青の記録 ―二つの記憶が交わる時― 作:きままに投稿
ただ、一つ悩んでいるのがイベントから見るべきかメインから見るべきか有識者の方いらっしゃいましたら教えて下さると有難いです!
また、お気に入り登録有難うございます!ついに10人を突破しました!
「……何だ、あれは」
少し離れた建物の屋上。
双眼鏡越しに現場を監視していたカイザー観測員が、思わず声を漏らした。
つい先ほどまで、そこにいたのは生身の少年だった。
だが今。
レンズの中央に立っているのは、全身を漆黒に包んだ人型の何か。
身体の中央まで黒く染まった装甲に、紫の意匠が走っている。頭部では、闇の中から浮かび上がるような赤い複眼が光を宿していた。
『報告しろ』
「少年に変化を確認」
『ドーパントか?』
「……いえ」
観測員は記録映像を確認する。
「少なくとも、我々がこれまで確認してきたものとは明らかに違います」
『生体コネクターは?』
「使用していません。腰部に未知の装置を装着。その装置へメモリと思われる物体を装填し、直後に全身が変化しました」
通信の向こうから返事が途切れた。
カイザーがこれまで研究してきたガイアメモリの使用方法とは根本から異なる。
人体へ直接メモリを挿入した形跡がない。
それでいて変身者は理性を保っているように見える。
『映像を全て保存しろ』
「了解」
『黒色個体を未確認脅威として記録。接触は禁止する』
「T-REXの回収は?」
『変更なしだ。回収可能な機会を待て。それまでは黒色個体との交戦も含め、全て記録しろ』
「了解」
『何一つ見落とすな』
観測員は記録装置が正常に作動していることを確認すると、再び双眼鏡を構えた。
* * *
「ヴァァァァァァァァァッ!!」
T-REXドーパントの咆哮が、人気のなくなった通りへ響き渡った。
傷だらけの巨体が低く沈む。
次の瞬間、爪が舗装を抉り、道路を揺らしながら翔へ突進してきた。
「っ!」
赤い複眼いっぱいに、巨大な顎と牙が迫る。
翔は反射的に横へ跳んだ。
ただ攻撃の軌道から外れる。
それだけのつもりだった。
「うおっ!?」
しかし、身体は翔の予想を遥かに超えて飛んだ。
一気に道路を横断し、歩道まで越える。
「ちょ、待っ……!」
慌てて足を下ろしたが、今度は勢いを殺せない。
靴底が舗装を擦りながら数メートル滑り、そのまま道路脇の街灯へ肩からぶつかった。
金属製の柱が大きく揺れる。
「いっ……!」
反射的に肩を押さえようとして、翔は動きを止めた。
「……あれ?」
衝撃そのものは感じた。
けれど痛みは驚くほど小さい。
生身だったなら、そのまま地面を転げ回っていてもおかしくない勢いだった。
それなのに身体は問題なく動き、呼吸にも大きな乱れはない。
翔は黒く覆われた両手を見た。
拳を握る。
指は思った通りに動いた。
身体が重くなった感覚もない。むしろ逆だった。手足の一つ一つが、今までよりも遥かに軽く感じる。
そして、それは視界も同じだった。
赤い複眼越しに映る景色は、妙に鮮明だった。
遠くに散った瓦礫。
T-REXドーパントの爪が舗装を掻く動き。
巨大な頭部の向き。
巨体が力を溜めるように、僅かに沈む。
視界には入っている。
なのに。
――見えてるのに、どう動けばいいのか分からない。
「ヴァァァッ!」
「!」
答えを探す暇もなく、T-REXドーパントがこちらへ向き直った。
翔は街灯から離れ、今度は自分から地面を蹴る。
「だったら……!」
先ほどの感覚を思い出し、踏み込む力を少し抑える。
それでも身体は驚くほど速く前へ出る。
生身なら何歩も必要だった距離が、一気に縮まった。
「このっ!」
右拳を握り、大きく振り抜いた。
拳が巨大な頭部の側面へ叩き込まれる。
鈍い衝撃音。
「ヴァッ!?」
T-REXドーパントの頭が横へ振られ、巨体そのものが数歩よろめいた。
「……効いた」
翔自身が一番驚いていた。
昨日までなら、殴ったところで自分の手を痛めるだけだったはずだ。
今は違う。
拳を覆う装甲も。
腕から肩へ伝わってくる力も。
明らかに、生身の自分とは比較にならない。
いける。
そんな感覚が一瞬だけ胸を過ぎった。
「もう一発――」
翔が踏み込む。
その時。
赤い複眼の端で、長いものが動いた。
「え――」
脊椎を引き延ばしたような尾が横薙ぎに迫る。
見えていた。
それでも、一発目が通ったことで次の攻撃へ意識を向けすぎていた。
反応が一瞬遅れる。
尾が腹部へ叩き込まれた。
「ぐあっ!」
身体が宙を舞った。
道路を転がり、背中から地面へ落ちた。
「っ……!」
衝撃で息が詰まる。
それでも立てた。
漆黒の装甲が、あの一撃を確かに受け止めている。
だが。
「……そう簡単にはいかないか」
翔は腹部を押さえながら起き上がった。
今の尾は見えていた。
避けられるだけの速さも、今の自分にはあったはずだ。
それでも食らった。
理由は単純だった。
自分が戦い方を知らない。
――変身したからって、俺自身まで急に強くなったわけじゃない。
手に入ったのは、怪物と戦うことのできる身体と力。
その力をどう使えばいいのかまでは、誰も教えてくれない。
父と一緒に、何度も画面の向こうで見てきた仮面ライダー。
知っていることと。
自分でできることは違う。
「ヴァァァァッ!」
