青の記録 ―二つの記憶が交わる時― 作:きままに投稿
正直、ここが一番難産でした。カットしてもいいかと考えたんですが、そうするとアビドス組とヒフミとの繋がりをどうするん?になるので無理矢理感満載でしたが打ち込みました。私の想像力ではこれが限界です。
ご意見、感想お待ちしております!ご指摘等も歓迎です。そこから見えて来る案とかもありますので気軽に送って下さい!
ブラックマーケットの銀行での一件から、数日が経っていた。
あの日、先生たちはカイザーPMCの追跡を振り切り、無事にブラックマーケットを脱出した。
別方向へ分かれた仮面ライダーも、それ以降姿を見せなかった。
その後、少し遅れて翔も先生たちと合流している。ブラックマーケットで騒ぎに巻き込まれ、別の道から逃げてきた――という説明だけで、その日はそれ以上深く聞かれることもなかった。
何より全員、銀行から持ち出したものを無事にアビドスまで持ち帰ることで精一杯だった。
そして現在。
アビドス高等学校、対策委員会室。
「……多いな」
机の上を見た翔が、率直な感想を漏らした。
いつもなら教科書や飲み物、簡単な書類が置かれている程度の机には、今日は紙の束と端末が所狭しと並んでいる。
銀行から確保した取引記録。
アヤネがそこから抜き出した企業名や口座番号。
土地の所有権に関する資料。
そして翔がここしばらくブラックマーケットで集めてきた、疑似メモリ兵器の流通に関する情報。
「これでも、かなり減らしたんですよ」
アヤネは少し疲れた顔で答えた。
「元の記録を全部並べたら、この机だけじゃ足りません」
「お疲れ様……」
「本当にね」
先生も苦笑する。
その隣ではセリカが椅子の背にもたれ、露骨に嫌そうな顔で数字の並んだ資料を眺めていた。
「もう見たくないんだけど、この数字……」
「まだ始まったばかり」
「シロコ先輩は平気そうに言うけど!」
「私も全部理解できてるわけじゃない」
「じゃあ何でそんな落ち着いてるのよ!」
いつものやり取りに、ノノミがくすりと笑う。
「まあまあ。ここまで整理してくれたアヤネちゃんのおかげで、かなり見やすくなりましたから~」
「ありがとうございます、ノノミ先輩……」
アヤネはそう返してから、表情を切り替えた。
「では、始めますね」
端末を操作すると、壁際のモニターへいくつもの企業名が表示される。
「まず、銀行から持ち帰った資料についてです」
室内の空気が少し引き締まった。
「カイザー融資に関係する口座から、複数の企業へ定期的に資金が移されています。もちろん、それ自体は不自然とは言い切れません。融資会社が他の企業と取引していること自体は普通ですから」
画面上の企業名の一部が色付きで強調される。
「ただ、この企業です」
五つ。
その名前を見た瞬間、翔は僅かに身を乗り出した。
「……待ってくれ」
「翔さん?」
「三番目と五番目、もう一回見せて」
アヤネが拡大する。
翔は自分の端末を取り出し、保存していた資料を呼び出した。
「やっぱりだ」
「知ってる会社?」
先生が覗き込む。
「ああ。会社そのものを調べたわけじゃないけど、名前は出てきてる」
翔は端末を机の中央へ置いた。
表示されているのは、ブラックマーケットで調べた取引先や倉庫、輸送業者などを自分なりにまとめた一覧だった。
「疑似メモリ兵器を売ってる奴を追ってた時、何度か出てきた」
セリカが眉を寄せる。
「武器を作ってる会社なの?」
「いや。そこまでは分からない」
翔は首を振る。
「少なくとも表向きは違う。片方は物流関係、もう片方は設備管理だ。けど、疑似メモリ兵器を扱ってた仲介屋が使ってた倉庫や輸送車両を辿ると、この名前が出てきた」
「つまり……」
アヤネが自分の資料と翔の端末を見比べる。
「カイザー融資から動いた資金の一部が、翔さんが調べていた疑似メモリ兵器の流通経路と繋がっている?」
「少なくとも、記録上は」
翔は頷いた。
「ただ、これだけでカイザーが兵器を作ってるとは言えない。金だけ出してるのか、運搬を手伝ってるのか、それとも会社自体が別の目的で使われてるのかも分からない」
「でも、偶然って言うにはちょっと出来すぎじゃない?」
セリカの言葉に、誰も反論しなかった。
