よく聞け、いいか、ここをローマ帝国とする! 作:とくめいのネロ
注意:オリキャラがでます。
皇歴2009年春
白の宮殿『玉座の間』
天井には眩いばかりのクリスタルシャンデリアが輝き、大理石の床には歴代皇帝の権威を示す深紅の絨毯が一直線に敷き詰められている。
その最奥——段上に鎮座する巨木のごとき玉座の上から、威厳に満ちた——悪く言えば威圧感と圧迫感だけの、可憐さも愛嬌もない、神聖ブリタニア帝国第98代皇帝、シャルル・ジ・ブリタニアが、眼下の余を鋭い眼光で見下ろしていた。
そして、余のいる玉座から数段下の両脇には、オデュッセウス、シュナイゼル、クロヴィス、ギネヴィアといった、名だたる異母兄姉たちが重苦しい空気の中でズラリと居並んでいる。
…ちなみに、コーネリアは騎士学校とのことだ。
本来なら帰っているはずだが、最近、どこぞのうつけとの児戯にハマってしまったらしく、学校の授業や実習をよく抜け出しているとのことで、学業が切羽詰まってしまったらしい。
全く、仮にも至高なる余の姉なのであれば、それなりの常識に乗っ取り行動するよう、最低限の教養は学んで欲しいものよ。はぁ、嘆かわしい。
「……ネロよ」
シャルルの喉奥から鳴り響く地鳴りのような重低音が、大広間の広大な空間を激しく振動させた。
勝手にコーネリアに失望している余は意識を前の大男に向ける。
「宮殿の近衛騎士団第三部隊を勝手に全機かき集め、白亜の庭園にて『ローマ式全軍大行進パレード』なる予行練習を強制させ、重要公務および警備計画を停滞させたそうだな」
シャルルの放つ凄まじい皇帝の覇気。普通の7歳児……いや、並の大人や熟練の騎士でさえ、その威圧感だけで膝を折り、恐怖で涙を流して許しを請うところであろう。
だが——余はまったく怯まなかった! どころか、退屈さに欠伸を噛み殺していたくらいだ!
余は両手で真っ赤なドレスの裾を優雅にふわりと広げ、完璧な角度で首をかしげると、シャルルに向けて太陽のごとき最高の笑みを返してやったのだ!
「ふはははは! シャルルよ!」
幼くも可憐で尊大な高笑いが大広間に響き渡る。
ひっ……!!
周囲の皇族や居並ぶ貴族たちが、一斉に息をのむ音が聞こえた。
「余の指揮があまりにも美しく、寸分違わぬ完璧さであったため、指導された騎士どもが感涙にむせび、余の神々しさに酔い痴れて動けなくなったのだ! あれは公務の停滞などではない! 余という至高の芸術に平伏していただけの時間よ! むしろ余の稀代の演出能力を大いに讃えるが良い!」
皇帝に向かって「シャルル」とタメ口を叩き、あまつさえ己を褒め称えよと言い放つ、つい先日8歳となったばかりの未だ幼き少女。
「皇帝陛下に向かって何という口を……!」
端で控えていたクロヴィスが青ざめる。
「……また余計な真似を……! 殿下! 騎士団のスケジュールが全て狂ったのですぞ!」
軍に関係深い貴族が眉間に深いシワを刻み、頭を抱えて重い溜息を吐いた。
「ふふ、相変わらずネロは度胸があるねえ。私なら失神しているよ」
長男オデュッセウスは頼りなく苦笑いするしかない。
隣のシュナイゼルは「さて、父上がどう料理するか見ものだな」と言いたげに、興味深そうに美しい瞳を細めている。
シャルルの鋭い眼光が、さらに鋭く細められた。
「……愚かしい。貴様の妄言には、”弱者”特有の甘えと増長が見える。我がブリタニアは強者の国だ。弱者が語る芸術など何の意味もない。戯言を吐く暇があるなら、己の力を示すがよい」
シャルルは絶対の真理のように、冷酷かつ断定的に切り捨てる。
だが、余は心底つまらなさそうに「ちっちっち」と指をチチッと振って見せた。
「分かっておらぬな、シャルル! まったく、我が父ながら風流というものを欠片も解しておらん!」
余は大理石の床をトントンと小さな靴で鳴らし、小さな胸を極限まで張って、大広間のまさに中心で堂々と指を突きつけた!
