よく聞け、いいか、ここをローマ帝国とする! 作:とくめいのネロ
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皇歴2012年、冬。
日本の地でルルーシュたちが幼少の苦難に耐え、ルーベン・アッシュフォードに保護されて幾ばくかたった冬の時。世界のKMFが未だ第4〜第5世代(初期型サザーランド等)の泥臭い陸戦に終始していたこの時代。
ユーロブリタニアの夜空を、音もなく切り裂く一筋の影があった。
それは、余の地下工房で密かに建造された時代錯誤の最新鋭特務輸送機ローマン・アウロラ。
背部には『グラン・ネロ』の技術を流用した、時代を10年先取りする初期型フロートシステムが組み込まれ、機体表面にはレーダー波を完璧に偏向・吸収する電磁サイレントコーティングが施されている。
「我が君……本当に私とアルベルト、マルクスを含めた親衛隊員たった一〇名だけの少数精鋭で大丈夫なのでしょうか……? 相手は完全な鎖国体制を敷く中東の軍事国家と聞いております。KMFの連隊を海上経由で秘密裏に輸送はしているところですが、それらの到着を待ってからの行動でもよいのでは……」
機内の豪華なシートで、ルキウスが窓の外の漆黒の闇を見つめながら、心配そうに胸の前で手を握りしめていた。
「ふふん! 臆病者め、一度かの精鋭を動かせば本国のシャルルや大公どもに即座に感づかれるではないか! 至高なる余のKMF達のお披露目には早いぞ。少数で密かに忍び込み、内部から電撃的に掌握する……これぞ芸術的電撃戦というものよ!」
余は真紅のドレスの裾をふわりと揺らし、優雅にグラスの果実水を口に含んだ。
「安心するがいい。今のジルクスタンなど、余の足元にも及ばん!」
そう、前世の知識を持つ余は知っている!
この皇歴2012年におけるジルクスタン王国は、幼き国王シャリオと、その実姉である神官シャムナによって統治されているが、KMFという兵器に関しては完全に”後進国”なのだ!
原作における2018年以降では強力なKMF部隊を編成していたジルクスタンだが、この2012年時点では「KMFなどという鉄の玩具は我が国の戦士には不要」とタカを括っており、旧時代的な兵器にのみ頼っている状態。KMFによる戦術などカケラも存在しておらん!
「戦士の肉体の質と、地下に眠る膨大なサクラダイト試掘ルートに、巨大な地下空洞(栄えある余のプラント候補地である!)は世界最高峰。だが、KMF技術と資金力は皆無……。フッ、まさに『余の至高の技術と潤沢な資金で染め上げてください』と言わんばかりの最高の原石ではないか! 無理もないよね!」
「殿下、目的地であるジルクスタン国境の砂漠地帯上空に到達しました! 降下準備に入ります!」
操縦席からアルベルトの声が響く。
「よし! 目的地は事前に指定した通り……ジルクスタン最大の難攻不落を誇る”嘆きの大監獄”だ!」
「ええっ!? 王宮ではなく監獄なのですか!?」と叫ぶアルベルトを、余は指をチチッと振って宥めた。
「王宮の幼子と交渉する前に、まずは手足となる『強靭で扱いやすい戦力』を現地で手に入れるのだ! 監獄に繋がれているのは、国から見捨てられた凶悪な荒くれ者や腕自慢の傭兵ども……ふふ、余の完璧な美学で平伏させ、手下にしてやるには最高の素材であろう!」
○
月明かりすら届かないジルクスタン北部の砂丘地帯。
その谷の狭間に聳え立つ『嘆きの大監獄』は、切り立った断崖絶壁に彫り込まれた巨大な要塞であった。
「……何だ……? 空から何か落ちて……」
見張りのジルクスタン兵が首をかしげた瞬間、余たちが降り立った衝撃で要塞の分厚い鉄門が、重音と共にドガァァァァンッ!! と吹き飛んだ!
「侵入者だーっ!? 警戒せよ!!」
警報の鐘が鳴り響く中、土煙を割って姿を現したのは——真紅のドレスを纏い、左目を怪しく朱色に輝かせた可憐な美少女(余!)と、背後に控える十名の真っ赤な甲冑を着た余の親衛隊員である。
「騒がしいぞ下衆ども! これよりこの大監獄は、この余……ネロ・ロ・ブリタニアの所有物となる! 抵抗する者は容赦なく叩きのめす! なに、殺しはせん! 余の寛大な慈悲に心から感謝するが良い!」
余は宝剣を警備兵に向け、堂々と高らかに宣言してやった!