怪物が再び突進の構えを取る。
翔は拳を握り直した。
「……来い」
* * *
同じ頃。
戦場から少し離れた交差点には、ゲヘナ風紀委員会の先行部隊が到着していた。
怪物の再出現を受け、アコはすぐに周辺区画へ複数の部隊を展開させていた。
前日の戦闘で、怪物には地中を高速で移動する能力があることが分かっていた。どこから地上へ現れるか予測できない以上、一方向から追跡しても再び逃げられる可能性が高い。
そのため、今回は怪物を追い回すより先に周辺の避難を進め、複数の方向から警戒区域を狭めていく方針が取られていた。
一般生徒や住民の避難は、すでにほぼ完了している。
現在、危険区域に残っているのは、道路封鎖や警戒、最後の避難確認に当たっている風紀委員たちが中心だった。
第三区画へ最も早く到着した班を率いているのが、風紀委員会の切り込み隊長――銀鏡イオリ。
さらに前日の戦闘で多数の負傷者が出たことから、今回は救護担当である火宮チナツも先行部隊へ同行していた。
「第三小隊は西側! 路地の中まで避難確認を忘れるな! 地下から来る可能性もある、足元の振動にも気をつけろ!」
「了解!」
部下へ指示を飛ばしながら交差点へ出たイオリが、そこで足を止めた。
「……は?」
怪物がいる。
それ自体は予想していた。
問題は、その正面で怪物と殴り合っている黒い何かだった。
「何だよ、あの黒いの……」
「イオリ、待ってください」
横からチナツが声をかける。
「分かってる。いきなり撃ったりしないって」
「ならいいのですが」
「何だよ、その言い方」
「念のためです」
「お前な……」
イオリは不満そうに返したものの、ライフルの銃口を黒い対象へ向けることはしなかった。
ちょうどその時。
黒い戦士が怪物の爪を避けようと地面を蹴る。
しかし動きが大きすぎた。
必要以上の距離を飛び、そのまま着地で姿勢を崩す。
「…………」
イオリが眉を寄せた。
「何やってるんだ、あいつ」
チナツはすぐには答えず、その動きを注意深く観察した。
怪物を拳一つでよろめかせる。
尾の直撃を受けても立ち上がる。
身体能力そのものは明らかに高い。
しかし、踏み込みの距離や着地の仕方が、それに噛み合っていなかった。
「……動き方が妙ですね」
「妙?」
「身体能力そのものはかなり高そうです。でも、その力に動作が追いついていません。自分で出した勢いを、自分で扱いきれていないように見えます」
「じゃあ、あんな姿してるくせに……」
「戦い慣れていないのか、あの姿そのものに慣れていないのか。今の段階では、そこまで判断できません」
その時、イオリの通信機から声が聞こえた。
『イオリ、応答してください』
「あ、アコちゃん。聞こえてる」
『こちらでも映像を確認しています。怪物と交戦している黒い対象には、こちらから手を出さないでください』
「分かってるって」
『本当に分かっていますか?』
「何だよ、その言い方!?」
『あなたの場合、こういう時ほど勢いのまま先行するでしょう』
「しないって! ……今日は」
『最後の一言が余計です』
「アコ行政官」
チナツが通信へ割って入った。
『チナツ?』
「こちらから確認した限り、黒い対象は怪物と交戦しています。ただ、かなり不慣れな動きが見られます」
『正体については?』
「現時点では何とも。ただ、少なくとも怪物と協力している様子はありません」
『……分かりました』
アコは短く考え、すぐに指示を出した。
『現状の配置を維持します。イオリは怪物への射線を確保。ただし、必要がない限り発砲は控えてください。チナツは負傷者対応を優先。黒い対象への攻撃は、こちらから指示するまで禁止です』
「了解」
「承知しました」
『それからイオリ』
「まだ何かあるの?」
『勝手に追跡して持ち場を離れないように』
「だからしないって!」
* * *
一方。
翔には、少し離れた場所から風紀委員会が自分を見ていることまで気にしている余裕はなかった。
「ヴァァァッ!」
T-REXドーパントの左腕が振り下ろされる。
翔は地面を蹴った。
今度は強く跳ばない。
必要な分だけ、身体を横へ動かす。
鋭い爪が胸のすぐ前を通過した。
「よし……!」
見える。
先ほどよりも動きが分かる。
赤い複眼を通した視界には、腕が動き出す瞬間だけでなく、その後ろで尾が僅かに持ち上がる様子も鮮明に映っていた。
最初から見えていなかったわけではない。
見る余裕がなかっただけだ。
T-REXドーパントがもう一度腕を振るう。
翔は受け止めようとして、寸前で考えを変えた。
「力比べする必要は……ない!」
腕の軌道から身体を外す。
支えを失った巨体が僅かに前へ傾く。
「そこ!」
空いた脇腹へ拳を打ち込んだ。
「ヴァッ!」
命中。
そこで翔は追わなかった。
一歩下がる。
直後、予想した通り長い尾が目の前を薙いだ。
「……やっぱり」
少しずつ。
本当に少しずつだが、分かってきた。
この身体は、闇雲に力を込めるよりも、必要な時に必要なだけ動いた方が素直に応えてくれる。
拳を振れば、腕が自然に短い軌道を通ろうとする。
足を動かせば、重心が次の動作へ繋げやすい位置へ収まる。
まるで身体の方が、どう動けば効率よく力を伝えられるのかを知っているようだった。
――これが、ジョーカーの力……?