「力! 力! 力! お主はそればかりだ! そんな無骨で、血生臭く、殺風景なものだけで世界を治めようとするから、お前の作るこのブリタニアは退屈で美しくないのだ! 覇道などという古くさい男のロマンに囚われるな! そしてそれに賛同する者共も同罪であるぞ! いいか、よく聞け凡夫ども!」
朗々と通り通る声を張り上げ、余は歴史に残るべき至高の宣言を叩きつけてやったのだ!
「『ブリタニア帝国』などという無骨で古くさい名前は即刻破棄し、本日よりこの国を”ローマブリタニア帝国”と改めるべきである! そしてこの余を終身名誉最高始皇帝とし、毎日余の歌声と華麗なる演劇で民の心を癒やし、世界中を薔薇で埋め尽くすのだ! それこそが至高にして完全無欠の国家の姿であろうがーっ!」
………。
シン…………と、静まり返る大広間。
静寂が、あまりにも重い。
シャンデリアの揺れるかすかな音すら聞こえるほどの静寂の中、貴族や皇族たちは人生で最も息の止まった時間になったことだろう。
クロヴィスは開いた口が塞がらず、顎が外れそうな顔で固まっている。
ギネヴィアは扇子をボトリと床に落とし、
オデュッセウスは「聞いていられない……」と完全に両手で顔を覆い隠し、
シュナイゼルは呆れを通り越して、クックッと肩を揺らして忍び笑いを漏らしている。
そして、玉座の上のシャルルは……威圧感に満ちた巨体を微動だにさせず、ただ無言で、圧倒的な冷徹さをもって余を見下ろしていた。
しばらくして、口を重々しく開く。
「……下がれ」
地底から響くような一言。
だが、余は「ふん!」と鼻を鳴らし、くるりと優雅にスカートを翻して背を向けた。
「では失礼するぞ、シャルル!
余の提案、よく考えておくが良い! 拒否すれば後悔するのはお主だからな!」
この日を境に、余はブリタニア皇室及び貴族社会において、”歴代最悪にして手に負えない、美しすぎる大迷惑な天才(変人)”として、その名を全土に轟かせることとなったのである!
ふふん、無理もないよね! 余の掲げる理想があまりにも高次元すぎて、凡人どもの理解が追いつかなかったのだからな!
どうだ!? 7歳児にして皇帝と全皇族を圧倒(呆れさせ)した余の雄姿、完璧であろう!
無理もないよね! 余の存在そのものが超弩級のエンターテインメントなのだからな!
○
「……というわけで、余は追放された!」
皇歴2009年、初夏。
ガタゴトと重厚な音を立てて街道を走る、最高級のサスペンションと羊毛のクッションを備えた豪華な四輪馬車。
10歳になったばかりの余は、窓枠に優雅に肘をかけ、流れていく帝都ペンドラゴンの雄大な街並みと、遠ざかる白亜の宮殿を眺めながら高らかに言い放った。
向かいの革張りシートに座る専属の侍女・クレアは、今にも胃潰瘍で倒れそうな顔で頭を抱え、深々と溜息を吐いている。
「殿下……『追放された!』と威張って腕を組んでいる場合ではございません……。皇帝陛下のお怒りを買い、本国から遥か遠く離れたユーロブリタニアの辺境、古びた離宮へと島流しにされたのですよ……? 普通なら皇族としてのキャリアの終わり、終身事実上の監禁生活でございます……!」
「ふふん! 愚か者め、物事はすべて見方を変えるのだ!」
余は腰に下げた小ぶりな飾りの宝剣の柄に手を取り、ふんふと鼻を鳴らして胸を張った。
「シャルルめは、余のあまりの神々しさと天才的な頭脳、そして圧倒的なカリスマ性に恐れをなし、帝都から遠ざけたのだ! いわば『余の美しさに平伏し、己の権威を守るために逃げた』ということ! 無理もないよね! あのような無骨で可愛げのない男では、余の眩しさに耐えかねるのも道理である!」
「はぁぁぁ……」とクレアは本日百度目となる溜息を吐いた。
シャルルに対しローマブリタニアの建国を提案した翌朝には、余をユーロブリタニアの辺境・オルレアン近郊の古城へと即時移送する特務勅令が爆速で下りていたというワケだ。
「良いかクレア! 帝都ペンドラゴンなどという、無骨で灰色の建物ばかりの殺風景な街に未練など微塵もない! 余はこれから、この新たな赴任地にて……余だけの至高の庭園を、完璧なる『ローマ』をゼロから創り上げるのだ!」