「ブリタニアの皇女だと……!?」
「真に受けるな! 女子供が戯言を言ってるにすぎん! 叩き潰せ!」
余に向かって襲いかかってくる百名を超える重武装の監獄警備兵ども。
KMFすら配備されていないこの時代のジルクスタン警備兵は、巨大な曲刀や大型の機関銃を手に押し寄せてくる!
「殿下、わたしがやりましょうか?」
「控えよマルクス! お主らは待機だ! 余は輸送機に揺られ続けて酔っておるのだ! 酔い覚ましをさせよ!」
余は不敵に口元を吊り上げ、カッと左目のギアスを光らせた!
「余は一騎当千の【無双の格闘神】であり、そして敵の動きを完全に見破る【超天才戦術眼の持ち主】である! ——これぞ『皇帝特権』である!」
言葉が発現した瞬間、余の身体能力と動体視力、そして格闘技術が神の領域へと跳ね上がる!
「ふはははは! 止まって見えるぞ凡夫ども!」
疾風のごとく踏み込んだ余は、襲いかかる警備兵の曲刀を最小限の動きでかわし、その顎に凄まじい脚砲(蹴り)を叩き込む!
一撃で大男の警備兵が天井まで吹き飛ぶ!
さらに、機関銃を構える部隊の中央へ素手で飛び込むと、前世のあらゆる武術を凝縮した流麗かつ破壊的な打撃を連続で叩き込んでやった!
バキバキッ!!ドゴッ!
「な……!? 人間か……!? 小娘の素手と素足で、我が警備隊が壊滅していくだと……化け物め!?」
たった数分。
武器すら使わず、ドレスを汚すことすらなく、余一人によって警備兵部隊は完全全滅! 床に悶絶する男たちの山が築かれた。
「ふむ、あらかた片付いたようだな。よし、マルクス!皆の者! 余に続けぃ!」
『イエス ユア ハイネス!』
余は優雅にドレスの埃を払うと、宝剣で建物の壁をぶった切って内部へ侵入した。
階段を下りながら地下に進むと、左右に鉄格子が並ぶ広間にたどり着いた。
鉄格子のその中は、監獄の囚人たち——砂漠の戦場で暴れ回り、国から持て余されて繋がれていた数百名の凶暴な荒くれ者や流浪の傭兵どもがひしめき合っていた。
一見すると野蛮な囚人の群れに見えるが、立ち振る舞い、足の運び、そして互いに取る間合い……どいつもこいつも「無秩序な囚人」の皮を被った、山賊上がりの正規兵(獄卒)であった。
国から「監獄の暴動防止と過酷な監視」のために囚人へ擬態して潜入させられている、ジルクスタン軍の裏の荒事担当たちというわけだ!
……フッ、だが余の超天才戦術眼と観察力は誤魔化せんぞ! ほとんど異世界の知識なのは秘密であるがな!
余は真っ先に鉄格子の鍵をバキリと力任せに破壊すると、大広間の中心に堂々と立った。
「見知らぬ地に繋がれ、囚人のフリをして腐っていくのを待つだけの哀れな潜入兵どもよ! 余が貴様らに『真の生きる意味』と『至高の舞台』を与えてやろう! 本日より貴様らは全員、この余の『手下』だ!」
「手下だと……!? 囚人のフリを見破られたか……!? だがふざけるな小娘が! 俺たちは山賊上がりとはいえ、国家から俸禄を得ているジルクスタンの誇り高き——」
刺青だらけの巨漢の筆頭獄卒が怒号を上げようとした瞬間!
余はカッと左目のギアスを光らせ、皇帝特権によるカリスマオーラを全開で放出した!
「口を慎め! 余の前にあって、貴様らの誇りなど微塵の価値もない! 国家から支払われるスズメの涙ほどの俸禄と、こんな暗く汚い監獄で一生を終える生活に満足しておるのか!?」
「なっ……!?」
「余に従うならば……現在の十倍の俸禄と、至高のメシ、そして世界を震撼させる最新鋭の鉄の巨人『KMF』を与えてやる! このまま日陰者として終わるか、余の元で至高の『ローマの正規戦士』として世界にその名を刻むか……選ぶが良い!」
余の圧倒的な威厳、そして見透かされた懐事情と提示された破格の条件に、獄卒(囚人)たちが息をのむ。
「な、なんだこの圧は……!?」
「ただの小娘じゃない……バザル隊長が気圧されているぞ!?」
覇気とオーラに圧倒され、思わず後ずさる男たち。そこへようやく追いついてきた(余たちは輸送機から直接飛び降りたが、こやつは輸送機をきちんと着陸させて降り立ったようだ。体格に見合わず軟弱である。)長身の文官・ルキウスが、冷徹な手つきで資料の束をバサリと広げた。
「我が君のお言葉の通りだ。貴様らには二つの選択肢しかない。ここで国の捨て駒として暗い地下で朽ちるか、ネロ殿下に忠誠を誓い、正規兵以上の破格の待遇と最新鋭KMFを手に入れて戦場を支配するかだ」
ルキウスが資料を突き出すと、そこには驚くべき額の契約金と、アルベルトの描いた超絶デザインのKMF『グラン・ローマン』の完成予想図が躍っていた!