けれど、いくら身体が応えてくれても、それを活かすのは翔自身だ。
「ヴァァァァッ!」
T-REXドーパントが低く身体を沈める。
突進。
その予備動作は、もう覚えた。
翔はすぐには動かなかった。
地面を踏み砕きながら巨大な顎が迫ってくる。
早く避ければ、相手も軌道を変える。
だから待つ。
あと少し。
「今!」
翔は身体を横へ滑らせた。
牙が赤い複眼のすぐ横を通り過ぎる。
すれ違いざま、側面へ拳を叩き込む。
「はっ!」
「ヴァッ!」
巨体が大きく傾いた。
今度は、自分の姿勢も崩れていない。
「できた……!」
だが。
そう思った直後だった。
T-REXドーパントが地面へ視線を落とす。
「……?」
次の瞬間、舗装を突き破り、その巨体が地中へ沈んでいった。
「しまった!」
舞い上がる土砂の向こうで、完全に姿が消える。
地中移動。
知っていた能力だ。
実際に目にもしていた。
それなのに、自分が殴り合うことへ意識を向けすぎて、頭から抜け落ちていた。
翔は周囲を見る。
右。
左。
前。
姿はない。
ただ、地面の下から微かな振動だけが伝わってくる。
「どこだ……」
闇雲に走っても意味はない。
翔は足を止めた。
地面へ意識を集中する。
一度。
小さな振動。
もう一度。
右――。
いや。
「下!」
地面を蹴る。
直後、翔が立っていた場所が内側から弾け飛んだ。
T-REXドーパントの巨大な顎が、真下から飛び出してくる。
「うおっ!」
噛みつきそのものは避けた。
だが舞い上がった瓦礫が胸や肩へぶつかり、空中で姿勢を崩される。
着地に失敗し、肩から道路へ転がった。
「ぐっ!」
「ヴァァァァァッ!」
地上へ出たT-REXドーパントが、そのまま追撃してくる。
立ち上がる時間はない。
翔は横へ転がった。
巨大な爪が道路を砕き、破片が赤い複眼の前を飛び散る。
「危な……!」
どうにか距離を取り、立ち上がる。
ついさっき、少し戦えるようになったと思ったばかりだった。
相手が能力を一つ使っただけで、すぐに対応できなくなる。
それでも。
最初とは違う。
何もできないと思っているだけではない。
次はどう避ける。
どこを見る。
どんな予備動作がある。
翔の意識は、少しずつ戦いそのものへ向かい始めていた。
* * *
少し離れた交差点。
怪物と黒い戦士の攻防を見ていたイオリは、思わず舌打ちした。
「チッ……見てられないな」
ライフルを構える。
「イオリ」
「分かってる。あの黒いのを撃つんじゃない」
照準を怪物へ合わせる。
「あのままじゃ押し切られる。せめて援護くらい――」
その指が止まった。
「……ん?」
黒い戦士が、怪物から距離を取りながら少しずつ戦う位置を変えている。
一見すれば、追われて後退しているだけにも見えた。
だが方向がおかしい。
風紀委員たちが展開している交差点へ怪物が向きそうになる度、黒い戦士が自分から接近したり、道路を強く蹴って音を立てたりして注意を引き戻している。
「……あいつ」
「気づきましたか?」
チナツも同じものを見ていた。
「こっちから怪物を遠ざけてるのか?」
「おそらく。少なくとも、こちらへ怪物を誘導するような動きは一度もしていません」
「戦い方はあんなに危なっかしいのに……」
イオリは僅かに目を細めた。
「そういうところは見えてるのかよ」
その時。
怪物が突然足を止めた。
「ヴ……ァ……ッ」
巨大な頭部を激しく左右へ振る。
爪で自分の胸元を掻くような動きをしながら、苦しげに身体をよろめかせた。
「……また」
チナツが小さく呟く。
「何が?」
「昨日より傷が増えているのは分かります。でも、それだけではありません。攻撃を受けていない時にも、動きが乱れています」
イオリも怪物へ視線を向ける。
確かに。
今は黒い戦士から攻撃を受けていない。
それでも、怪物は自分自身の身体を持て余すように苦しんでいる。
「身体そのものを、上手く制御できていないように見えます」
「……昨日より酷いな」
「何か、負傷以外の原因があるのかもしれません」
チナツにも、それ以上のことは分からなかった。
直後。
カラン。
道路へ落ちていた空薬莢が、小さな音を立てる。
「……?」
イオリが視線を落とした。
薬莢が震えている。
一つではない。
倒れた道路標識。
破損した車両の部品。
金属製の柵。
その全てが、細かく揺れ始めていた。
