よく聞け、いいか、ここをローマ帝国とする!   作:とくめいのネロ

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バックステージ ③

皇歴2010年 秋

余がユーロブリタニアの辺境に送られてから、はや1年が経っていた。

 

オリンポス近郊の廃城同然であった離宮は、いまや表向き「ユーロブリタニアやE.U.を含めたユーロ全土で最も平和で、最も奇妙な場所」として広く知れ渡っていたのだ。

 

本国から見れば、ここは単なる島流しの地。

 

余は表面上、「辺境で一日中、薔薇の品種改良に熱を上げ、バルコニーからは声量の無駄に大きい自作の歌を昼夜問わず熱唱している、頭の可哀想な放蕩皇女」を完璧に演じ続けていたのだ! 時折、領民を強引に庭園へ集めては『余の至高の独唱会』を開催し、嫌がる彼らに無理やり薔薇の苗木を配るという大サービスまで徹底する徹底ぶりである!

 

……解せぬのは、余からすると何故、これらが「頭の可哀想な奇行」と言われねばならんのかさっぱりわからぬが! 余の至高の芸術に民が感涙しているのは明白! まあ実際問題ないということだ、照れ隠しであろう! 細かいところはよかろう!

 

「ネロ殿下は本日も朝から薔薇の栽培に熱中され、午後は領民を全員集めて自作の讃歌を熱唱されておられます。軍事的な動きは一切なく、脅威は皆無。完全に無害な変人です」

帝都ペンドラゴンから送られてくる監視役の諜報員どもは、このような呆れ果てた報告書をシャルルへ送っていたことだろう。ふはは、愚か者め! 余のあまりの演技力の高さと熱演に、誰もがまんまと騙されていたのだ!

 

もっとも、監視の目を光らせていたのは本国ばかりではない。

ユーロブリタニアを統治する大公——恐らく、ヴェリタス騎士団の息がかかった連中の犬どもも、こちらの動向を怪しんで極秘裏に密偵や隠密騎士を幾度となく放っていた。

さもありなん、本国に後ろ暗いところがある連中からすると、唐突に送られてきた皇族に対し不用心に構えることこそが下策である。動向を探るのは当たり前ともいえよう。

 

さらには……ごく稀にだが、本国やユーロブリタニアの正規ルートとは明らかに雰囲気が異なる、極めて気味の悪い「影」すらも離宮の周囲を蠢いていたのだ。

顔を覆うような白い装束を纏い、配備された兵士や監視の隙間を縫うようにして潜む素性の知れぬ不気味な見張りども———ネロ自身、それが「ギアス教団」と呼ばれる謎の組織であるとまでは明確に特定できていない。しかし、シャルル直属の密偵や大公の手先とも違う、どこか異質で非人間的なその気配に、少なからず不穏な怪しさを感じ取っていたのである。

 

「我が君、本日の未明、庭園の北側から進入を試みた大公閣下の密偵を一時捕縛いたしました。……なお、先日近郊で見かけたあの不気味な白装束の者たちは、こちらが動く前に煙のように姿を消しております。捕らえた密偵の件、いかがいたしましょう?」

 

事務官兼参謀として余の補佐を任せているルキウスが、立ったまま余に静かに報告してくる。騎士のような体格の偉丈夫であるが、参謀として優秀すぎる男である。まあ、余には遠く及ばないがな! あくまで臣下として! である! ここが重要。

余は豪華な椅子に深く腰掛け、侍女長となったクレアを後ろに侍らせながら、優雅に紅茶を嗜みながらフッと鼻で笑ってやった。

 

「ほう、あの狐どもの手先か。白装束の気味の悪い連中も少々引っかかるが……まあ、向こうから尻尾を出して襲ってこん以上は放置で構わん。問題は大公の手先の方よ。捕縛できたのは手際が良かったが、この余が足を見せるわけにはいかんからな」