「な……なんだこの設計図は……!? 旧式の戦闘車両とは次元が違うぞ!?」
「こんな凄まじいカラクリを、俺たちに乗らせてくれるってのか!?」
「うむ! さらに余に従えば、極上のお菓子と至高の飯も毎日食べ放題であるぞ! どうだ! 悪くない話であろう!」
ドヤ顔で胸を張る余。
圧倒的な力で自分たちの正体を見抜き、最新鋭のKMFと破格の待遇を提示された獄卒たちであったが……山賊上がりとして裏切られ続けてきた彼らの目には、まだ完全には捨てきれぬ警戒と半信半疑の色が残っていた。
「……話が上手すぎねぇか、お嬢ちゃん。俺たちゃ国の影で泥を啜ってきた山賊上がりだ。ブリタニアの皇女様が、そんな俺たちを本当に対等な戦力として扱うってのか?」
筆頭獄卒のバザルが、探るような視線を余に向ける。
「ふん、疑り深い奴らめ! ならば余の『本気』を、その肌でじっくりと確かめるが良い!」
こうして余たちは『嘆きの大監獄』に数日間にわたって滞在し、彼らと寝食を共にすることとなったのだ!
○
それからの数日間、大監獄の日常は劇的に変貌を遂げた。
まず彼らの胃袋を掴んだのは、余が前世の知識と皇帝特権(調理・栄養学の神モード)をフル活用して指示し、運搬船からKMFとともに運び込ませた物資から作り上げた『至高のローマ式陣中食』であった。
「な、なんだこの肉料理は……!? 柔らかくて肉汁が溢れてきやがる!」
「砂漠の乾パンと塩スープしか食ってなかった俺たちの胃袋が……解ける……!」
「ふはは! 存分に食うが良い! 腹が減っては至高の舞台で舞えんからな!」
余自らも囚人(獄卒)たちと同じ長机に腰掛け、豪快に肉を頬張りながら、彼らの生い立ちや戦場での不満を対等な目線で聴いてやった。身分や国の壁を感じさせない余の無邪気かつ圧倒的な尊厳に、男たちの警戒心は日に日に削り取られていったぞ!
そして食事の後は——余による地獄の『武術・戦術手ほどき』である!
広大な地下鍛錬場にて、余は素手や木剣を手に、荒くれ者たち数百名をまとめて相手取ってやった。
「甘いぞバザル! 重心の置き方がなっておらん! 砂漠の歩兵戦術に固執するな、体幹で風を感じるのだ!」
余の容赦のない蹴りや手刀が叩き込まれ、巨漢の男たちが次々と悲鳴を上げて転がっていく!
「ぐはっ……! だが、すげぇ……! 小娘の手ほどき一回で、長年抜けなかった剣の癖が直ってやがる……!?」
「ただ強いだけじゃねぇ……俺たちの格闘術の欠点を完璧に見抜いて育てようとしてくれてるんだ……!」
指導の合間には、最新鋭KMFのコクピットシミュレーターを用いた操縦訓練も実施。
皇帝特権で神級のインストラクターとなった余の熱血かつ正確無比な指導に、山賊上がりの男たちは「自分たちが今まで知らなかった新しい強さ」へと覚醒していく喜びに打ち震えていたな!
…マルクスらは懐かしそうにその様子を見ておったが、お主らだってそんな前のことではなかろうに。
さらには夜になると、ルキウスが冷徹かつ几帳面な手つきで彼ら一人ひとりの家族構成や希望給与を聞き取り、完璧な雇用契約書を作成。偽りのない本物の金貨が手渡された時、彼らの鬱屈していた心は完全に解き放たれたのだ。
○
滞在して五日目の夜。
月光が差し込む地下広場にて、汗と泥にまみれた数百名の獄卒たちが、自発的に余の前に集結した。
筆頭獄卒のバザルが、かつて見せたような警戒の眼差しを完全に捨て去り、感極まった表情で余の前に力強く両膝をついた。
「……俺たちは山賊上がりとして国に利用され、この汚い監獄の影に縛り付けられてきた。誰も俺たちの腕も、命も、人間としちゃ見てくれなかった。……だが、アンタは違った」
バザルは胸に拳を当て、深く頭を下げた。それに続くように、後ろに控えていた数百名の獄卒たちが、地響きのような勢いで一斉にその場にひれ伏した!