「なっ――!」
次の瞬間。
イオリの手にしたライフルが、怪物の方向へ強く引かれた。
「銃が!?」
「イオリ!」
周囲の風紀委員たちの装備も同じだった。
「うわっ!」
「武器が引っ張られる!」
「全員、銃をしっかり保持! 無理なら手放せ! 引きずられる方が危険だ!」
イオリが叫ぶ。
だが、影響を受けているのは銃器だけではない。
道路標識。
破損した車両の部品。
吹き飛ばされた金属板。
様々な金属が浮き上がり、怪物の周囲へ集まり始めていた。
* * *
「磁力……!」
翔にも、その能力には覚えがあった。
T-REXドーパントの周囲へ、次々とスクラップが引き寄せられていく。
このまま集まり続ければ。
――ビッグ・ティーレックス。
あの巨大な姿になる。
「完成させたらまずい!」
翔は地面を蹴った。
今なら、まだ間に合う。
T-REXドーパントへ向かおうとした、その時。
「チナツ! 上!」
「え?」
イオリの叫び。
翔が赤い複眼をそちらへ向ける。
道路脇。
チナツが、一人の風紀委員の傍にしゃがみ込んでいた。
磁力に突然引かれたライフルに身体を持っていかれ、転倒した際に脚を痛めたらしい。チナツはその状態を確認している。
その頭上へ。
磁力に引かれた大きな金属製の看板が、回転しながら飛んでくる。
チナツも気づいた。
しかし。
目の前には負傷した風紀委員がいる。
自分だけ避ければ、その生徒が直撃を受ける。
一瞬。
翔の視線がT-REXドーパントへ向いた。
今なら一撃を入れられる。
磁力を止められるかもしれない。
それでも。
考えるより先に身体が別の方向へ動いた。
「危ない!」
地面を蹴る。
最初のように飛びすぎない。
今度は、必要な距離を自分で選んだ。
チナツたちの前へ滑り込み、両腕を上げる。
ガァンッ!
「ぐっ……!」
大型の看板が腕へ直撃した。
漆黒の装甲が衝撃を受け止める。
足が道路を滑った。
それでも翔は踏ん張る。
「うおおっ!」
身体を捻り、看板の勢いを横へ流す。
金属板が道路へ落ち、大きな音を立てながら滑っていった。
「…………」
チナツが目を見開いた。
間近で見る黒い戦士。
怪物を攻撃する絶好の機会を捨ててまで、自分たちの前へ飛び込んできた。
「大丈夫か!?」
「あ……はい!」
「そいつは?」
「負傷はしていますが、命に別状はありません!」
「なら頼む!」
「え?」
それだけ確認すると、翔はすぐにT-REXドーパントへ向き直った。
「お前……」
イオリも思わず声を漏らす。
少なくとも。
あの黒い存在は、自分たちを襲うために動いているわけではない。
それどころか。
今、明確に風紀委員を助けた。
しかし、状況は待ってくれなかった。
別の金属片が今度はイオリたちへ向かって飛んでくる。
「チッ!」
イオリがライフルを持ち上げた。
だが銃そのものが怪物へ引かれ、照準が定まらない。
「面倒くさい能力しやがって……!」
翔も再び走ろうとする。
その瞬間。
けたたましい銃声が、通りを貫いた。
高速で飛来していた金属片が空中で次々と弾かれ、無人の道路へ落ちていく。
「……!」
翔が振り向く。
通りの向こうから、一人の少女が歩いてきていた。
小柄な身体。
その手には、彼女自身に比してあまりにも大きな機関銃。
「ヒナ委員長!」
イオリの声が上がる。
空崎ヒナ。
別区画の封鎖と避難状況を確認していた彼女も、怪物の位置が確定したという報告を受けて現場へ移動してきたのだった。
昨日。
翔が遠くから、その戦いを見ていた少女。
自分には何もできなかった場所で、あの怪物を正面から圧倒した存在。
ヒナは歩みを止めると、短く戦場全体を見渡した。
「状況は?」
「怪物と、あの黒い奴が交戦中。黒い方の正体は分かりません」
「被害は?」
「一般生徒の避難はほぼ終わってます。負傷した風紀委員が数人。それと今、怪物が周りの金属を引き寄せてて――」
イオリが言い終える前に、別の金属片が空中を飛ぶ。
ヒナは迷わず銃口を向けた。
短い連射。
金属片が空中で弾かれ、誰もいない道路へ落下する。
「……そう」
ヒナの視線が黒い戦士へ向いた。
翔も彼女を見る。
赤い複眼と、ヒナの目が交わる。
「ヒナ委員長」
チナツが声を上げた。
「あの黒い対象ですが、先ほど私たちを助けました。今のところ、こちらへの敵対行動はありません」