「……もう好きにしてください。私は殿下の奇行に巻き込まれて処刑されないことだけを祈ります……」
むぅ、些か悲観的過ぎるな、この侍女はと、余は少し不満げにする。
「それにしても……」
クレアは膝の上のハンカチをぎゅっと固く握りしめ、恨めしそうな、それでいて今にも涙がこぼれ落ちそうな目元で余を見つめた。
「こう、言わせてもらいますけれど、殿下。今回の島流しは、なにも皇帝陛下のお怒りだけが原因ではございませんでしょう? ……実の母君であるあのお方、ユリア皇妃のご反応を、まさかもうお忘れになったわけではございますまいね?」
「ふむ? 母上のことか?」
余は窓の外を流れる緑豊かな田園風景へと視線を戻し、気のない様子で小さく首を傾げた。
「母上は相変わらず頭が硬くて困る。眉間に青筋を立てて金切声を上げておられたな。余のあまりの天才ぶりと発想のスケールに、親でありながらついて来られなくなったのだ。好きにしなさいと申しておったが、余は常に好きに生きてるのだが、そんなことも分からなんだ。
フッ、実の母にすら理解されぬとは……天才とは常に孤独なものよ!」
「孤独で片付けないでくださいまし!」
クレアは身を乗り出し、悲痛な叫びを上げた。
「『好きにしなさい』ではございません! 『二度と私の視界に入るな、ペンドラゴンから永久に出ていけ!』と、事実上の勘当を言い渡されたのです! お母様は殿下が幼少の頃より、宮殿の池を薔薇色に染め上げたり、近衛兵の制服を勝手に真っ赤なトガ(ローマ風衣装)に縫い直させたりするたびに、血吐く思いで各所に頭を下げておいでだったのですよ!? 今回の皇帝陛下への国名改名提案で、ついに堪忍袋の緒が完全に切れてお捨てになられたのです!」
「おぉ! 中々に母の声真似がうまいな! 感情も乗って追ってよい出来栄えぞ! 将来余が作る予定の劇団の舞台女優とならぬかクレアよ」
「なりません。話が脱線しております」
一瞬の迷いもなく断ったクレアに、余はチチッと人差し指を優雅に振ってみせた。
「母上は余を捨てたのではない。余がこの手に収まる器ではないと悟り、世界という広い大海原へ解き放ってくださったのだ! 親離れの機会を与えてくれたのだから、むしろ孝行娘の余としては感謝しか認められんな! 無理もないよね!」
「どこをどう解釈すればそうなるのですか……!」
クレアは頭を抱え、深々と椅子に沈み込んだ。だが、彼女の憂鬱はそれだけでは終わらなかった。
「……ですが、殿下。本国を去る際、見送りに来てくださった他の方々の顔を思い出しますと、わたくし、胸が張り裂けそうになります……。殿下のあの突飛な奇行に振り回されつつも、殿下を深く慈しんでおられた方々が、あんなにも悲しそうなお顔をなさっていたというのに……」
「ぬ? 悲しそう、だと?」
余は心底心当たりのない顔で瞬きをした。
「何を言うか。皆、余との別れを惜しみ、余の旅立ちを祝福してくれたではないか!」
「どこが祝福ですか!」
クレアは指を折り曲げながら、ペンドラゴンを発つ直前の惨状を次々と糾弾し始めた。
「まず、ナナリー様です! ナナリー様は殿下のお召し列車(馬車)の陰で、『ネロお姉様……私に薔薇の冠を編んでくださるお姉様がいなくなってしまうなんて……』と、ボロボロと大きな涙を流しておいででした! なのに殿下はなんとお声がけになられました!? 『泣くなナナリー! 余がいなくなっても、余の美しい面影を思い浮かべて毎日歌を歌えば寂しくないぞ!』ですよ!? なぜそこで自分の自画自賛を挟めるのですか!?」
「ふはは! あまりに的確で心温まるアドバイスであろう! ナナリーのあの涙は悲しみではない、余という光を失うことへの崇高な惜別の涙なのだ!」
「違います! 単に寂しくて悲しかったのです! ……それに、ルルーシュ様のお顔をご覧になりましたか!?」
クレアの追及は止まらない。