「それだけじゃない」
先生が机の上に置かれていた別の紙へ手を伸ばす。
「ブラックマーケットで追ってきたカイザーPMCが使っていた装備」
翔の視線がそちらへ移る。
放電。
衝撃波。
防御障壁。
拘束。
凍結。
簡潔にまとめられた五つの項目。
「これについては、私たちも直接見てる」
「うん」
シロコが頷く。
「途中から、普通の武器とは明らかに違った」
「本当に厄介だったわよ」
セリカが腕を組む。
「壁みたいなの出してくるし、変な線で拘束してくるし、挙げ句の果てに周りまで凍らせるし……」
「しかも、それぞれ別々に使ってたわけじゃない」
先生が言った。
「こっちの移動を制限して、逃げ道を塞いで、その状態で凍結装置を効かせていく。最初から複数の装備を組み合わせて運用してた」
「あれは偶然じゃない」
翔も続ける。
「兵器の性能を理解してた。どれをどの順番で使えば相手を追い込めるかまで含めて訓練されてる」
ノノミが少し表情を曇らせる。
「ブラックマーケットで見つけたものとは違うんですか?」
「ああ」
翔は迷わず答えた。
「今まで市場で見た奴より、明らかにまとまってる。出力も安定してたし、装置ごとの仕様も揃ってた」
「セリカちゃんを攫った時の装置は?」
ホシノが不意に尋ねた。
その言葉で、室内が一瞬だけ静かになった。
翔はホシノを見る。
「……近いと思う」
今度は少し慎重に答えた。
「あの時使われてた拘束装置も、市場で適当に買った物には見えなかった。今回のカイザーPMCの装備と同じで、最初から実戦で使うことを前提に作られてる感じがした」
「じゃあ」
セリカが身を乗り出した。
「やっぱり、私を攫わせたのもカイザーだったってこと?」
「可能性はかなり上がった」
先生が答える。
「でも、そこもまだ『証明できた』とは言えないよ」
「……分かってるわよ」
不満そうではあったが、セリカはそれ以上食い下がらなかった。
翔も資料へ視線を戻す。
これまで、一つ一つは別々だった。
ブラックマーケットで流れる疑似メモリ兵器。
仲介業者。
セリカ誘拐に使われた特殊装置。
そしてカイザーPMC。
線は見えていた。
だが、その間にはまだ隙間が多かった。
今回の銀行資料によって、その隙間が少しずつ埋まり始めている。
「次はこちらです」
アヤネが画面を切り替えた。
今度は地図だった。
アビドス自治区と、その周辺。
そこに複数の印が付けられている。
「銀行の取引記録からカイザー系列と思われる企業を洗い直して、それぞれが所有、あるいは管理している土地や施設を確認しました」
「……多くない?」
セリカの声が低くなる。
画面に表示された印は、一つや二つではなかった。
アビドス自治区の外縁。
砂漠化した地域。
使われなくなった道路沿い。
旧市街地の跡。
広い範囲に散らばっている。
「全部カイザー?」
シロコが尋ねる。
「直接の名義ではありません」
アヤネが首を振る。
「子会社や関連会社、それからさっき話した実態のよく分からない企業も含まれています。ただ、資金の流れを辿ると、最終的にカイザー系の口座へ繋がるものがかなりあります」
「借金を回収するついでに土地まで集めてるってこと?」
セリカの声に苛立ちが滲んだ。
「まだ断定はできません。でも――」
アヤネは地図の一角を拡大した。
自治区中心部からかなり離れた砂漠地帯。
そこへ、不自然なほど多くの印が集中している。
「ここだけ、少し変なんです」
「何が?」
「土地の取得だけじゃありません」
さらに資料が表示される。
輸送記録。
燃料。
発電設備。
重機。
建設資材。
研究設備。
翔の目が細くなる。
「……多すぎるな」
「はい」
アヤネが頷く。
「人がほとんど住んでいない場所です。それなのに、数か月前から物資の搬入量が急激に増えています」
「何か作ってる?」
シロコが言う。
「そう考えるのが自然だと思います」
先生も画面を見つめる。
「施設の詳細は?」
「ほとんどありません。表向きは『資源調査関連施設』として登録されています。ただ、具体的に何を調査しているのかは記載されていません」
「資源調査……」
翔はその言葉を繰り返した。
嫌な引っかかりがあった。