「分かった」
ヒナはそれ以上問い返さなかった。
そして、翔へ向けて言う。
「あなた」
「……俺?」
「周りはこっちで見る」
「え?」
再び銃声。
翔の背後から飛んできた鉄片が、届く前に撃ち落とされた。
「前を見て」
「……!」
翔は正面へ向き直る。
T-REXドーパントが迫っていた。
「ヴァァァァァァッ!!」
「っ!」
翔は身体を横へ滑らせる。
巨大な顎を避ける。
背後からまた金属片。
だが。
銃声。
翔へ届くより先に、ヒナの弾丸がその軌道を逸らした。
もう振り返る必要はなかった。
「……ありがとう!」
「お礼は後」
短い返答。
それだけだった。
けれど。
昨日は遠くから見ることしかできなかった少女が、今は自分の背後を守っている。
その事実に気づいた瞬間。
翔の中から、余計な不安が一つ消えた。
後ろは任せていい。
なら。
今は。
目の前だけを見る。
* * *
「ヴ……ァ……ッ!」
T-REXドーパントの足がふらついた。
磁力によって集まり始めていたスクラップの一部が、力を失ったように道路へ落ちる。
身体は明らかに限界へ近づいていた。
それでも。
メモリの力だけが、止まることを許さない。
「…………」
翔は拳を構えたまま、その姿を見つめた。
殴れる。
最初よりも。
今なら、もっと上手く戦える。
このまま攻撃を重ねれば、いずれ倒すこともできるかもしれない。
けれど。
――それでいいのか?
「ヴァ……ァ……!」
T-REXドーパントが苦しげに巨大な頭部を振る。
最初から感じていた。
こいつは、ただ好き勝手に暴れているわけではない。
自分自身の身体すら制御できず、メモリの力に飲まれている。
ひだまりで考えたことが、改めて頭へ浮かんだ。
ドーパントは、最初から怪物として存在しているわけではない。
ガイアメモリを使用した何者かが、あの姿へ変わっている。
なら。
自分が倒すべきなのは。
あの中にいる誰かではない。
父と一緒に見た物語の中で、何度も目にした光景が蘇る。
戦いの終わり。
元の姿へ戻る変身者。
そして。
砕けるガイアメモリ。
「……メモリブレイク」
翔は小さく呟いた。
そうだ。
目的は、あの身体を壊すことじゃない。
「やっと分かった」
赤い複眼がT-REXドーパントを見据える。
「俺が、お前と戦う理由」
「ヴ……?」
「お前を倒したいんじゃない」
翔は拳を握った。
「あの姿になる前に、戻したいんだ」
「ヴァァァァァァァァァッ!!」
返ってきたのは咆哮だった。
T-REXドーパントが突進してくる。
翔はすぐには動かない。
今までなら。
怖くて早く避けようとしていた。
でも、今は違う。
怪物の足が地面を踏み込む。
身体が沈む。
頭部の角度が僅かに変わる。
その全てが、赤い複眼にはっきり映っていた。
牙が迫る。
あと少し。
「今!」
翔は必要な分だけ横へ動いた。
T-REXドーパントが脇を通過する。
すれ違いざまに拳を一発。
「はっ!」
「ヴァッ!」
すぐに離れる。
爪。
かわす。
尾。
身体を沈める。
次は足を踏み込み、短い蹴りを脇腹へ入れる。
華麗とは程遠い。
動きにはまだ無駄がある。
何度か爪が装甲を掠め、そのたびに翔の身体も揺れる。
それでも。
最初のように、自分の力へ振り回されてはいない。
相手を見る。
動きを読む。
必要なだけ動く。
そうすれば。
ジョーカーの身体は応えてくれる。
「ヴァァッ!」
T-REXドーパントが再び地面を突き破る。
翔は追わなかった。
目ではなく。
足の裏へ意識を集中する。
地面の振動。
左。
違う。
右前。
翔は反対方向へ踏み出した。
直後。
道路が弾ける。
「そこ!」
地面から飛び出したT-REXドーパントへ、横から蹴りを叩き込む。
「ヴァッ!」
巨体が道路へ倒れ込む。
翔も着地で僅かによろめいた。
けれど。
今度は転ばなかった。
「……少しは、分かってきた」
自分の拳を見る。
この身体は。
ただ力が強いだけじゃない。
拳も。
脚も。
相手を見て。
正しい瞬間に。
必要な動きをすれば。
その力を返してくれる。
――技。
翔の頭に、その言葉が浮かんだ。
力任せに押し潰すんじゃない。
必要な一撃を。
必要な時に。
「…………」
翔の視線が腰のロストドライバーへ落ちる。
このまま殴り続ける必要はない。
一撃で。