「俺たちに美味い飯を食わせ、強さを教えてくれた! アンタとなら……俺たちの命を預けて、もっとでかい夢が見られる!」
「「「 俺たち『山賊警備隊』を……いや、俺たちをアンタの『ローマ親衛隊』にしてくれ!!」」」
「うむっ! 良い心がけだ! 余に仕えるその栄誉、泣いて喜ぶが良い!」
数日間の熱い共同生活と泥臭い熱血指導、そして余の圧倒的な「王の器」を叩きつけることで、単なる利害関係を超えた絶対の絆が結ばれた。
こうして、ジルクスタン軍の「裏の精鋭(山賊上がりの監獄警備兵)」数百名は、心から余へ忠誠を誓う狂熱の私兵へと変貌し、『嘆きの大監獄』は一滴の無駄な血も流さず、完全に余の強固なローマの地へと昇格したのである!
○
大監獄の掌握から数日。完璧な忠誠を誓った山賊上がりの旧・獄卒部隊(現・ローマ親衛隊)は、その本領を遺憾なく発揮していた!
「お頭ぁ、ジルクスタン王宮の警備網ですが……正面から突っ込むのは愚の骨頂ですぜ」
大監獄の作戦部屋(旧・拷問室)にて、筆頭のバザルが巨大な砂漠の地図を広げた。元・山賊上がりで王宮の裏稼業も請け負っていた彼らは、正規兵の巡回ルートから王宮の抜け道まで知り尽くした裏の世界のプロフェッショナルなのだ。
「ふむ! 詳しく申してみよ!」
「聖神社は断崖の上に建てられた要塞都市ファラクスの中心にあります。正面の門には正規兵の『大隊』が詰めておりやす……。KMFはないとはいえ、重機関銃と曲刀の陣形を破るには余計な血が流れる。
……だが、俺たちが昔、王宮の地下から極秘裏に物資を運び込むのに使っていた、裏道――旧王家用密輸水路が残っております」
「ほう、密輸水路とな!? ジルクスタンの王家もなかなかにたくましいことをしておるな!」
「ええ。水は枯れて久しいですが、その坑道は王宮の最奥……謁見の間のすぐ裏手にある地下礼拝堂の隠し扉へ繋がっていやす。そこを通れば、正規兵の警戒網を完全に迂回し、一兵とも交戦せずにシャムナとシャリオの前に直入できますぜ!」
バザルのニヤリとした悪相に、余も不敵な笑みを返した。
「ふははは! 見事だバザル! 無駄な血を流さず、敵の心臓部に直接乗り込んで驚愕させる……これぞ至高の芸術的電撃侵入というものよ! 褒めて遣わすぞ!」
「光栄ですぜ!」
ルキウスが眼鏡の奥の目を光らせ、手帳に筆を走らせる。
「……なるほど。防衛体制を整えさせる時間を与えず、突然、核心たる王と王姉に対し我が君が姿を現すことで、心理的優位を完全に確保するわけですね。交渉のテーブルにつかせる手としては極めて有効です」
「うむ! よし、密輸ルートの案内はバザルに任せる! 余とルキウス、そしてバザル率いる精鋭数名で王宮へ乗り込むぞ!」
○
決行の夜。
静まり返ったジルクスタンの首都。
夜露に濡れた古の地下水路を、余たちは音もなく進んだ。かつて山賊として砂漠の影を生き、今や余の「ローマ親衛隊」となった男たちの足取りは完璧に洗練されており、暗闇の中でも迷いがない。
「殿下、この上の石板を外せば、謁見の間の真横に出ます」
バザルが押し殺した声で囁く。
「よし……余の華麗なる登場に、ジルクスタンの者どもがどのような顔をするか……楽しみであるな!」
重い石板が静かにスライドし、薄暗い絨毯の裏側から、余たちは一切の警報を鳴らすことなく、王宮の最深部へと足を踏み入れた。
突如として何もない空間から現れた余たちの姿に、室内は重苦しい驚愕と激しい緊迫感に包まれた。
玉座に座る幼き国王シャリオと、その傍らに佇む可憐な姉・神官シャムナ。そして周囲を囲むジルクスタン王室親衛隊の面々が、あまりの事態に目を見張る!