何もない砂漠。
カイザー。
大量の重機。
研究設備。
そして、疑似メモリ兵器。
頭の中で並べると、どうしても一つの可能性が浮かぶ。
しかし、まだ口にはしなかった。
根拠が足りない。
「もう一つあります」
アヤネの声が、翔の思考を遮った。
「この施設なんですが……銀行の件があった翌日から、動きが変わっています」
「動き?」
「はい。搬入より搬出が急に増えました」
画面にグラフが表示される。
明らかだった。
それまで施設へ向かっていた大型車両が、今度は逆方向へ頻繁に出ている。
「設備の停止申請も出ています。それに、登録されていた通信回線の一部も順次解約されています」
先生の表情が変わった。
「……閉鎖するつもり?」
「その可能性があります」
「銀行から記録を取られた直後に?」
ノノミが呟く。
「偶然とは思いにくいですね……」
「証拠を消してる」
シロコが短く言った。
「たぶん」
先生も頷く。
「少なくとも、そう疑うには十分だね」
セリカが勢いよく立ち上がった。
「じゃあ行きましょうよ!」
「セリカ」
「だって、全部持って逃げられたら終わりでしょ!? せっかくここまで調べたのに!」
「落ち着いて」
「落ち着いてるわよ!」
「声が大きい」
「シロコ先輩!」
普段通りのやり取りに見える。
だが、セリカが焦る理由は全員分かっていた。
今までずっと後手だった。
借金。
襲撃。
誘拐。
ブラックマーケット。
相手の動いた跡を追うことばかりだった。
ようやくこちらから辿り着けそうな場所が見えた。
それが今、消えようとしている。
「私も、行くべきだと思う」
先生が言った。
セリカが振り返る。
「ただし、今すぐ飛び出すんじゃない」
「……先生」
「場所は分かった。でも中に何があるか分からない。カイザーの施設なら警備もいる。銀行の時みたいに勢いで突っ込むのは、もうやらない」
「うっ」
セリカだけではなく、何人かが微妙な顔になった。
先生自身も少し気まずそうに視線を逸らす。
「……私も含めてね」
「そこはちゃんと反省してるんだな」
翔が言うと、先生が胸を張る。
「大人なので」
「その言葉を便利に使うなって」
「今回はちゃんと反省してるよ?」
「ならいいけど」
僅かな笑いが起こった。
しかし、それもすぐに消える。
「アヤネ」
ホシノが地図を見たまま尋ねた。
「このままのペースだと、あそこが空になるまでどれくらい?」
「正確には分かりません。ただ、この搬出量が続くなら……」
アヤネは数字を確認する。
「数日もかからない可能性があります」
「そっかあ」
ホシノがいつものように間延びした声を出す。
それから、椅子の背から身体を起こした。
「じゃあ、あんまりのんびりもしてられないねえ」
その声には、普段ほどの眠たさがなかった。
先生が全員を見回す。
「今日中に移動手段と侵入経路を確認する。アヤネは施設周辺の地形と通信状況をもう少し調べて。シロコたちは装備の確認をお願い」
「ん」
「分かりました~」
「了解!」
先生の視線が最後に翔へ向く。
「翔は?」
「俺は、この施設についてもう少し別口から当たってみる。それと、風紀委員会にもここまでの内容を報告する」
「分かった。何か分かったら共有して」
「ああ」
それぞれの役割が決まり、翔はもう一度モニターを見る。
砂漠の真ん中。
何もないはずの場所。
そこへ大量の資金と物資が流れ込み、銀行事件の直後から急速に何かが運び出されている。
偶然とは思えない。
そして何より、ここしばらく追い続けてきた疑似メモリ兵器の流れが、少しずつその場所へ近づいている。
「……何があるんだろうな」
ぽつりと漏らした翔の言葉に、誰も答えられなかった。
ただ一つだけ確かなことがある。
今まで自分たちは、誰かが残した足跡を追っていた。
だが今度は違う。
まだ何かが残っているうちに、こちらから踏み込む。
カイザーが隠そうとしている場所へ。
その先に何が待っているのか。
この時の彼らは、まだ知らなかった。
* * *
その日の夕方。
対策委員会室での話し合いを終えた翔は、一度滞在先の宿へ戻っていた。