ガイアメモリを壊すための力。
その方法は知っている。
マキシマムドライブ。
ただし。
本物で使ったことなど、一度もない。
「できるのか……俺に」
僅かな迷い。
その時。
「ヴァァァァァッ!」
倒れていたT-REXドーパントが再び立ち上がった。
傷だらけになっても。
身体が限界へ近づいても。
まだ止まれない。
「…………」
翔は小さく息を吐いた。
完璧にできるまで待つ。
そんな時間はない。
今までだってそうだった。
できるかどうかじゃない。
今。
やらなければならない。
「……やる」
* * *
「ヒナ委員長」
少し離れた位置で怪物を警戒していたイオリが、翔の変化に気づいた。
「あの黒いの、何かするみたいです」
「うん」
ヒナも気づいている。
それまでとは雰囲気が違った。
ただ攻撃を重ねようとしているのではない。
何かを狙っている。
「援護しますか?」
イオリの問いに。
「待って」
ヒナは短く答えた。
「でも――」
「今は撃たないで」
その視線は、黒い戦士から外れない。
「何か決めたみたいだから」
* * *
翔はロストドライバーへ手を伸ばした。
ジョーカーメモリを取り外す。
掌へ戻った黒いメモリ。
「頼むぞ……ジョーカー」
そのまま腰のマキシマムスロットへ装填する。
スイッチを押した。
《JOKER! MAXIMUM DRIVE!》
低い電子音が響く。
「……っ!」
その瞬間。
全身を巡っていた力が、右腕へ集まり始めた。
紫色のエネルギーが漆黒の腕を包む。
これまでとは比較にならない。
拳の奥へ。
身体中の力が凝縮されていくような感覚。
強い。
強すぎる。
だからこそ。
力任せに振るうな。
最初に飛びすぎた。
殴った後、次の攻撃を見失った。
着地にも失敗した。
何度も。
自分の身体に振り回された。
必要以上に動けば。
今度も同じになる。
なら。
最後も。
相手を見る。
動きを読む。
必要な瞬間に。
必要なだけ。
「ヴァァァァァァァァァッ!!」
T-REXドーパントが、残った力を全て吐き出すように走り出した。
翔は右拳を引く。
地面が震える。
牙が迫る。
怖さが消えたわけではない。
けれど。
今は恐怖だけを見てはいなかった。
踏み込む脚。
沈む身体。
頭部の角度。
突進の軌道。
全部が見える。
翔はぎりぎりまで待った。
そして。
半歩。
身体を横へずらす。
巨大な顎がすぐ脇を通り過ぎる。
翔は腰を捻った。
右拳へ集まった紫色の力が一点へ収束する。
「これで……!」
拳を振るう。
「戻れぇぇぇぇっ!!」
紫色のエネルギーを纏った拳が、T-REXドーパントの身体へ叩き込まれた。
轟音。
「ヴァァァァァァァァァ――ッ!!」
怪物の咆哮が通りを震わせる。
強烈な反動が翔の腕へ返ってきた。
「ぐっ……!」
それでも。
拳を止めない。
次の瞬間。
パキン。
激しい戦闘の音に比べれば、小さい。
それでも。
翔には、はっきりと聞こえた。
「……!」
T-REXドーパントの身体から、何かが弾き出される。
道路を転がる。
Tの紋章を刻んだガイアメモリ。
その表面には、深い亀裂が走っていた。
そして。
砕けた。
「ヴ……ァ……」
T-REXドーパントの声が弱まる。
巨大な身体から黒い粒子が溢れ始めた。
白目を剥いた巨大なティラノサウルスの頭部。
爬虫類のような左腕。
鋭い爪。
脊椎を思わせる尾。
身体に走っていた血管のような模様。
それらが一つずつ崩れるように消えていく。
* * *
「なっ……!?」
少し離れた場所から見ていたイオリが、目を見開いた。
「姿が……」
チナツも手を止める。
怪物だった巨体が縮んでいく。
黒い粒子が風に散り。
最後に道路へ残ったのは。
一人の獣人の男性だった。
身体のあちこちに傷を負い、力なく地面へ倒れ込む。
「…………」
翔は、すぐには動けなかった。
分かっていた。
あの中には。
元の姿を持った何者かがいる。
そう考えていた。
それでも。
実際に目の前へ現れると。
胸に来るものが違った。
――本当に。
――いたんだ。
怪物じゃない。
ずっと。
あの中に。
「おい!」
翔は我に返り、男性へ駆け寄った。
身体へ手を伸ばそうとしたところで。
「動かさないでください!」
「え?」
チナツが駆け込んでくる。
医療鞄を置き、そのまま獣人男性の傍へ膝をついた。
「私が診ます」