「なっ……!? どこから侵入した!? 警備兵は何をしている!!」
親衛隊長が驚愕と混乱の中で剣を抜き放ち、激昂する。
謁見の間の絨毯を優雅に歩み寄るのは、真紅のドレスを纏った余と、その脇を固めるルキウス、そして裏道を見事に案内してみせた頼もしいバザルたちの姿であった。
突如として何もない空間から現れた余たちの姿に、室内は重苦しい驚愕と激しい緊迫感に包まれた。
玉座に座る幼き国王シャリオと、その傍らに佇む可憐な姉・神官シャムナ。そして周囲を囲むジルクスタン王室親衛隊の面々が、あまりの事態に目を見張る!
「控えよ無礼者! 余の前にあって軽々しく刀砲を抜くなど、100年早いわ! 讃えるが良い、世界で最も可憐にして尊き者……ネロ・ロ・ブリタニアの臨席であるぞ!」
余がドヤ顔でドレスの裾をふわりと広げ、堂々と高らかに宣言してやると、王室親衛隊はあまりの圧と美しさに思わず気圧され、息をのんだ。
「——ブリタニアの皇女よ、無断で我が国に侵入し、嘆きの大監獄を占拠した挙句、我々の元に王宮へ乗り込んでくるとは、どういうことかしら?」
余のことを警戒するように睨みつけている美しき王姉、シャムナが口を開いた。
ルキウスが歩み出て、洗練された動作で一枚の極印付き協定書を恭しく提示した。
「神官シャムナ閣下、ならびにシャリオ国王陛下。まずは我らの無礼をお許しいただきたい。……ですが、我らは侵略に来たのではございません。貴国に軍事同盟をご提案に上がったのです」
「……軍事同盟……?」
シャリオが初めて口を開き、不審そうに目を細める。ルキウスは冷徹かつ完璧な弁舌で盤面を語り始めた。
「貴国は現在、サクラダイト試掘ルートと膨大な地下資源を抱えながらも、KMF技術の遅れと外貨不足により、周辺国からの圧力に晒されている。……違いますか?」
「……っ!」
シャムナと側近たちの顔色が変わる。
「我が君、ネロ・ロ・ブリタニア殿下は、ブリタニア本国のシャルル皇帝にも秘密に、時代を10年以上も先取りしたKMF製造技術と、国家予算に匹敵する私財をお持ちです。我らに貴国の地下空洞を『第二の造兵廠』として貸与し、サクラダイトの優先供給を行っていただければ……」
ルキウスは不敵に微笑み、協定書の端をトントンと指差した。
「我が軍勢の量産型KMF『グラン・ローマン』数百機を、貴国の防衛戦力として無償譲渡。さらに、年間数億ブリタニアドルに及ぶ潤沢な資金援助をお約束いたしましょう」
「な……数百機の最新鋭KMFと、金だと……!?」
ざわめく王宮!
外貨と最新兵器を喉から手が出るほど欲していたジルクスタン側にとって、それはまさに天から降ってきたような破格すぎる提案であった。
「……信じられぬ。なぜブリタニアの皇女が、そこまで我が国に肩入れする?」
シャムナが探るような、冷徹な視線を余に向ける。玉座の幼き国王シャリオもまた、痩せこけた頬を強張らせ、車椅子の上から余を警戒の眼差しで見つめていた。
「ふははは! 疑り深い奴らめ! だが安心するが良い、余が求めておるのは下品な支配や侵略などというつまらんものではない!」
余は真紅のドレスを優雅に翻し、堂々と玉座の階段の前まで歩み寄った。
「目的はただ一つ! 余の至高なる『ローマ』を再建し、この世界を美しく平伏させるためだ! そのためには貴様らの持つ広大な地下資源に、地下空洞とサクラダイト、そして砂漠で鍛え上げられた猛者たちの力が必要不可欠である!
互いの野心と利害を存分にぶつけ合い、共に世界をひれ伏させる……これ以上に心が踊るパートナーシップが他にあるであろうか! いいや、ない!」
余は胸を張り、眩んばかりの圧巻の笑みを向けた。余の放つ圧倒的な王の覇気と無垢なまでの情熱に、謁見の間にいる者たちが思わず息をのむ。
「……ですが、ブリタニアの皇女よ、我が国は誇り高き戦士の国。兵器や金で買収されたとあっては、民も兵も納得するとは思えぬ。そこはどうする予定だ」
シャムナが引かずに制そうとするが、余は「甘いぞ、シャムナ!」と指をチチッと振って見せた。
「買収だと? 戯れ言を! これは余の『至高の愛』の投資だ! それにな……余の差し出す手札は、兵器や金銭などという無機質なものだけではないぞ?」
余はすっと眼差しを和らげると、静かに車椅子の幼き王——シャリオのもとへ歩み寄った。
「な、何だおまえ、……近寄るな!」
親衛隊が色めき立つが、余は意にも介さずシャリオの膝元へかがみ込み、その細く冷え切った手に余の温かな両手を優しく重ね合わせた。
「……痛むであろう、シャリオよ。車椅子の上で、その身に刻まれた重圧と体の不調に耐え続けるのは」
「な……っ!?」
シャリオが目を見開く。
余は皇帝特権を発動し、——神級の医療・整体技術の知識と施術能力を極限まで引き出し、余の温かな波動をシャリオの身体の経絡へと注ぎ込んだ!