机の上には端末と、今日アヤネから共有された資料の一部が並んでいる。もちろん銀行から持ち出した原本そのものではない。対策委員会側で整理され、外部へ共有しても問題ない範囲にまとめられたものだ。
翔は内容をもう一度確認してから、風紀委員会から支給された通信端末を操作した。
呼び出し音は長く続かなかった。
『はい。ゲヘナ風紀委員会です』
「俺。今いいか?」
『翔さんですか。ちょうどこちらからも連絡しようと思っていました』
聞き慣れたアコの声が返ってくる。
「何かあった?」
『そちらの報告を聞いてからです。先にお願いします』
「分かった」
翔は椅子へ座り直した。
「今日、先生たちと一緒に情報を整理した。ブラックマーケットの銀行から持ち帰った記録と、俺が今まで追ってた疑似メモリ兵器の流通情報を照合したんだけど――かなり繋がった」
『……続けてください』
「カイザー融資から動いた金の一部が、ブラックマーケットで俺が見つけた仲介業者に関係する会社へ流れてる。物流会社と設備管理会社。どっちも表向きは普通の会社だけど、疑似メモリ兵器を扱ってた連中の倉庫や輸送に名前が出てた」
『資料は送れますか?』
「ああ。今送る」
数回操作して、まとめたデータを転送する。
少しして、通信の向こうから端末を操作する音が聞こえた。
『……確認しました』
「それだけなら、まだカイザーが作ってる証拠にはならない」
『当然です。資金提供、輸送、設備提供……いくらでも別の可能性はあります』
「ああ。でも、銀行でカイザーPMCが使ってた疑似メモリ兵器もある」
翔はそこで声を少し低くした。
「前に報告した通り、市場に流れてた物よりずっと完成度が高かった。しかも複数種類を一つの部隊で組み合わせてた」
『電撃、衝撃波、防御障壁、拘束、凍結でしたね』
「覚えてたのか」
『あなたの報告を何だと思っているんですか』
「いや、ちゃんと読んでくれてるんだなって」
『当たり前です』
ぴしゃりと返される。
だが、その後のアコの声には普段の苛立ちより思案する色が強かった。
『……市場へ流している兵器と、自社部隊が使っている兵器に明確な性能差がある』
「そう見える」
『仮に市場の方を試験投入だと考えれば辻褄は合いますが……』
「そこまではまだ言えないな」
『ええ。ですが、調べる価値は十分あります』
翔は頷いた。
「それで、もう一つ」
端末へ砂漠の地図を表示する。
「アビドス側でカイザー系列の土地と施設も洗い直した。妙な場所が一つ見つかった」
『妙な場所?』
「砂漠の奥にある資源調査施設。周囲の土地も、カイザー系列の会社がかなり押さえてる」
『資源調査……』
「数か月前から大量の物資が入ってる。重機、燃料、発電設備、研究機材。人もほとんど住んでない場所にしては規模がでかすぎる」
そこで一度区切る。
「それが、銀行の件の翌日から急に搬出を始めた」
通信の向こうが静かになった。
『……閉鎖ですか』
「たぶん」
『銀行から資料を奪われた直後に』
「ああ」
アコはしばらく何も言わなかった。
翔も急かさない。
やがて、小さく息を吐く音がする。
『分かりました。こちらでもその施設と関連企業を調べます』
「助かる」
『ただし』
声が少し硬くなった。
『風紀委員会が直接アビドス自治区へ部隊を送ることは、現状ではできません』
「分かってる」
前回の一件だけでも、自治区を越えて武装部隊を動かすことがどれだけ面倒な問題になるかは十分見た。
『カイザーが疑わしいというだけでは足りません。まして、土地自体が正規にカイザー系列の所有になっているなら尚更です』
「だから俺たちで確認する」
『……やはり行くんですね』
「あそこが空になってからじゃ遅い」
今度はアコもすぐには止めなかった。
『……そうですね』
意外なほど素直な返答だった。
『こちらから止めたところで、今ある情報だけでは代わりに調べる手段もありません』
「それもあるけど、俺が行った方がいい理由がもう一つある」
『何ですか?』
翔は机の上に並べた資料へ視線を落とした。
「今まで出てきた疑似メモリ兵器を、現物で一番見てるのはたぶん俺だ」
ブラックマーケットに流れていた不揃いな装置。
セリカの誘拐に使われた、市場品とは明らかに違う機材。
そして先日のカイザーPMCが投入した、規格の揃った複数の兵器。