「あ……ああ」
翔は素直に一歩下がった。
チナツは呼吸を確認し、続いて脈や身体の状態を手早く調べていく。
「呼吸あり。脈もあります。かなり衰弱していますが……生きています」
「……そうか」
翔の肩から力が抜けた。
しかし。
チナツの表情がすぐに曇った。
「これは……」
「どうした?」
イオリも近づいてくる。
「戦闘による傷だけではありません。皮膚の一部に、別の損傷があります」
男性の身体には、爪や銃撃によるものとは異なる傷が残っていた。
酷く荒れ、場所によっては爛れたようになっている。
「火傷……? いえ、それとも……」
チナツにも原因は分からない。
翔には。
心当たりがあった。
ガイアメモリの毒素。
もしあの男が、生体コネクターも使わずにT-REXメモリを直接使っていたのなら。
「…………」
だが。
今ここで口にするわけにはいかなかった。
「救護班!」
チナツが振り返る。
「担架をお願いします! それと救急医学部にも連絡を。意識障害と、原因不明の皮膚損傷があります!」
「了解!」
風紀委員たちが動き始める。
「お前」
「……?」
イオリの声に、翔が振り向く。
ライフルは下げられている。
だが、その目にはまだ警戒が残っていた。
「何者なんだ?」
「…………」
「その姿も、さっきの攻撃も見たことがない。それに、あの怪物が元に戻ったのも、お前が何かしたんだろ?」
「それは……」
「イオリ」
チナツが制止する。
「今は治療が先です」
「分かってるって。でも聞くくらい――」
「イオリ」
今度は別の声だった。
「……ヒナ委員長」
ヒナがゆっくり近づいてくる。
翔の赤い複眼が彼女を見る。
昨日は遠くから。
到底届かない場所にいるように思えた少女。
今は目の前にいる。
「あなた」
「……?」
「怪物を元に戻したのは、あなた?」
「……たぶん」
「たぶん?」
「俺も、初めてだったから」
「…………」
ヒナはしばらく翔を見つめた。
それから、チナツが治療している獣人男性へ視線を移す。
「そう」
「……信じるのか?」
翔が思わず聞いた。
「全部は信じてない」
返事はすぐだった。
けれど。
「でも」
ヒナの視線が、先ほど翔がチナツたちを庇った場所へ向く。
道路には、弾き飛ばされた金属看板が転がっていた。
「風紀委員を助けたのは見てた」
「…………」
「少なくとも、今ここであなたを撃つ理由はない」
翔は僅かに息を吐いた。
その時。
「翔」
「!」
聞き慣れた声がした。
少し離れた路地の入口。
ニャン次郎が立っている。
「マスター……」
長くここへ残るのはまずい。
聞かれれば。
説明しなければならないことが増える。
翔はチナツを見る。
「その人……頼めるか?」
「もちろんです」
チナツはまっすぐ答えた。
「必要な処置は私たちがします」
「……ありがとう」
翔は一歩下がった。
「おい、待て!」
イオリが声を上げる。
「まだ話は――」
「イオリ」
「でもヒナ委員長!」
「追わなくていい」
「え?」
「今は怪我人の方が先」
「……分かりました」
不満そうではあったが、イオリはライフルを下げた。
そのまま立ち去ろうとする翔の背中へ声を飛ばす。
「次に会った時は、ちゃんと話してもらうからな!」
「……覚えとく」
翔はそれだけ返し、ニャン次郎のいる路地へ走った。
* * *
「T-REX、変身解除を確認」
建物の屋上。
観測員は、遠ざかっていく黒い戦士をレンズ越しに追っていた。
「実験体は風紀委員会が確保。周辺にも複数の部隊が展開しています」
『メモリは』
「黒色個体の攻撃直後に破損。反応も消失しました」
通信の向こうから返事がない。
数秒。
いつもより長い沈黙だった。
『……回収は』
「困難です。今接近すれば、風紀委員会に発見されます」
『…………』
小さく。
舌打ちに近い音が通信へ混じった。
『実験体も駄目。メモリも破損。挙げ句、正体不明の個体にこちらの実験を潰されたか』
抑えた声だった。
だが、その一言一言には隠しきれない苛立ちが滲んでいる。
「……はい」
『随分と高くついたな』
観測員は返答しなかった。
『撤収しろ』
「了解」
『映像は?』
「少年が変化した瞬間から戦闘終了まで、全て記録しています」
『一つも欠損させるな。今回まともに持ち帰れる成果は、それくらいだ』
「承知しました」