ふむ……脚の神経麻痺と体内の生体エネルギーの滞り、そして重度の疲弊か。完全なる治癒には時間を要するが……余の至高の手ほどきにかかれば、今この場で劇的な回復をもたらすことなど容易い。
「ん……あ……っ!? あたたかい……体の奥から、熱が……!?」
ほんの数秒。余が優しくその手と脚のツボを揉みほぐすと、シャリオの青白かった頬にみるみるうちに健康的な朱が差し、長年彼を苦しめていた激しい体調の重苦しさが、嘘のようにスッと霧散していったのだ!
「王の身体が……痛みが消えていく……!? 馬鹿な、足の感覚が……!?」
驚愕の声を上げるシャシャリオ! 玉座の傍らでそれを見ていたシャムナも、衝撃のあまり息を呑んで駆け寄った。
「シャリオ……!? 一体、何を……!?」
「神官シャムナよ、そして国王シャリオよ」
余は満足げにドヤ顔で立ち上がると、宝剣の柄に手を当て、堂々と二人を見下ろした。
「余に従い、同盟を結ぶならば……我がローマの至高の技術をもって、シャリオの体調を完全に管理し、いずれその足で再び立ち上がれるまでに回復させてやると約束しよう! 視界も不自由であるのなら、日の光をみれるくらいにしてみせよう! 余は味方にはとことん甘く、至高の恩恵を与える王なのだ!」
「シャリオの体を……回復させるだと……!?」
シャムナの瞳が激しく揺れた。
最新鋭のKMF、莫大な外貨、そして何よりも——命よりも大切な弟シャリオの身体を苛む苦痛からの解放。
対等な利害を超えた、ネロという規格外の存在が放つ圧倒的な魅力と慈愛に、ジルクスタン最高指導者二人の心は完全に打ち砕かれた。
「……ふふ、断る理由などどこにもあるまい? さあ、どうする! 余と共に、誰も見たことのない最高の時代を、ローマを創ろうではないか!」
可憐でありながら、圧倒的な覇気と温かな慈愛を併せ持つ余の笑顔。
シャムナとシャリオは顔を見合わせると、もはやそこには警戒の色はなく、ただ一人の偉大な「王」への深い敬意が宿っていた。
シャムナはゆっくりと溢れる感情を抑えるように胸に手を当て、深く頭を下げた。
「……理解いたしました、ネロ殿下。破格の提案……そして弟への温かなお心遣い、心より感謝申し上げます。我がジルクスタン王国……喜んで貴女様との『至高の同盟』を受け入れましょう」
「僕も……よろしく頼む、ネロ殿下……!」
シャリオもまた、今まで見せたことのない力強い眼差しで余の手を握り返したのだった!
○
こうして、余の圧倒的なカリスマと、芸術的かつ、電撃的な計略により、ジルクスタン王国は極秘裏に余の『第二の巨大ローマ造兵廠』へと生まれ変わった!
莫大なサクラダイトと地下プラントを手に入れたアルベルトは狂喜乱舞し、新しく配下となった砂漠の荒くれ者たちは、余のスパルタ指導と『グラン・ローマン』の凄まじい性能に熱狂!
わずか数ヶ月で、本国の「グラストンナイツ」すら踏み潰す超精鋭KMF軍団が砂漠の日の元で完成したのである!
そして、この熱血指導の最中、もう一つの熱いドラマが繰り広げられていた。
それは、余が本国から引き連れてきた本隊のローマ親衛隊と、現地で新しく手下となったバザル率いる『元山賊軍団のローマ親衛隊』の激しい交流である!