「ええ、捕縛した状態のまま本国や大公家に下手に送り返せば、こちらの防衛戦力や警戒の厳しさを察知され、かえって深追いを招きかねません」

「うむ! 記憶でも消し去れれば手っ取り早いのだが、生憎とそんな芸当ができるのはふぁんたじい(変換ミスにあらず)の世界くらいなものだからな。ここは巧みな情報操作で眩ましてやるのが上策よ!」

余はティーカップを置き、不敵な笑みを浮かべた。

 

「捕虜には『見張りの不手際による偶然の捕縛』と思わせよ。我が軍の隙を突いて自力で脱出したと錯覚させ、まんまと逃がしてやるのが良い! 当然、逃げ出す途中で『うっかり見てしまった』と思わせる絶妙な配置で、精巧な偽の機密書類を持たせてな!」

「さすがは我が君。逃げ延びた密偵は『自らの実力で脱出し、重大な機密を持ち帰った』と疑いなく信じ込むでしょう。……まあ、あるいは我が君の歌を至近距離で丸三時間ほど叩き込み、『やはりただの奇行に走る放蕩皇女だった』と頭を混乱させてから解放する手もございましたが」

「ほう、余はいっこうに構わぬぞ」

「いえ、失礼いたしました。そのような細事はご不要です。私が責任をもって『隙だらけの脱出劇』を演出し、偽情報とともに完璧に事実を濁しておきますゆえ、ご安心ください。」

……歌を三時間聴かせるのはやはり拷問の域……と、後ろに控えるクレアの目が如実に物語っていたが、至高の芸術を理解できぬ哀れな者ゆえ無視することにする。

……余は見えておるぞ。

 

 

〇

 

 

本国、ユーロブリタニアの大公、そして闇に潜む得体の知れぬ謎の影。

三つの巨大な視線と企みが交錯する危険な隙間で、余は完璧な「道化」を演じ切り、敵を掌の上で転がしながら、着々と牙を研ぎ澄ましていたのだ。

 

表の庭園が爛漫と咲き誇る薔薇で満たされている裏で、離宮の地下深くに広がる巨大なアトリエ(旧兵器庫)で、世界を覆す恐るべき軍勢を余は作り上げていた。

 

そう! それこそが、余の忠実なるしもべにして、至高なる力を持つ最強軍隊”ローマ親衛隊”である!

 

集まったのは、ユーロブリタニア各地から弾き出された落ちこぼれの騎士、貴族社会の不条理に絶望した若者、あるいは余の圧倒的なカリスマの噂を聞きつけて密かに馳せ参じた異端の武人たちであった。

 

「ようこそ、名もなき勇士たちよ! これだけ集まってくれたこと、余は嬉しい!」

ネロ、満面のニッコリ!

 

「今宵はそなたらの歓迎の宴だ! 存分に食すが良い!」

余は彼らを単なる駒として扱わなかった。

皇族としての潤沢な歳費、そして【皇帝特権】とは別の、通常の皇族特権をフル活用させて職人に作らせた極上スイーツ(前世の知識を再現させた特製ミルフィーユや高級チョコレートだ!)を惜しげもなく振る舞い、彼らと膝を突き合わせて語り合ったのだ。

 

「殿下……私のような名もなき平民出身の騎士に、このような温かいお言葉と至高のお菓子をくださるなんて……!」

「フッ、身分などというちっぽけな枠組みに囚われるな! 余の前にあっては、すべての人間は『余の舞台を彩る演者』として等しく価値がある! 余について来れば、世界が変わる! 退屈なブリタニアの理など、余がすべて叩き潰してやるからな!」

余の圧倒的なカリスマ性、潤沢な資金、美味しいお菓子、そして何より「このお方についていけば、間違いなく新しい時代が見られる」という確信。若き騎士たちの心は一瞬にして撃ち抜かれ、その瞳には熱狂的な忠誠の炎が灯ったのだった。

 

だが——甘やかすだけで終わらないのが、余の至高たる所以である!