『T-REXの制御失敗についても再検証する。生体コネクター関連の研究は予定通り進めろ』
観測員が僅かに間を置いた。
「黒色個体については?」
『……今は記録だけでいい』
「回収対象には指定しない、と?」
『正体も、装置の原理も、能力の限界も分からん。得体の知れないものへ手を伸ばして、これ以上損失を増やすつもりはない』
そこで一度、声が止まる。
『だが』
先ほどまでより、僅かに低い声だった。
『こちらの実験体を単独で撃破し、メモリまで破壊した』
「……」
『未確認脅威として記録しておけ。次に現れた時、同じように好き勝手させるな』
「了解」
『戦闘映像は詳細に分析する。ただし、研究の優先順位は変えない』
カイザーが進めるのは、あくまでドーパントの安定運用。
生体コネクター。
ガイアメモリの制御。
今回現れた未知の戦士に興味を示したからといって、そのために研究方針そのものを曲げるつもりはない。
『それより、今回の失敗原因を徹底的に洗い出せ』
「承知しました」
『次も「制御できませんでした」で済むと思うな』
「……了解」
そこで通信が切れた。
観測員はしばらく端末を見つめていた。
機嫌が悪い。
わざわざ確認するまでもない。
実験体。
メモリ。
回収機会。
その全てを失った。
その上で、計画には存在しなかった未知の戦士まで現れたのだから。
観測員は最後に一度だけ、黒い戦士が消えた路地へ双眼鏡を向ける。
そして機材を片付けると、何の痕跡も残さず屋上から姿を消した。
* * *
人通りのない路地へ入ったところで。
翔はようやく足を止めた。
「……ここなら大丈夫か」
周囲に誰もいないことを確かめ、ロストドライバーへ手を伸ばす。
変身を解除した。
全身を覆っていた漆黒の装甲が消え、生身の身体へ戻る。
「っ……」
途端に、身体の奥から強い疲労が押し寄せた。
翔は近くの壁へ手をつく。
「思ったより……きついな」
「当然だ」
ニャン次郎が横から答えた。
「初めて使った力で、あれだけ動き回ったんだからな」
「……マスター」
翔は手の中を見る。
ジョーカーメモリ。
小さな黒い装置。
ついさっきまで。
これ一つが、自分を仮面ライダーへ変えていた。
「…………」
戦えた。
何度も失敗した。
力を制御できなかった。
攻撃も食らった。
避け損ねた。
それでも。
「元に戻せた」
「ああ」
「助かったんだよな、あの人」
「少なくとも、生きてはいた」
「……そっか」
翔は小さく息を吐いた。
勝った。
そう言えば、そうなのかもしれない。
けれど胸にあるのは、勝利の高揚よりも別の感覚だった。
もし一歩間違えていたら。
助けられなかったかもしれない。
自分の力で、逆に誰かを巻き込んでいたかもしれない。
翔はジョーカーメモリを握る。
「俺、全然だったな」
「初めてで完璧に戦えたら、それはそれで気味が悪い」
「……それもそうか」
僅かに笑う。
けれど。
すぐに翔の表情は真剣なものへ戻った。
「マスター」
「……何だ」
腰に残ったロストドライバー。
手の中のジョーカーメモリ。
それぞれへ目を向ける。
「聞きたいことがある」
「だろうな」
「これがどうしてキヴォトスにあるのか。どうしてマスターが持ってたのか。それに……ガイアメモリのことも」
「…………」
ニャン次郎は何も答えなかった。
もう。
昨日までのように誤魔化すことはできない。
自分自身の手で。
ロストドライバーを翔へ渡したのだから。
「店へ戻るぞ」
「マスター?」
「こんなところで話すことじゃない」
ニャン次郎は歩き出した。
翔はその背中を見つめる。
「……話してくれるのか?」
ニャン次郎の足が止まる。
振り返らないまま。
「ああ」
短く答えた。
「俺が知ってることはな」
「…………」
翔はジョーカーメモリへ視線を落とした。
力を手に入れた。
けれど。
分からないことは、むしろ増えていた。
この力は何なのか。
誰が作ったのか。
なぜキヴォトスに存在するのか。
そして。
なぜ自分の手には。
これほど自然に馴染んだのか。
「……行こう」
翔はジョーカーメモリを握り直し、ニャン次郎の後を追った。
初めての戦いは終わった。
けれど。
力を手にしただけでは、何も終わらない。
その力を何のために使うのか。
どう使っていくのか。
それを選ぶのは。
これからも。
翔自身なのだから。