「おいおい、そんな腰の入ってねぇ剣の使い方じゃ、お頭のスパルタ脚砲一発で即死だぜ!」
元山賊のバザルが、大汗をかきながら本隊の親衛隊員にニヤニヤと声をかける。
すると、赤き甲冑に身を包んだ副騎士長のマルクスが、一切の隙のない構えでフッと鼻で笑った。
「口ほどにもない。我らは殿下の至高の美学を本国で一番近くで拝んできた自負がある。砂漠の泥にまみれていたお前たちとは、殿下への『忠誠の深さ』が違うのだよ!」
「なんだとバカ野郎! 俺たちはなぁ、直々に至高の飯を食わせてもらい、直々の格闘指導で骨を折られた仲間なんだよ! 頭への愛なら負けねぇ!」
「なにを……! 我らなど殿下のあまりに尊いドヤ顔を拝むために、日々血反吐を吐くような特訓を重ねてきたのだぞ!」
いがみ合う両者であったが、その根本にあるのは——そう、『ネロ殿下絶対崇拝』という共通の狂熱。
模擬戦で互いに拳を交わし、夕食には余の作った至高のローマ式陣中食を共に貪り食うことで、彼らは一週間もしないうちに「殿下の素晴らしさ」を語り合う固い絆で結ばれた義兄弟となっていたのだ!
「バザル! お前のその泥臭い砂漠におけるゲリラ戦法の知識、素晴らしいぞ! 先日の王宮潜入でも見事だった!」
「へへっ、副長殿こそ、頭の強さについて語らせたら右に出る奴はいねぇな!」
こうして、二つのローマ親衛隊は色が混ざっていった。
○
——そして、遠征の全日程を終え、離宮へ帰還する前夜。
ジルクスタンの夜空に輝く満月の下、大監獄の大広間(旧地下牢)にて。
「ふははは! 見事なる大勝利! 宴の始まりだーっ!」
余はワイングラス(中身は葡萄ジュースだ!)を掲げると、ご機嫌で息を吸い込んだ。
「同盟成立と我が新たなローマ親衛隊の拡大を祝し! ここで余の至高の祝福の讃歌を、三時間ほどたっぷりと歌ってやるとしよう! 聴くが良い!!「ローマの光」!!」
「「「「「ひえええええええっ!!!????」」」」」
次の瞬間、砂漠の夜空に轟いたのは、あまりの音圧と独特すぎる旋律により「物理的な破壊力」すら伴った余の超絶絶叫リサイタルであった!
「ぐわぁぁぁっ!? 頭が……頭が割れるぅぅっ!?」
「たすけてくれぇ! 敵の音波兵器だーっ!?」
新しく手下となったバザルら元山賊たちも、本隊の赤甲冑隊員たちも、全員揃って泡を吹いて砂浜で悶絶し始める!
「た、隊長ぉ! で、殿下のこのお声……凄まじすぎます……!」
「あ、甘く見るな若造……! これを耐え抜いてこそ……真の『ローマ親衛隊』だぁぁっ!!」
互いに手を握り合いながら失神していく新旧の親衛隊員たち。
「……ふふ、やはり殿下の歌声は、いかなる最新鋭KMFよりも猛烈な兵器ですね。新旧の親衛隊が一丸となって耐えようとする絆まで生み出している」
耳栓を完璧に装着したルキウスが、涼しい顔で手帳にペンを走らせる。
「ルキウス、呑気に感心していないで救護班の手配を! このままだと親衛隊も俺らも全員全滅だ!」
同じく特製耳栓をしたアルベルトが焦って指示を出すが、当の余は「むっふー! あまりの美声にみんな感動して転がっておるな! 仲良く倒れて微笑ましいぞ!」とドヤ顔でノリノリの熱唱を続けるのであった。
本国、ユーロ大公、ギアス教団——巨大な勢力が蠢く世界の裏側で、放蕩皇女ネロの覇道は、砂漠の地で手に入れた強固な絆により、勢いはとまらない。
〇
宴の狂騒が嘘のように静まり返った深夜。
月光が青白く照らす聖神社(王宮)の奥深く、神聖なる礼拝の間にて、神官シャムナは一人、祈りを捧げていた。
余は護衛も連れず、単身でその場に足を運んだ。
「……夜更かしは肌に毒だぞ、シャムナよ」
「っ……!?」
背後から掛けた余の声に、シャムナは弾かれたように振り返った。
真紅のドレスを優雅になびかせた可憐な余の姿を見て、彼女は動揺を隠せない様子だ。
「ネロ殿下……。監獄にて宴をするからと、首都より離れながら、まさか単身で私の寝所にまで忍び込まれるとは。……同盟を交わしたとはいえ、不躾が過ぎるのでは?」
シャムナの手が、密かに懐の護身用暗器へと伸びるのを余は見逃さなかった。
破格の資金と兵器をもたらした同盟相手とはいえ、余の底知れぬ力に警戒を最大級に高めているのだな。愛する弟シャリオを救うと伝えた余に対しても、未だ警戒はしていたというわけであろう。
なるほど、弟と国を守るため……ふむ、感心な心がけだ。
余はフッと不敵な笑みを浮かべると、危険を顧みずシャムナの目と鼻の先まで歩み寄ってやった。
「そう身構えるな。余と貴様は、表の舞台には未だたっておらぬが、国を導く者同士……腹を割って話す時間が欲しかっただけであるぞ。
……例えば、その腹に刻まれた『コード』のことや、『ギアス』の理についてな」
「……!!」
シャムナの身体が激しく強張る。
右手に刻まれた永遠の印。弟シャリオを、この国を守るために継承した絶対の秘密。それを初めから見抜いていた余に、彼女は息を呑んだ。
「何故……それを……」
「なに、余自身が『ギアス』の保持者であるからな」
余はカッと片目を瞑り、片目を朱色に輝かせて見せた。鳥のような紋様が、闇の中で怪しく異彩を放つ。
「なっ……! 貴女も、歪みの力を……!?