 

「うむっ、親衛隊員ども! お菓子を堪能した後は、地獄の特訓の時間であるぞ! 外へ向かえ!」

 

ここで、余は一つ重要な理(法則)を提示せねばなるまい。

余の有するギアス『皇帝特権』とは、どこまでも「余という絶対の個」を至高の領域へ引き上げるための力。決して他人に都合よくスキルを付与したり、魔法のように対象を直接強化できるような便利道具ではないのだ!

他者を強くしたければ、余自身がまず「あらゆる領域の神」となり、自らの手足と知恵を動かして泥臭く叩き込んでやらねばならん!

訓練場の中心に立った余は、ドレスの裾を優雅にはためかせ、左目のギアスをカッと輝かせて高らかに言い放った!

 

「余は古今東西のあらゆる武道を極めし【指導の神】であり、戦場を完璧に支配する【超天才軍事戦術家】である! これは、『皇帝特権』である!」

 

ーーードクン!

 

その言葉が発せられた瞬間、余の脳内には前世の知識から引き出した古代ローマ軍団の陣形、三次元高機動集団戦闘術、そして人間の骨格やKMFの駆動効率を極限まで知り尽くした至高の武術理論が溢れ出し、余自身が「全知全能の指南役」へと変貌を遂げた!

 

「良いか愚か者ども! 他人の力をアテにするな! 余が今から見せる完璧な挙動を、その目に焼き付け、死ぬ気で盗み取ってみせよ!」

 

地下の巨大訓練場である。

 

真紅の訓練用KMF(めっちゃ赤く塗ったサザーランドだ!)に乗り込んだ余は、「武道指南の神」たる圧倒的な操縦技術をもって、木刀ならぬ「超振動大型ランス」を片手に、数百名の騎士たちを相手に連日のように、実戦叩き込みを行っている。

 

「甘い! 甘いぞマルクス! 剣の振りが0.2秒遅い! 余が教えた剣舞の構えと、サクラダイトドライブの連動(同調)ができておらん! 敵を斬るのではない、美しく舞うのだ!」

バゴォン!! とランスの打撃が叩き込まれ、マルクスの機体が吹っ飛ぶ!

「は、はいっ! 申し訳ございません殿下! もう一度……もう一度ご指導を!」

 

「そこだジュリアス! 足捌きが素人並みだ! 敵の射線を予測してランドスピナーを滑らせろと言ったはずだぞ! 余の美学に泥を塗る気か! 立て、もう一度だ!」

ドガァン!! 容赦のない余の追撃がジュリアスの機体を打ちのめす!

「ぐはっ……! ありがたき幸せ……! 殿下自らの体当たりでのご指南……身に染み渡ります……!」

 

他者への直接的なスキルの付与ができないからこそ、余は自らの「超絶手本」を叩きつけ、彼らの失敗を即座に見

抜き、理論的かつ劇的な熱血指導を何度も何度も繰り返したのだ!

余という究極の教本を前に、騎士たちは己の未熟さを恥じ、血と汗を流して教えを吸い上げていった。

 

「殿下のご期待に応えたい!」「あのお方の足元に少しでも近づきたい!」という猛烈な執念と、余の「神級の教え」という一拍のプロセスを経て、彼らは人間としての限界を泥臭く打ち破っていく!

毎日のように繰り広げられる、壮絶極まるスパルタ訓練。

 

皇帝特権で覚醒した余の指導を受けた騎士たちは、信じがたい速度で覚醒していった。今はその名で呼ばれているかはわからんが、一人一人が本国の「グラストンナイツ」や「ヴァルキリエ隊」を遥かに凌駕する、一騎当千の精鋭鬼神へと変貌を遂げていったのである!

