思ってるだろう?」
「っ…」
「…我慢をするな。お前だって1人の人間だ。泣きたい時は遠慮なく泣け。」
「…うぅ…うぇぇぇぇん…」
彼が優しく頭を撫でながらそう言うとアイは大粒の涙を流し始めた。
正人はすぐさまハンカチを取り出してアイに手渡す。
彼女はしばらく泣き続けるとようやく落ち着いた。
「…ひっく…」
「…落ち着いたか?」
「ゔん…ごめん…」
「謝らなくてもいい。」
「…私ね…社長から言われたからセンターやってるだけなのに…」
「うん。」
「それなのにみんなは……私が社長から贔屓されてるって捉えて…」
「うん。」
「入った時はあんなに優しかったのに…」
「うん。」
「急に冷たくなったのすごく嫌で…」
「うん。」
「私って…なんで産まれてきたんだろって…考えちゃって…どうしたら良いのか分からなくて…」
「……そうか。今まで1人でよく頑張った。」
そう言って彼は再び彼女の頭を優しく撫でた。
「…不思議だなぁ…前まで頭撫でられる時は怖かったのに… ま〜くんに撫でられると落ち着く…」
「…そうか。それなら良かった。」
「………」ドキッ
正人がアイに微笑むと彼女は胸が高鳴った。
彼女に取って初めての感覚だった。
『…なんでだろ…ま〜くんの笑顔見るとドキドキする…』
「…ん?どうした?」
「あっ…な、なんでもないよ…!」
「?…なら良い。…そろそろ行こうか。もう夕方だ。施設まで送っていく。」
「…いいの?」
「あぁ。お前1人だと心配だからな。」
「…ふふっ♪ありがとう♪」
2人はそう言って会計を済ませて店を出て行った。
綺麗な夕日が2人を優しく照らしていた。