「ルルーシュ様は、陰で拳を握りしめ、歯を食いしばって『……あのバカが。父上(皇帝)の逆鱗に触れればどうなるか分かっていたはずだ。なぜもっとうまく立ち回れなかったんだ……!』と、今にも皇帝陛下へ殴り込みに行きそうなほどの怒りと絶望を苛ませておいででした! 殿下を失うことが、あの方にとってどれほどの痛手であったか……!」
「フッ……ルルーシュか、なぜかわからぬが余の冴えわたる頭に、ブーメランという単語が思い浮かんだぞ」
余は少しだけ目を細め、口元に不敵な笑みを浮かべた。
「あやつは相変わらず不器用で、頭が堅いからな。チェスでも余の突拍子もない駒の動き(皇帝特権によるズル)に毎回顔を真っ赤にして怒っていた。……ルルーシュのあの顔は、余がいなくなる悔しさ半分、余の破天荒さを少しだけ羨ましがっていた証拠よ。あやつもいずれ、余の築く『ローマ』の美しさに平伏する日が来る」
「ハァ……どこまでもご都合主義な脳内変換ですね……。では、コーネリア様やクロヴィス様は?」
「コーネリア姉上は『二度と戻ってくるな、愚か者め!』と叫びながら、なぜか最高級の護衛騎士を密かに余の供につけてくれたぞ! ツンデレというヤツだな! クロヴィス兄上に至っては、『ネロがいなくなったら、私の絵のモデル兼最大の美のライバルがいなくなってしまう……!』と泣き崩れておったわ! うむ、実に余の美しさを理解している!」
「コーネリア様は単に心配のあまり胃を痛められていただけですし、クロヴィス様はただ混乱しておられただけです……! そして……シュナイゼル様……」
クレアの声が、少し低く落ち着いた。
「シュナイゼル殿下だけは、最後まで不気味なほどの笑みを絶やさず……殿下が馬車に乗り込む間際、こう囁かれたではありませんか。『ネロ、ユーロの地で君がどんな“舞台”を作り上げるのか、楽しみにしているよ。父上の届かない場所で、君の薔薇を存分に咲かせるといい』と……。私には、あのお方の笑顔が一番恐ろしく思えました……」
「ふむ、シュナイゼル兄上か」
余は腕を組み、満足そうに頷いた。
「さすがはシュナイゼル兄上だ。凡人どもの中で唯一、余の秘めたる真のポテンシャル……この島流しすらも、余の新たなる帝国の礎になるということを見抜いていたようだな! 無理もないよね! 兄上ほど頭の切れる男なら、余の眩しさにいち早く気づいて当然である!」
「……もう、何も申し上げません」
クレアは深く長い溜息を吐き、馬車の背もたれにぐったりと体重を預けた。
「実の母君には見捨てられ、皇帝陛下には追放され、幼いご兄弟には悲しまれ……それでもなお、ご自分を信じて疑わないその圧倒的な分からず屋ぶり……。わかりました。こうなった以上、私も腹を括りましょう。ユーロブリタニアの最果てだろうと地獄の底だろうと、殿下のその狂気……いえ、至高の美学にお付き合いいたしますわ!」
「うむ! 苦労をかけるなクレア! そなたの心意気、余は嬉しいぞ!」
余はクレアの肩をポンと優しく叩き、最高の笑みを浮かべて再び窓の外を見つめた。
ペンドラゴンの街並みはすでに完全に地平線の彼方へと消え去り、前方には見渡す限りの広大な地平線が広がっている。
「去り行く者に未練などない! 見ておれシャルル、見ておれ母上、そして兄弟たちよ! 余が次に本国へ戻る時は、ただの追放された幼子としてではない……! 世界を薔薇で埋め尽くす、絶対なる『ローマの始皇帝』として帰還してやるからなーっ! ふはははは!」
豪華な馬車のガタゴトという走行音と共に、ネロの尊高な高笑いが、初夏の爽やかな風に乗ってユーロへの街道へと響き渡っていくのであった。
「それにしても、先ほどのシュナイゼルの声真似と演技、余も目を見張るほどに、誠に上手いものであったぞ、本当に舞台女優として活躍してみる気はないか」
「ありえません」
〇
長旅の末に到着したユーロブリタニアのオルレアン近郊の離宮は、確かにペンドラゴンの白亜の宮殿に比べれば古びており、壁には蔦が絡まり、庭園の手入れも行き届いていなかった。
本国の者たちは、余がこの荒れ果てた地で絶望し、寂しく泣き崩れることを期待していたのかもしれぬ。
だが、余にとっては最高のおもちゃ箱であり、広大なキャンバスであった!