 

「フッ……素晴らしいぞ、お前たち! 泥を貼い、余の教えを完璧に体現してみせたな!」

「はっ! 全てはネロ殿下の至高のご指導の賜物! 我らローマ親衛隊、殿下の御身を守る『至高の盾』として、いつでも命を捧げる覚悟にございます!」

 

彼らは全員、余から下賜された真っ赤な甲冑を身に纏い、余への絶対の忠誠を胸に、誇り高く胸を張るのだった!

 

 

〇

 

 

地下工房では最新鋭KMFの試作開発が超ハイスピードで進められていた。

 

「アルベルト! 状況はどうだ!」

余が地下工房へ足を踏み入れると、覚醒した天才技師アルベルトが、血走った眼で巨大なモニターと数千枚の設計図を交互に見つめていた。

 

「で、殿下! 完璧です! 殿下から伝授された『サクラダイト力学場歪曲理論(フロートユニット)』と『ローマン・ハドロン偏向技術』の完全実用化に成功いたしました!」

 

アルベルトが興奮のあまり唾を飛ばしながら指差し、ドックの照明が一斉に点灯する。

そこに並んでいたのは、従来機のグラスゴーやサザーランドを完全に過去の遺物と化す、恐るべき新鋭機——『KMF・グラン・ローマン』の先行試作機たちであった!

 

「ふむ! 素晴らしいではないか!」

グラン・ローマンは、余の美学を色濃く反映した曲線主体の美しい真紅の装甲を持ち、背部には初期型フロートユニットを標準装備。さらには肩部に小型ハドロン砲、手部には高周波アタッチメント『ローマン・ソード』を備えた、時代を遥かに先取りする第7世代(ランスロット等)凌駕の未来を走るKMFである!

 

「これなら、本国の最新鋭部隊が相手であろうと、大空からの完全立体電撃戦で一瞬にして粉砕できます! 設計と試作機の組み上げは完璧です!」

「うむ! 良くやったアルベルト! 貴様には後で最高級のケーキをホールで進呈しよう!」

「感謝いたします、殿下っ!」

 

そして……時は進みーー

 

いつぞやの試作機たちを見た場所に、再び余は来ていた。巨大なドックの最深部に張られた、金糸の刺繍が施された深紅の幕。

余が優雅に手を振ると、滑車が音を立て、巨大な幕が一気に引き落とされた。

 

——ドドンッ!!

 

そこに鎮座していたのは——全身を眩いばかりの真紅の特殊装甲と黄金の華麗な彫刻で包み込み、背には巨大な大輪の薔薔薇を模した「オーパーツ型エナジー・フロートウイング」を背負い、圧倒的な威厳と美しさを解き放つ至高の絶対機体。

 余の専用愛機——『KMF・グラン・ネロ』!!

 

「……完成しました、殿下! ブリタニアのどのKMFすら遥かに凌駕する、世界最強にして最も美しい機体が……!」

アルベルトが歓喜の涙を流してその場に崩れ落ちた。

クレアも、胸の前で手を組み、その圧倒的な神々しさに感極まって恍惚としている。

 

「うむ! 余にふさわしい至高の造形であるな! 見惚れるのも無理はないぞ!」と余もドヤ顔で満足げに胸を張った。

 

 

〇

 

 

皇歴2012年を迎えた頃、最新鋭のKMFを創り出した余たちに対し、現実というものは残酷な事実を叩きつけてきたのだ。

 

余の【皇帝特権】による「神級指導」とスパルタ特訓を経て、かつて落ちこぼれであった若き志願兵たちは、文字通り「一騎当千の精鋭鬼神」へと覚醒を遂げていた。

彼らは古代スパルタの伝説的な英雄・レオニダス王が率いた三百の勇士を彷彿とさせる、強靭な肉体と揺るぎない忠誠心、洗練された操縦技術を誇っていた。

 

だが、作戦会議室にて重い現実が突きつけられたのだ。

 