「外から見ただけじゃ、普通の研究設備か兵器用の設備か分からないものもあると思う。でも、向こうで使ってた装置と同じ部品や構造が残ってれば、俺なら気づけるかもしれない」
『なるほど……』
「それに、今回見つけたいのは会社の名前だけじゃない」
翔の声が少し低くなる。
「疑似メモリ兵器がどこから来たのか。その一つ前まで行けるなら行きたい」
これまでずっと流通の末端を追ってきた。
使っている者を捕まえ、売った者を探し、そのさらに先へ辿ってきた。それでも、どこで作られ、どうしてブラックマーケットへ流れ始めたのかは見えていない。
今回の施設は、その答えに最も近い場所かもしれなかった。
『だから、自分の目で確認したいと』
「ああ」
『……分かりました』
アコは一度だけ息を吐いた。
『その理由なら、私から同行するなとは言いません』
「助かる」
『勘違いしないでください。無条件で好きにしていいと言っているわけではありません』
「分かってるよ」
『今回の目的は施設の確認と証拠の確保。カイザーPMCそのものを叩き潰すことではありません』
「それも分かってる」
『ならいいです』
そこまで話したところで、通信の向こうから別の声がした。
『アコ』
『委員長?』
僅かに遠かった声が、すぐ近くなる。
『代わって』
『……はい』
短いやり取りの後、通信の相手が変わった。
『翔』
「ヒナ?」
『話は途中から聞いてた』
「そっか」
ヒナは少し間を置いた。
『その施設、明日行くの?』
「その予定。先生たちも準備してる」
『分かった』
それだけ答えたあと、ヒナは何かを考えるように黙った。
『こっちでも調べてみる』
「施設を?」
『カイザーの会社全部は追えなくても、ゲヘナ周辺で疑似メモリ兵器が流れ始めた時期と、今送ってくれた会社の動きくらいなら確認できる』
「それだけでも助かる」
『何か見つけたらアコから送る』
「ありがとう」
『……あと』
そこでヒナの声が少しだけ変わった。
『今回は一人じゃないんでしょ?』
「ああ」
『なら、ちゃんと周りを頼って』
短い言葉だった。
けれど翔は、その意味を聞き返す必要はなかった。
「分かってる」
『うん』
それ以上は言わない。
すぐにアコへ通信が戻る。
『委員長との話は終わりましたか?』
「終わった」
『では最後に一つ』
「何?」
『施設の内部まで入るのであれば、定時連絡を設定してください。通信が途絶えた場合はこちらでも異常を把握できます』
「了解。時間は先生たちと決めてから送る」
『お願いします』
翔はそこで通信を切ろうとした。
だが、その直前。
『翔さん』
「ん?」
『さっき送られてきた資料ですが』
アコの声が少し低くなる。
『気になる点があります』
「どこ?」
『施設への搬入記録です。研究設備や重機に混じって、用途の分からない高出力電源装置が複数あります』
「高出力電源?」
『はい。それも、一時的な工事設備としては多すぎます』
翔は眉を寄せた。
「疑似メモリ兵器用って可能性は?」
『分かりません。ただ、少なくとも普通の資源調査だけなら、ここまでの設備が必要なのか疑問です』
「……なるほど」
『詳しくはこちらで調べます』
「ああ。頼む」
今度こそ通信を終えた。
部屋が静かになる。
翔は椅子にもたれながら、端末に表示された砂漠の地図を見る。
カイザー系列の土地。
大量の重機。
研究設備。
高出力の電源。
そして、銀行から資料が持ち出された途端に始まった撤収。
それだけではない。
これまで自分が追ってきた疑似メモリ兵器は、いつも完成した状態で目の前へ現れていた。
誰かが使っている。
誰かが売っている。
誰かが運んでいる。
そこまでは辿れた。
だが、そのさらに奥だけは見えなかった。
明日向かう場所には、その奥へ続く何かが残っているかもしれない。
翔は画面を閉じると、窓の外へ目を向ける。
アビドスの空は、すでに赤く染まり始めていた。
明日。
あの砂漠の奥へ行く。
これまで何度も名前だけを追ってきたカイザーの、その懐へ。
今度は向こうが残した物を見るのではない。
消される前に、自分の目で確かめる。
疑似メモリ兵器へ続く道の、その先を。