「よし! 着任の式典など不要! まずは庭園の雑草をすべて引き抜き、真っ赤な薔薇で埋め尽くせ! それと、地下の古い兵器庫と工房の区画を余の『アトリエ』に速やかに改装するのだ!」
「殿下、そんな余裕は人手もお金も薔薇もありません。」
着任したその日から、余は地元の領民や離宮に配置されていた頼りない駐屯兵たちを巻き込み、大改革を開始した。
普通、皇族が辺境に追放されれば打ちひしがれ、暗雲立ち込める将来を憂い、静かに部屋に閉じこもるものであろう。だが余は違った!
毎日、朝・昼・晩と離宮の広いバルコニーに立ち、広場に集まったこの地の行政を行う小位貴族や民に向かって「余がいかに美しく、世界がいかに余を求めているか」を朗々と歌い上げたのだ!
歌唱力については、聴いていた民の表情が引きつり、固まっていた気がしなくもないが……フッ、あまりの神々しさと至高の芸術性に言葉を失い、歓喜に震えていたのだと解釈しておる! 無理もないよね!
さらに、貧困と重税に喘いでいた領民たちの惨状を目にした余は、皇族として国から支給される潤沢な個人歳費(皇帝特権で色々なところからかき集めたポケットマネー)を金貨の袋ごとドカンと投げ与えてやったのだ!
「受け取るがいい下衆ども! 余の溢れんばかりの慈悲深さに涙せよ! ふははは!」
「ね、ネロ殿下……! これは……こんな大金、見たこともありません……!」
「神様のようなお方だ……! 命を救われた……!」
「なんてお優しく、そして……少々個性的でおられるんだ……!」
領民たちは感涙し、いつしか余を「オルレアンの薔薇の姫君」と呼んで崇めるようになった。
ふふん、無理もないよね! 余は息をしているだけで周りの人間を幸せにし、ひれ伏させてしまうのだからな!
だが、余の真の目的は単なる民の懐柔や慈善事業などではない。
前世のうっすらとした知識——「この世界はナイトメアフレーム(KMF)という人型兵器が戦争の主役となり、歴史を動かす」という理を、余は一瞬たりとも忘れてはいなかったのだ!
前世の記憶——あの巨大なロボットたちが大空を縦横無尽に駆け巡り、光学兵器や特殊バリアを展張して戦う数々のアニメ作品の光景。そして、この世界では未だ「陸戦型の第4〜第5世代(グラスノーやサザーランド)」が主流であるという技術的現実。
「フッ……今の世界のKMFなど、地面を泥臭く這い回る巨大なブリキ人形に過ぎぬ! 兵器でありながら空中すら飛べぬとは、美学の欠如も甚だしいではないか!」
あるとき、余は両目のギアスを密かに発動させた。
「余は、あの世界でみたアニメの概念を、この世界における超軍事科学力・工学を持って再現することができる、唯一無二の天才の知能を得る! これは『皇帝特権』である!!!」
脳内に、前世で見たロボットアニメの「飛行ユニット」「エネルギー偏向兵器」「全方位バリア」、そしてこの世界で後に開発されるはずの「フロートシステム」「ハドロン砲」「エナジーウイング」の概念が一気にオーバーラップし、緻密な数式と構造図として完全展開される!
本来ならば、あと数年は時代が追いつかず、本国の特別派遣嚮導特務連隊の最高知能(ロイド)や、インド軍区にいる戦闘兵器の発明の天才(ラクシャータ)すら到達していない「未来のオーパーツ技術」……!