「殿下……非常に申し上げにくいのですが、現状の戦力分析を報告いたします」

侍女長クレア、参謀のルキウス、技師長アルベルト、そして親衛隊の暫定幹部となった騎士長ジュリアスと副騎士長マルクスが報告書を広げている。

ジュリアスが口を開く。

 

「我が『ローマ親衛隊』の兵力は、極秘裏に錬成できた精鋭をすべて合わせてもわずか三〇〇名。対する神聖ブリタニア帝国軍の総兵力は、本国および各エリアの駐屯軍を合わせれば数十万。ナンバーズを含めると数百万人規模に及びます」

「うむ! まさにスパルタの三百人だな! 燃える展開ではないか!」

余が腕を組んでフハハと笑うと、マルクスが悲壮感を漂わせて頭を下げた。

 

「殿下のお言葉、身に余る光栄にございます! 我ら三百の騎士、一人で百の敵を討ち倒す覚悟はございます! ……ですが、ブリタニア本国は圧倒的な『物量』。波状攻撃を仕掛けられれば、いくら我らが一騎当千であろうと疲弊し、いずれ押し潰されます……!」

 

マルクスの言葉に、天才技師アルベルトも、手を髪にあてながら困ったように追従した。

 

「殿下、最新鋭KMF『グラン・ローマン』および『グラン・ネロ』の本格的な『量産計画』ですが……致命的な壁に当たっております!」

「ぬ? 技術力なら余が授けてやったはずだぞ。何が問題なのだ?」

余は聞き返した。予算は相変わらず潤沢にある。惜しみもせず与えているはずだ。

 

「技術や理論は完璧なのです! 資金も殿下の潤沢な歳費と流用予算で湯水のようにございます! ……ですが、『素材』と『工房』が圧倒的に足りません!!」

アルベルトは悲鳴のような声を上げた。

 

「既存兵器の機体スペックを遥かに凌駕する、グラン・ローマンらを何百、何千機と作るには、極上の高純度サクラダイトや、最新の特殊軽量合金が大量に必要なのです! ですがユーロブリタニアの辺境にあるこの離宮の地下工房では、敷地も設備も小さすぎます! 人手も足りず、資材の流通ルートも本国の監視があるため限られている! このままでは、何年あっても三〇〇機分の量産機を揃えることすら不可能です……!」

「……金はある。だが、モノも場所も時間もない、ですか」

参謀のルキウスが重い溜息を吐く。

 

いくらネロが天才であり、いくら資金が潤沢であろうとも、物理的な限界と世界のロジスティクス(物流)の壁は覆せない。幹部たちの間には、暗く重い悲観的な空気が立ち込め始めていた。

 

だが、余は退屈そうに「ちっちっち」と指をチチッと振って見せたのだ。

 

「分かっておらぬな」

余は大理石の床をトントンと優雅に踏みならし、腰に手を当てて高らかに言い放った!

 

「金はあるが、素材も大規模な工房もない? ふふん、ないならある場所へ行って奪い……ゴホン、買い取れば良いだけの話ではないか!」

「え……? ある場所、ですか……?」

クレアがポカンと口を開け、幹部たちが顔を見合わせる。

 

「殿下、本国の開発局や大型プラントはすべてシャルル皇帝陛下の管理下にあります。他国のサクラダイト産出地である旧日本(エリア11)も、現在は本国の厳重な支配下に……どこにそんな都合の良い『素材と工房と兵力』が存在するというのですか!?」

至極まっとうなことを言うルキウスではあるが、余はニヤリと尊大かつ全てを見通す笑みを浮かべた。

 

ふふふ……余は知っているのだよ!

そう、この皇歴2012年現在の時間軸において、現時点では世界から弱小国程度にしか思われておらず、時代遅れの歩兵戦術にとどまっている、無名の国

 

だが、余は知っている! 奴らは強大な軍事的ポテンシャルを秘め、国全体が凄まじい錬度の兵士を抱え込んでいるということを!