……なるほど、先ほどシャリオを回復させたあの力、ギアスでしたか。
納得できよう。だが、何故それを私に明かすのです?
ギアスを持つ者が、コードを持つ私に自ら種明かしをするなど、策として愚の骨頂……!」
「ふふん、愚かとは心外だな! 余が明かしたのは、貴様を信頼に値する『王』と認めたからだ」
余は胸を張り、尊厳に満ちた瞳でシャムナをまっすぐに見つめ返した。
「シャムナよ。貴様は弟シャリオのために、その幼き肩に国の未来と呪いを背負っておるな。王国の均衡を守るために一人でその力を燻らせ、耐え忍んでいる。……フッ、実に健気で、至高の姉の姿ではないか」
「……私を、嘲笑いに来たのですか」
「否である! 余は『真の王の資質』を讃えているのだ!」
余は優雅にドレスの裾を翻し、シャムナの真隣に腰掛けた。
「民を導き、国を背負う者には二つの型がある。余のように圧倒的な至高の光で世界を照らし、強引に引っ張っていく『覇道』の王。
そして貴様のように、弟という幼き光を支えるため、陰で泥を被り、孤独に理を紡ぐ『王の陰の伴走者』だ」
シャムナは言葉を失い、息をのんでいた。
これまで誰にも理解されず、国のため、シャリオのためにたった一人で背負ってきた重圧と孤独。それを、出逢ったばかりの余が深く理解し、承認してやったのだから当然だな!
「貴様がギアスの力を慎重に扱い、安易に乱用せん姿勢……余は実に誇らしく思うぞ。力に飲まれる凡夫とは違い、貴様には確かな『王を補佐する者の気品と理』がある」
「ネロ殿下……。貴女は、一体……」
シャムナの瞳から警戒の色が削ぎ落とされ、深い驚きと温かな色が混じり始めていた。
○
それから、しばらくの間、余とシャムナは静かに言葉を交わした。ジルクスタンの古き神事のこと、そして大切な者を背負う覚悟のこと。二人間の距離は、急速に引き寄せられていったのだ。
やがて、余は立ち上がると、窓から大監獄がある方角へ視線を向けた。
「……なるほど、あの監獄の地下にある遺跡より、『Cの世界』……集合無意識の領域へアクセスができるのだな?」
シャムナは息を呑み、静かに頷いた。
「ええ。そう伝えられております。
ですが……あれは人の身で安易に触れてよい領域ではありません。世界の記憶が集う場所……ネロ殿下、貴女は今、あの扉を開けようとお考えなのですか?」
試すようなシャムナの問いに、余はクスクスと不敵に笑い、首を横に振った。
「ふふん、焦るな凡……いや、我が友シャムナよ。
今はせぬ」
「……今は、ですか?」
「うむ! この世界の舞台(盤面)は、まだ余の描く至高の最高潮を迎えておらん! 今あの扉を開けても、興覚めというものよ。……だが、時期が来たら、その扉を借りることになろうぞ」
余は宝剣の柄に手を当てて高らかに宣言してやった!
「余が世界を平伏させ、至高のローマを築き上げるその時に……余の手で、あのCの世界の理すらも余の美学で塗り替えてやるのだ! その時まで、その扉……大事に取っておくが良い!」
「……ふっ。どこまでも破天荒で、尊大な方ですね」
シャムナの口元から、ふっと自然な笑みがこぼれ落ちた。
「分かりました、ネロ殿下。貴女が約束を果たし、その『時期』が来るまで……この門は我がジルクスタンが死守いたしましょう」
「む! 良い返事だ! さすが余が認めた女よ!」
余は満足そうにドヤ顔で頷くと、真紅のドレスを翻して夜の闇の中へと姿を消した。
残されたシャムナは、静まり返った礼拝堂で、自分の腹に刻まれたコードに、手をそっと添えた。
胸に宿っていた冷たい孤立感が、少し無くなった気がした。
ガバはやだ、ガバはやだ、ガバはやだ