「この力があれば、時代を10年飛び越えるKMFを創り出すことなど造作もない! よし、この余の頭の中の技術を形にせねばな!」
余の頭脳の中で、時代を歪める恐るべき「オーパーツ開発計画」が動きだした。
今回の皇帝特権のリキャストタイムが途方もなく課せられたということを、魂で理解した。
余としては始めて、…少し早まったかもしれぬと、後悔した。
〇
「おい、そこの頼りないツラをした技術者! 貴様、名を何と申す!」
離宮の地下工房に配属されていた、茶色の髪のぼさぼさ頭に、眼鏡をかけた気弱そうな若い技術者を呼び出し、余は工房に飾られていた訓練用サザーランドを指差して激怒した。
「は、はいっ! アルベルト・ブランと申します!
ね、ネロ殿下、一体何がお気に召さないのでしょうか……!?」
「ブリタニアのサザーランドだか何だか知らんが、あの無骨で四角い鉄くずは何だ!? 全体的に寸胴で、色も地味で、美しくない! 全然美しくないぞ! あんなダサい機体に乗って戦えなど、余の美学に対する侮辱である!」
「は、はあ……ですがKMFは兵器ですので、量産性と実用性、そしてフレームの強度が最優先でして……装飾など増やせば重量が増し、生存率が下がります……」
目の前の男の浅はかな考えが聞くに堪えず、余は一喝した。
「黙れ凡夫! 兵器こそ美しく、華やかであるべきだ! 余の戦場は舞台(ステージ)であり、KMFは主役を張る”演者”なのだぞ! すぐに余の設計通りの至高のKMFを作れ!」
バァン!! と音を立てて、余が作業台に叩きつけたのは、余自身が書き上げた数千枚に及ぶ緻密な設計図であった。
真紅の艶やかな装飾、優雅な曲線を描く胸部装甲、そして背中には大輪の薔薇を模した高出力エネルギーウイングを展開する圧倒的デザイン——その名も、『ローマン・サザーランド(仮)』!
「で、殿下!これはいったい何でしょうか!? なかなかの設計でありますが、前例がありません! こんな派手な装飾、重量が増えて機動性が極端に落ちますし、何よりこの特殊装甲とウイングの建造コストが……本国の開発局でも予算が通りませんよ!?」
青ざめて汗を吹き出させるアルベルトに対し、余はニヤリと尊大かつ絶対の自信に満ちた笑みを浮かべた。
「ふふん、安心するがいい! 資金なら余の歳費と……父上に黙って流用(徴収)したユーロブリタニアの極秘兵器開発予算がある!」
「横領じゃないですか!?」
「横領とは人聞きが悪い! 余が世界のために使うのだから『先行投資』と言え! それに、ただ派手で重いだけの置物を作れと言っているのではない。余の頭脳が弾き出した最新のサクラダイトドライブ理論と極小伝達回路を組み込めば、出力は本国の最新鋭機(第5世代)の3倍になるはずだ!」
そう、余は天才であった。
前世の知識、この世界での最高峰の英才教育、そして何よりギアス——『皇帝特権』を時折こっそりと発動させることで、既存のブリタニア技術体系を20年は先取りする「超高出力サクラダイトドライブ」の理論を、一人で完璧に完成させていたのだ!
最初は胡散臭そうに目を細めてそれらの資料を見たアルベルトとは、余の記載した設計図を見ると、徐々に目を見開いていった。
5枚ほど資料を流し読むと、アルベルトは目を見開いたまま余に詰め寄った。
「こ……この回路設計……バカな!? サクラダイトの不純物反応を極限まで抑え、エネルギー変換効率を98%まで引き上げるなんて……!? 殿下、あなたは一体……!?」
アルベルトの眼鏡がズレ落ち、その瞳に「畏怖」と「狂熱」が宿る。
余のカリスマバフと皇帝特権による、神級の知能を持つ余から指導を受けたアルベルトは、ただの落ちこぼれ技術者を、時代を覆す天才工学者へと覚醒させることにした。
?「バックステージなぞ長いだけ無駄である!幕が上がってこその演劇である!」
ちょっと荒いので、今後修正します。