 

「至高なる余が証明しよう! ポテンシャルなら間違いなくあそこにある! かの国の技術と資材、そして工房をそのまま丸ごと余の『ローマ』の傘下に組み込んでしまえば良いのだ!」

「い、いったい、その国とは?」

マルクスが問いかけた。

 

いいだろう、ここは余の見せ場よ、派手にやってやろう。

 

余は左目のギアスを光らせた。

「余は世界のすべてを見通す【超天才歴史・地政学の神】である! ——これぞ『皇帝特権』である!」

と言霊が発現し、この世における地理、神官聖神社、軍事プラントの位置、内部の情勢データが完璧に脳内で統合される!

 

 

「聴け、皆の者!

 

余のローマが次に狙うは中東の砂漠の国

 

……”ジルクスタン”だ!」

 

 

「ジ、ジルクスタン……!? あの、何もない砂漠の未開国ですか!?」

アルベルトが目を丸くする。

隣でルキウスはふむと、冷静に顎に手を当てた。

 

「未開だと? 戯れ言を言うな! 奴らは表向き平和を装っておるが、傭兵の国だ! 喉から手が出るほど金(外貨)と最新兵器を欲しがっているあ奴らに、余の湯水のごとき資金をドカンとぶつけ、余の至高の技術を提供してやればどうなる!?」

皆の顔色がガラリと変わった。

 

「それにジルクスタンは海に面しておる。海があり、港があるということは、外貨さえあれば、外国と資源の取引もやりやすかろう、大陸の東の鉱石産出地からどれだけ資源を輸入しても、ユーロブリタニアにいる余たちに繋がることはない。さて、これらが合わさると、どうであるか?」

 

「訓練された大量の兵員……! 海からの貿易販路、もしそこに殿下のお持ちの最新鋭技術と資金が合体すれば……!!」

「うむ! わずか数年もあれば、数千、数万機規模の最新鋭KMF『グラン・ローマン』軍団が、完全完璧な形で完成するであろう!」

「なんと……!?」

「それならば」

「殿下なら!」

 

会議室に衝撃の歓声が響き渡る。

悲観に暮れていた幹部たちの瞳に、爆発的な希望と狂熱の光が舞い戻った!

 

「流石は我が君……! 世界の誰も目を向けていない砂漠の国に、それほどの潜在戦力があることを見抜いておられたとは……!」

ルキウスが余の前でその場に膝をつく。

 

「むっふー! 無理もないよね! 余の天才的な視野は、常に世界の未来を見据えているのだからな!」

余は優雅にドレスの裾を翻すと、宝剣を天へと掲げた。

 

「親衛隊の者たちよ! これより我らは極秘裏に中東ジルクスタンへと電撃遠征を敢行する! 砂漠の民を余の至高のカリスマと資金で平伏させ、あそこを我らの『第二の巨大ローマ造兵廠』とするのだ!」

「はっ!」

 

 

「余のローマによる初の遠征である! 皆の者、用意を進めるがいい!」

 

こうして、圧倒的な物量の壁を粉砕すべく、ネロによる「ジルクスタン電撃同盟計画」、否「ローマ軍による初の遠征」が華々しく打ち出された。

 

 

〇

 

離宮の地下深く、冷徹な静寂が満ちる作戦立案室。

壁一面に掲げられたユーロ全土と中東の巨大な立体地図の前で、一人の男が腕を組み、静かに盤面を見下ろしていた。

 

——ルキウス・ヴァン・スタイン。

身長180センチを超える堂々たる体躯。背中で一つに固く束ねた艶やかな金髪と、鋭い眼光をたたえた端正な顔立ち。一見すれば一騎当千の重装騎士かと見紛うほどの偉丈夫である。

だが、彼が纏っているのは重厚な甲冑ではなく、寸分の乱れもなく着こなされた漆黒の高級文官仕様であった。

 

「……本国のシャルル皇帝は日本との戦争を皮切りにナンバーズの勢力を更に伸ばしている。ユーロブリタニアはE.U.戦線での功急ぎで視界が狭まっており、E.U.も内紛と戦争による貧困に苦慮。中華連邦は君主がまだ幼く赤子であり、宮廷内での謀略戦争真っただ中、ドイツ軍区も怪しい、か……。

 盤面――世界は、これから巨大なエアポケットを生み出していくことでしょうね」

 

ルキウスは長身をかがめ、長い指先で中東の一角——ジルクスタンを示した。

 

彼こそは、ユーロブリタニアの不遇な下級貴族社会からネロの圧倒的なカリスマと洞察力によって見出され、この『ローマ親衛隊』の全軍略・後方補給・政治工作を一手に担う事務官兼参謀だった。

 

「ほう! 相変わらず良い顔で盤面を見ておるな、ルキウス!」

 

部屋の扉が勢いよく開かれ、真紅のドレスを翻したネロ殿下がドヤ顔で足を踏み入れてくる。侍女長のクレアがその後ろに静かに従っている。

 

「これは我が君。……昨日は会議室で叫ばれた『ジルクスタン電撃遠征』、実に見事な大局観にございます」

ルキウスは高い背を優雅にしならせ、軍人らしい完璧な敬礼を捧げた。

 

「あの砂漠の国は表向き『資源のない貧困国』を装い、世間が欺かれている中、我が君だけがあの国の真の軍事的価値を見抜いておられたとは……我が君ながら、恐ろしいまでの先見の明」

 

「ふはは! 当たり前だ! 余は世界のすべてを見通す地政学の神でもあるからな! ……む? ということは、貴様もあの砂漠の不気味な潜在力に気づいていたのだな?」

 

「はっ。ですが、私に見えていたのは”利用できれば面白いが、リスクが高すぎる。ギャンブルするにはまだ足りない”という局地的な計算のみでした。そこへ。我が君の潤沢な資金力と、アルベルトの規格外なKMF設計図を叩き込み、”国ごと丸ごとローマの造兵廠に塗り替える”という大胆不敵な大戦略を描けるのは、世界で我が君ただお一人にございます」

 

ルキウスは不敵な笑みを浮かべ、胸元から作戦書を取り出した。

 

「すでに、本国や大公の目を眩ますための『架空のダミー貿易会社』の設立手配は完了しております。また、ジルクスタン高官への接触工作、および我が『ローマ親衛隊』を極秘裏に中東へピストン輸送するための偽装コンテナ船のルートも、すべて私が策定いたしました」

その言葉にネロは満面の笑みを浮かべた。

 

「なんと……! その手回しの早さほめて遣わすぞっ! 余の軍師よ!」

「お言葉、恐れ入ります。我が君が表の舞台で華々しく舞い、敵を破砕するための『絶対の勝機』と『完璧な補給線』を盤上に用意すること……それこそが、参謀たる私の役割にございますから」

 

武力と熱狂的な指導をネロが担い、開発をアルベルトが担うとすれば、この巨大な『ローマ再建計画』の戦略・物流・謀略のすべてを冷徹にコントロールする影の軍師——それこそがルキウスであった。

 

「うむ! 完璧だ! 行くぞルキウス、クレア! 砂漠の国を余の至高の歌とカリスマ、そして貴様の冷徹な軍略で平伏させてやるのだ!」

 

 

ルキウスはネロの隣で静かに立っているクレアを横目でちらりと見ると、静かに自らの主に了承の意を伝えた。

 

 

 

「イエス ユア マジェスティ……」

 

 

 

 

 

……ついでにジルクスタン遠征のドタバタに乗じて、殿下の朝の独唱会による被害補償の事務処理も片付けてしまわねばな……と、軍師の頭脳で密かに胃を痛めるルキウスであった。

 




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